人類銀河帝国 コリント朝 功臣列伝資料 「サテライト8班リーダー ケニーの日記」(航宙軍士官、冒険者になる異伝) 作:ミスター仙人
5月3日
「で、この若者5人はなんなんだ?」
と問うと、シュバルツ殿とミツルギ殿そしてカトウが、困った顔をしながら説明して来た。
「いや、俺達も詳しい状況が判らなくてな、深夜、俺とシュバルツが『ドライ』の飛行甲板上で組手練習をしてたら、歩哨が乗り降りするタラップで歩哨と押し問答を、この5人がしていて段々興奮して来て、暴力沙汰になりそうになったから俺とシュバルツがこの5人を取り押さえたら、カトウが姿を現して、「乱暴しないでやって下さい!」なんて、頼むものだから寝ている処済まなかったが、艦長であるケニーに知らせて来て貰ったって訳さ」
と言うので、カトウを見ると、
「・・・この若者5人は何れも、デグリート王国の誇る造船技術者のご子息とその関係者に当たり、どうも新技術の塊である陸上戦艦と陸上空母を、見学したいと父親達に願い出たそうですが許可を得られずに、デグリート王国の眼の無い深夜に見学しようと来たみたいですが、他の3隻が地上3メートル上に浮いていて近付けず、偶々荷物の搬出作業が長引きタラップが降りたままの本艦に来た様です」
と説明してくれた。
うーん、そんな事なら見せても良い範囲で見学するのは、別に止められていないから問題無いが、何故父親であるデグリート王国の誇る造船技術者達は、この若者5人に許可を出さなかったのだろう?
取り敢えず、こんな深夜にアラン様のご就寝を妨げるのは、帝臣としてあるまじき無礼なので、『ドライ』の応接室に通して寛いで貰い、若者5人にある程度の質問をして客室で寝て貰った。
5月4日
早朝に昨夜の出来事の報告をビスマルクに報告し、ビスマルクの上級船員食堂でアラン様と我等4人、そして侵入者である若者5人が朝食を摂りながら話を聞くことになった。
朝食は、焼き立てパン類(クロワッサンやトースト)と海鮮サラダ類、そして新鮮な玉子を使ったオムレツだ。
我々には、ごく当たり前の朝食だが侵入者である若者5人にとっては相当美味しかったらしく、クロワッサンとオムレツを何度もお代わりして旺盛な食欲を見せた。
食後の珈琲に口を付けながら、アラン様が若者5人に説明を求めると、リーダーである『トカレフ』と云うデグリート王国の誇る造船技術者の長の息子は、
「お願いです!アラン皇帝陛下!!
自分達を帝国の造船技術者として雇って頂けないでしょうか?
確かに、今の我々の技術力では、帝国のお力にはなれないでしょうが、必ず技術力を帝国で磨いて将来の帝国のお役に立ちます!」
とテーブルの上に頭を着ける程に下げて懇願して来た。
フムッ、若者らしい一途な願いだ、昨夜話しを若者5人とした時も、その熱意は大したもので、特に魔法動力炉の技術に感銘を受けていた。
「・・・だが、君達はこのデグリート王国の次期造船技術者の卵なのだろう?
その期待の新人達を勝手に帝国に雇う訳には、如何に友好国とは云え許されない行為には違いない。
本日の処は家に帰ってお父上達に、自分の願望やその熱意をぶつけて見て、どうしても聞き入れられ無ければ、私の口からデグリート王に、交換留学生や期間を設けた技術習得目的の留学等の申し入れをしてみても良い。
きっと良い形で、君の未来を切り開ける様に努力する事を約束しよう!」
とアラン様が約束して下さったので、若者5人は、
「「「ありがとうございます!一生懸命父親を説き伏せて来ます!!」」」
と何度も頭を下げて帰って行った。
「さて、中々想定してなかった事態だが、帝国の住民以外でも学問や技術を学びたいと願う若者が居る事を知れたのは、良かったな。
似た様なケースが今後も来訪先で起こりうるから、その為の指針と対処法を考えておかねばならないな」
とアラン様が仰られたので、モニター越しに帝都コリントの教育長官を兼ねるマーリン魔法大臣と、アベル外務大臣に教育現場での留学生の取り扱いと、外国からの学問や技術を学びたいと願う来訪者達への対処法の策定を進める様に指示し、なるべく此方が負担する形で便宜を図る様にと言われ、其々の大臣は「お任せ下さい!」と了承された。
続けてアラン様は、我々を伴いデグリート王宮に向かわれて、デグリート王への面会を申し入れられた。
程無く面会する事になり、応接室でデグリート王と面会出来て、早速、昨夜から早朝までの経緯を話されて、アラン様の提案である、留学生扱い等の話をされると、デグリート王は長い髭を扱きながら思案されて、
「・・・判り申した。
実は余の方からも、何名かの留学生等を帝国に受け入れて貰えないか、提案する用意をしていて、その選抜人員をどうするか?検討させていたところでして、自らその様に熱意を持って懇願してくれる者が居るとは、渡りに船というものです。
造船技術者で有る父親次第ですが、余の方では賛成させて頂きますぞ」
と言ってくれたので、外堀りを埋める事は出来た、後は彼等若者5人が自分の父親達を説得出来るかどうかだ。
5月5日
翌日出立する為に、様々な荷物の搬入が忙しく行われていた時、例の若者5人の父親達の来訪を受けて、アラン様と書記官が父親達全員と面談されて、無事『トカレフ』達5人は帝国に技術留学する事となった。
その日の夜、帝国とデグリート王国の同盟調印式が終わり、デグリート王宮からの帰路自分のデグリート王国が用意してくれた馬車に同乗した『トカレフ』に、父親をどの様に説得したのか聞いてみた、
「説得と云うより、父親の愚痴を聞かされただけでしたね」
と『トカレフ』が答えたので、更に問うと、
「つまり、父親達が当初自分達の行動を許さなかったのは、父親達の嫉妬心の所為だったんですよ。
何故かというと、父親達はここ数年間新しい技術を開発出来ず、従来の木造船の横帆船しか作れなかったんです。
処が帝国の皆さんの乗る時代を飛び越えて来た陸上船を見て、驚嘆すると共に恐怖したそうです。
このままでは、自分達は時代の遺物として誰からも相手されずに、ただ朽ちていく老木の様になってしまうのでは無いか?と
かと言って帝国からの新技術を学ぶには、父親達は年を重ね過ぎていた。
そんなジレンマを抱えている時に、息子である自分が帝国の技術を学びたいと言って来たので、自分自身と違い若い息子には華々しい未来が有ると感じ、その眩しさに嫉妬して思わず息子の希望に許可を出さなかったと本心を打ち明けてくれました」
と述懐してくれた。
それを聞いて、そんな事は無いだろうと『トカレフ』の父親達に言ってやりたくなった。
大して年も違わない、自分の親父である『ガトル』は、元はしがない辺境の鍛冶師に過ぎなかったが、帝都コリントに来てから年甲斐もなく暴走しまくり、今では5つの工場の工場長でアラン様から信頼されて、あらゆる新技術の開拓と新しい武器・武具の開発を手掛けている。
何時か、『トカレフ』の父親達と親父が話せる場を作ってやろうと思った。