人類銀河帝国 コリント朝 功臣列伝資料 「サテライト8班リーダー ケニーの日記」(航宙軍士官、冒険者になる異伝) 作:ミスター仙人
6月6日②
徒手空拳部門の決勝戦の興奮が冷めやらぬ中、武器を使用する部門(武装部門)のバトルロイヤルが開始された。
この武装部門のバトルロイヤルは、武器・武具を使用する性質上一斉に始める訳には行かず、10人ずつ25組のグループでバトルロイヤルを行い、最後に25人でのバトルロイヤルが行われる。
武器・武具は刃先や突起部分を、魔法や魔道具により人を殺傷出来ない様にしており、もし傷つけたり怪我を負っても、立ち所に帝国軍医療担当の『ヒール』によって癒やされる手筈は整っているので万全だ。
次々とグループの勝ち抜きが終了して、いよいよ25人でのバトルロイヤルが始まろうとした段階で、一人の若い男が他の24人に向かって、
「弱者の相手は面倒だし、時間の無駄だ!
全員で俺に向かって掛かってこい!
直ぐに終わらせてやるよ!」
と自信満々に言い放ち、他の24人の選抜者の怒りを買っている。
「・・・カイエンの奴・・・!」
と自分の隣に立つ、シュバルツ殿が苦笑しながら呟かれた。
その名は聞いたことが有る、以前シュバルツ殿やオウカ殿から聞かされた、3人目の剣王『剣王カイエン』の話しを。
『剣聖ヒエン』様の甥にして、神剣流の正統後継者として期待される最も若い『剣王』で、その素質は群を抜いたもので、シュバルツ殿やオウカ殿が会得出来なかった奥義も修めているそうだ。
「それでは、バトルロイヤル最終戦開始!」
と審判役である『拳聖ダンテ様』が告げると、
「ゴワアーーン!!」
と銅鑼がなってバトルロイヤル最終戦が開始された。
次の瞬間、『剣王カイエン』の姿がユラッと歪んだ。
「・・・神剣流奥義『影法師』!」
とシュバルツ殿が呟くと、『剣王カイエン』の姿の歪みが進み4人に分かれた様に見えた!
その4人が一斉に襲って来た他の24人に向かって、剣を振るった!
「・・・多連斬・・・」
シュバルツ殿がまたも呟き、『剣王カイエン』の斬撃を目で追うと信じ難い事に、分かれた4人が其々6回以上の斬撃を放ち、他の24人全員に斬撃を打ち込んだ!
凡そ10秒程で、他の24人全員を斬撃で打ち据えて、『剣王カイエン』は決勝戦に進む事となった。
『剣王カイエン』は選手控室に向かう道すがら、シュバルツ殿を見つけて自分達のいる場所にやって来た。
「これは、これは、先輩お久し振りです、お元気でしたか?」
と『剣王カイエン』はシュバルツ殿に頭を下げて問いかけた。
「嗚呼、お主も壮健そうで何よりだな。
然も腕前は相当に上がっている様だ、これは決勝戦が真に楽しみだ!」
「私も、先輩と立ち会えると聞いたからこそ、『世界武道大会』に出場を決めたのですよ。
是非何時ぞやの、引き分けに終わった決着を、次の決勝戦で着けましょう!」
「望む処だ!」
と二人は笑い合い、『剣王カイエン』は選手控室に帰っていった。
先程の武闘場での傲慢な様子が嘘の様な対応に、面食らっている自分に気付き、シュバルツ殿は苦笑しながら説明してくれた。
「カイエンは、自分が認めた強者以外には、非常に尊大な態度で望むので、修行中の頃は某とオウカ先輩が、口酸っぱく注意していたのだが、あの様子だと我等二人が居なくなった後は、師匠以外に注意する者が居ないから、あまり性格改善はしていない様だ、この際決勝戦で某が、一つ注意がてら指導してやるとするか!」
と笑い、帝国軍医療担当の『ヒール』と疲労回復ドリンクを飲んで、元気一杯に回復したミツルギ殿を迎えに行き、3人連れ立って武闘場脇のコーナーで決勝戦が始まるのを待つ。
15分の休憩の後、『剣聖ヒエン様』と『拳聖ダンテ様』が付き添われて『剣王カイエン』が、武闘場にやって来た。
そのまま『拳聖ダンテ様』は武闘場に上がり審判役となられ、『剣聖ヒエン様』は『剣王カイエン』のセコンドに付かれた。
「それでは、武装部門の決勝戦を始める。
選手二人は、武闘場に上がり給え!」
と『拳聖ダンテ様』が宣言して、選手二人は武闘場に上がって行く。
「250人によるバトルロイヤルを勝ち抜き決勝戦に残った挑戦者は、3人の剣王の1人で有る神剣流免許皆伝『剣王カイエン』選手!」
大きなどよめきが起こり、先程の『剣王カイエン』の技に来賓達がどれだけ驚いたか判るものだが、恐らく”コロシアム”外の方も今頃大騒ぎだろう。
「その挑戦者を迎えるは、帝国軍皇帝直属親衛隊長にして3人の剣王の1人『剣王シュバルツ』選手!」
またも大きなどよめきが起こった。
それはそうだろう、双方共に剣王で有り、その剣技は先程の『剣王カイエン』の技を見れば、いやでも期待が高まるだろう。
しかし、選手である二人はそんな喧騒をものともせず、じっとお互いを凝視している。
「改めてルールを説明するが、あくまでもこの戦いは死闘では無いが、当然武器を使う武闘なので命を奪う事の無いようにお互いの剣は、魔法や魔道具により人を殺傷出来ない様に施している。
だが、当然怪我等は起こり得るから、審判で有る俺の裁定は絶対で有る。
以上の説明で、お互いこのルールに異存は無いかな?(此処で両者は同時に頷いた)
それでは、決勝戦開始!」
と審判役である『拳聖ダンテ様』が宣言した瞬間!
「ゴワアーーン!!」
と銅鑼がなって決勝戦が開始された。
『剣王カイエン』は1剣、シュバルツ殿は2剣を腰に挿していたが、双方共に左に挿している剣に手を添えて、抜刀術の体勢となった。
お互いの距離は10メートル程有るが、そのままの体勢から常人には捉えられない速度で、同時に抜き打ちを行い双方ともに『斬撃』を飛ばし合った!
「ザンッ!」
とお互いの中間辺りの距離で、双方の斬撃が交差する様にぶつかり合った。
「ザザザザザンン!!」
と連続した音と同様に、連続した斬撃を双方共に飛ばしたが、やはり同じ結果に終わったが、地摺り気味にシュバルツ殿が斬撃を飛ばしながら距離を詰めていくと、『剣王カイエン』も同じ様に距離を詰め始めた。
そして双方至近距離で斬撃を飛ばし合っていたが、双方の剣が触れ合った瞬間、
「バッ!」
という音と共に双方が後方に飛び、着地した瞬間双方が消えた様に見えた!
自分は目で追えているが、殆どの者は音だけが聞こえているのでは無かろうか。
「ガッ」
と云う音と共に、1剣と2剣の鍔迫り合いの状態で武闘場の中心に現れた。
「「「「「オオオオオッーーーー!」」」」」
と来賓達がどよめく中、双方は先程と同じく後方に飛ぶ形で距離をとった。
「・・・・・流石は先輩です、今の自分のトップスピード(最高速)の『縮地』に付いて来られるなんて、予想してませんでした!」
「・・・・・某も驚いている、まさか此処まで鍛え上げているとはな。
師匠は、お主を徹底的にしごいたのだな!」
「ええ、お二人が武者修行に出られてから、朝から晩までただひたすら稽古の日々でしたよ、お陰で師匠がお二人には伝授しなかった奥義も自分のものにしました!」
「ほう、それは大変興味深い、是非拝見したいものだ!」
「どうぞ、味わって下さい、今からその奥義を出させて頂きます!」
と言葉の応酬が続いた後に、『剣王カイエン』は剣先を地面すれすれに降ろして、前屈みの体勢になった。
「ぬっ」
と短く言葉を発して、シュバルツ殿は対抗する様にアラン様直伝の『コリント二天一流』の《五法之構上の太刀》の構えになった。
「そ、それは?」
と『剣王カイエン』が、今迄に見たことの無いシュバルツ殿の堂々たる2剣の構えに、明らかに狼狽えた声を発した。
「お主が、師匠に徹底的に鍛え上げられたのと同様に、某も師匠以上の剣の達人と出会い、その方のご指導を受ける事で、この高みに到達する事が出来たのだ!」
「う、嘘だ!『剣聖』で有る師匠以上の剣の達人など、居る筈が無い!」
「この世は、広大無辺だ!
我等が世界だと思って来た西方教会圏なぞ、この大陸に於いてすら、ごく一部に過ぎない!
恐らく、大陸の中央部、北方、東方には、我等の想像を越える、様々な武術や剣術が有るに違い無い!
お前が常日頃弱者と蔑んで見ている者達と同様に、我等自身もこの世にとっては弱者に過ぎん。
だからこそ、武道を志す者は世界に対して謙虚で有り続け、弱者を労り共に歩み続ける同士として支え合うのだ。
お主の才能は、素晴らしい!
だが、心根は未だ未熟そのものだ!
故に、師匠に代わり某が、この世の広さを教えてやろう!」
「認められない!神剣流より強い剣術なぞあり得ない!その妄言は如何に先輩とは云え許し難い!
この神剣流の奥義で以ってその妄言を打ち払ってくれるぞ!!」
と双方言い合い、共に剣気を立ち上らせ、練り上げて行く。
それは明らかに陽炎の様に立ち昇り、素人にも炎の様に見えている。
”コロシアム”内が緊張に包まれ、その緊張が限界に達した!
「行くぞ!」
『剣王カイエン』が気合を込めて、奥義を仕掛ける!
シュバルツ殿の正面に向かい下段の構えで突進し、間合いに入る瞬間に例の神剣流奥義『影法師』で、4人に分かれ四方から時間差で下段・中段・上段・突きがシュバルツ殿に襲いかかる。
「甘い!」
とシュバルツ殿が一喝され、下段・中段を左の剣で、上段・突きを右の剣で無造作に払い、両剣を『剣王カイエン』の両肩に叩き込んだ!
「グハアーー!」
と呻いて、そのまま『剣王カイエン』は前のめりに崩れ去り、悶絶した!
『剣王カイエン』の状態を審判役である『拳聖ダンテ様』が、確認の為にダルマ殿の瞳孔を確認し、完全に気絶している事を確認した。
「カイエン選手の気絶を確認!
よってシュバルツ選手の勝利確定!!」
と審判役である『拳聖ダンテ様』が裁定を下し、シュバルツ殿に歩み寄り、その片腕を高々と天に向かい突き上がらせた。
「「「「「オオオオオッーーーー」」」」」
と来賓の方々がどよめく中、セコンドで有る自分とミツルギ殿がシュバルツ殿に近付き、
「流石だな、シュバルツ殿!」
と感想を述べると、
「嗚呼、カイエンの奴も此れで考えを改めると良いが・・・」
と『剣王カイエン』を見つめながら、呟くと、
「大丈夫だろう。
今夜やる予定の、例の試合にダルマと一緒に参加させるんだから、世界の広さを思い知るだろうさ!」
とミツルギ殿が問題無いと云った様子で請け合い、その意見には自分も賛成なので、
「その通りだ。シュバルツ殿、全てはアラン様に任せれば良い!」
と告げると、シュバルツ殿もその事に思い至り、
「そうだな、アラン様ならば某よりも上手に、彼等を導いてくれるだろう。
つくづく我等は素晴らしい主君に巡り会えたものだ、天の配剤に感謝致そう!」
と天に向かい感謝されている。
自分とミツルギ殿もその様子に頷いた。