人類銀河帝国 コリント朝 功臣列伝資料 「サテライト8班リーダー ケニーの日記」(航宙軍士官、冒険者になる異伝) 作:ミスター仙人
6月7日
昨日は大宴会状態のまま、”コロシアム”で朝を迎えたのだが、我等帝国軍人と『剣聖ヒエン様』そして『拳聖ダンテ様』は、『ナノム玉』の恩恵により精霊の加護を受けて居るので、二日酔い等の気怠さも無く元気一杯に活動出来ているが、其れ以外の『拳王ダルマ』殿と『剣王カイエン』他20名はものの見事にグロッキー状態で有る。
帝国医療部隊によって介抱されているが、『ヒール』や回復ドリンクはあくまでも怪我や体力回復が目的なので、あまり二日酔い等の気怠さには効き目が薄い。
彼等には現在飲んで貰っている『ナノム玉1』が、効力を発する明日まで我慢して貰おう。
そんな中、昨日の『世界武道大会』の後片付けも終えて、諸々の引き継ぎを公都ザイリンクで執政する事になる行政執行官達に行い、後事を任せて行く。
明日には出立して、いよいよ旅の本命である『魔法大国マージナル』に向かう事となる。
一足早く『魔法大国マージナル』に着いて、あちらの守護竜と対面を果たしているであろう、グローリア殿始めガイ達ドラゴン部隊は、今頃どうしているのかな?と思いを馳せた。
6月9日
『魔法大国マージナル』の国内に入りそのまま海岸線に向けて全艦隊で進むと、自分の騎竜であるガイが自分の乗る陸上空母『ドライ』に合流して来た。
久し振りの再会に喜び出迎えに行くと、傍目にも判る位にガイは疲弊していた。
「どうしたんだガイよ?」
と尋ねると、ガイは翻訳機を通して、
「ケニー大佐、お久し振りです!
何、『守護竜アルゴス』殿の訓練で疲労してるだけですよ。
体調等が悪い訳では無いので、ご心配無く」
と分かれる前と比べると、明らかに流暢な口調で返事して来た。
恐らく頭脳面でも、『モーガン』殿と『魔法大国マージナル』の『守護竜アルゴス』殿に鍛えられて居るのだろう。
他の14頭のドラゴン達も、陸上空母と陸上戦艦の飛行甲板に戻って来たが、肝心のグローリア殿が『ビスマルク』に帰って来ない。
「ガイ、グローリア殿はどうしたんだ?」
と聞くと、
「昨日、アトラス殿と魔法での決闘騒ぎが有りまして、現在両者共に医療用『コクーン』で療養中です」
と答えてくれた。
アトラス殿と云えば、守護竜アルゴス殿の孫にして、グローリア殿のお見合い相手ではないか、もしかしてお見合いは失敗したのだろうか?
ガイにその辺りを聞いてみると、
「いえ、そういう訳では無くて、問題は別の所に有ります!
実は、アトラス殿は非常にプライドの高い方で、自身がドラゴンとして絶大な力を持つ事に大変誇りを持っていて、ドラゴンである我々が人間と協力関係にあるのを、あまり愉快に感じて居らず、度々人間の能力を侮る発言をされていて、とうとうアラン陛下の能力を疑う発言をされたので、グローリア殿と言い争いに発展して終いには魔法での力比べをして、双方傷つくという事態になりました」
と理由を説明してくれた。
まあ、アトラス殿の言う通り普通の人間とドラゴンを比べるのは、そもそも比較対象として間違えている。
だが、『ナノム玉』を服用して精霊の加護を得た上で、あらゆる魔法教育と実践を重ねた我等帝国軍人は、既に普通の人間の範疇から逸脱している。
なにせ空軍の訓練では、時に自分の騎竜で有るドラゴンやワイバーンと魔法の撃ち合いをする、魔法訓練が有るのだから。
確かにドラゴン達は、圧倒的な量の魔法力を持つが、カートリッジにした魔石を常に保持する帝国軍人は、それ程遜色無い魔法力を保持している事になるから優劣は無く、単一の魔法だと一度に引き出せる魔力の総量の差で負けるが、連射等でその不利は帳消しとなる、更には人間はドラゴンに比べ小さいので遮蔽物を利用すれば、簡単に隠れられるが、ドラゴンはその大きさから、その様な手段は取りようが無い。
なので、市街戦や大樹海での魔法訓練では、ほぼ互角の勝負となる。
だからこそ、帝国に所属するドラゴンとワイバーン達は、決して人間を侮る様な態度は取らず、むしろ尊敬し合っているので、人間との関係性は非常に良好だ。
中でも、ごく少数だが自分を含め『ナノム玉2』以上を服用している人間は、ともすれば条件によって(例えばあらゆる強力な武器を仕える条件等)普通にドラゴンを凌駕し得る。
そして、事実上の帝国軍最強にして古今無双の英傑であるアラン様は、普通の状態であろうとも複数のドラゴンを相手にして、平然と勝利してしまうし、アラン様ご自身の持つ最強の武装で身を包まれると、正直な処アラン様に帝国軍全軍で挑んでも、全く勝てる気がしない。
恐らくアトラス殿が、如何に古代竜(エンシェント・ドラゴン)であろうとも、本気のアラン様には勝てないだろう。
何だか、その場面が直ぐに脳裏に浮かんできて、その想像が事実になる様な気がしてならなかった。
6月10日
『魔法大国マージナル』の首都である魔法都市『ザナドゥ』は、非常に綺麗な都市であった。
先ず目を引くのは、何とこの都市は海の上に浮かぶ海上都市なのだ。
どういう作用で浮いているのか謎だが、フロート上に都市が築かれているのに、地面は一切揺れて居らず、高い壁によって大波が打ち寄せても、都市に被害はありそうに無い。
非常に先進的な都市で有る。というのが、魔法都市『ザナドゥ』に対しての第一印象であった。
我々の乗る全艦隊は、魔法都市『ザナドゥ』の港湾施設に横付けして、諸々の物資や魔道具の搬出が行われて行ったが、そうした作業をしている最中に王宮からの使節が『ビスマルク』に来訪し、アラン様と上層部の方々は王宮に出向かれた。
自分と空軍の面々は、久し振りに再会した己の騎竜に乗り、久々の空中訓練を行っていた。
久々に空を高速で飛行してくれるガイに乗っていると、つくづく空軍を志願して良かったと感慨に耽っていると、突如高空から巨大な存在が我等空軍の上に影を射した。
何だと上空を振り仰ぐと、其処には凡そ200メートルに達すると思われる、巨大なドラゴンが鮮やかな紺碧の鱗を鈍く光らせて、ゆったりとした姿で羽ばたきもせずに浮かんでいた。
「ケニー大佐、あの方こそが『守護竜アルゴス』殿です!」
あれが、『魔法大国マージナル』の守護竜にして、西方教会圏に於ける最強の存在『守護竜アルゴス』なのか!
とやや呆然とした面持ちで見ていると、『守護竜アルゴス』殿はその深い叡智を伺わせる瞳を我々に向けると、空中で深々と頭を下げられて挨拶してくれた。
慌てて我等空軍もドラゴン達と共に頭を下げて礼を尽くすと、『守護竜アルゴス』殿は深く頷き、その紺碧の鱗を輝かせながら、そのまま海中に突っ込んで行かれた。
唖然として『守護竜アルゴス』殿が飛び込まれた海を見ていると、
「『守護竜アルゴス』殿の居住する場所は、海中に有るのですよ!」
とガイが説明してくれた。
此れが、『守護竜アルゴス』殿と我々空軍の初邂逅であった。