人類銀河帝国 コリント朝 功臣列伝資料 「サテライト8班リーダー ケニーの日記」(航宙軍士官、冒険者になる異伝) 作:ミスター仙人
8月10日
ダルシム中将が乗る陸上重巡洋艦『バーミンガム』と陸上駆逐艦3隻が、マジノ線を越えてクライナ公国西端の都市『リビン』に到着した。
既に『ゼレンスク』殿の反乱軍と帝国軍が護衛する大規模なトレーラーと車両による輸送部隊は、『エリコフ』の住民約100万人と合流すべく東に向かっている。
その間、この『リビン』とマジノ線の間に構築した人道回廊を維持して、周辺都市に出没するスラブ連邦軍の疑似魔獣共を駆逐する必要が有った。
ダルシム中将は、『リビン』を巨大な兵站基地とするために、マジノ線との間をインフラ整備し、片側3車線の計6車線の道路敷設を推し進め、その区間に等間隔に陸上駆逐艦を巡回させて、一切のスラブ連邦による妨害活動を排除する事にした。
そして、周辺都市に対し潜入部隊として、親衛隊長シュバルツ殿、ミツルギ殿を中心に、新たに親衛隊に加わった世界武道大会参加者20名と拳王ダルマそして剣王カイエンを含む特別陸戦隊千人が、行動を始めた。
彼等は、まだ生き残っているクライナ公国の住民を『リビン』に送り届けたり、出没するスラブ連邦軍の疑似魔獣共を駆逐する事を任務としている。
彼等の中で、特に拳王ダルマ殿と剣王カイエンは、己が今まで磨きに磨いて来た武術を、クライナ公国の住民を守る為に、遺憾なく発揮出来る事に心底誇りを感じており、他の世界武道大会参加者20名と共に、スラブ連邦軍の疑似魔獣を相手に自分一人だけでなく、全員での連携技を考案しながらさらなる高みを目指し、腕を磨いているようだ。
8月13日
飛ばしに飛ばしたお陰で、ゼレンスク殿達輸送部隊は、無事に『エリコフ』の住民約100万人の避難民と合流を果たし、次々とトレーラーと車両に避難民を乗せて『リビン』に向けてピストン輸送を開始した。
だが、やはり避難民は足が遅かったので、スラブ連邦軍の小部隊が次々と襲いかかって来た。
当然、セリーナ、シャロン両准将の率いる高機動軍と重機動軍、そしてカイン少佐の重装機動軍は迎撃に出るが、何せ『リビン』までの道は長く、途中の街道は破壊され尽くしていて、難所だらけになっている。
其処で、ゼレンスク殿は避難民達に向かい演説された。
「クライナ公国の男達よ、皆が疲弊して居る事は、百も承知で頼む!
どうかその手に武器を取り、自分達の家族・親類・友人を守る為に戦って欲しい!
見ての通り、彼等帝国軍の方々は、勇敢にもあの地獄から這い出て来た様な疑似魔獣共に対し、一歩も引かずに戦って居られる。
そんな彼等に対し我等クライナ公国の民は、ただ守って貰うだけなのか?
私は、絶対にそんな事は無いと信じている!
我等クライナ公国の誇り高い民は、不当な侵略者に対し決然と立ち向かう郷土愛を重んじる、不屈の戦士で有る。
必ずこの『ラスプーチン』率いるスラブ連邦の愚かな侵略戦争は失敗に終わる!
いや、我等クライナ公国の民の力で失敗に終わらせる!
その為にも、クライナ公国の男達よ、帝国軍が供与して下さった、この『ヴァルキリー・ジャベリン』を放てるバズーカ砲を受け取り、帝国軍と共に戦って貰いたい!
この戦争は、我等自身の手で終わらせるのだ!
やるぞ、クライナ公国の民達よ!」
立体プロジェクターで大きく空に映し出され、『エリコフ』の住民約100万人に向かって呼びかけられたその演説は、『エリコフ』の住民の心に確かに届き、次々と帝国軍が供与するバズーカ砲を受け取り、自分達の家族を守りながら、トレーラーと車両に乗り込み、時折襲ってくるスラブ連邦軍の小部隊を迎撃する事となった。
彼等は勇敢にも、トレーラーや車両の上に身体を固定させ、3人1組となって射手と装填係そして警戒係と分担し、疑似魔獣や疑似兵士を倒して行った。
この『ヴァルキリー・ジャベリン』は、敵を構成しているMMそのものをその魔法力で粉砕するので、疑似魔獣や疑似兵士はMMを再構築する事が出来ずに、直ちに塵と化してしまう。
その威力に、自信を深めたクライナ公国の男達は、ドンドン戦士の顔へと変貌して行った。
モニター越しにそんな彼等を見て、自分はクライナ公国の未来は明るいと確信する事が出来た。
8月15日
総旗艦『ビスマルク』を中心として、自分の乗る新造陸上空母『グラーフ・ツェッペリン』と陸上空母3隻(従来のアイン、ツヴァイ、ドライ)とで編成された軍は、ノルデン諸国連合の軍港から海洋大国デグリート王国の一艦隊と合流すると、巨大軍港を持つ首都キエフに向けて出港した。
今現在首都キエフは、セリーナ、シャロン両准将の率いる高機動軍と重機動軍が、ワザワザ目立つ様にクライナ公国中央の大都市『エリコフ』を救援した陽動作戦によって、駐屯していた40万のスラブ連邦軍の内、30万の兵力で高機動軍と重機動軍が護衛する、『エリコフ』の住民約100万人の避難民を攻撃するべく南下している。
その留守中に首都キエフを奪還するべく、我等は向かっているのだが、一つの懸念として存在するのが、例の『海魔クラーケン』達の存在だ。
ゼレンスク殿とのモニター会議でも、その存在は語られたのだが、如何せん相手は海中に居るし、その全体像は誰も見ていない。
ただ、同時多発に商船複数が海中から伸びてきたタコの様な足によって、海中に引きずり込まれた姿を、港湾作業員と船員が目撃している。
少なくとも『海魔クラーケン』は複数居て、商船を海中に引きずり込める程の力を持っている。
帝国軍には、海中に対して有効な攻撃力を持つのは、我等空軍がワイバーンとドラゴンに持たせて投下する、魔法水雷と氷魔法による氷柱攻撃、そしてアトラス殿の武装である海上・海中戦闘用の『海竜(リヴァイアサン)モード』しか無い。
我等が『海魔クラーケン』を退けなければ、事実上首都キエフの奪還は無理で、クライナ公国全体の解放は著しく後退する事になる。
我々に課されている、任務は非常に厳しいのだ。