人類銀河帝国 コリント朝 功臣列伝資料 「サテライト8班リーダー ケニーの日記」(航宙軍士官、冒険者になる異伝) 作:ミスター仙人
8月17日(前編)
総旗艦『ビスマルク』と新造陸上空母『グラーフ・ツェッペリン』に搭載されている、圧倒的な範囲を探査できる高感度の探知魔道具レーダーにより、海中に潜む『海魔クラーケン』共を発見した。
ただ意外な事に、かなり浅い深度に集合していて、何やら食事中の様だ。
正直な処意外だった、海中深く潜って商船が近づいたら海中から襲うと云った、お馴染みの行動を予想していたからだ。
そしてその数も想定を遥かに越えている。
何と、精々多くて百匹程度だと思ったのだが、軽く千匹を越えている!
体長20メートルから30メートルの、巨大なタコに似た存在が群れを為して軍港いっぱいに集結している様子は、長い間見ていると正直気分が悪くなってくる。
しかし、一体何を食べているのだろう?
と気になっていると、ドローンがズームしてくれて海魔クラーケンが何を食べているのか、漸く判った。
何と海魔クラーケン達は、魔物の中でも『サハギン』等で知られる、半魚人を捕食して居たのだ!
「・・・・・インスマウス人・・・・・!」
アトラス殿との最終確認の為に、『グラーフ・ツェッペリン』に来られていたアラン様が、ぼそっと呟かれた。
《インスマウス人?》あの半魚人達の種類は、そう云う名前なのかと思ったが、どうにもその名前の響きが、どうしても違和感を感じさせた。
そう、まるでこの世界に居てはならない、異界の存在であると理屈抜きで、自分の本能がしきりに警報を全身に鳴らしているようだ。
我等帝国軍は、事前に策定した作戦行動を取るべく、所定の行動に順次移行して行った。
先ずは、海洋大国デグリート王国が用意してくれた、退役艦と廃艦に近い木造の老朽艦計50隻を、軍港に向けて進ませる。
此れ等は舵を固定の上で、進路を定めたら船員は全員『グラーフ・ツェッペリン』で回収し、無人でそのまま進むようにかなり単純な魔道具を積んでいる。
上空には、予め『機龍(ドラグーン)』モードに換装しているグローリア殿と、空軍のガイを始めとするドラゴン15頭が、搭乗員を乗せずにグローリア殿の指示の元で戦闘する様に、滞空状態を保っていて、全員が投下する魔法水雷を満載している。
そして水中には、アトラス殿が海上・海中戦闘用の『海竜(リヴァイアサン)モード』の武装に換装して、待機している。
「作戦開始!」
アラン様の号令の元作戦は始動し、老朽艦50隻は速力を上げて首都キエフの軍港に突入を開始した。
老朽艦50隻が軍港まで、300メートルまで迫ってようやく海魔クラーケン共は気づいたらしく、何やら吸盤の付いた手足を振り回すと、半魚人達を放置して老朽艦計50隻に殺到して足の吸盤で取り付いた。
「作戦第2段階に移行!」
アラン様の次の指示が飛び、老朽艦50隻が火を吹いた!
予め、燃焼し易い様に老朽艦50隻の船内は、廃油や要らなくなった布製品等の可燃物を満載していて、海魔クラーケン共が取り付いた瞬間、船の帆に向けて艦砲から遠距離魔法砲撃の『ファイアーアロー』が、老朽艦50隻に砲撃され、帆から導火線を伝い一気に船体が燃え上がったのだ!
ゴウゴウと燃え広がった老朽艦50隻から、必死な様子で海魔クラーケン共は距離をとって、逃げ初めてが、
「作戦第3段階に移行!」
とのアラン様の次の指示が飛び、高空に滞空していたグローリア殿と、空軍のガイを始めとするドラゴン15頭が、満載していた魔法水雷を海魔クラーケン共目掛け、次々と投下した。
「ドゴオオーーーン!」
と大きな水柱を水上に吹き上げながら、魔法水雷は海魔クラーケン共に当たり、少なくない被害を与えて行った。
此れは不味いと考えたのか、一部の海魔クラーケン共は、海中深く潜ろうと軍港から沖に、逃げ始めた。
当然其処には、アトラス殿が迎撃するべく戦闘準備している。
「『海竜(リヴァイアサン)モード』基本武装、マルチプル魚雷!」
アトラス殿が、選択した攻撃は『グラーフ・ツェッペリン』で疑似音声化され、モニターで戦況を確認している艦橋員に聞こえ、自分のヘルメットにも再生された。
マルチプル魚雷は、アトラス殿が換装している『海竜(リヴァイアサン)モード』の長い胴体(凡そ100メートル)の腹部にミサイルランチャーの様に格納されていて、同時に100体の敵をマルチ照準して、発射されると自動でホーミングして行く機能を備えている。
次々とマルチプル魚雷は、海魔クラーケン共に直撃して粉々にして行き、海中に逃れようとした海魔クラーケン共を尽く粉砕した。
堪らずに残った海魔クラーケン共は、軍港の陸上に上がり(コイツ等地上に上がれたのか!)、港湾施設の倉庫等に隠れようとした。
「作戦第4段階に移行!」
とのアラン様の次の指示が飛び、グローリア殿と空軍のガイを始めとするドラゴン15頭が、ファイアーブレスとファイアーグレネードを連射する事で海魔クラーケン共は、焼き尽くされて行った。
《何と呆気ない》
と自分を含む帝国軍全員が、あまりの海魔クラーケン共の弱さが、あまりにも敵として期待外れ過ぎて、物足りなさすら感じてしまった。
すると、海魔クラーケン共の最期を確認したのか首都キエフの軍港の奥から、ゾロゾロと例の半魚人が港に押し寄せて来た。
その数は凄まじく、軍港全てを埋め尽くしても終わらずに、まだまだやって来る。
軍港から溢れている数に、100万匹は居るのでは無いか?と驚きながら見ていると、何やら半魚人達は一斉に、まるで教会でルミナス教の信者が唱えるルミナスの聖句の様に、酷く聴き取りづらい音で、声を上げ始めた。
考えて見れば、どう見てもエラ呼吸をしてそうな外見の生物が、声を上げているだけで、充分異常なのだから、我々人間に明確に聴き取れる筈も無いか・・・。
とやや場違いな感想を思っていたが、やがて人間にも聴き取れる内容に、変化した。
「・・・ブジュルルr『ダ』、キリュリュr『ゴ』、ヅユウツリュr『ン』・・・」
どうやら繋ぎ合わせると、『ダ』『ゴ』『ン』。
『ダゴン』と繰り返し、発声している様で有った。
次第にその唱和は合わさり、津波の様な大合唱となった!
「・・・ダゴン、ダゴン、ダゴン、ダゴン、ダゴン、ダゴン、ダゴン、ダゴン、ダゴン、ダゴン、ダゴン、ダゴン、ダゴン、ダゴン、ダゴン、ダゴン、ダゴン、ダゴン、ダゴン、ダゴン、ダゴン、ダゴン、ダゴン、ダゴン、ダゴン、ダゴン、ダゴン、ダゴン、ダゴン、ダゴン、ダゴン、ダゴン、ダゴン、ダゴン、ダゴン、ダゴン、ダゴン、ダゴン、ダゴン、ダゴン、ダゴン、ダゴン、ダゴン、ダゴン、ダゴン、ダゴン、ダゴン、ダゴン、ダゴン、ダゴン、ダゴン、ダゴン、ダゴン、ダゴン、ダゴン、ダゴン、ダゴン、ダゴン、ダゴン、ダゴン、ダゴン・・・!」
空間全てを覆い尽くすようなその大合唱は、首都キエフ全体に響き始めた!
「バキン!!」
と云う、硬質なガラスが割れる様な音が空中に響き、帝国軍全員がその音が聞こえた空間に目を向けると。
何も無いはずの空間に、亀裂が走っている!
「バキ、バキ、バキ、バキ、ガシャアーーーーンン!!」
と空間に走った亀裂が、拡大して行き、やがて大きく割れると、空中に漆黒の闇が広がっていた!
その漆黒の闇から、何やら途轍も無く巨大な存在が、此方側に向かいやって来ようとしているのが、自分の全ての五感を通して感じられた。
ゆっくりと手が出て来たが、明らかにその手には水掻きが有り、更に足が出てきたがその足にも水掻きが存在する。
そしてその肌は、魚類の物と思われる鱗がびっしりと覆っていた。
非常にゆっくりとしたペースで全身を顕にした、その存在は、先程まで大合唱していた半魚人の姿に酷似していた。
しかし決定的に違うのは、その大きさだ!
空間から姿を現し、そのまま下半身を海中に沈めた全長は、海面に出ている部分だけで、凡そ2キロメートルに達している!
恐らくは、下半身も合わせると約5キロメートルに達するのでは無いだろうか。
そしてその怪物は、おもむろにその辺りに焼け焦げて死んでいる海魔クラーケン共を、その魚類の様な口に持って行って咀嚼し始めた。
その様子を見ていて、自分を含む全ての帝国軍人の脳裏に、或る考えが浮かんでしまった。
もしかすると、我等はとんでもない思い違いをしていたのでは無かろうか?
海魔クラーケン共は、クライナ公国の人々や商船にとっては脅威になるだろうが、我等帝国軍にとっては何程の事もない。
だとすると、スラブ連邦のラスプーチンは最初から、この怪物を呼び出す為の”供物”として、海魔クラーケンの封印を解いたのでは無いだろうか?
つまり我等帝国軍に対して、ラスプーチンが用意した我々相応の相手は、今目の前にいるこの怪物だという事だ!
「・・・・・父なるダゴン・・・・・・!」
感度の良い自分のヘルメットの音声レシーバーは、小さく呟かれたアラン様の声を拾ってくれた。
そして、首都キエフ軍港の真なる戦いが、始まろうとしていた。