人類銀河帝国 コリント朝 功臣列伝資料 「サテライト8班リーダー ケニーの日記」(航宙軍士官、冒険者になる異伝) 作:ミスター仙人
4月12日③(人類銀河帝国 コリント朝2年)
この2連戦の一騎討ちに、全軍の興奮は鰻登りでもはや、3連戦で2回勝って勝負が着いたなどと野暮な事を吐かす人は一人も居ない。
何故なら、これから最後にして最強の武将の一騎討ちが控えて居るからだ。
『楊大眼』
この男は、崑崙皇国にとって不世出の英雄と言ってよく、過去の英雄が現在に復活しようと、絶対に勝てないと噂されるそうで、実際自分の目から見ても、身長が210センチメートルと雄大な大きさであるにも関わらず、均整が取れているのが傍目にも判り、ごつい筋肉が覆っているのに、身体の動きはネコ科の動物のしなやかさを持ち合わせている。
恐らくは、『ナノム玉』を服用していない素のままの人間の中では、世界一の強さを誇るのではないだろうか?
そんな怪物の様な武将に挑むのは、趙匡胤殿だ!
趙匡胤殿も巨漢と言って良い、身長190センチメートルで更に圧倒的な筋肉が全身を覆い尽くしているので、正に人間のオーガと呼んで良いと思われる体格だ。
双方全く見劣りの無い、巨漢同士の対決に周囲の人々のボルテージは上がり続け、今や遅しと一騎討ちの開始が待ち望まれているのが、判った。
そしておもむろに歩き始めて中央に進み出た楊大眼が、口を開いた。
「兼ね兼ね南方に、趙匡胤と云う勇の者がいると聞いて居たが、成る程中々の力を持っているようだ。
是非にも、お前には俺の飢えを満たして貰いたいものだ!」
と傲慢なまでの自負が言外に溢れる物言いを楊大眼は、悪びれもせずに言い放つ。
それに対して、特に怒りもせずに、趙匡胤殿は、
「私も、楊大眼殿の素晴らしい噂を常々聞かされていたが、此処まで噂よりも真実の姿が乖離する程、凌駕する事を始めて体験した。
出来る限りの力で、楊大眼殿のご希望に添いたいが、如何せん私は李世民殿と岳飛殿と違い、最高の武人たるアラン皇帝陛下との繋がりが短く、今だコリント流を基礎しか学んで居らぬ。
失望させてしまうかも知れぬが、宜しく頼む!」
と訴え出られた。
其れに対して楊大眼殿は、李世民殿の横で悠然と見学されているアラン様を見られ、
「・・・先程の2回の一騎討ちでも、最終的な決め手は、コリント流武術の奥義であった。
然もそのどちらも凄まじいまでの、武術の極みと呼ぶに相応しい技である。
願わくば、その当人が目の前に居られるのだ、是非、一手指南を乞いたいものだ!」
と嘆息されたので、趙匡胤殿はカラカラと笑われ、
「ならば、某を見事打ち倒され、そのままエキシビジョンマッチとして、アラン皇帝陛下をに挑まれては如何?
きっと受けてくれると思うぞ!」
との言葉に楊大眼殿は、「そうしよう」と頷かれ、両手に金剛棒を1本ずつ取り身構えた。
その異様さに、全軍がどよめいた。
何故かというと、鉄棒を武器とする武将は珍しいが別に居ない訳では無いので、驚くには値しないが、楊大眼殿の持つ金剛棒は異常過ぎた。
何せ大きすぎるのだ、通常の鉄棒が重いもので精々5キロから7キロなのに、楊大眼殿の持つ金剛棒は優に太さで6倍長さで1,5倍は有る。
然もそれを片腕ずつに持っているのだ。
つまり、楊大眼は武器だけの総重量で、80キロを越え、鎧等の武装をあの巨体を隙間なく覆っている事から、武装も込で考えると何と120キロを優に越えているのだ。
正に超人と言うべきであろう。
一方、趙匡胤殿は両腕で持つ大薙刀(セリーナ殿の冷艶鋸改に似ている)を構えた。
この大薙刀も、重さで30キロは有りそうな大変な代物だが、あまりの楊大眼殿の金剛棒を見せられると、若干の見劣りがあった。
武装はほぼ同等の鎧を着込んでいたので、この面はほぼ互角だ。
やがて、両者が向き合い用意が済んだので、銅鑼が鳴らされた。
「グワワワワーーーーーーーン!!」
その音が鳴り響く中、悠然と楊大眼殿が趙匡胤殿に向かい進み始め、流々と両手の金剛棒を回転させ始めた。
此れがまだ木製の棒で有れば納得がいったが、総重量80キロとなれば話しは別だ。
正に死の旋風が両手で振り回されていて、徐々に近寄られると云う、恐怖に向き合わされているというのに、震えもせず構えているだけで趙匡胤殿の、凄まじい胆力が理解できる。
そして双方の得物の間合いが交差した瞬間、颶風となって楊大眼殿の金剛棒が趙匡胤殿の兜に向かって振り下ろされた!
だが、その凄まじい振り下ろしが兜に触れる瞬間ヒラリと趙匡胤殿は体を躱し、そのまま下段から大薙刀を楊大眼目掛け跳ね上げた!
其れに対して楊大眼目も触れる瞬間ヒラリと横に体を躱し、そのまま回転して金剛棒を横薙ぎに趙匡胤殿の腹に向かい振り回す!
得たりと、趙匡胤殿も横薙ぎに大薙刀を振り回し、双方の得物がぶつかり合う!
「ガイイイイーーーーン!」
と云う硬い物が凄まじい勢いでぶつかり合う、独特な衝撃音が辺りを震えさせる中、その音が鳴りやまない内に、続けて双方の得物が交差する。
「ガッ、ガガガッ、キィイーーーーン、ゴガガガーーッドゴッ!」
続けざまの凄まじい衝撃音に、全軍の将兵がシンと静まり返り、皆が息を呑んで立たずを飲む。
双方50合に及ぶ重量級の武器の打ち合いによって、それぞれの得物は見るも無惨に傷ついている。
次の一撃で武器が壊れると判断した双方は、一旦距離を取り構え直した。
「見事だ、趙匡胤!
この俺とこれだけ打ち合えるとは、予想もしていなかった!
褒美に俺の奥義で勝負を着けてやる!」
と楊大眼殿は言い、大きく両手の金剛棒を上段に構えた。
「私も、楊大眼殿のお眼鏡に叶う程打ち合えて光栄だ!
私も全力の奥義で以って迎え撃とう!」
趙匡胤殿もそう応えると、大薙刀を上段で構えた。
数瞬の静寂が終わると、双方が突進した!
「双天剛撃!」
「旋回颶風斬!」
両者の雄叫びと共に、凄まじい衝撃波が周りにいた人に届いたが、周囲にいる軍人達は一人たりと目も閉じずに両者の決着を見ていた。
やがてゆっくりと趙匡胤殿が倒れ始めたが、ガッシと楊大眼殿はそれを掴み、近くに居た救護隊が直ぐによって来たので、その担架にゆっくりと乗せてやる。
「本当に見事だ趙匡胤!
これ程の使い手は、俺のこれ迄の戦歴でも居なかった!
何時かまたやり合おう!」
と楊大眼殿は担架に乗せられたままの趙匡胤殿に、優しげに微笑まれながら言われた。
次の瞬間、割れんばかりの歓声が全軍の将兵から湧き上がり、
「「「「「楊大眼!楊大眼!楊大眼!楊大眼!楊大眼!!!」」」」」
と連呼された。
何とも凄まじい男だ、崑崙皇国に於いて不世出の英雄であると云う触れ込みに、偽り無しと納得出来た。