人類銀河帝国 コリント朝 功臣列伝資料 「サテライト8班リーダー ケニーの日記」(航宙軍士官、冒険者になる異伝) 作:ミスター仙人
4月12日④(人類銀河帝国 コリント朝2年)
割れんばかりの歓声と、楊大眼殿への連呼が続く中、楊大眼殿がアラン様も目の前に来て、頭を深々と下げた。
「アラン皇帝陛下。
不躾では有りますが、是非私とエキシビジョンマッチの形で、一騎討ちでは無く、試合を受けてはくれないだろうか?
もう既に崑崙皇国中央軍の主将で有る『李建成』第一皇子は、周りから孤立させて事実上の更迭状態にある。
私は、先程の1回戦と2回戦で見た、コリント流の素晴らしさに目を開かれた思いだ。
是非、この未知で奥深い武術を味わってみたい!
此の様な思いは、武将を志した遥か昔の時以来で、心がひりつくような期待で一杯なのだ、何とか私の申し出を受けてくれないだろうか?」
とまるで、始めての告白を想い人にするかの様に、真摯な態度で楊大眼殿は申し出られた。
フム、と考えられたアラン様には両横に居られる、李世民殿と岳飛殿に目を向けると、両人共に意図を汲んでくれて大きく頷かれた。
その両者からの了解を受けてアラン様は、頷き返して、
「・・・良かろう。
だが、その金剛棒も限界だろう?
なので、素手の徒手空拳での試合としたい、受けるか?」
とアラン様が問うと、楊大眼殿は、
「大変有り難いが、まだ自分の得物である金剛棒は、後二試合位なら大丈夫だと思うが?」
と楊大眼殿が答えると、アラン様が手を差し出したので、「大変重いのだが・・・」と恐縮しながら金剛棒を差し出した。
そんな楊大眼殿の手ずから、軽い手付きで二つの金剛棒をアッサリと受け取った。
まさか己の重い得物を指先で摘む様に受け取られた事に、楊大眼殿は驚愕した様だが、アラン様がコンコンといった感じで、金剛棒同士を叩くと、バキンッといった音を立てて金剛棒が折れると、更に目を剥いた。
「やはり、芯の部分で完全に折れていたな。
此れでは、試合途中で得物が折れて、対等な勝負が出来なかった処だ、危なかったな」
とアラン様が何でも無いように周りに告げると、プルプルと楊大眼殿は震えてアラン様に言上した。
「・・・信じられない・・・!
長年使用して来た自分にも判らなかった得物の状態を、遠くから見ていただけで完璧に把握したのか?!
何と恐るべき観察力と洞察力なのだ!
貴方様を李世民殿、岳飛殿、趙匡胤殿が、最高の武人だと評された理由が今は、ハッキリと判る!
どうか、俺の長年の夢である、掛け値なしの全力全開の力を振り絞らせてくれ!」
との懇願に、アラン様は大きく頷かれ、
「その夢を叶えさせてやろう、但し俺も久し振りに全力を出そうと思うので、壊れるなよ!」
何時もの丁寧な物言いが変わったアラン様に、帝国軍の面々は戦慄した。
あのアラン様が、人相手に本気になったのだ!
此れがどれほど異例な事か、帝国軍人ならば誰一人として知らない者は居ない!
そう、これから帝国どころか、この大陸に住む人間にとって、最高な試合を見る事が出来る事実に、此の場にいる全ての人間が、生物としての本能で判り始めていた。
楊大眼殿は、重い武装を全て脱ぎ去り、非常に動き易い様に崑崙皇国独自の武道着に着替え、救護隊から受け取った疲労回復ドリンクと、ヒールの魔法で全回復出来た。
その効能にも楊大眼殿は驚かれていた様だが、これから行われる試合の事の方が気に掛かる様で、しきりとストレッチしている。
そしてアラン様も着替えを開始したが、其れは直ぐに終わった。
何故ならアラン様の場合、普段の武装と鎧下を脱ぐだけで済むからだ。
下着とは違う其の着物は、一切の継ぎ目や縫直し等の無い、一体成型の様で処々のサポーター以外は、完全に皮膚の上に貼り付く様になっている。
此れほど動きやすい服装は無いであろうが、未だにお袋の最先端の服飾工場でもこの素材を生み出せておらず、事実上のアラン様専用の道着と云える。
それぞれの用意も整い、いよいよ銅鑼の合図を待つのみとなった。
双方、2回戦目にアラン様が作られた即席の舞台に上り、手足の動きを確認している。
そして遂に、此の一騎討ち勝負のエキストラマッチにして、人同士の最高の戦いが始まろうとしていた。
未公開設定集②
惑星アレスの真実
この惑星は調整者にとっての実験惑星であり、シード計画の一環として、魔素によるサイクル型の循環型環境を実権して来た経緯が有ります。
この種の実験惑星の例としては、アサポート星系第3惑星アデルがあり、基本的な標準社会形態の惑星で、若干の領土拡大意欲を持ち、宇宙の進出と各星系の併合への罪悪感軽減と、大らかな支配体制を志向する意識を持たせているが、基本物理学しか把握しておりません。
何故此の様に様々なパターンの進化を望める実験惑星を作ったかというと、調整者にはある強大な敵がいて、その敵と戦う為に高次元に行く必要があった。
然も、その敵はあまりにも強大であり、元々数の少ない調整者は、残らず高位次元に行かなくてはならず、下位次元のここをある意味見捨てなければならなかった。
なので出来る限りの遺産ともいうべき、防御措置と幾つかの監視者を残した。
そして其れ以外にも、ある祈りとでも呼ぶべき措置も講じていた。
その措置とは、遥かな未来に元々のシード計画の目的であった、因子の違う進化を遂げた『人類に連なる者』同士が結びつき、真の意味での『新人類』が誕生し、何れはこの下位次元での戦いを征して、高位次元での戦いでの味方としてやってきてくれると云う、あまりにも淡い微かな祈りであった。
だが、ある特殊事情によって、天文学的な数字の奇跡で、本来後1200年後にしか交わらない筈の両者が、出会ってしまった。
それも両者が協力的、且つ友好的であり、然も強制的な結びつけでは無く、『愛』という全ての因果と運命をすら超えた『新人類』が誕生した事になる。
第三部主人公達は、此等の真実を踏まえた上で、星々の海での戦いに乗り出す事になります。
(ある強大な敵とは、お判りでしょうが作中度々出て来る、『古きものども』を指します)