人類銀河帝国 コリント朝 功臣列伝資料 「サテライト8班リーダー ケニーの日記」(航宙軍士官、冒険者になる異伝) 作:ミスター仙人
4月12日⑤(人類銀河帝国 コリント朝2年)
「ドガッ!」
いきなりの炸裂音の様な音が、まだ打ち鳴らされた銅鑼の余韻が残る中、舞台の中央から響いた!
そう、開始の銅鑼が鳴った瞬間、アラン様と楊大眼殿が双方突進し、互いが舞台の中央で渾身の蹴りを放ち合い、それがぶつかりあった音である。
双方の足裏同士が重なったのだが、即座にアラン様は、後方に跳び、足が着地した瞬間その姿が消えた?!
本来有り得ないのだが、『ナノム玉2』を服用している自分でも、そのあまりの速度に、アラン様の残像が辛うじて追える程度である。
「ドゴッ!」
と云う鈍い音が楊大眼殿の腹に突き刺さる形の、アラン様の右足の蹴りで響く!
だが、その凄まじい威力の蹴りを放った、アラン様の右足を楊大眼殿は素早く抱え込み、逆関節で折ろうと、叩きつけようしたが、アラン様の左足が楊大眼殿の右腕を蹴り、アラン様は右足を引き抜いた。
そのまま体勢が崩れているにも関わらず、アラン様は身を捻りながらバックブローで殴りつけて来たが、楊大眼殿は身を沈めて避けると、素早く距離を取り、立ち上がった。
その間に、アラン様も体勢を立て直し、お互いに構えを取った。
すると楊大眼殿はその太く長い足で、横回転しながら連続蹴りを上段、下段と振り分ける様に叩き込んでくる!
アラン様は、上段をスゥエーで躱し下段は足を浮かす形で躱す、しかし突然スピードのギアを3倍に上げて中断に前蹴りを放たれ、アラン様の腹部に突き刺さる。
アラン様は、辛うじて腕で防御したが、そのまま後方5メートル吹き飛ばされた。
《あのアラン様を蹴り飛ばすとは?!》
と帝国軍人全員が驚愕したが、アラン様は明らかに喜悦の笑みを顔に刻ませ、楊大眼殿の懐に瞬間移動の様な速度で飛び込むと、凄まじい連打のコンビネーションで拳打を叩き込んだ!
堪らず亀の様に防御に徹する楊大眼殿を見て、崑崙皇国の軍人達は、「オオッ?!」と驚愕する。
恐らく今まで楊大眼殿が防御するすがたなど想像もしたことが無かったのだろう。
暫く、アラン様の連打に為すすべが無いかと思えた楊大眼殿が、瞬間縮こまった様に小さくなったと思えた次の瞬間、楊大眼が爆発的に一気に膨れ上がった!
それは楊大眼殿の全身から放たれた発勁であった。
その発勁が諸にアラン様の全身を叩き、アラン様がまたも吹き飛ばされる!
だが先程と違い楊大眼殿が今度は、颶風の様に突進し大振りの右フックが、アラン様の顔面目指し叩き込まれた!
何とかアラン様は左の腕を差し込む様な形で防御するが、ピンポン球の様に右横方向に飛ぶ。
楊大眼殿は容赦なく、左脚での下からの蹴り上げを放つ!
その左脚での下からの蹴り上げの脚に、アラン様は両手を乗せて逆立ちする様になると、そのまま腕を曲げてから一気に伸ばし空中に跳び、縦回転して踵を楊大眼殿の後頭部にぶち込んだ!
「グウウッ!」
と楊大眼殿が始めて呻き、たたらを踏むと、くるりと振り返りアラン様と向き合った。
アラン様も着地するとくるりと振り返り楊大眼殿と向き合う。
「「吩!」」
と両者共に同じ体勢で、両手をそのまま突き出す!
「バンッ!」
と双方の中間地点で何かが衝突した音がした。
続けざまに同様な音が同じ場所で起こったが、最後も鏡合わせの様な動きなのに、楊大眼殿は左真横に頭を殴られた様に揺らす。
《鬼勁か!》
自分も出来る技である発勁のアレンジ技が、楊大眼殿に見事ヒットした様だ。
チャンス!と判断されたアラン様が、楊大眼殿の懐に入り肘打ちを鳩尾に叩き込み、ヨタヨタと楊大眼殿が後ろに後退ると、胴回し回転蹴りをアラン様が楊大眼殿の腹部にぶち込んだ!
しかし、その蹴りに行った足を楊大眼殿は抱え込み、そのまま一気に折りに掛かる。
右足を抱え込まれたまま、アラン様は左脚で楊大眼殿の顔面に蹴り込み、右足を楊大眼殿の両腕から引き抜くと、密着したままアラン様は背中を楊大眼殿前面に合わせ、ある技が楊大眼殿に叩き込んだ!
《鉄山靠!》
フラフラとよろけた楊大眼殿は、体勢の整わないまま無理矢理の大振り右ストレートが、アラン様の顔目掛け放たれた!
そのあまりの無造作な右ストレートを、アラン様はスウェーで躱し身体を後方に反らせる。
其の腕を下からアラン様は右手で手首を左手で肘の辺りを掴む。
と、アラン様の両足が地面を蹴り、腰が楊大眼殿の右脇に潜り込み左足が後方から楊大眼殿の首に巻き付き、同時に跳ね上がった右足の膝が楊大眼殿の顔を真下から襲う。
「ゴッ!」と云う鈍い音が響き、縺れる様に両者の体が地面に落ちてゆき、落ちながらアラン様は楊大眼殿の右腕を抱え右に身体を捻る。
「グギッ!」と又も鈍い音が響き、楊大眼殿の右腕を折りながらアラン様は左足の脛を楊大眼殿の首に掛け顔面から地面に叩きつけた。
《こ、虎王・・・!》
あのミツルギ殿との対戦以来の奥義が炸裂したのだが、信じられない事に楊大眼殿は折れた筈の右腕を振り回し、アラン様を引き剥がしてしまう。
《なんて奴だ!》
あのミツルギ殿ですら、悶絶するしか無かった『虎王』を喰らって尚、楊大眼殿は右腕を犠牲にして立って居るのだ。
その姿にアラン様は、口の端に血の跡を残しながら、笑って言った。
「大したものだ、この俺の本気の攻撃に此処まで耐えきるとはな。
だがこのまま長々と試合を続ける訳にはいかない!
今から俺の奥義の一つを見せる。
この攻撃に耐えて見せろ!
そうすれば、この勝負はお前の勝ちだ!」
との宣言に、口の端に血の跡を残しながら楊大眼殿も大きく頷いた。
「今から俺の放つ奥義の名は『落鳳崩』!
見極めて受けとめろ!」
「・・・嗚呼、受け止めて見せよう!」
と双方が応答し、アラン様がダランと両腕を垂らした。
するといきなりアラン様の両腕が消えた?!
楊大眼殿も戸惑われた様だが、近付いて来るアラン様に段々と恐怖を感じ始めた様で、青褪めながら左の順突きを繰り出した。
が、その手がアラン様に突き出された筈なのに、空を切る。
「?!」
との意味が判らない様な反応をして前蹴りを放つと、またも空を切る。
「ヌウウウウウーーーーッ!」
と吠えて踵落としを仕掛けて来たが、全く別の所に蹴り落とされた。
どうしようも無くなったのか、楊大眼殿は顔色を更に悪くしながらアラン様から遠ざかろうとするが、アラン様の目がギラリと輝き、一気に楊大眼殿に近づき掬い上げる様に楊大眼殿を空中に跳ね上げた!
その空中で、不規則に楊大眼殿は跳ね回る、その間もアラン様の両腕は消えているが、微かに残像で超高速で動いているのが辛うじて見て取れた。
巨体の楊大眼殿が空中でお手玉の様に、自由自在に振り回される姿を見て、悪夢を見ている様に崑崙皇国の軍人達が青褪める中、
「ハッ!」
とアラン様が掛け声を上げると、15メートル程の高さに楊大眼殿を跳ね上げ、ご自身も跳び上がった!
そして意識を失っていると思われる楊大眼殿に組み付き、まるで鳳凰が翼を広げる様に手を大きく広げさせて、逆さ状態に地上の舞台に叩きつけた!
「ズガアアアン!」
との地響きが上がる程の衝撃音が鳴り響き、仰向けに楊大眼殿は倒れてしまった。
「グワワワワーーーーーーーン!!」
勝負が着いた合図の銅鑼が鳴らされ、アラン様の勝利が確定した。
落命したのでは無いか?と思われる程の技だったので、直ちに救護隊が生死確認をしたが、呼吸と心音が確認されて楊大眼殿の無事が確認されたので、此の場にいる全ての者がホッと息をついた。
そして最初は、帝国軍人の拍手に始まり、やがては此の場にいる全ての者が、割れんばかりの歓声と拍手を上げてアラン様の勝利を祝いだ。
この瞬間、公式記録としてアラン様は、異国人ながら崑崙皇国の歴史上最強の武人として、崑崙皇国の正式史書に綴られる事になったのである。