人類銀河帝国 コリント朝 功臣列伝資料 「サテライト8班リーダー ケニーの日記」(航宙軍士官、冒険者になる異伝) 作:ミスター仙人
8月15日(コリント朝元年)
若僧の奴、何時の間にかトカレフを始めとした若手達を騙して、高等部の学校に夜間教育を申請させやがった。
トカレフ達は、就業時間中の一杯一杯の作業で疲れてやがるから、夜はゆっくりと寝させてやろうと云う俺の温情なのに、若僧が高等部の教育が如何に素晴らしく、折角帝都コリントで恵まれた環境に居るのだから、少し無理をしてでも学ぶべきだと、焚き付けたらしい。
お陰でトカレフ達どころか、バイク工場の責任者であるハインツ達まで、夜間教育に参加したいと申請して来やがった。
着々と若僧は、己のシンパを増やして行き、俺のテリトリーを侵し始めてくる。
然も若僧は、俺と違って同世代の強みで、休日は例の『南国ドーム』に全員を誘い楽しく青春を味わってやがる。
それだけなら別に、休日に遊ぶ事を禁じてる訳じゃねえから、自由にすれば良いと思うが、若僧の奴はとんでもねえ事に、娘のカレンを始めその女友だちやサーシャさんやエレナさん等の女子会メンバーや、信じられねえ事に、賢聖モーガン殿まで参加させて遊んだと云う話だ。
なんて節操のねえ野郎だ、娘だけでは無く他の女子にまで粉をかけて居るんじゃねえだろうな?
8月20日(コリント朝元年)
此の日、娘と妻に強引に誘われて、帝国の学校の生徒と『魔法大国マージナル』の『魔法学校』の生徒による、魔法競技会が開催されたので、無理矢理観覧させられた。
始まると案の定前半の競技で、帝国の学校の生徒の方が、あらゆる魔法競技で、『魔法学校』の生徒を圧倒していったぜ。
そりゃあそうだ、最先端の魔法習得技術を学んでいる帝国の学校の生徒が、古くせえ魔導書に頼った『魔法学校』の生徒に負ける筈がねえ!
そんな風に溜飲を下げていたら、後半の競技から若僧が参加して来やがった。
若僧は、前半戦の魔法競技で負けた原因を魔法発動スピードの差が大きいと説明し、後半戦の『陣取り合戦』と『棒倒し合戦』では魔法発動スピードで勝負せずに、ひたすら硬化魔法と土魔法による防御に徹せさせて、帝国の学校の生徒が、集中力を欠いて来たら得意の浮遊魔法を少し利用して『陣取り合戦』では味方の生徒の跳躍力をまさせて旗を取らせ、『棒倒し合戦』では味方の生徒数人を浮かせて棒に体重を掛けさせて棒を倒させた。
なんて汚え若僧だろう!
本当はもっと簡単に、自分一人で勝ててた筈なのに、ワザと自分は表に出ずに後方支援をする事で、全員の協力で勝てたと演出しやがったんだ!
見る目の有る人間なら若僧が、裏方に徹して前半戦2敗、後半戦2勝にしてイーブンにする事で、どちらの面子も潰さずに、双方の面目を保つ為に良い落とし所にしたと判っただろうな。
その事に気付いてやがるんだろうな、魔法競技会が無事終わったら直ぐに、娘のカレンが若僧に近寄り市販の『魔力充填ドリンク』(カーラ印)をプレゼントして、二人で楽しそうにしてやがる。
最近娘のカレンが、大人びた言葉使いをし始めたから、気になって娘の部屋の机に置きっ放しだった日記帳を確認してみたんだよ。
日記帳の始めの頃は、かなり幼い表現が多かったんだが、最近は息子のケニーの影響か女子会とかで自分より年上と接する機会が多い所為か、子供らしく無い表現が多くなってやがった。
幸い、若僧の事を特別表現している様な箇所は無かったが、若僧と行動した時は必ず若僧への感想が書かれている事は気になったな。
9月1日(コリント朝元年)
娘が『学校』の高等部に進級したぜ。
いよいよ帝国の高等教育を学ぶ事になるんだが、実はこの高等教育って奴が物凄え!
俺が統括している港湾施設にも、7月に卒業して8月から働きだした奴等が幾人か居るんだが、何と艦船の設計図を見せてみると、アッサリと構造計算の不備と矛盾点を指摘して来やがった。
実はワザとミスった設計図を見せて、気付くかどうかの試験を仕掛けてみてたんだが、こんなに簡単に見抜いた上に訂正して来るとは、想定外だぜ。
こうなってくると、若僧が扇動して今日から夜間での高等部に入学し、帝国の高等教育を学ぶ事になるトカレフを始めとした若手達は、正しい方向に向かってるのかも知れねえな。
しかし、今日の入学式では折角、中等部を首席で卒業したから総代挨拶をした娘なのに、その直ぐ後に『魔法大国マージナル』の『魔法学校』からの留学生代表として挨拶した若僧の方が、来賓の拍手が大きかった様な気がするぜ。
気の所為じゃない証拠に、娘のカレンと俺の隣に座っている妻が誰よりも強い拍手を上げていやがる。
妻に「拍手が強すぎるぜ!」と言って窘めたら、「娘の総代挨拶を親が喜ばなければ誰が喜ぶんの?」と返されちまった。
ああ、妻は娘の総代挨拶と若僧の留学生代表挨拶を、一緒の物として拍手をしてたのか、と納得出来たが。
娘の拍手は別の意味が有る様な気がして落ち着かないぜ。
普通自分が直前に総代挨拶をしているのに、直後の留学生代表挨拶をあんなに褒めるのは、可笑しくねえかな?
と妻の反対側に座っている同じ来賓席のタルスさんと奥さんのラナさんは、二人して満足そうにひたすら頷いてる。
余程お二人の娘のタラちゃんが、高等部に進級した事に、喜んでいるんだろうな。
俺も、若僧の事がなければもっと喜べるんだけどなと、密かに溜め息を付いちまった。