人類銀河帝国 コリント朝 功臣列伝資料 「サテライト8班リーダー ケニーの日記」(航宙軍士官、冒険者になる異伝) 作:ミスター仙人
10月1日(コリント朝元年)
何度も実験を繰り返して、現状最高の武器と武具が出来上がった。
『拳王ダルマ』殿の武具は、何と脚を覆う形の脚甲(レッグ・ウオーマー)で銘は『風炎脚』。
その名の通りに、風のスピードと炎の攻撃を持つ、武具で有る。
此の武具は、従来の武具では不可能であった衝撃吸収と、その時に吸収した衝撃のエネルギーを魔力に転化して、様々な用途に切り替えられる新機軸の能力を盛り込んでいて、何れは帝国軍のあらゆる装備に使用出来るように、是非実戦データを貰いたいと思っている。
この新機軸の能力は、若僧が賢聖モーガン殿と独自に研究してたらしく、感心しちまったぜ。
『剣王カイエン』殿の武器は、長刀にしても長く抜刀術には適さないが、非常に綺麗な刀身を誇り銘は『蛍丸』。
その美しい刀身を活かした幻術の技が真骨頂で有るが、当然此れにも新機軸の能力を盛り込んでいる。
幻術という魔法は、帝国軍には魔法カリキュラムとしても一切存在せず、『魔法大国マージナル』でも昔の資料には有るのだが、賢聖モーガン殿も存在は知ってはいるが使えないそうだ。
そんなその名の通りに、幻の魔法技術を若僧はその信じられねえくらいの頭脳で、粗方復活させちまって、この『蛍丸』にも一部能力付与しちまった。
実際、その能力を発動させると、名前の通りに蛍の様な光りが辺りを怪しく舞い始め、夢幻の様な幻想の世界が辺りを包み込んだ。
いきなり、こんな世界に放り込まれたら、どんな達人でも混乱しちまうだろうから、如何に幻術が恐ろしい魔法技術か判るってもんだ。
この二つの武器と武具を完成させた祝に、工場近くの懇意の居酒屋で打ち上げをする事にしてたんだが、何故か工場の大食堂でする事になった。
今回の『拳王ダルマ』殿と『剣王カイエン』殿の専用武器を製作するに辺り、イリリカ王国の若手技術者と『魔法大国マージナル』からの留学生達が、若僧主導で良い働きをしてくれたから、コイツ等への労いも兼ねてるから結構な人数になっちまい、結局工場の大食堂しか入り切らないんだからしょうがねえ。
改めて、協力者の全員に労いを込めた訓示を垂れてやって、乾杯した。
俺は当然酒だが、若僧始め学生達はジュースやノンアルコールのシャンパンだ。
学生連中は、音に聞く『拳王ダルマ』殿と『剣王カイエン』殿の専用武器を製作する事が出来たと云う事実に、余程誇りを感じていたのか、熱のこもった称え合いをそこかしこで集まって、顔を真っ赤にして語り合っていやがる。
全く微笑ましい話しだぜ。
俺がこの学生連中と同じ年齢の頃は、そんな輝かしい未来なんぞ望めなくて、精々日々の暮らしの為に、ご近所の包丁や農機具の刃先を磨く仕事しか無くて、夢の中だけで何時か魔法剣を磨いてみてえと夢想してたもんだ。
そんな過去を思わず思い出し、目の前に繰り広げられる若者特有の夢を語り合う姿に、羨望の眼差しを向けちまった。
10月28日(コリント朝元年)
アラン様達、スラブ連邦を討伐に行っていた帝国軍艦隊が帰って来て、アラン様と息子のケニーは直ぐに自分の嫁さんに報告に行ったらしい。
らしいと云うのは、俺もアラン様と会えるから向かう予定だったのだが、早々に『拳王ダルマ』殿と『剣王カイエン』殿が工場にやって来て、己の専用武器と武具を受け取りに来て、その説明を俺と後から合流した若僧とする羽目になったからだ。
『拳王ダルマ』殿と『剣王カイエン』殿は、早速工場裏手に有る武器の練習場で、己の専用武器と武具の使い心地を確かめ始めた。
事前にお二人から要望された性能を凌駕している自負が有ったから、自信満々でいると、お二人も具合を確かめながら満足している様子だったが、若僧が合流して事態が一変しちまった。
高等部からそのままやって来たから、学生服のままで若僧はお二人に礼をして、早速専用武器と武具の説明を始め、突然、「落ち着いて慌てないように!」と注意を与えると、徐に目を閉じた。
すると、突然周りの景色が変わり、何だか殺風景な場所に放り出されちまった!
「此の空間はAR空間と言いまして、疑似投影空間と云う実際には存在しないのですが、イメージを伝えるのに非常に優れた場なので、今回使用させて頂きます!」
と若僧が説明して来て、『拳王ダルマ』殿と『剣王カイエン』殿に向かい、それぞれの専用武器と武具の最大能力を使用した実力をイメージとしてAR空間に投影して見せた。
そのイメージ内の能力は、先程の性能確認の練習とは格段のレベルで差が有り、例えば『拳王ダルマ』殿の『風炎脚』は、跳躍力にして凡そ2倍の高さで翔べて、蹴りの速さも凄まじいの一言に尽きた。
『剣王カイエン』殿の『蛍丸』は、幻術の発動スピードと蛍の様な光りが生み出す光景空間が、何と3倍に広がっていやがる。
お二人と俺が呆然としていると、突然AR空間とやらが解除され、元の空間に戻ると、若僧の奴が、
「さあ、今のイメージ通りにお試し下さい。
お二方の脳に、イメージ記憶として転写してますので、同様の事が可能です!」
と断言しやがった。
『拳王ダルマ』殿の『風炎脚』は、若干不安気に頷き試し始めた。
すると、先程のAR空間とやらで見せられた通りに、『拳王ダルマ』殿は2倍の高さで翔び上がり、そのまま凄まじい勢いで回転蹴りを空中で放って見せた。
『剣王カイエン』殿は、複数の巻藁を同時に抜き打ちに斬って見せると、幻術を簡単に展開して、何とその蛍の様な光体から光線を放ち、巻藁を貫かせた。
お二人も自分がしたと云うのに、信じられないといった様子で、己の専用武器と武具を見つめている。
「流石ですね。
私のイメージを更に越えた能力を見せてくれるとは、私も師匠のお手伝いが出来て、冥利に尽きます!」
といけしゃあしゃあと吐かしやがった。
全く便利な野郎だ、これからも扱き使ってやるから覚悟しやがれよ。