人類銀河帝国 コリント朝 功臣列伝資料 「サテライト8班リーダー ケニーの日記」(航宙軍士官、冒険者になる異伝)    作:ミスター仙人

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5月の日記④(人類銀河帝国 コリント朝2年)《『ロビン・フッド』と云う男》

 5月25日(人類銀河帝国 コリント朝2年)

 

 突然の雄叫びが起こり、”コロシアム”での飛び入り参加申請の受付所で騒ぎが起こった事が判った。

 どうやら、30人からなる集団が一悶着起こしてる様だ。

 

 「俺達は、ザイリンク帝国で由緒正しい『傲岸不遜流』の師範とその門弟だ!

 何故、著名な流派所属の我等が、予選参加しなければならないのだ!

 当然、『傲岸不遜流』の為にシード枠を提供するのが筋であろう。

 責任者を呼び出せ!」

 

 と何やら妙な連中が因縁を付けて来たようだ。

 そもそもこの『世界武道大会』ではシード枠なぞ存在せず、西方教会圏で知らぬ者の居ない、『神拳流』と『神剣流』の免許皆伝者であろうと、各地方での予選を勝ち抜いて選手として出場が決まっている。

 大体、『傲岸不遜流』などといった流派は聞いた事が無い。

 差詰、この『世界武道大会』に出場して有名になり、門下生を増やそうと画策して、無理矢理予選を戦わずに済ませようとの魂胆なのだろう。

 見かねて自分が取り押さえようと一歩を踏み出すと、間延びした声が聞こえてきた。

 

 「ここが、『世界武道大会』とか云う大会の会場かね?

 予選とやらに出場してえんで、案内してくんろ!」

 

 との声に振り向くと、其処にはノンビリとした顔をした男が佇んでいる!

 

 《馬、馬鹿な?!》

 

 『ナノム玉2』を服用して以来、自分の『探知魔法』の精度と気配に対する感度は、帝国軍内でも上位に位置するとの自負が有ったのに、至近距離に近づくまで一切気づかずに背後を取られたのだ!

 

 《何者?》

 

 思わず地面を蹴ってトンボを切り、コリント流の構えの基礎の一つ『前羽の構え』を取る。

 

 「そげに、警戒せんでも良か。

 おいは、驚かせる事が多いんじゃ、やけん気配を殺すのに慣れちもす」

 

 と、かなりキツい方言で語り掛けて来たので、改めてその声の主である男を見つめた。

 

 《何故だ!こんなに容易に近づけた!》

 

 自分は構えこそ解いたが、心理的な警戒は解かずに、この男に近づき飛び入り参加申請の受付所に案内した。

 その間に、突然の男の出現に虚を突かれた『傲岸不遜流』の30人からなる集団も、ブチブチと文句を言いながらも、飛び入り参加申請を出していた。

 自分は、この男の事が気になり、男が参加申請を出し終わってから、是非自分に同行して貰いたいと頼み、了承を貰ったので自分達の泊まっているホテルに連れて行った。

 男は、どうやら荷物を詰めているらしいズタ袋を肩に担いで自分に付いて来てくれた。

 暫く歩いてホテルに着いて部屋を都合して貰って、腹が減っていると言われたので、ホテルのレストランに連れて行き、好きなだけ食べて良いと話すと、男は目を輝かせて喜びレストランのメニューを幾つか注文して行く。

 

 2人分程食べ終えて、一息ついた男に自身の生い立ちと『世界武道大会』に参加したい動機を聞いてみた。

 

 「おいは、ここより南部の辺境のジャングルで代々猟師をしとった一族でごわす。

 獲物は基本的に、鹿や猪そして熊を獲っていたでごんすが、最近は獲物の数がめっきり少なくなって来たでごわんで、仕方無く奥地に入りオークやヘルハウンドそしてオーガを駆除して、採れた魔石を近場の街に出向いて、冒険者ギルドに売ったでごわす。

 その売って得た金で、一族が欲しがっている品を買おうと、街の雑貨屋に向かって行く途中で、モニターなる珍しい魔道具に人が群がっているのが見えたでごわす。

 何とも不思議なその魔道具を暫く眺めていると、近々『世界武道大会』なる催し物が有ると宣伝していたでごわす。

 然も、その『世界武道大会』では、各部門の1位から5位まで賞金が出て、更にオブザーバーで参加する拳王と剣王に挑戦する権利まで貰えて、もしその拳王と剣王に良い勝負を納めれば、総合優勝者として1億ギニーを貰えると書いていたでごわす。

 こいは、滅多に無いチャンスと思い、一族の長老に許可を願いでち、走ってこのザイリンク帝国の帝都までやって来たでごわす」

 

 と男は話してくれた。

 どうやらこの男の住む田舎は、未だにザイリンク帝国が滅んで、人類銀河帝国に併合された事実も把握して居らず、現在インフラ整備が進んで街同士の行き来も、トレーラーを改装したバスが使用されていて、この『世界武道大会』に参加希望者は、無料で利用出来る事も知らなかった様だ。

 そして先程の気配を断つ技術を尋ねると、猟師として獲物を狩る際に周りの木々や草花に気配を同化させる、一族特有の技術だと判った。

 成る程、世に知られていない技術は此の様に人知れず埋没しているのか!と感心しながら話しを聞いていると、どうやら食事に満足した男が、金を払おうと言い出したので、手を振って押し留めた。

 

 「嗚呼、気にしないで良いよ、このホテルは我々帝国が借り上げているので、全ての飲食は経費として精算されるし、君の技術の話しを聞けただけでも充分な収穫だったよ。

 それに、『世界武道大会』が終わるまでの滞在費と飲食代金は帝国が持つから、遠慮しないでくれ」

 

 と喋って漸く傍っと気付いて、男の名前を聞いてみた。

 

 「こいは、失礼でごわした。

 おいの名前は、『ロビン・フッド』と言うでごんす、これから『世界武道大会』が終わるまで、世話になりもんど!」

 

 と男は、快活そうな笑いを顔に浮かべてくれた。

 


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