人類銀河帝国 コリント朝 功臣列伝資料 「サテライト8班リーダー ケニーの日記」(航宙軍士官、冒険者になる異伝)    作:ミスター仙人

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6月の日記⑤(人類銀河帝国 コリント朝2年)《『弓矢等遠距離部門』①》

 6月5日①(人類銀河帝国 コリント朝2年)

 

 昨日は、あの後3位決定戦も行われて、結局3位は蘭陵王で4位はマルコとなった。

 此等の成績への労いと敢闘を祝う優勝祝賀と、2位以下にもメダル(金・銀・銅・白)が与えられ、大会が終わり次第賞金の授与が行われる事が発表された。

 そして本日は、『弓矢等遠距離部門』の決勝戦が行われる。

 各地方の予選と、先日の飛び込み申請を経て選抜された20名が争い、成績上位者4名が準決勝を行い決勝戦で優勝を決める事となる。

 行う競技内容は、『クレー射撃』。

 左右と中央からのクレー(素焼きの円盤)がランダムに打ち出せれるので、それを射抜くか壊す事で点数が点く。

 

 殆どの者が、弓矢で出場しているが、一人のまたも肌の黒い男が何やら円形の武器で挑むらしい。

 モニターで紹介された資料によると、『戦輪』(チャクラム)という武器らしく、円盤の中央に指を入れて回しながら投擲するか、円盤を指で挟み投擲する武器だそうだ。

 中々変わった武器だと感心していたが、いざ競技が始まってその使い方を見ると、侮れないと認識を変えられた。

 その軌道が従来の遠距離武器である弓矢と異なり過ぎるのだ!

 投擲の仕方も変わっているが、一度として真っ直ぐに飛ばずに、常に楕円軌道を取って元の所有者に帰って来るのだ。

 此れは厄介だ。

 つまり『戦輪』(チャクラム)が壊れるか、得物に突き刺さったままで無い限り、何度でも同じ武器で攻撃される羽目になるので、単独同士の戦いでは、遠距離近距離での立体攻撃を警戒しなければならず、新しい教本が必要となると、軍人としての対策を考えてしまった。

 

 そうこうしている内に、成績上位者が決定した。

 案の定、選出されたのは。『岳飛』殿、『霍去病』殿、『ロビン・フッド』殿と『カッサバ』殿(『戦輪』使い)。

 この4人が準決勝を行う事になった。

 

 暫くの休憩の後、”コロシアム”の能力の一つで有る戦場変更が行われて、舞台が無くなり観客も2階席の防御バリアーがされた安全な席のみとなり、一階席は全て突起物だらけの障害物フィールド(戦場)となった。

 つまり、出場者は障害物を利用して、相手を欺きつつ攻撃するという特異な環境で戦うのだ。

 

 そして1回目の準決勝戦が始める。

 て1回目の準決勝戦は、『岳飛』殿VS『カッサバ』殿で両者が障害物フィールドの両端に姿を現す。

 

 「ドオオオオオオオーーーーーン!」

 

 開始の太鼓が叩かれて、空気が震動する中、試合が開始された。

 すると両者は直ぐ様に、自分の有利なポジションを取るべく突起物を背に、障害に成らない場所取りを探索している。

 この準決勝戦からは、観客と試合場の音とモニター観戦は遮断されていて、選手は己の感覚でしか相手を捕捉出来ない様になっている。

 観客は、2階以上の高さとモニターの状況説明で、選手の状態が把握出来ているので、落ち着いて観察出来ているが、当の本人達はどうやら双方共に1流な所為で、相手の居場所を把握出来ずに中々焦っている様だ。

 その状況に『カッサバ』殿は耐えられなくなったらしく、持っている『戦輪』の幾つかを、囮と牽制の為に投げる!

 恐らくは偶然であろうが、その1枚が『岳飛』殿が潜む突起物を破壊したので、『岳飛』殿は素早く身を翻す。

 しかし、チャンスと見た『カッサバ』殿は、残りの『戦輪』を1枚残して全て投げて来た!

 上下左右から迫る『戦輪』を、『岳飛』殿は持っていた弓を使い、棒高跳びの要領で跳躍した!

 

 「オオッ!」

 

 選手にこそ届かないが、『岳飛』殿のそのまるで芸術の様な美しく飛翔する姿は、観客全てを魅了し溜め息をつかせた。

 そして空中から、見事な身体能力で身を捻って矢をつがえると、『岳飛』殿は素早く放った!

 しかし、此れを読んで残していた『戦輪』で『カッサバ』殿は払うと、そのまま投擲しようと身構えた!

 だがその瞬間、審判が『岳飛』殿の勝利の裁定を下した!

 一瞬”コロシアム”全てが騒然となりかけたが、モニターに『カッサバ』殿の胸当てに刺さる1本の矢がクローズアップされたお陰で、納得いった観客の輪が広がり、鎮静していった。

 『カッサバ』殿も当初は気が付かなかった様だが、自分の胸当てに刺さっている矢を見て、驚愕しながらも納得して負けを認め、潔く会場から退場した。

 

 そして続く2回目の準決勝戦が始まる。

 『霍去病』殿VS『ロビン・フッド』殿の準決勝戦で有る。

 双方共に弓矢でのオーソドックススタイルだが、どちらも超一流の遣い手だけに、どの様な技が見れるか楽しみだ。

 

 「ドオオオオオオオーーーーーン!」

 

 という何時もの開始の太鼓が叩かれた。

 

 『霍去病』殿と『ロビン・フッド』殿は、一回目の準決勝戦と異なり、互いに居所を隠しもせずに積極的に矢を放ち、一見手数で相手を圧倒しようとしてる様に見えた。

 しかし、双方要所要所で障害物に見を潜めて矢の攻撃を躱し、障害物に刺さったままの矢を回収しながら攻撃するので、双方ともに矢弾が尽きず長期戦の様相を帯びてきた。

 だが、決着は誰もが予想しなかった形で迎える事になった。

 

 若干の停滞と云うより小休止の時間が流れて、『霍去病』殿は切り札と思われる、曲射の連続射撃を放った!

 しかし、確かに今までその場に居た筈の『ロビン・フッド』殿が、逃げ場も無く矢衾になったと誰もが幻視したタイミングで、忽然と『ロビン・フッド』殿が消えた?!

 

 「エッ?!」

 

 と会場に居た殆どの者が驚く。

 確かに消える前まで、『ロビン・フッド』殿はその場に居たと、観客も上からの俯瞰とモニター情報で把握していたのに、いきなり消えたのだ!

 一番混乱したのは、恐らく勝利を確信していた『霍去病』殿だろう。

 信じられない思いから、今の今まで居た筈の場所に走って確認に向かう。

 だが其処に有ったのは、人の大きさの障害物があるのみ。

 そして次の瞬間、僅かに2メートル離れた場所からの弓矢を受けて、呆気なく勝負が着いた。

 

 矢に射られるても信じられなかった様だった様で、審判に促されて『霍去病』殿は退場して行きながらも、しきりと首を傾げていた。

 実際、殆どの観客は、狐につままれた気分で、勝負が着いた事実に納得が行かず、そこかしこで皆騒然としている。

 だが、自分と幾人かの武道家は、その絡繰りとでも呼ぶべき、技術に気付いていた。

 まあ、自分の場合は初めて『ロビン・フッド』殿に会った時に教えられた、『隠形の術』で推測がついたのだが、殆どの人間にとっては怪しい手妻にしか感じられないだろうと思った。

 


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