人類銀河帝国 コリント朝 功臣列伝資料 「サテライト8班リーダー ケニーの日記」(航宙軍士官、冒険者になる異伝) 作:ミスター仙人
6月6日①(人類銀河帝国 コリント朝2年)
『近距離武器部門』の予選をくぐり抜けた20人が、決勝戦大会に臨む。
またそれとは別の決勝戦が進行している。
何と言っても、他の武器部門に比べても参加人数が多いし、帝国軍では無くても神剣流を学ぶ女性は多い。
なので此の部門だけは特別に女性だけの部門が有って、既にこの時点で4人の準決勝進出者が決まっていた。
その4人は、剣王『オウカ』殿、『花木蘭』殿、『エルナ』殿、『サリー』(ジャマダハル使い)の4人で有る。
その面子が発表されたタイミングで、アラン様家族と我らの居る所にミツルギ殿がやって来た。
腕の中に剣王『オウカ』殿との間の娘『サクラ』ちゃんを抱いている。
赤ちゃんズが、「キャー!」と一斉に奇声を上げて両手を広げて来たので、直ぐに赤ちゃんズが居るベビーコートにミツルギ殿が入れると、赤ちゃんズは全員ずり這いして近寄り、「キャッ、キャッ」と喜び合う様に手を握り合っている。
その姿に癒やされながら、ミツルギ殿に尋ねた。
「確か、ミツルギ殿は明日の決勝戦の為に、郊外の演習場で特訓する筈だっただろう?
あちらにも特設のモニターが有るので問題無いと、昨日の夕食時に言ってたじゃないか、何か事情があるのかな?」
と聞いてみると、
「いやあ~、俺はそのつもりだったんだが、娘の『サクラ』が朝に『オウカ』を見送る時に愚図り始めて、しょうがないから先程迄控え室で一緒に居たんだが、流石に決勝大会会場横に居てセコンドに着く訳にもいかないし、どうしたものかと悩んでいたら、テオとエラが気付いてくれてここに案内してくれたという訳さ」
と答えてくれて、後ろに目をやるとテオとエラが手を振っていた。
本当に良く気がつく子達だ、何れはこの二人がアポロニウス殿下達の側近になるだろうから、安心と云うものだ。
アラン様がミツルギ殿に席を勧めて、シュバルツ殿と自分の何時もの武道家座談会の面子になり、これからの男女『近距離武器部門』の決勝大会の予想で話題に花を咲かせた。
第一準決勝戦『オウカ』殿VS『サリー』と発表されて、両者が舞台に上がる。
「ドオオオオオオオーーーーーン!」
と開始の太鼓が叩かれて、空気が震動する中、試合が開始された。
『オウカ』殿は長剣、『サリー』はジャマダハルと云う珍しい武器を構える。
ジャマダハルは、切るよりも刺す(突く)ことに特化した形状を持つ武器である。その特徴は、通常の短剣の柄とは大きく異なったその握りにある。この握りは「H」型をしており、刀身とは垂直に、鍔とは平行になっており、手に持つと拳の先に刀身が来る様な造りになっている。従って、あたかも拳で殴りつけるように腕を真っ直ぐ突き出せば、それだけで相手を刺すことが出来る。そのため力を入れやすくなっており、他の短剣に比べて鎧を貫通しやすいとされる。
そのジャマダハルを右手に、丸い盾を左手に構え『サリー』は対戦相手の『オウカ』殿の様子を伺っている。
対する『オウカ』殿は、長剣を『八相の構え』で対峙している。
二人の間に緊張が満ち、観客席にもその緊張が伝わって静かになると、突然『サリー』が前につんのめるように体勢を崩すとそのまま前転した!
間合いが詰まった!
と思った瞬間!盾を前面に立てて下から『サリー』が『オウカ』殿に襲いかかる!
盾に隠れながらジャマダハルを突き上げる様に繰り出された『オウカ』殿は、そのジャマダハル目掛け八相の構えから長剣を振り降ろし、武器同士の金属音が「キィーーン!」と硬質な音を立てた!
そのまま『サリー』は、ジャマダハルを横に払い横面に付いている刀身で『オウカ』殿を薙ごうとしたが、『オウカ』殿はそれを長剣で弾く。
暫くその体勢での打ち合いを繰り返すが、体勢が不利とみたのか『サリー』は後天宙返りをして、一気に距離を取ろうとした。
だが、簡単に距離を取らせないと『オウカ』殿は、瞬速の詰め寄りで『サリー』に迫り上段から長剣を打ち下ろした!
慌てた『サリー』は盾で防ぐが、盾は『オウカ』殿の素早い打ち下ろしで、『サリー』の左手から弾き飛ばされた。
そのままゴロゴロと横に回転して距離を取り、起き上がった『サリー』はハアハアと息をつくと、ジャマダハルを持つ右手を突き出して、後のない構えを取った。
その覚悟の構えを見て『オウカ』殿は、『八相の構え』から更に長剣を高くとる『蜻蛉の構え』を取った!
つまり、双方完全な攻撃の構えを取り、一切の防御を捨てた事になる。
「「キエエエーーーーッ!」」
双方とても女性が上げる声と言い難い、叫び声を上げて突進した!
一瞬の交差!
だが直ぐに決着が着いた事が判る。
『サリー』がそのまま右腕を抱える様に俯せたのだ。
明らかにその右腕はダランと垂れているので、折るか脱臼しているのだろう。
審判が『オウカ』殿を勝者と判定し、直ぐに医療部隊に『サリー』を運ばせる。
その様子を見ていて、シュバルツ殿は、
「いやはや、オウカ先輩は相変わらず女性とは思えない程の豪剣だ!
嫁に貰い子供をもうけたミツルギには、感服するしかないな!」
と呆れた声を上げ、嘆息している。
その声を聞きながら、娘の『サクラ』を抱き上げて試合を終えた『オウカ』殿に、娘共々手を振っていたミツルギ殿は、
「まあ、そう言うな。
あれでも、母親として恥ずかしく無いように、家事と育児に頑張ろうと毎日四苦八苦しているんだぜ!
今回の『世界武道大会』は良い息抜きさ。
気晴らしも兼ねて、日頃の鬱憤ばらしが些か力を込めちまったのさ」
と笑いながら受け答えしたので、シュバルツ殿は肩をすくめて苦笑いしている。
確かに、剣王『オウカ』殿を御せる人間は、世界広しと言えど少ないと思えるので、ミツルギ殿に若い内に出会えて娘を授かれた『オウカ』殿は、運が良かったと他人事ながら思えた。