人類銀河帝国 コリント朝 功臣列伝資料 「サテライト8班リーダー ケニーの日記」(航宙軍士官、冒険者になる異伝) 作:ミスター仙人
6月7日②(人類銀河帝国 コリント朝2年)
2回目の準決勝戦が始まろうとしている。
拳王『ダルマ』殿とヘクトールが舞台に上がってきた。
「「「「「オオッ」」」」」
と会場がどよめく。
当然だろう、人類社会がモニター放送や帝国発の『新聞紙』や『雑誌』の発行により、色々な情報の繋がりが出来た昨今、大体の人間の身長・体重等の平均は判ってきて、それ程の他国との差は無いと周知されたいたのに、ヘクトールの身長は驚異以外の何物でも無い。
身長240センチメートル、体重150キログラム。
正に巨人と言って差し支えない巨体は、それだけで十分な脅威で、その太い腕と脚は、まるで丸太のようでこれが振り回されるだけで死人が出そうである。
それに対して、これまた太い手脚を持つダルマ殿は、素直な顔をしてそのヘクトールを見上げ、莞爾と微笑んでいる。
その微笑みは、どういう意味なのか判らずに首をかしげていると、準決勝を終えて愛する妻子に会いに来たミツルギ殿が、愉快そうに解説してくれた。
「なに、ダルマの奴は嬉しくて堪らないんだよ。
俺達のレベルとなると、あまり身体の大きさは関係無くて、それよりもスピードや技倆の差こそが問題となる。
勿論、双方が同レベルだと、当然リーチや重さは重要になるがな。
だがそれよりも、大きな相手に思いっきり己の磨いて来た技を叩き込めると思えると、想像しただけでワクワクしちまったんだろうよ!」
と自分もそうだと言わんばかりに、やや興奮しながら語ってくれた。
何とも救いようの無い程の武道馬鹿だと、嘆息してしまったが、若干自分にも近い願望が有る様な気がして憮然としてしまった。
「ドオオオオオオオーーーーーン!」
と開始の太鼓が叩かれて、空気が震動する中、試合が開始される。
ダルマ殿は神拳流『天地の構え』を取り受ける体勢になる。
其処へヘクトールは無造作に近づき、そのまま強烈な前蹴りを放つ!
しかし、その様な真正面な蹴りが通用するダルマ殿では無い!
その強烈な前蹴りを太い腕で脇に捌くと、その太い脚で横蹴りを放つ。
ヘクトールは自分の蹴りが捌かれて、尚且つ反撃の横蹴りが自身の脇腹に叩き込まれたので、驚いた様に怯んだ。
《成る程》
ここまでの流れで、大凡ヘクトールの今までが察せられた。
恐らくヘクトールは、その恵まれすぎた体格と身体能力で、全ての勝負に難なく勝っていたのだろう。
反撃を喰らった事など無かったに違い無い。
だが世の中は広く、強い者はゴロゴロ居る。
実際、対戦相手のダルマ殿は、ヘクトールよりも大きい妖怪の牛頭を崑崙での戦いで破っているし、時折帝都コリントに有る『魔の大樹海』に武者修行の為に出掛けて、体長5メートルになるオーガを倒してくるのだ。
如何にヘクトールが大きいと云っても、所詮は人間の域に過ぎず魔獣や魔物の上位種の大きさと強さに比べれば大した事は無い。
どうやら力では圧倒出来ないと分かったらしいヘクトールは、やや慎重になってダルマ殿の周囲を周り隙を伺い始めた。
しかし、当然ダルマ殿は一切の隙を見せずに天地の構えを崩さない。
その様子に業を煮やしたヘクトールは、低い姿勢からダッシュして右肩からのショルダータックルを仕掛けた。
ヘクトールの突進は大迫力で、観客もその迫力に感嘆したが、ダルマ殿は簡単にいなしてしまい、ヘクトールは進行方向を逸らされてたたらを踏んで5歩進んでから向き直ると、ダルマ殿の連打が襲いかかる。
右左上下、上段・中段・下段に叩き込まれる神拳流の連打は、恐らく武道を学んでいなかったヘクトールにとっては、捌き方が判らずにひたすら亀のように縮こまって耐え忍ぶしかなかった。
だがそのままでは、何れジリ貧になるのは自明の理なので、ヘクトールは強引に対処する為に、両腕を回転させ始めその丸太を思わせる腕を身体ごと大回転させた。
しかし、その太い腕目掛けてダルマ殿は飛びつき、そのまま引き込んだ形の腕がらみを仕掛ける!
「グワッ!」
とヘクトールは吠えると、そのまま三角絞めに縺れさせようと図るダルマ殿を、必死に振りほどき無理矢理な体勢ながら蹴りを放つ!
その蹴りに対して、ダルマ殿は同時に蹴りを放ち迎撃した。
「ゴッ!」
と重いものが激突し合う音が起こって、双方その反動で後方に下がり、程よい間合いが開く。
今まで待ちの構えに徹していたダルマ殿が、助走を付けて走り一気に間合いを詰めると、突然前転した!
その予想していなかったであろう動きに、ヘクトールは面食らいたたらを踏む。
そのヘクトールの戸惑いを一切無視して、ダルマ殿は技に入った!
「『逆倒結跏趺坐・旋風回転蹴り』!」
と大喝を発すると、凄まじい回転を始めてそのまま逆立ちしながら、回転蹴りを猛スピードで連打した!
堪らずヘクトールは、防御するがこんな猛打を受け止めきれる筈もなく、腹部・頸部・頭部・脚に満遍なく蹴りを喰らい、棒立ちのまま「バターン!」といっそ小気味よく倒れ伏した。
審判が直ちに舞台に上がり、ヘクトールの様子を伺い確認を終えると、ダルマ殿の勝利を宣した。
つまり、これで去年と同じ人物同士での決勝戦が行われる事が、決定したのである。