人類銀河帝国 コリント朝 功臣列伝資料 「サテライト8班リーダー ケニーの日記」(航宙軍士官、冒険者になる異伝) 作:ミスター仙人
6月8日(人類銀河帝国 コリント朝2年)
昨日の『徒手空拳部門』の結果を以って第二回『世界武道大会』は終わり、その後それぞれの分野と部門の成績優秀者を称賛する閉会式が行われ、そのまま閉会式に参列した面々と華族・貴族・王族等の方々を連れて迎賓館でのパーティーが盛大に開催された。
然も、清掃が行われた”コロシアム”とその周辺を会場とした、『世界武道大会』後夜祭が行われ、大会予選から出場した面々始め、物見遊山で来訪した人々も全食事と全飲料・酒類の無料が伝えられ、観客や露天販売をしていた人々も挙って参加してくれた。
そして昨年行われた、裏の『世界武道大会』は、今回は非常に少ない面々で行われ、数試合だけしたらしい。
したらしい、と云うのは自分は参加せずに家族と迎賓館でのパーティーに参加し、アラン様も参加しなかったので、そもそも参加した面々も判らない。
まあ、血の気が多い奴らが羽目を外した程度の話しだろう。
本日は朝から、帝国軍では入隊希望者の登録で忙しい。
何せ、飛び込みで参加した者や、観客しただけの者まで、尚武の気風強い帝国軍に入隊したがっているのだ。
仕方が無い話しかもしれないなと、半ば諦めた気分で3万人と云う人の波を眼下に、ホテルのモーニング・ティーをゆっくりと飲む。
何と言っても、前回と今回も結局優勝者と成績優秀者の殆どが帝国軍関係者で、それ以外の認められた面々が親衛隊に加わっている事実が有る。
そして、大会前から半ば公然の事実として、大規模な帝国軍公募と大会出場者の優先入隊(これは若干事実と異なる)が噂となっていたからだ。
ただ、本当に大会成績優秀者のスカウトは事実で、実は自分が懇意にしていた『ロビン・フッド』殿には昨日の内に話しをして、了解を貰っていた。
他にも、拳王『ダルマ』殿がヘクトールをスカウトしたそうだ。
何でも、素質が素晴らしいのに、まるで基礎が出来ていないので帝国に連れ帰って鍛えてみたいそうである。
恐らく、自分の師匠の拳聖と共に扱くつもりだろう。
6月11日(人類銀河帝国 コリント朝2年)
この日に、アラン様御家族と帝国の首脳陣、そして帝都コリントに向かう上流華族の方々が、例の『飛空船』で帝国に帰還する。
この便には、赤ちゃんズとその両親全員が搭乗していて、相棒の星猫と護衛の親衛隊が周りの席に座り、万全の護衛体制だ。
少し離れた窓際に座って雲の上から下界を見下ろしていると、1年前はドラゴンのガイに搭乗して戦っていたのに、今では空軍の責任者と超大型空母『グラーフ・ツェッペリン』の艦長を兼任している所為で、すっかり空の上での戦いに駆り出されなくなっている身の上だ。
久し振りに見る下界は、空での戦いを懐かしむ自分を気が付かせてしまった。
何とも言えない気分を味わっている自分に、隣席のテオが声を掛けてきた。
「・・・ケリー空軍大佐は何で『世界武道大会』に出場しなかったんですか?
ミーシャさんや他の女子会メンバーとアラン様から、ケリー空軍大佐の武術の腕前は、帝国でも屈指で拳王・剣王に次ぐ実力だと聞いていますよ。
是非その実力が見たかったですよ!」
とやや不思議そうな顔で、テオは疑問符を頭に浮かべている感じで聞いて来た。
それに対して、
「簡単な理由だよ。
先ず、自分は軍人であって武道家では無い!
確かに武術は好きだし、己を鍛える事や精神修養に非常に向いているから、今後も続けて行きたい。
しかし、それはあくまでも人と争う為では無くて、己との戦いと思っているよ」
と答えてやった。
テオは、判ったような判らないような顔をして黙ったが、その横に座るエラは心底納得したらしく。
「そうですよね!
私もクレリア様とアポロニウス殿下の為ならば、身命を賭して戦いますが。
それは必要に差し迫っての事で、日頃から争いの手段とは考えていませんし、己を磨く手段として最適として、習得しています!」
と、とても10歳に届くかどうか?と云う年齢の子供としては信じられない受け答えに、驚いてしまう。
昔の『クラン・シャイニングスター』の本拠地での食堂で、危なっかしい感じで自分達の元に、冷えたエールを運んでいた可愛い給仕役の姿はそこに無く、将来の女官長にして親衛隊団長を目指す目標を見据えた一人の少女の姿であった。
今回の『世界武道大会』の模範演技、そして学校での素晴らしい学習成績とを合わせると、それが決して叶わない夢では無い事が伺える。
テオは、エラに比べればやや単純にアラン様とクレリア様、更にアポロニウス殿下の為に武官への道を選択している様で、かなり学業の方はおざなりになっているのでは無かろうか、これからの武官は武術一辺倒では務まらなくて、自分も日々更新され続ける帝国の新技術や、帝国に併合されたり同盟を結ぶ各国の情報を精査する為に、必死に学習しているのだ。
実際、最近『士官学校』出身の新人の空軍軍人は、頭脳の面では素晴らしく優秀で、事務手続き全般を新人なのに任せているのが実情で有る。
何れは軍人そのものが、軍務畑と実戦畑に二極化するかも知れないなと、テオとエラを見ていて考えた。