人類銀河帝国 コリント朝 功臣列伝資料 「サテライト8班リーダー ケニーの日記」(航宙軍士官、冒険者になる異伝) 作:ミスター仙人
7月16日(人類銀河帝国 コリント朝2年)
昨日の『伊勢神宮』での諸々の出会いと行動指針を託されて、我々は車両5台での旅を続け夕刻に『蓬莱山』の麓に辿り着いた。
説明を受けていたが、実に美しい霊峰だ。
左右均等に稜線を描き、周りに比肩する山々は一切無く、頂上にかかる雲は薄く棚引いている。
正に『日の本諸島』を代表する霊峰で、魔物の件が無ければ拝みたい程だ。
我々一行は、麓の『駿河』という所で大和朝廷が用意した宿舎に向かった。
その宿舎に着いて一歩玄関を潜った瞬間、背筋が凍る。
体長5メートル程の白い蛇が、10メートルくらい離れた庭先で、此方を伺っていたのだ。
事前に此奴こそは例の魔物の使い魔であると、説明を受けていなければモンスターとして攻撃していたかも知れない。
極力、白い蛇を見ない様にして宿舎に入ると、宿舎に有る『温泉』に入って旅の疲れを落として、夕食を全員で摂ったが、殆ど会話せずに早々と就寝した。
その間、どうも冷たい視線を常に感じていたが、恐らく気の所為では無いだろう。
7月17日①(人類銀河帝国 コリント朝2年)
早朝から最近は習慣の様にやらされている沐浴と、精進料理を食し白い服を着せられた。
そして我々一行は、予定通りに車両に全員乗って『蓬莱山』へ向かう。
そして山門らしき鳥居に着くと、いきなり雰囲気が変わった。
まるで空気そのものが変質した様で、粘つき絡め取る様な重く冷たい空気だ。
車両から出て歩き始めた我々一行は、この非常に不快な空気の層を泳ぐように階段を登る。
時折、階段脇に白い蛇が姿を現し、睨めつける様な視線を我々一行に向ける。
敢えてそれを気にせず、目的地である『蓬莱山』の龍穴の有る社に向かう。
やがて信じられない程の瘴気を放つ社が見えて来た。
この頃には周り全てが白い蛇に囲まれていて、足の踏み場も無い程である。
蛇が居ない一筋の道を進み、やがて巨大な穴を囲む形で作られた建造物が見えてきて、一際高い壇上が見えて来た。
予め説明を受けていたアラン様が、淀みなく歩を進め壇上の階段を登った。
暫くすると、龍穴から一段と凄まじい瘴気が立ち上った!
自分とカトウそしてお付きの武者である源頼光と、その配下の方々も顔を顰めている中、欠片も驚かずにアラン様はその瘴気を見つめている。
1分程経っただろうか、龍穴からゆっくりと巨大な蛇の頭が鎌首をもたげて出てきた。
但し、その姿は半透明で恐らくは『霊体』だと推測される代物だ。
やがて、その『霊体』は我々一行を見渡すと、アラン様に向けて人間の言葉を話し始めた。
「貴様が、大陸の覇者か?
何ともちっぽけで小虫の様な生き物だな、とてもあの『蚩尤』が敗れたとは信じられぬ!
大方、あの忌々しい『魔法大国マージナル』に巣食うドラゴンと、奴に協力する錬金術師達、そして我等の不倶戴天の敵である『調整者』の遺物ででも使ったのであろう。
真に忌々しい事よ!
まあ良い、此れより貴様は我に大陸の覇権を譲り、貴様の持つ『調整者』の遺物、大陸に存在する龍脈とその噴出孔、そして全ての人民の生殺与奪権を我に渡せ!
さすれば、この『日の本諸島』の代表者と同じく、我に仕える使い走りとして酷使してやる感謝せよ!」
と傲慢極まり無い宣言をアラン様に向かって突きつけた。
その宣言を聞いたアラン様がどの様な反応を見せるかと、自分とカトウは内心興味津々で伺っていると、自分の想像とかなり異なり、アラン様は怒りもせずにやや失望している様に見受けられた。
その様子に、『霊体』は不審に感じたのかアラン様に対し詰問してきた。
「どうした虫けらよ。
返答するが良・・・」
との言葉に被せ気味にアラン様は答えた。
「この程度か・・・。
折角、『古きものども』との接触で、知性を持って会話出来る貴重な機会で有ったのに!
然も、正式な記録としては、俺が尊敬する『イーリス・コンラート准将』と『古きものども』の尖兵である『バグス』が、会話してきた時以来だと云うのに!
本当に、この程度の知性しか無いのか!
まさか何の疑いもなく俺を呼び込むとは、自分の喉元に武器を突きつけられているのに、何の警戒もしていないとは、間抜け過ぎるにも程がある!」
と最後にはアラン様は、激昂して吠えている。
その今までの落ち着き払って、思慮深い態度のアラン様に似つかわしくない姿は、周りの人だけでなく『霊体』も当惑させた。
「何だ?虫けら、恐怖で狂ったの・・・」
と『霊体』は問うたが、またも被せ気味にアラン様は答えた。
「黙れ!
全く馬鹿馬鹿しい話だ!
仮にもお前が言うように、大陸の覇者と呼ばれる存在が、大した人数のお供も付けず武装もせずに、お前の様な奴と対面すると思うのか?
少しは疑ってみろ!
まさか、唯々諾々としてお前如きに頭を下げると、本気で思っていたのか?
傲慢極まり無い限りだよ!」
と心底軽蔑しきった様子で、『霊体』をアラン様は見下した。
どうやらその事に漸く気付いた『霊体』は、周囲を埋め尽くす量の蛇達に命令を下す。
「虫けら共を殺せ!」
その言葉と同時に、万を越える数の白い蛇が津波の様に我々一行に襲いかかった!
だが、白い蛇質は我等に近付く10メートル手前で、空中からの光の乱舞で、殆どが消滅してしまう。
「な、何だと?!」
突然の上空からの攻撃に、『霊体』は明らかに驚き慌てる。
その姿に心底ガッカリした様子で、アラン様は嘆息した。
「結局は力押しのバカに過ぎないか、粛々と処理してやる。
大人しく滅びろ!」
アラン様は、泰然自若とした様子で『霊体』に向かって宣告した。