人類銀河帝国 コリント朝 功臣列伝資料 「サテライト8班リーダー ケニーの日記」(航宙軍士官、冒険者になる異伝) 作:ミスター仙人
11月7日
「吾輩はケットシー128世である、あだ名はまだ無い。」
(「あるよ~、ケッちゃんだよ~。」と妹が発言するが場の雰囲気を察して、小声なので隣の自分にしか聞こえなかった様だ。)
と会議室の机の上に設けられた席から立って、シルクハットと燕尾服を着た猫が流暢に挨拶している。
列席している多くの者が、その現実に戸惑い誰かの腹話術なのか?と疑っている様子の者も居るようだ。
何時だったか、親父が家族団欒中に話してた事が思い出される。
親父は、
「ドラゴンや魔道人形が、俺達と普通に会話しているご時世だ、そのうちそこらの犬や猫も話掛けてくるに違いねえ。」
と言っていたが、いざ現実に猫が挨拶をしているのを見ていると、常識がガラガラと崩れ去って行く音を聞かされている様だ。
ルドヴィーク領の兵士だった頃は、今のワイバーンに乗る竜騎士になっている様を夢想だにしなかった事を思うと、随分狭い世界で生きていたんだと判らされたし、アラン様とクレリア姫様の為にこれから世界を転戦していく事を思えばきっとより驚くべき驚異と出会うのだろうな、と想像が次々と湧いてくる。
そんな愚にもつかない思いをよそに、
ケットシー128世は話始めた、
「魔の大樹海のある場所に有った、猫の楽園とも云うべき吾輩の王国が1ヶ月程前に崩壊した。
崩壊させた輩は人に操られた『フェンリル』、世に氷雪魔狼と恐れられる魔獣で有る。
人はアーティファクトを駆使して『フェンリル』を操り、吾輩の王国を守護していた『ベヒモス』をその能力である氷雪で凍らせ、更に吾輩の王国をも氷壁で以って閉ざし吾輩達を入れなくしてしまったのだ。」
と天井を見ながら慨嘆し、話を再開した、
「吾輩達は王国を追い出され、途方に暮れながら魔の大樹海をさまよっていたがある時、空を飛ぶドラゴンの背中に乗っている人を見かけたのだ。もしドラゴンを使役する事の出来る人間が吾輩達に協力してくれれば、吾輩の王国を取り戻せるかもしれないと考え、取り敢えず接触をしようとこちらにやって来たのだが、懐かしいテレパシー(よく判らないが魔物同士の通信らしい)を受け取り確認したら旧友のカーバンクル夫妻のテレパシーであった、直ぐに会いに向かうと其処の娘子(妹に頭を下げ)がカーバンクル夫妻と共にやって来られ、事情を話すとクレリア様と会わせて頂けた。
そしてクレリア様とグローリア殿と会談し、グローリア殿とワイバーン隊の方々が吾輩の王国とその周辺を探索された結果驚くべき実態が判明したのだ。」
と述べられ、其処から引き継ぐ様にアラン様が話始めた、
「此処からは自分が話そう。
『空軍』で付近を探索した結果、ケットシー128世殿の王国周囲半径20キロメートルの魔物が姿を消していたが、其れとは逆にファーン侯爵領近くの魔の大樹海の空き地に数万匹に及ぶ魔物が集結していて、その中心に例の『フェンリル』と其れを使役する人間が確認された。
その人間の素性も「黒」によって判明している、セシリオ王国「氷雪魔術師団」に於ける第3席次の人物でアーティファクトを使用する事で『フェンリル』を使役している様だ。
そして、ケットシー128世殿の王国の秘宝である『魔獣使いの杖』も所持している様だ、ケットシー128世殿の話では『魔獣使いの杖』は魔力の量により使役出来る魔物の数が増減し、魔力は魔石でも代替が可能でオークの魔石1個で大体50匹のグレイハウンドを使役出来るそうだ。
あの規模だと相当な量の魔石を使った様で、魔物の中には強力な『オーガ』や『ゴブリンキング』そして『オークキング』すら存在している。
奴等の目的は明白で、その魔物達を率いファーン侯爵領を荒らす為だと推察出来る。
困った事に、ファーン侯爵は国境線の対セシリオ王国の国軍を率いていて、更にファーン侯爵領からも軍勢2千人が国軍に合流している。
つまり今現在ファーン侯爵領には残りの軍勢2千人しか居らず、この魔物達の襲撃を受ければ対処のしようがない。
よって我等は、ファーン侯爵領を救う為にコリント領に残る全軍約1200人で以って救援に向かう!
ただ、魔の大樹海を迂回する従来のルートではあまりにも日数が掛かり、救援は間に合わなくなる公算が高い。
幸いな事に陛下の許可を得て魔の大樹海を縦断し、ファーン侯爵領と繋ぐ道路の舗装工事には既に着手しているが、今現在は空軍がただ一直線にファイアーブレス等で繋げただけの道とすら言えない筋が有るだけだ、だがこの未舗装の道を使えば3日でファーン侯爵領に着く。
方策は上層部で練るので、兵士各位は明日までに各自準備を整え出撃に備えよ!」
と命じられたので、
「「「ハッ、了解しました。」」」
と妹を除く全員が立ち上がり返答した。