人類銀河帝国 コリント朝 功臣列伝資料 「サテライト8班リーダー ケニーの日記」(航宙軍士官、冒険者になる異伝) 作:ミスター仙人
10月10日(人類銀河帝国 コリント朝2年)
合同大演習も終えて、様々な講評を互いに評論しあい、今後の改善点や新しい戦術等の提案や新技術への要望を伝え合い意見が出尽くした処で、『アラム聖国』の新しい情報が齎された。
大会議室の立体プロジェクターに浮かび上がったのは、5体の異形の死体であった。
中央情報局局長のエルヴィン長官が説明し始めた。
「此の5体の異形の死体は、『アラム聖国』での軍隊訓練中に出た犠牲者が、回収する運搬馬車から街道に転げ落ちた物を、此方の超高性能ドローンの光学迷彩魔法を上空から掛けて、超高性能ドローンが回収した物です。
あまりにも人間から逸脱した形状をしている死体なので、賢聖モーガン様と魔法研究室、そして帝国魔法科学技術局に鑑定を依頼し、この程鑑定結果が出ましたので、アラン様の許可が下りて報告致します」
とエルヴィン長官がアラン様に向き直り、頭を下げるとアラン様も頷き返した。
エルヴィン長官は続けて、
「見ての通り、この5体の死体は明らかに普通の人間のサイズを逸脱し、5体全てが身長3メートル以上体重200キログラム以上。
身体の特徴はグレイハウンド、オーク、オーガ、サーペント、フロッグと酷似していて、まるで魔物と人間の融合体と思われたので、検証してもらった処、やはりそれぞれの魔物との有機的な結びつきが確認された上に、恐るべき検証結果が出て参りました。
此の融合体は、後天的に融合させた物では無くて、最初から此の様な融合体となるべく生育した物らしいのです。
つまり『アラム聖国』は、こういった融合体からなる軍隊を初めから誕生させようと、企図した上で訓練出来るまで漕ぎ着けているのです」
とエルヴィン長官が説明した処で、幾人かの者が挙手したので、アラン様が代表としてダルシム大将を指名し、質問させた。
「あのルドヴィーク籠城戦で確保した『アラム聖国』の捕虜は、その後の検査や捕虜自身の説明から、複製体(クローン)で有ると説明され、元はたった一人から培養して最大10万人を複製し得ると聞かされた。
という事は、同じ技術から作られたのだとすれば、此の5体だけでも既に50万以上の軍団が居ると想定される訳か?」
との質問にハインツ副長官が
「いえ、その程度では有りません!
あくまでも、現物として手に入れて、検証出来たのが5体だけで、超高性能ドローンの探知魔法と探査システムを通したセンサースキャンのお陰で、此等と類似する個体の判別と概算の総数も、大まかに掴んでいて、想定される数字はかなりのもので有る事は判っているのですが、確定している数字は出せませんのでご了承下さい。
なので、自分の想定数でお話ししますが、最低の数でもこの『獣化兵(ゾアノイド)』の軍団は、1000万を遥かに越えると考えています!」
と、とんでもない数字を言われ、帝国上層部は殆どの者が絶句してしまった。
1000万と云う数字は、正直只の人間であれば帝国にとっては、正に鎧袖一触で驚異に一切なり得ない。
しかし、立体プロジェクターに描き出されている、個々の『獣化兵(ゾアノイド)』のスペックが我等の認識を安易と断じる事を許さなかった!
そのスペックは、今まで敵対して来た数々の兵士や魔物、そして『古きものども』の尖兵や崑崙皇国の妖怪や『饕餮』等の個別の能力を遥かに越えていた。
恐らくは、帝国軍人の現在のフル装備と同等か少し上で、然も訓練で運用している銃器や大砲、更には『獣化兵(ゾアノイド)』が体内に、基本内蔵されているらしい各種の武装を考慮すると、明らかに帝国軍人のフル装備を上回った。
今まで、帝国軍が不敗な上で殆ど損害と呼べるものが無かったのは、帝国軍人が敵よりも装備と武器が上回っていたからであり、其れは帝国にとっても圧倒的な自負でもあった。
だが、その自信が今完全に過去のものになろうとしていた。
その事実は、会議の雰囲気を重くしてしまい、何時もの闊達な意見が出されず、沈黙の時間がひたすら続く。
このままでは不味いと考えた自分が、唯一個別でも勝てると考えられる空軍のドラゴン達による、ヒット・アンド・アウェイによる遊撃戦法を提案しようとしたタイミングで、自分の背後に有る巨大モニターからコール音が鳴り、アラン様の許可が下りて、パッと画面がついた。
其処には、親父の愛弟子にして妹の彼氏の『マリオン』魔法技術師が映し出された。
『マリオン』魔法技術師は、その特徴的な色違いの瞳を輝かせ、満面の笑みでアラン様と我等に頭を下げてから、報告して来た。
「アラン様!
師匠と賢聖モーガン様達に依頼されていた物の、試作一号機が完成しました!
その概要をアラン様の個人アドレスにメール添付として、既に送信しましたが取り敢えずはご注進させて頂きます!」
との言葉に、非常に珍しい事にアラン様が、ガタッと席から立ち上がり、興奮しながら『マリオン』魔法技術師に確認した。
「ほ、本当なのか?!
とうとう『アレ』の試作一号機が完成したんだな?
冗談や偽りでも無く、『アレ』が!」
と画面の中の『マリオン』魔法技術師に、詰め寄る様にアラン様が言われ。
その様子に驚きもせずに『マリオン』魔法技術師は頷き、言葉を紡ぐ。
「そうです!
アラン様が、我等に最優先で望まれ期待して居られた物!
『パワードスーツ』の試作一号機が完成したのです!
提示されたオリジナルの70%しか出力は出せませんが、他の面である防御力等はオリジナルを越えております!
きっと、ご期待に添えると思いますよ!」
との報告を受けたアラン様は、身体を震わせて無理矢理興奮を抑えようとして居られる。
『パワードスーツ』という代物が何かは判らないが、アラン様の様子を伺うに、恐らくは今後の対『アラム聖国』に於けるゲームチェンジャー的な代物で、『獣化兵(ゾアノイド)』に対抗出来る物に違い無いと考えられた。