人類銀河帝国 コリント朝 功臣列伝資料 「サテライト8班リーダー ケニーの日記」(航宙軍士官、冒険者になる異伝) 作:ミスター仙人
2月2日(人類銀河帝国 コリント朝3年)
久し振りに我が家に赤ちゃんズの面々が、奥様ズと共にやって来てお茶会をしていたのだが、夕刻になると赤ちゃんズの父親である自分の親友と同僚が参加して来た。
夕飯を共にして、男同士の話しをしていた際に、ふとミツルギ殿とシュバルツ殿が話題を振ってきた。
その話題とは当然パワードスーツの事で、いよいよ帝国軍全体で目下注目の的であり、この話題に触れない帝国軍人は居ないと呼んで差し支えないと断じられる程だ。
パワードスーツに付いて、親友のハリーも帝国軍のPR動画の撮影で、来月には公共放送を流す動画内に、大っぴらに公開する場面を盛り込んでいると話してくれた。
つまり、帝国軍も既にパワードスーツは秘匿兵器では無くて、広報PRに出す程の物であると判断した様だ。
だが、ミツルギ殿とシュバルツ殿が聞いてきた内容は、通常のパワードスーツの話しでは無かった。
《・・・やはりその事か・・・》
実は自分は、二人がこの話題を振ってくる事を半ば判っていた。
其れには或る事情が有ったのである。
実は、このパワードスーツを作るに当たって、大きく2つの流れが有った。
一つ目は当然量産化の流れだ。
パワードスーツを量産化するには、色々な部分を最適化して、より帝国軍人全てが運転しやすく、直ぐ様同種の機体であれば、乗り換えても問題無く同等の戦力として使えなければ意味が無く。
極端な話し、魔力欠乏や機体の故障が発生すれば、乗り捨ててでも構わないと云った、設計思想の機体に特化した流れで有る。
二つ目はその逆である、個人用にチューンナップされたカスタマイズ機体(特化型)の流れだ。
以前から、帝国軍に於いて戦闘車両と戦闘バイク、そして武装でも個人用にカスタマイズする動きが有り、特に腕に自信が有ったり、場合によってはその個人だけで戦局がひっくり返せると認められる場合は、寧ろ積極的に推進されていたりする。
例としては、セリーナ・シャロン両少将の専用戦闘バイク『ディアブロ号』と『ジャッジメント号』、ファーン大将旗下の重機動軍の代表機体『ドリル・バイク』等の、軍団を代表する戦闘マシーンとでも呼ぶべき一騎当千の機体は、正にその軍団の顔でも有る。
現在帝国軍は、パワードスーツの量産化を全面的に推し進め、其れは着実に進んでも居るが、やはりカスタマイズ機体の要望は根強く、実際に其れの研究は続いている。
そして何故この二人がその事を話題にして来たかというのも、推測が着いていた。
実はその為のテストパイロット達は、この二人の直弟子達なのである。
第一回世界武道大会で、徒手空拳部門と武装部門での準決勝まで勝ち残り、帝国軍に入隊志願した20名は、その後親衛隊に入隊し様々な局面で通常の帝国軍人とは異なる、特殊任務に就く事が大変多くて、非常に融通の効く軍人になっていて、また『剣聖』と『拳聖』の門下生となった結果、素晴らしい存在にレベルアップし、パワードスーツのテストパイロットに自ら志願しているのだ。
彼らの武道家としての素晴らしい能力を活かすべく、パワードスーツを其れ其れがカスタマイズし、主に格闘と剣戟に特化した機体が現在素晴らしい発展を遂げていて、恐らく帝国の内部事情が判っているこの二人なら大丈夫だと、情報を漏らしたのだろう。
まあ、もう少ししたらこの二人には協力して貰うつもりだったし、若干早くなっても問題無いだろうと考えて、明日にでもアラン様にお伺いを立てる事を約束した上で、ハリーには何れ教えてやる事を約束し、当面秘密にする事を誓わせた。
2月3日①(人類銀河帝国 コリント朝3年)
空軍ドームでの用件を幕僚達に任せ、緊急内容以外は己の裁量でこなす事を命じ、ミツルギ殿とシュバルツ殿と共に昼食を摂って、アラン様が詰めているパワードスーツ開発用の専用ドームに向かう。
パワードスーツ開発研究所と云う御大層な名前の、巨大な建造物の駐車場に親父の愛車『バッファロー』と、賢聖モーガン殿の最近の一人乗りの乗り物で有る『飛行器』が並んで駐機してあった。
此処までは、何時もの光景なのだが一台の珍しいバイクが目についた。
そのバイクは、非常に特徴的な外見をしていて、先頭部分がアダマンタイト製のドリルになっているのだ!
帝国広しと言えど、こんな独特な形状をしたバイクを駆る人物は一人しかいない。
そんな事を考えながら、パワードスーツ開発研究所の中枢部である区画に案内されると、予想通りに『ドリルバイク』の乗り手であるカイン中佐が熱心に研究職員と話し込んでいる姿を確認出来た。
だが、我々が相談すべき相手は、当然彼では無いので、現在パワードスーツのシミュレーターに乗っている人物が降りてくるのを待った。
その人物は、パワードスーツのシミュレーターにどれだけのコリント流の格闘技が再現可能か?と云う実験を、此処1周間程徹底的に試しているのだ。
やがて、かなり過酷なパワードスーツの関節部に負荷を掛ける動作を行い、限界と表示が出てから致し方ないといった様子で、パワードスーツのシミュレーターから専用ヘルメットを脱いで此方に歩み寄る人物こそは、我等が主君アラン様である。
自分達が、跪こうとするとヒラヒラと手を振ってその動作を牽制すると、部屋にある応接用のソファーに全員を誘導し、研究職員に全員分の紅茶を用意させて、皆が落ち着いた段階で話し始められた。
「・・・君等3人が連れ立ってやって来たと云う事は、つまりそういう事だろう?」
どうやらアラン様は、我等の要望を完全に想定していて、その確認をしたい様だ。
「・・・恐らくは、アラン様の予想通りだと思います!
我等3人も、アラン様同様にパワードスーツのシミュレーターに乗って、自分の習得した格闘技をフィードバックした自分専用のパワードスーツを、カスタマイズしたく願います!
どうかアラン様に置かれましては、この非常に我儘且つ僭越な申し出を叶えて戴きたく上申しに参りました!
必ず、この御恩には以降の軍功で以って報いますので、お願いします!」
と自分を含む3人が深々と頭を下げていると、何故か並んでカイン中佐まで頭を下げている。
その4人の姿に、アラン様は愉快そうに笑い出し、我等4人に頭を上げさせて。
「非常に良く判った!
だが、君たちが懇願する必要はそもそもの処必要無かったんだよ。
何故なら、元々君たちクラスの軍人には、其れ其れにカスタマイズされた専用機を用意するつもりだったし、その際には当然各々の実力に応じた機体を用意する為に、このパワードスーツのシミュレーターに乗って調整する予定だったからな!」
と言われ、パワードスーツのシミュレーターに振り向き、専用のスタッフに労いの言葉を投げかけられている。
専用のスタッフも溌溂と云った様子で、返事している。
しかし、こんな風にざっくばらんに下の者と接する皇帝が、歴史上居たのかと疑問に思うばかりだ。