人類銀河帝国 コリント朝 功臣列伝資料 「サテライト8班リーダー ケニーの日記」(航宙軍士官、冒険者になる異伝) 作:ミスター仙人
5月27日⑧(人類銀河帝国 コリント朝3年)
いきなり『アグニ』の顔がズルリとズレた。
そのズレて顔面が足場である『方舟』の上部に落ち、「ベチャッ」と嫌な音がする。
其れは、明らかに虫で有った。
其れも蟻や蟷螂の様に、黒光りする巨大な顎が両開きで備わり、眼球は人間の4倍は有ってやはり複眼だ。
そして、細かく動く触覚が左右に存在する。
そんな元『アグニ』が、両開きの巨大な顎で、ギチギチと聞き取りにくい声を発した。
すると、何やら元『アグニ』の足元である『方舟』から、ブクブクと泡立ち其処から奇妙に節くれだった杖が現れ、元『アグニ』がその奇妙な杖に手を伸ばして引っ掴む。
元『アグニ』は奇妙な声を発し、
「ィウェfhニアr!」
と虫の顔なのに、何故か感情が自分には読み取れて、元『アグニ』は満足そうだ。
その様子を確認し、アラン様は両手を前面に突き出すと、
「招来、『レーヴァテイン』!」
と唱えられ、次の瞬間、突き出された両手の中に、神器『レーヴァテイン』が出現した。
アラン様は、神器『レーヴァテイン』を両手で握りしめると、手に馴染むかどうかの確認か、手指の感触を確かめている。
やがてアラン様は納得したのか、徐に元『アグニ』を見据え宣言する。
「さあ、俺自らが相手してやる!
全力で挑んで来い!」
その宣言に理解を示したのか、元『アグニ』は奇妙に節くれだった杖を振りかざし、アラン様に突進して来た。
それに対して、アラン様は得たりや応と神器『レーヴァテイン』で迎え撃つ。
「ガッ!」
と元『アグニ』が持つ奇妙に節くれだった杖は、あの『ラスプーチン』が持っていたアーティファクト『ティルフィング』と同等以上らしく、アラン様の神器『レーヴァテイン』とぶつかり合っても、折れたりせずに受け止めきった!
そのまま、アラン様と元『アグニ』は凄まじい速度で、斬り結び始めた。
「キキキキキキーーーーン!」
と甲高い音を立てて、両者の武器はお互いを斬ろうと交差し続ける。
暫くの攻防が続き、元『アグニ』は半ば放置されていた、『柳星張(りゅうせいちょう)』を蹴飛ばしてアラン様にぶつけて来たが、それを察して予め動いていた『玄武』が身体全身で『柳星張(りゅうせいちょう)』を受け止めた。
しかし、その『玄武』を無視して元『アグニ』はアラン様に向けて、魔法と覚しき技を繰り出した!
「セイrンhgbパエウィrhン!」
との意味不明な言葉を並べて奇妙に節くれだった杖から、
「ブシューッ!」
と周囲に腐食性と思われるガスが吹き出した!
たちまち、周囲にある『方舟』の上甲板は、腐食して穴が開き始める。
その範囲は急速に増して来たので、アラン様は神器『レーヴァテイン』を持ったまま。、
「収束!」
と唱え、腐食性ガスを空間の或る一点に収束させると、アラン様は神器『レーヴァテイン』を上段に振り上げて、技を繰り出した。
「次元切断!」
上段から鋭い振り下ろしを元『アグニ』は喰らい、左片腕を失った。
しかし、再び剣戟を繰り返しているアラン様と元『アグニ』を観察して見ると、何時の間にか元『アグニ』の左片腕は復活している。
此の再生能力は、非常に厄介だと感じた。
アラン様も同じ思いなのだろう、いよいよ大技に入るらしく、己の魔力を練り上げ始めた。
やがて充分に魔力を練り上げ終わったアラン様は、連合艦隊に命令を発した!
「此れより、俺の奥義の一つを放つ!
全軍、対ショック、対閃光防御!」
と命令されたので、連合軍全艦隊はアンカーを射出して艦艇を固定し、バリアーを最大出力で展開し、バイザー等を下ろして対閃光防御を整えた。
アラン様は徐に唱えた。
「”武神アラミス”認可奥義『ドラゴン・ファング(竜牙)』!」
と叫ばれると、アラン様の背後から黄金色のドラゴンの頭が八つ出現し、凄まじい勢いで元『アグニ』に襲い掛かった!
其れを見た元『アグニ』は、必死に逃れようとしたのだろうが、呆気なく四肢を八つのドラゴンの顎に喰らいつかれ、ものの見事に拘束された。
元『アグニ』は相当に焦った様で、
「l制rghピrgjッ!」
と意味不明ではあるが、明らかに焦燥に駆られながら、何とか逃げようと四肢をバタつかせる!
そんな元『アグニ』に対しアラン様は、
「”武神アラミス”認可秘奥義『ディストーション・クライシス』!」
と叫ばれると、元『アグニ』目掛け真一文字に突っ込まれ、左鎖骨部分から袈裟斬りに斬りつけ、股間に到達すると『レーヴァテイン』を握り返して逆に右肩まで斬り上げた!
丁度、Vの字に斬られた元『アグニ』は、
「セウbyゴア!!!」
と聞き取りづらい絶叫をしたが、技はこれで終わらない!
アラン様は、そのまま上段に『レーヴァテイン』を構え直し、唐竹割りに元『アグニ』を両断する!
すると元『アグニ』の背後に虚ろなる穴が空間に出現し、そのまま元『アグニ』は虚無の穴に吸い込まれ始める。
しかし、敵もさる者で何やら言葉を唱えて、『方舟』に命令して虚ろなる穴に突っ込ませた。
『方舟』の50キロメートルと云う信じられない巨大さで、次元に開いたままの虚ろなる穴は塞がれたが、そもそもVの字に斬られた元『アグニ』は、かなり衰弱したらしく再生が一向に始まらない様だ。
トドメをさすべく、アラン様が技を繰り出そうと構えを取り始めたその瞬間、突然元『アグニ』は言葉を発した!
「クトゥルフ神、生贄召喚!」
我々と同じ言語を唱えて元『アグニ』は、先程落ちかけていた虚無の穴をワザワザ大きく開き直し、『方舟』そのものを虚無の穴に落とした。
完全に虚無の穴に『方舟』を落とすと、最果てと思える虚無の穴の奥底から、巨大な存在がやって来るのが、どうしようもなく原初の動物が持たされている恐怖の感情が、心底沸き起こった!
つまり、虚無の穴の奥底からやって来る存在は、それ程の相手なのだと自分は否応無く理解した。