人類銀河帝国 コリント朝 功臣列伝資料 「サテライト8班リーダー ケニーの日記」(航宙軍士官、冒険者になる異伝) 作:ミスター仙人
5月27日⑨(人類銀河帝国 コリント朝3年)
『クトゥルフ神』、今まで敵として相対して来た『古きものども』の主神格で、以前敵対した『ダゴン』等の上の存在と知識の神『イーリス』様から知識として帝国軍では教えられた。
『イーリス』様からの教えによれば、どうやら此の惑星アレスを含む、星系に侵略の手を伸ばしている者達の主神らしい。
其奴が、元『アグニ』の生贄召喚とやらで、虚無の穴の奥底からやって来ようとしているのだ!
其れに対してアラン様は或る手段を取るべく、神人権限を行使して『ルミナス神』を始め調整者の方々に或る申請を口頭で述べた。
「神人権限にて、星系防衛機構『ADAM』の対『古きものども』プログラム、『戦場限定』の最上位機能で有る『異空間転移』の行使を申請する!
直ちに此の次元にやって来ようとしている、クトゥルフの分身体を『異空間転移』せよ!」
との申請を『ルミナス神』を始め調整者の方々に上げて、許可を待つ。
その間にもアラン様は、我々に指示を与える。
「此れより俺は、此の惑星アレスを脅かし続けた『古きものども』の首魁で有るクトゥルフの分身体との戦闘に入る為に、神々が用意してくれる此処では無い、『神の戦場』とでも呼ぶべき場所に向かう。
とてもでは無いが、この惑星上でクトゥルフの分身体とは戦えないからだ。
『神の戦場』で戦闘に参加出来る者は、俺と『玄武』そして複製『ゾア・クリスタル』にダウンロードした残りの『朱雀』『青龍』『白虎』の四聖獣だ。
彼らは実体を持たないが、各種の能力で俺をサポートしてくれる。
連合軍全員は補給と治療を受けた後に、海峡を渡って帝国に帰還し帝都コリントにて待機していてくれ、事実上この戦争は此の戦闘を以って終結する。
俺は必ずこの最終戦争に勝って、帝都コリントに帰還する!
信じて待っていてくれ!」
と我等に指示された。
淡々とした口調ながら、ごく自然に《俺》と自称しているし、その目付きから相当な覚悟を決めて指示されているのが判った。
当然帝国軍人全てが『神の戦場』に同行したかったが、どう考えても我等では実力不足で有る。
その我等の思いを代表し、ダルシム大将が、
「・・・了解致しました・・・。
必ず指示通り此の『アフリカーナ大陸』から退去し、帝都コリントに帰還します。
なのでアラン様に置かれましても、必ず無事にお帰り下さい!
クレリア皇妃陛下を始め、アポロニウス皇子とセラス皇女そしてシェリス皇女も首を長くして、アラン様のお帰りを切望している事でしょう。
アラン様がお留守の間、我等は皇帝家とそのご家族を、絶対にお守り致しますので、心置き無く存分に戦って下さい!」
と不安な内心を隠して、快く送り出した。
その言葉に頷いて、アラン様は許可が下りたらしい神人権限を行使して、星系防衛機構『ADAM』の対『古きものども』プログラム、『戦場限定』の最上位機能で有る『異空間転移』を使用した。
虚無の穴の奥底からやって来た、クトゥルフと覚しきモノの手と思われる触手が、虚無の穴の縁にあてがい此方側に出現しようとする。
次の瞬間、遥か空の彼方から半透明の壁の様な檻が、虚無の穴を囲む様に取り囲んだ。
そしてその半透明の壁の様な檻が、上空にゆっくりとまるで釣り上げられる様に上がって行く。
何処までも上がって行くと思われたが、突然白い空間が現れて、半透明の壁の様な檻は其処に吸い込まれた。
其れを確認して、アラン様と『玄武』は我等に向かって頷くと、『玄武』と共に其の白い空間に飛び込んで行った。
するとアラン様と『玄武』を吸い込んだ白い空間は、ゆっくりと閉じて行きその後は、まるで元々其処には何も無かった様に痕跡を残さず消え去った。
やや呆然と我等は空中を見据えて居たが、アラン様が直ぐに戻って来れる様な甘い相手な訳も無いので、アラン様の指示通り連合軍は補給と軍人達の治療を最優先にして、撤収作業に移行した。
『柳星張(りゅうせいちょう)』の超音波メスで真っ二つにされた艦船の幾つかを廃棄して、比較的艦船の部屋数に余裕のある艦に分乗させたり、倉庫にしていた場所を改装したりして乗せる事にした。
5月28日(人類銀河帝国 コリント朝3年)
昨日中にアラン様が帰還出来なかった事を考えると、『神の戦場』と云う場所では時の流れも特殊なのかも知れないので、我々は粛々と撤収作業を行い、夕刻には戦場跡から帝国に向けて出発した。
5月30日(人類銀河帝国 コリント朝3年)
『アフリカーナ大陸』とセリース大陸の海峡を渡り、アラム聖国を経由せずに直接帝国のスターヴェーク公国の海岸線に到着し、帝国への帰還を果たした。
そして此の段階で、帝国の上層部と留守部隊の帝国軍に、アラン様の最後の命令と指示を動画と共に報告し、今後の方針をクレリア皇妃陛下と相談したい旨を連合軍の総意として伝えた。
その際、クレリア様はかなりショックを受けられていた様だが、気丈にも面に出さずに我々の報告をしっかりと受け取られた。
恐らくは、不安で仕方がないだろうが、隣で不安そうに母親を見上げるアポロニウス皇子に気付いて、その様に対応したのだろう。
家臣としては、クレリア様が狼狽えずに対応してくれた事に感謝した。