人類銀河帝国 コリント朝 功臣列伝資料 「サテライト8班リーダー ケニーの日記」(航宙軍士官、冒険者になる異伝) 作:ミスター仙人
9月19日
改めてアラム聖国の全権大使との交渉が開催され、基本的な条約が締結され後日正式な文書を取り交わす事になった。
内容は、
1、ベルタ王国とアラム聖国は、今後3年間の相互不可侵条約を結び、3年後には再度の交渉をして年次更新か友好国に格上げするかを決める。
2、ベルタ王国に囚われている宗教使節団と聖徒は、ベルタ王国に於ける刑法上の犯罪者であり、刑期等を終えたならば、本人の希望を聞きアラム聖国への帰国も許可する。
3、ベルタ王国とアラム聖国の国境線には、相互連絡用の事務所を設営し今後問題が有った場合、その事務所で双方の上層部による話し合いが行われる。
更に細かい条文は有るが、大まかにこの3点が決められた。
ベルタ王国とアラム聖国の双方とも納得はいっていないが、事実上の3年間の休戦条約であり、その間につけ込まれない強固な国家体制を築く猶予期間と考えると、妥当な線とも云えた。
アラム聖国の全権大使含む総勢15名は、来賓用に設えた豪華な内装の殆ど揺れないトレーラーで、アラム聖国との国境に送られたが、自分は昨日の真の意味での会談内容の方が余程気になった。
恐らくアラン様はそう遠くない将来、例のアラム聖国の中心部たる法王庁に出向き、最奥に存在する『聖なる頭脳』との対面を果たすのではないだろうか、そしてその際秘密を共有する自分とカトウも同行するのだろう、そう考えると自分は分不相応ながら、この世界に於ける真実に近づける栄誉をアラン様と共有出来るのだ。
その場合アラン様を命に代えて守る、と密かに決意した。
9月21日
新生ルドヴィーク城で元アラム聖国軍全軍合計30万人の、洗脳状態の解除がアラン様の手で行われた。
以前同様のやり方でベルタ王国での解除を行ったので、ミツルギ殿の指導の元問題無く解除は進められたが、問題が起きたのは解除後であった。
何と聖徒と呼ばれる人々には、名前が無かったのだ。
辛うじて識別用の番号は振られていて、A群の1番やD群の28563番といった識別番号で、正直なところ人の名前としては違和感は拭えないが、我々も平民出身者は基本名前だけで、同じ名前で重複することが度々あり、現在自分には役職があるから間違われる事も無いが、『ケニー』という在り来たりの名前は1国に数千人居そうだから、ある意味完全に分けられているから本人が望まなければ、このままで良い様な気がした。
9月22日
聞き取りを30万人全て終え(実際の処殆ど内容は同じだからこの内容か?と確認していっただけ)確認してみた処、彼等聖徒は普通の人としての生活は一切した事が無くて、産まれた?時から集団で行動させられていて、軍事行動かインフラ整備等をした事があるだけで、人間としての生活をした事が無かった様だ。
アラン様は、そんな彼等に普通の人間としての情緒と生活を学んで貰うべく、指導する事にした。
交代制でレール敷設作業員としての仕事をさせ、仕事をしない間に職業訓練と一般社会の常識を学ばせて行く事になった。
そして、何れは本人の希望を確認し帰国するか帰化するかの選択をしてもらうそうだ。
9月25日
第二軍と総帥府軍が元アロイス王国に与していた、新生スターヴェーク王国の西部と南部の貴族の領土から帰還し、代わりに新生スターヴェーク王国から派遣した政務官僚が、其々の貴族領地で政務と司法を司った。
膨大な資産と様々な資料が接収され、アロイス王国が成立していた時期にこの貴族達が如何に無法な行為をして来たかの証拠資料の作成に入った。
9月27日
ロベルト老始めアルセニー男爵、ダヴィード伯爵他の貴族縁の親族達や、希望した元スターヴェーク王国国民がトレーラーに分乗し新生スターヴェーク王国の王都に到着した。
ロベルト老達は王城に入城し、出迎えに出られたクレリア姫様とアラン様達に気付くと、全員其の場で直ぐに跪き、
「姫様!
良くぞ、たった2年でスターヴェーク王国を取り戻されました!
この様な短期間で祖国を奪還した例は歴史上存在せず、亡くなられた国王陛下夫妻と皇太子様もあの世で姫様を称揚して居られる事でしょう」
と皆を代表し、ロベルト老は泣きながらクレリア姫様に言上した。
クレリア姫様は歩み寄られロベルト老に立ち上がって貰い、
「有難うロベルト。皆も立ってくれ。
全ては、此処に居る皆とコリント領に住む領民たち、そして協力してくれたベルタ王国国軍と総帥府軍の方々のお陰だ。
このクレリア、皆に幾重にも感謝する。
本当に有難う」
とクレリア姫様は頭を下げられた。
「「「とんでもございません!!」」」
と此の場に居る元スターヴェーク王国国民が、頭を下げながら応じた。
そして現在の状況を説明する為に、主だった者達を大会議室に集めた。
アラン様が司会をする事になり、用意されていた資料を各自の席に配られ、背後に有る巨大モニターに同じ物を映し出された。
「・・・・・この様に、現在新生スターヴェーク王国の王都は治安を完全に回復し、物流を大量のトレーラーを投入する事により、以前とは比べ物にならない位充実させている。
物流の充実は少しづつ地方に波及させており、アロイス王国が荒廃させた東部と北部もそれ程掛からずに、以前のスターヴェーク王国統治下の姿を取り戻すだろう」
とアラン様は力強く仰られた。
「流石でございますアラン様!
此処スターヴェーク王国に戻る途上、我等はベルタ王国国境線まで『魔導列車』の寝台タイプに乗り、僅か2日で到着しました。
そして新生ルドヴィーク城までも7割方レールが引かれて居ますし、新生ルドヴィーク城から王都までもレール敷設作業が行われているのも拝見させて頂きました。
遠くない将来、コリント領からベルタ王国王都、そして新生ルドヴィーク城を経由し此処スターヴェーク王国王都に至る『魔導列車』の線路が完成するのですな?」
とロベルト老は確認する様に尋ねられたが、アラン様は首を横に振り、
「それで完成では無い。
此処スターヴェーク王国王都からは、現在総帥府の置かれている元セシリオ王国王都まで線路が引かれ、そこから更にファーン侯爵領を通り、『魔の大樹海』を突っ切ってコリント領に至る円環を描く形になって、漸く完成する事になる。
壮大な工事だが、自動レール敷設作業車が現在コリント領で完成し、量産化も目前だ。
予定では3年後には、この環状線は完成する事になっていて、それ以外のインフラ整備と3国全ての諸々の仕組みを同時進行で改正して行く、此れはアマド陛下から了承を得ており、今迄の国家運営そのものを変革する一大事業だ。
皆故国を取り戻せてのんびりしたいのは分かるが、アラム聖国との事実上の休戦期間は僅か3年だ、今後も皆で協力しあい国力を増す努力をして貰いたい!」
と仰られ、
「「「ハッ、無論であります!」」」
と皆一斉に返事をして決意を表明した。