新しい世界で   作:Belenus

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認められぬ最後、教わった力







戦闘描写が下手なため、いつもより文が酷いです。
弾幕の概念が生まれる前なので表現が難しい。
幻想郷においての魔法がどのようなものか知らないため、捏造もとい妄想で書いてます。幻想郷で使われる魔法がこのようなものでない場合、教えて下さると幸いです。場合によっては書き直しますので。


こぼれ落ちる命

 止めてみせると粋がったはいいものの、勝つ算段など何一つなかった。お母さんは、はっきり言って強い。今までの修行で一度も本気を出させたことなんてなかったし、両手を使わせることだってやっとなのだ。その上、準備だってしてない。突発的に始まった戦闘で相手は格上。それでも·····それでも、止めなければ!

 

「はっ!」

 

 一気に踏み込んでくる。合図などない。近接戦闘はお母さんの領域だ、ならわざわざ相手の土俵で勝負する必要は無い。そう考え瞬時に人の姿を捨て飛び上がる。

 

「遅い!」

「なっ!」

 

 上から声が聞こえた瞬間、僕は地面に叩きつけられていた。頭を強く打ったせいでぐにゃりと歪む世界を見ながら、かかと落としをくらったのだと気づく。吸血鬼の力を使えば速度では僕の方が上のはず、なのにどうして僕の上空から声が聞こえた?

 

「考えている暇があるのか?」

「まっ」

「待たない」

 

 上の次は真横からの声。気づいた時にはもう遅かった。防御も間に合わず、蹴りが横顔を打ち抜く。チカチカと明暗を繰り返す視界は正確に世界を捉えられず、風切り音と宙に浮いた感覚からようやく吹き飛ばされたことに気がつく。

 

「あ·····っ·····」

 

 ようやく加速が止まり地面の感覚がした頃には、もうまともな声すらあげられなくなっていた。たった2回の打撃で満身創痍になる体たらく。だが、そのたった2回の攻撃どれもが、頭が原型を留めていることすら不思議な威力を持っていた。

 

「だから言っただろ。勝てると思っているのか·····と」

 

 初動を抑えられ、距離も稼げなかった。もはや勝つか負けるかのステージにすらいない。これが、数多の者の中から選ばれて化け物(妖怪)たちとその身一つで渡り合ってきた化け物(博麗の巫女)。人間の最高峰。

 

「もう諦めろ。私だってこれ以上傷つけたくない」

「そ、れ·····でも」

 

 人間は人間だ。僕のように先程まで満身創痍だった体が、ものの数秒で治ったりしない。だから、痛くても苦しくても治り続ける限り立ち上がるんだ!

 

「絶·····対に、止める!」

「やめろ!傷が回復する奴なんて今まで、どれだけ相手にしてきたと思っているんだ。そんなの私に対して有利にはなり得ない」

 

 有利不利?そんなの関係ない。例え治らなくなっても、這いずってでも引きずり戻す!分かっていた。最初から相手は格上だってことぐらい。それでも負けられないんだ。

 

「無理だって分かってるだろ」

 

 無理をしてでも無理を通す!

 

「皆が笑える未来のために゛」

 

 四つん這いになりながら、ゆっくりと立ち上がる。くるくると回る視界の中、気を抜くとすぐにでも倒れそうになる。無様で不格好で情けない。

 

「もう·····眠れ」

 

 顎から脳にかけて、強い衝撃が走る。蹴りなのか拳なのかそれすら把握出来ない。落ちる意識の中で遠ざかる足音だけが聞こえる。

 

「すまない」

 

 苦しげに呟く声は僕がそうさせたものだ。大人しく別れることも出来た。そうしたら、苦しみや悲しみに満ちていたかもしれないが笑ってお別れできた。

 

「わけないだろ!!」

 

 意地だけで無理やり意識を戻し、再度立ち上がる。だが、何度立ち上がろうと、先程と同じことを繰り返すだけだ。だから、お母さんの良心を利用させてもらう。

 

「そういえば、親子喧嘩したことなかったよな」

「それがどうしたって·····?···············!」

「そうだよ。やろうぜ、最初で最後の親子喧嘩!」

 

 無視できないだろ。だってお母さんにとってはこれが最後なんだから。喧嘩と言ったのも、一方的にやられることを防ぐためだ。つまり、お母さんにはこう聞こえていた。

 

『別れる前に対等な位置で戦いを楽しもう!』

 

 自然と降りてくるはずだ、同じステージに。手加減させた状態で隙を見て捉える。

 

「無駄だ。私がそんな誘いに乗る訳ないだろ」

「それはどうかな!」

 

 お母さんから距離をとりつつ無数のエネルギー弾を放つ。瞬時に放つことができるかわりに、威力はないため足止めにもならないだろう。普通なら。お母さんが辺りを漂うエネルギー弾を弾こうとする。瞬間バチッと電気が走る。

 

「っ!」

「ただのエネルギー弾だと踏んで弾こうとするから、そうなるんだよ」

 

 エネルギー弾の中にはただの弾もあるが、触れれば凍りつくもの、感電するもの、粘着力があるも等の様々な効果を持たせてある。そんなものに触れなくとも、気づくか距離を詰めて落としにかかるだろうに普通なら。

 

「遊んでくれるんだろ、お母さん!」

「ちっ、お前が変なことを言うからだ」

「は!?手加減してこれかよ!」

 

 思わず叫んでしまうのも仕方がない。なんせ、近道するために弾に突っ込んでいるのだから。いくら死なない程度の威力だからって、当たれば痛いし傷を負う。その証拠にお母さんの肌は裂け、服だって破れてきている。

 無数の弾から当たっても無視できるものを的確に選びとって。最速でこちらに向かってくる。

 

「化け物か!」

「それがお母さんに対する言い草か!」

 

 何とかして時間を稼がなければ。魔法はどれも詠唱などが必要になってくるため、時間がかかる。即興で使える魔法で、この場をどうにかできるものなど·····。

 

「あった!」

「なっ、それはずるいだろ!」

 

 幻覚の魔法だ。いくらポテンシャルが高いからって、脳が人類と違う構造になっているわけじゃないだろ。それにあの吸血鬼にも効いていたのだから、無駄ではあるまい。幻覚魔法は即興でできる代わりに細かい設定は出来ないが、それで充分だ。

 

「これじゃあ今、自分がどこにいるかさえ分からん」

 

 視覚は人間が受け取る情報の八割を占める。そのため視覚さえ抑えてしまえばどうとでもなる。ただ、このまま時間が経てばあの化け物じみた能力を持つお母さんの事だから、耳、肌、勘、なんでも使って突破してくるだろう。

 

「だから稼いだ時間で、ダメ押しの魔法だ!」

 

 長々とした詠唱を呟き、放たれる魔法は所謂デバフ系の魔法だ。実際はデバフと少し違うが、相手の動きを阻害するという意味では変わらない。

 

「随分と怖がりだな。本気を出されるのがそんなに不味いのか?」

 

 当たり前だ。お母さんが気まぐれでまた全力を出せば、この力関係は簡単に破綻する。だから、長い詠唱が必要な代わりに、相手の力や感覚なんかの諸々を半減させられるこの魔法を使ったのだ。

 

「感覚が鈍いが大して問題じゃないな」

「人間じゃねえ」

 

 なんで真っ直ぐ、こちらに向かってこれるのだろうか。視界だって回復してないはずだろ。

 

「遊ぶんじゃないのか?笑えよ!」

「見えてるのかよ!」

 

 最初の雰囲気はどこへいったのかお互い笑っていた。楽しい、楽しい。辺りを漂う弾がキラキラ光ってまるで花火の中を飛び回っているようだ。思えば今までこんなに全力で戦ったことは無かった。工夫を凝らし相手のために全神経を使う。お互い相手以外見えない極限状態。

 

「そんなものか!ピクラス!」

「なら、もっと楽しませてやるよ」

 

 弾の大きさ、形、色を変えて再度発射。先程まで全方位に無差別にばらまいていたのを、お母さんを中心に扇状に広がるように弾を配置する。

 

「この程度ならさっきと大差ないな」

「そう言ってられるのも今のうちだ」

 

 色や形を変えただけだと大差ないように感じるだろう。だが、物は使いよう。大きく明るい弾の後ろに小さく暗い弾を配置すれば。

 

「痛っ!」

「だから言ったでしょう?」

「サラッと威力をあげるな!」

「当たらなければいい話ですよ」

 

 今度は水の魔法を使い、四方を囲むことで移動できる範囲を制限する。この中で雷を発生させる弾に当たれば、他の弾も連鎖反応を起こしてかなりの威力になるだろう。

 

「搦手ばかり使って。いやらしいぞ」

「真っ向勝負じゃあ勝ち目ないからな」

 

 移動を制御するためだけだった四方の水を、外に出られないよう完全に閉じる。ダメ押しで、水に向けて雷を流し脱出されないようにする。

 

「これで、少しは時間が」

「残念だったな!」

 

 安心したのも束の間。すぐに水の箱から飛び出てきた。あの技はそれなりの自信があったのだが、結界を纏うことで対処するとは。本当に息付く暇もない。すぐにエネルギー弾を放つが同じ手は何度も通じず、この戦い方も既に攻略されていた。

 

「対応が速すぎんだろ!」

「そっちが遅いだけだろう?」

 

 段々と距離がつまってくる。予想以上に攻略されるのが早いため切り札を発動するまでの時間がほのかに足りない。何とか時間を稼いで次に繋がなければ。そう思い、僕が選んだ選択肢は会話をすることだった。

 

「どうして、お母さんがいなくなる必要があるんだよ!」

「話したところで理解してくれない」

 

 図星だった。例え世界が滅びるからなんて理由だったとしても、そんな世界なら滅びてしまえばいいと思っていた。そして、それは皆同じで勿論お母さんもだと勘違いしていた。

 

「私がいなくてもピクラスなら大丈夫だ」

「大丈夫ってなんだよ」

 

 怒りが収まらない。勝手に決めて、当日になって急に言われたって納得もクソもあるか。なんで、僕の大丈夫を決めつけてんだよ。

 

「僕の世界にはお母さんが必要なんだよ!」

「霊夢や魔理沙がいるじゃないか」

「そんなん関係ねぇ!」

 

 霊夢や魔理沙がいるからなんだって言うんだ。いつもの日常にはお母さんが必要不可欠なんだ。先程の水を一気に蒸発させ広範囲に水蒸気爆発を起こす。かなりの水をかなりの速さで蒸発させたため威力は相当なものだ。

 

「無意味だ」

「なんで!」

「勘だよ」

 

 視界不良の中、勘だけでどうにかなるようなものじゃないだろ。もう即興でできるような搦手はない。かと言って真っ向勝負で時間を稼げるほど甘くはない。

 

「だから無駄だって言ったはずだ」

「何回目だよその言葉」

「お前が諦めないからだ」

「なら、神様に聞いてみようぜ。無駄かどうか」

 

 何かないかと探していたため、先程までは晴れていた空が曇っていることにいち早く気づいた。雷雲なら魔法で雷を誘発できるかもしれない。この雲が雷雲かどうか素人の僕には判別できないが、一か八かに賭ける!

 

「落ちろ!」

 

 その言葉を発すると同時にお母さんに向けて稲妻が走った。運が良かった。空を覆った雲が偶然、雷雲だったことだけでなく、雷が僕ではなくお母さんに落ちたことも。偶然が重なっただけで実力ではないが、切り札を使う前に倒すことが出来て良かった。

 稲妻の光で未だに白く染る視界の中、勝利を確信し笑を零す。

 

「まだ、勝負は終わってないぞ」

「嘘だろッ!雷だぞ、魔法で生成したものじゃなく本物の!」

 

 徐々に回復していく視界の中に捉えたお母さんはボロボロだった。防御するために展開した結界は半分ほどしか残っていなく、いつも着ている巫女服は上下共に破け、露出した肌には切り傷や火傷の跡が目立っていた。血に染る白い肌を前に、罪悪感で押し潰されそうになる。

 

「そんな顔するなよ。そんな眼で見るな!」

 

 一体自分はなんのために戦っているのか。大切なものを守るための戦いだったのに、大切なものを傷つけている現状が僕を責め立てる。

 

「どうして·····どうして、そこまでするんだ!」

「さっきからどうして、どうしてってまるで子供みたいだな」

 

 苦しそうな顔をする僕とは対照的にお母さんは笑っていた。先程とは違う、楽しさではなく慈愛を含んだものだ。どうして、何故。先程から言っているこの言葉は説明を求めるものではない。理解を拒み、理不尽な運命から目を背けるための言葉だった。

 

「私だって、お前たちと一緒にいたい。でも·····」

「じゃあ、素直に帰ろうよ!この分からず屋!」

「それはできないと何度も言っているだろう!バカ息子!」

 

 苦しい。もう、終わりが近い。工夫を凝らした攻撃も会話での駆け引きも無駄に終わる。この後、どんな搦手を使っても追いつかれるだろう。追いつかれたら僕に勝ち目はない。でも、大丈夫だ。切り札がまだ残っているし、お母さんが追いつく頃にはその魔法も完成し

 

「もう、追いついたぞ」

「計算どうりだ!···············ごめんなさい

 

 僕とお母さんとの間に2度目の閃光が走る。遅れて爆音が轟いた。

 

 

 

 

 

 

 上手くいったと思った。お母さんは勘が鋭いため弾の間隔を調整してちょうど僕と接触する頃に、魔法が発動するようにした。勘づく要素はなかったはずだ。ましてや、僕にまで結界を張る余裕なんてないはずだ·····事前に知ってなければ。

 

「分かるさ、ピクラスの考えていることくらい。人を守る時はな、自分も含めて守らなければ意味が無いんだよ。私を守ってピクラスが傷つくようじゃだめなんだ」

「自爆を選んだことへの説教ですか」

「そうだ」

 

 今更説教なんて聞きたくない。それに、自分だって守れてないじゃないか。行ってきますなら素直に送り出せた、なのに何故別れの言葉なんだよ!

 

「何のためにいなくなるんですか」

「それは·····」

 

 空中に漂いながらお互い泣いていた。話を聞いていなくても、僕達を守るためにお母さんが命を擲つつもりなのは分かる。人を守る時は自分も守らなければならないなら、何故お母さんはいなくなるんだ?

 

「例えどんな理由があったとしても。ぼくは·····僕はお母さん達が生き残っていればそれでいい!」

「頼む分かってくれ」

 

 分かる?何を分かれって?大切な人の命が散るのを了承しろってか?

 

「わかんない、わかんないよ!」

「どうしても行かなければならないんだ」

「そんなこと聞きたくない!」

 

 一気に踏み込み、顔に目掛けて拳を放つ。当然、届くはずもなく受け流される。今度は搦手も小細工も一切なしでただ殴り続ける。傍から見たらまるで子供の駄々のように見えただろう。

 

「もう、やめにしよう。·····こんな別れ方·····したくない」

「なら!僕が別れる必要なんかなくしてやる!」

 

 幸いお母さんが攻撃を止めたおかげで、魔法の準備が終わった。卑怯だなんだと言われるかもしれないが、そんなの関係ない。どんな手を使っても、誰にも壊させやしない僕の家族を日常を!

 

「拘束しろ!」

 

 短い文言とともに、蜘蛛の糸のようなものがお母さんにまとわりつく。何も出来ずに落下する姿を見て魔法がうまく効いたことを確信する。この魔法は見た目とは違い、物理的なを拘束力はなく、精神を縛るものである。そのため相手の精神が乱れてる時ほど、効果を発揮する。

 

「困頓·····睡魔·····昏睡·····嗜眠·····昏迷」

 

 境内に着地して追い討ちをかける。いくら魔法をかけたって安心できない。次は肉体を拘束しなければ。

 

「閉じ込めろ」

 

 大きな茶色の棺が出現しお母さんを取り込む。棺が閉まり幾重にも鎖が巻かれる。次は壊されないように棺と鎖に強化魔法をかけよう。

 

「強化·····向上·····か」

「やめなさいよ!もう、勝負はついたんだから」

 

 霊夢が止めようが関係ない。安心するためにはまだまだ手順が必要だ。壊されないために。僕の日常を·····みんなの笑顔を守らなければ。あの夢のようにはさせない。そんな考えは一瞬で氷解した。だって、僕を掴む霊夢の手が震えていたから。

 

「·····帰ろう?」

「そう·····だな。これで·····これで、いつも通りの日常が」

 

 いつの間にか降り出していた雨は、すっかり体温を奪っていた。遠くで鳴る雷が空に響く。この世界に来る前も冬のこんな雨の日だった。

 

「帰ろう。僕達のいえ」

「安心するのはまだ早いんじゃないかしら」

 

 紫さんがそう言うと同時にバキッと棺が割れる音がした。先程、幾重にも魔法をかけ閉じ込めたはずのお母さんが悲しそうな顔で棺から出てくる。

 

「あ、あれだけの魔法をかけたはずなのに」

「あの程度の魔法、数分もすれば解ける」

 

 完全に敗北だ。もう、打つ手がない。捨て身の自爆も魔法も全て無意味に終わった。また、奪われるのか?また、失うのか?身につけた力も何もかも無駄だったのか?

 

「ピクラス·····」

「残念だけど、もう時間よ」

「そうか」

 

 と、止めないと。行かせちゃだめだ。このまま、お別れなんて嫌だ!動け!声を出せ!なんでもいいから引き止めろ!そう思うのに動かない。声が出ない。離れていくお母さんを見ていることしかできない。

 

「ぃ·····いかないで

 

 やっとのことで出た声は、小さく掠れていて聞こえたものじゃなかった。僕が発した言葉はお母さんに届かない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ごめん!」

 

 気づけば目の前にはお母さんがいた。へたり込む僕を抱きしめ涙を流している。聞こえていたのだ。あの小さく掠れて何を言っているかも判別ができないような声でも。

 

「私、母親らしいことなんにもしてあげられなかった。中途半端に優しくした結果、心に癒えない傷をつけてしまうことしかできなかった」

 

 しゃくりあげながら言葉を必死に紡ぐその姿は、普段のお母さんには見えなかった。霊夢にとてもよく似た同年代の女の子が目に映る。あぁ、この時期に止まってしまったのだろうお母さんの時は。

 

「そんなことないよ。お母さんがいたおかげで僕はここまで生きていられたんだよ?」

 

 お互いがお互いのことを想い合っている。それなのに、別れなければいけない。唐突に知らされてろくに話し合ってすらいない。

 

「私だってもっと一緒にいたい。ピクラスや霊夢の結婚だって見届けてないし、孫の顔だって見てみたい。何事もなく明日を迎えて、縁側に3人で並びながらお茶飲むんだ。そんな日常をいつまでも·····いつまでも·····つづけて

「なら、そうしよう。行く必要なんてないよ。いつまでも、3人でここにいよう?」

 

 そうだよ。行きたくないなら行かなければいい、簡単な話じゃないか。このまま家に戻っていつもの日常を再開すればいい。確かに、ちょとした行き違いで喧嘩してしまったけれどそれは水に流してさ、何も無かったことにしてしまえばいい。

 

「だから、泣く必要なんて」

「無理だ」

 

 無理だとそう言うお母さんは大人の姿をしていた。

 

「どうしても無理なんだよ」

 

 無理?なにが無理なんだ?どうして無理なんだ?だって、行きたくないんでしょう?行かなければいいだけの簡単な話で·····何も無理なことはなくて·····いつもの日常が·····

 

「いつもの」

「すまない。多分、話しても理解はしてくれないだろう。だから、二人にだけ話した。最後がこんな形になることを許してくれ」

「日常を」

 

 強い衝撃と共に意識が落ちる。お母さんが最後に呟いた言葉は僕に届かなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ありがとう」

 




3人で見上げたあの空は、とても綺麗なものだった。







感謝の言葉は伝わらないのがセオリーですからね。
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