やっと、霊夢らしい霊夢になったんじゃないでしょうか。皆さんのイメージとズレてない事を祈るばかりです。
戦闘描写が下手なのは見逃してください。
目の前から飛んでくる右の拳を何とか避ける。初撃は勘で避けられたが次はそう上手くいかない。お母さんに対して接近戦をするのは不利だ、何とか距離をとらないと。
「逃げてばかりじゃ訓練にならないぞ」
耳元で声が聞こえた瞬間、視界がぐるっと回転した。何とか浮遊することで地面と衝突することを防ぐ。追撃を回避するため後ろに飛び上がる。同時に僕がいた場所をお母さんの足が踏み砕いた。
「危ないな〜。もうちょっとで死ぬところだったんですけど」
「でも、死ななかっただろ?よく逃れたな」
吸血鬼の力を使わずに戦うと、どうしても目が追いつかない。お母さん達は一体どうやって攻撃を見極めているのだろうか。新幹線の中から景色を正確にとられるようなものだ。三人称視点でもない限り無理だろ。
「この五年間でだいぶやるようになったじゃないか」
「そんなこと言ってこっちの攻撃、全部防いでるじゃないですか」
「当然」
手加減してこの状況なのだから、いつまでたっても成長した気がしない。せめて、実感できる何かが欲しいところである。
「本当に強くなっているんですかね」
「五年前の修行を始めたばかりの頃に比べればだいぶ強くなったよ。」
「そうですよね!」
そうだ!そのはず!こんな地獄みたいな戦闘訓練をしていて強くなってなかったら、一日中ふて寝してやる。周りが化け物ばかりなだけだから。僕が弱いわけじゃない。
「なんか失礼なこと考えてないか?」
「ソンナコトナイデスヨ」
相変わらず勘が鋭い。2人相手に隠し事なんて一生できない気がする。する気もないけど。
「まあ、いくら強くなっても霊夢には一生勝てないけど」
「うっ·····未だに気にしてることを」
修行を初めた日から五年も経過していたが僕は未だに霊夢に勝てていない。あれから僕は十二歳、霊夢は十一歳になり順調に成長し唯一身長だけは霊夢に勝っていた。
「よし、そろそろ休憩だ。ちょうど霊夢もお茶を用意してくれたことだし」
「分かりました」
霊夢の入れるお茶はなかなかに美味しいため、訓練後の密かな楽しみである。僕が入れるお茶はあまり美味しくないと、辛辣な事を言われるので霊夢に全部に放り投げた。
「それにしても、あれから五年も経ったのにお母さんは全然老けませんね」
「なんだ?唐突に。私はまだ若いんだから老けるわけないだろ」
怒られてしまった。僕としては褒めたつもりだったのだが『お母さんは五年経っても変わらず綺麗ですね』とでも言えばよかったか。失敗した。そんなことを思いながら霊夢からお茶を受け取り、三人で縁側に座りながら空を眺める。
「女の人に年齢の話をするのは感心しないわね」
「昔を思い出してたら、お母さんあまり変わってないなと思ってね」
「確かに、変わらず綺麗よね」
「そう言われると悪い気はしないな」
サラッと正解を引き当てるあたり流石、女の子というところだろう。老けるという言葉が地雷なのは分かったが、さほど僕が言ったことと、変わらないように感じてしまうのはデリカシーがないからか?
「霊夢の方はこの五年で随分と変わったよな」
「そうかしら。自分じゃあんまり変わった気がしないんだけど」
これだけ変わっていて、自覚なしとは。将来、無自覚に男を引き付けそうだ。こんなに綺麗なのはお母さんと同じ血筋だからか。最近では、思春期を迎えたのかあまりくっついて来なくなったので寂しいぞ!お兄ちゃんは!
「昔はお兄ちゃんと結婚するとか言うくらい、僕にべったりだったんだから」
そうそう。忘れた頃にこうやっていじってやるのが夢だったのだ。さぁ、存分に恥ずかしがれ。
「それは今も変わらないけどね」
「は?」
今なんて言ったのだろうか。
「だから、今も変わらないって言ってるのよ」
「なっ·····何、イッテンノ?」
「はぁ〜」
思ってた反応と全然違う。もっと、こう恥ずかしがって顔を真っ赤にする姿が見たかったのに。なんで、俺が顔を真っ赤にしているんだよ。誰得だよ!
「う、嬉しいけど。あんまりそういうこと言わないで心臓に悪いから」
この五年間で霊夢は見違えるように美人になった。可愛いと言うよりは綺麗と言う言葉が似合うような、女の子に育ったため、ちょっとしたからかいでも毎回ドキッとしてしまうのだ。非常に心臓に悪いのでやめて、頂きたいのだがなかなかやめてくれない。
「ピクラスは相変わらず鈍感だな」
「本当にどうにかして欲しいわね」
「そうかな〜」
時々2人から言われるのだが、一体何をさして鈍感なのか分からない。鈍感系は好きではないので、あまり鈍感と言われるとモヤモヤするのだが。
「ここまでして気づかないのはちょとどうかと思うわ」
「鈍感、鈍感ってこれでも人の感情の機微には聡いつもりなんだけどな」
前世でもそれなりに、上手かったんだぞ人の顔色を伺うの。僕の中で数少ない自慢できる長所なのだから。
「前に言っていた私への隠し事も未だに言わないし。私まだ待ってるのよ?」
「隠し事については、まだ心の準備ができてないというか」
「はぁ〜、待ってる間におばあちゃんになってそうだわ。」
決して霊夢の気持ちに気づいてない訳では無いのだ。だがけど僕達は兄妹だし、霊夢には出会いがないだけで僕よりいい人がいるのでは?そんな考えが頭をぐるぐるして答えが出せないでいる。霊夢の思いもきっと、大きくなってくにつれて薄れていくという考えもこの答えを出さない状況を後押ししている。
「ごめんなさい」
「別に責めてるわけじゃないわよ」
「そうだぞ」
どうしても、答えが出せないでいる自分が嫌いだった。責めているのだとしたら、きっと僕なのだろう。家族みんなが、僕の事を肯定してくれている。自罰的すぎると昔に言われたが、その通りのようだ。
「やっぱり居心地がいいとそれだけ問題が怖くて。決して2人を信用してない訳では無いんだ」
「確かに話の流れで霊夢が急かしたけれど、私達も待っていると言ったんだから急がなくて良いんだぞ」
「そうそう。お兄ちゃんは会話に限らず真面目にとらえすぎなのよ」
こんなふうに最終的には、待っていてくれるからその優しさに甘えてしまうのだろう。
「ありがとう」
「感謝することじゃないでしょ」
「家族にも話せないことなんて山ほどある。それを墓場まで持っていくか、話すかは自分の裁量だからな」
ここで言ってしまおうか?実は俺、前世の記憶があって精神年齢が三十を超えるおじさんなんだって。無理だな。チキンと言われても仕方がないが、どんな反応をされるか考えると胃がキリキリする。
「最近、魔理沙ちゃんとはどうなんだ?」
「私は最近、魔理沙とは会ってないからよく分からないわ。お兄ちゃんの方が魔理沙に関しては詳しいんじゃないの?」
「なんで霊夢は少し怒っているんだ?」
「別に怒ってないわよ」
何故か、最近では魔理沙と霊夢がよく喧嘩をするのだ。何が原因なのか2人とも話してくれないため、どう知ればいいのか困るのだが、仲は悪くないため放置でいいのだろう。痴話喧嘩みたいなものと、とらえておくことにしている。
「魔理沙なら昔と変わらず一緒に魔法の研究をしてるよ。最近は教えてもらうことも多くなったかな」
魔理沙は魔法について僕よりも努力家で、お母さんの本を読むだけの僕とは違い独自に研究開発してたりする。そのせいか、最近では魔理沙に教えてもらうことも多くなってきて師匠として情けない思いである。
「ピクラスから見て魔理沙ちゃんは前と変わったところとかないのか?」
「変わったところと言えば言葉遣いが少し変わったかな?」
「言葉遣い?」
「うん。〜だぜとか時々言うし」
「ふふふ。だぜって、何よそれ」
何がツボに入ったのか分からないが、面白かったのか滅多に笑わない霊夢が笑っている。少し男っぽい口調だが、そこまで変ではないだろう。
「そんなに面白かったのか?」
「ええ、ちょっと会わないうちにそんな言葉遣いになってたのね」
なんでそんな言葉遣いになったのかは本人曰く。
『親父が『お前は女なのに男のように遊び回って。いっそ男になったらどうだ?』なんて言ってきたから嫌味でこの喋り方に変えたんだ。その、ピ、ピクラスが前の方がいいって言うなら·····戻すけど』
『魔理沙の好きにしたらいいと思うよ。どっちも魔理沙らしくて僕は好きだし』
『す、好き!?そうか好き·····か。えへへ』
会話は概ねこんな感じだった。この体になってからは記憶力がいい為、一言一句覚えていたりする。
「〜ってことがあってさ」
「そう」
「なんでそんな不機嫌なの霊夢」
「別になんでもないわよ」
なんでもない時の声色ではない。何かが霊夢の琴線に触れたのだろうが、心当たりがないためあたふたしてしまう。
「はぁ〜、私夕飯の買い物に行ってくるわ」
「待って霊夢、僕も行くよ」
「ピクラスちょっと待ちな」
「え?」
「これからのことを話したい」
「わ·····かりました」
これまで八年間お母さんとは一緒にいたが、真剣な表情で話しかけてくることは少ないため少し緊張する。これからの事なんて、言われたのだから尚更。
「まあ、そんなに緊張するな」
「それなら、これからの事なんて言わないでくださいよ」
「あはは、それもそうだな」
全然笑えない。色々な悪い予想が脳内を駆け巡るが、話を続けていけばわかるだろう。知りたいようで、知りたくないが覚悟するしかあるまい。
「まずは、軽い話からしようか」
「軽い·····話」
「ピクラスから見て魔理沙は変わったところとかないのか?」
「え?さっき話した口調の変化くらいですけど」
「そうじゃなくて、もっとこう見た目の変化とか具体的に」
見た目的な変化か、それを知ってどうしたいんだろうか。会話の先が見えてこない。軽い話と言ったし普通に答えればいいか。
「見た目ですか。はっきり言って可愛くなったと思いますよ。もし同年代の子達ともっと関わっていたら、色んな子に好意を持たれていたでしょうね」
魔理沙も霊夢に負けず劣らずに可愛くなったと思う。無邪気に笑う姿は、僕じゃなかったら惚れていると確信されられるほどに可愛く見える。傍から見たら無邪気で可憐な少女に見えるだろう。凛とした霊夢とは対照的に、よく笑いよく喋る彼女を見ていると微笑ましい気分になってくる。
「そうか、ここからは真剣な話になってくるがピクラスはこの先、二人とどうするつもりなんだ?」
「どうするか·····ですか」
「二人の気持ちについては気づいているんだろう?」
「お母さんは僕が気づいてること知ってたんですね」
「当たり前だ、私は母親なんだぞ」
意外とと言えば意外だが、なんだかんだ聡いお母さんのことだから気づいている事は薄々、分かっていた。今までは我関せずな態度をとってきたのに、今になって聞いてきたってことは何かあるのだろう。
「それで、どうするつもりなんだ?」
「どうするつもりもありませんよ」
「つまり?」
「多分、告白されても断ります。」
即答はできた。だが、「断る」とはっきり言うことは出来なかった。なぜなら、今の自分の気持が何なのか分からないし告白されてはっきり断れるほど僕の意思が強いとは思えなかったからだ。
「なんで断るんだ?」
「だって二人は、傷心だった時に優しくされたから僕を好きになったんですよね。それって傷ついてた二人に、僕がつけこんだだけなんじゃないかって思うんです」
霊夢や魔理沙だって普通の女の子なら、普通の出会いがあって普通に恋愛をしたはずだ。2人の視線が今の僕に注がれているのは、出会いの場に僕しかいなかったからにほかならない。
「理由はそれだけじゃないんだろ?その理由はあくまで建前だって事ぐらい私にもわかる。もし私の勘違いで、それだけが理由だったら許さないけどね」
『先にこの理由をいえば怒ってくれると思っていたし、駄目な僕を怒って欲しかった、叱って欲しかったこんなにも愛してくれているその思いに応えられない僕を。』
「僕は、壊れているんです。人を好きになれないんです。前世から僕の好きは、誰にも貰えなかった愛情を貰いたいがための擬似的な好きでしかない。愛情が欲しくて擦り寄ることはあっても相手を好きなわけじゃない、まるで虫の交尾と同じですよ」
『お母さんは黙って僕の言うことを聞いていた。時々頷きながら真剣に話を聞いてくれる。そんなお母さんになんて言われるのかが怖くて、どんどん聞いてないことまで喋りだしてしまう。』
「どれだけの愛情を貰ってもそれに応えられないんです。僕が感じる好きも嫌いも表面上のものでしかないんです。心の底では、どこか無感情な僕が冷めた目で見つめてるんです。まるで自分と感情との間に壁があるような、自分というキャラクターを画面越しに動かしてるような」
『そう、いつもいるのだこんな時でさえ冷静に頭の中で語る自分が。この頭の中の独白がやむことは無い。お母さんが死んだ時も憎しみに囚われていた時もいつも冷静な自分が頭の中で語り出す。』
「長々と語りましたけど結論を言えば、僕は心から誰かを好きになることが出来ない。だから僕は、そんな不誠実な気持ちで僕を好きでいてくれる人と付き合うことは出来ないと言うことです」
「そうか、話してくれてありがとう」
「·····感謝なんてしないでください」
紛れもない本音。醜くて汚らしい。心の底から軽蔑されても仕方の無いことだ。だってここまで過ごしてきた中で僕が表現した愛情を否定して、心の中ではお前らなんか愛していないと叫んでいるに等しいのだから。
「ピクラスのことだからもう色々悩んだ結果で、その結論を変えることはないんだろう。だから、最後に聞きたいピクラスはこれからどうしたい?」
「いつか、心の底から人を好きになってみたいです」
散々、先程まで厨二病的な発言をして告白まで断ると言っていたが、決して霊夢や魔理沙のことが嫌いになったわけじゃないのだ。だから僕が、心の底から好きだと言えるまで安易に告白を受け入れたくない。なんだか、最後の発言まで厨二病的になってしまった。
「ピクラスのその気持ちは時間が解決してくれるはずだ。だから、結論を急がずゆっくりと答えを出すといい。ピクラスは慣れていないんだよ、感情を表に出すことが。」
「慣れ·····ですか?」
「そう。ピクラスは普通の子供と違って幼少期から、常に人の顔色をうかがって偽の笑顔を貼り続けていたんだろう?だから、本当の自分が分からないんだ」
確かに、お母さんの言う通り僕は幼少期から常に笑顔を貼り付けて生活していた。苦しい時、辛い時いつも笑っていた。だって、泣くと殴られたから。その結果、表の自分と裏の自分ができたということだろう。僕はいわゆる二重人格のなりそこないということか。
「安心していい。そう遠くない未来、人を好きになれると私が断言するよ。だって、私はピクラスがそんなに人を心から愛せない人間だとは思わないからね。演技ならお母さんが死んだ時のような涙は流せないよ」
確かにそう言われると、僕は心の底からお母さんを愛せていたのだろうか。
「さあ、少し重い話になっちゃたけどピクラスの本心が聞けてよかったよ」
「僕もお母さんと話せて良かったです」
「魔理沙ちゃんが待っているんだろ?早く行きな」
「はい、行ってきます」
そう言って、空を飛ぶ僕の体は以前より少し軽かった。
救いたかった心、残さない後悔
お母さんが何故こんな話を突然したのか、この伏線はもう少しあとに回収されます。どうしても息子の心を今、救っておきたかったんですよね。