踏み出す一歩は軽快に   作:zawadinosaur

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今回はレイシアちゃんが主役です! もしかしたら星座の人とかその他の人借りるかもです!彼女のキャラに合うように出来るだけ明るい文体を目指しました。


第一話 アタシのプロローグ

それはとある豪邸の、優雅なモーニングコーヒーの時間に起きた。

時刻は午前7時半。

屋敷食堂のテーブルを囲っているのは豪邸の主人と、その愛娘。

そしてその部屋の端には何人かの使用人が無言で控えている。

漫画やアニメでよく見る、大富豪の一般的な食事風景だ。

食事をしている2人の様子も、実に様になっていた。

この場面だけを切り取れば、それなりの値打ちのある絵画になっていたかも知れない。

ただ一点、おかしなことがあるとすれば、

 

「パパ! アタシ今日から働く!」

 

食事を終えてテーブルから立ち上がった娘が、いきなりおかしな宣言をしたことだけだろう。

 

「おぉ、そうかそうか。 頑張ってきなさい………………………………って、え?」

 

愛娘の突然の宣言に、父は目を丸くする。

その様相は正しく、鳩が豆鉄砲を食ったような顔だった。

まさに不意打ち。

意識外からのボディーブロー。

相当の衝撃だったのか、手に持っていたコーヒーカップが滑り落ち、純白のテーブルクロスを瞬く間に茶色に染めていく。

壁に控えていた使用人が慌てて駆け寄る中、父はまだフリーズしている。

まるで電池を抜かれた玩具みたいだ。

 

「おっしゃあ! 言質取ったあ! それじゃ行ってきます!!」

 

身動き一つしない父を尻目に、レイシアは部屋を飛び出す。

無駄に煌びやかで長ったらしい廊下を走り抜けると、その先にもっと煌びやかな玄関が見えてきた。

既にそこには昨日のうちに荷造りしておいたバッグとトランクが置いてある。

重たいバッグを背負い、トランクを全力で転がす。

走る速度は勿論全力。

多少強引だとは分かっていたが、あの過保護な父のことだ。

話し合いでお互いの妥協点を見つけることなんて、きっと出来なかった。

だからこそ、余計なことが起こらない内にさっさと事を済ませてしまうことにした。

先手必勝、というやつだ。

 

玄関を飛び出すと、そこにはエンジンの点いた一台の漆黒の高級車が停まっていた。

レイシアは滑り込むように車内に乗り込む。

 

「パパが来る前に出して!!」

 

「了解です。 お嬢様。」

 

レイシアが扉を閉めると同時に車はアクセル全開で発進する。

あっという間に法定最高速度まで達し、周りの景色と一緒に屋敷の姿が流れていく。

念のために後部ガラスから屋敷を覗くが、父からの追手らしき人影も車両も見当たらない。

あの様子だと、父はまだフリーズしていることだろう。

これでこのままカルコッツ島まで逃げ切れば、取り敢えずは安泰だ。

ふう、と安堵の息を吐き後部座席に全体重を預ける。

全身の力を抜くや否や、強烈な睡魔が襲ってきた。

そういえば昨夜は夜通し荷造りをしていたせいで全く眠っていない。

大仏のように重くなっていく瞼に抗っていると、

 

「…………本当にこれで良かったのですか、お嬢様? 旦那様ともう少し話し合われても良かったと思いますが。」

 

ドライバーのナイルはルームミラー越しにレイシアをじっと見つめると、心底心配そうにレイシアに問い掛ける。

見慣れた紫紺の瞳は、分かりやすいくらいに元気がなかった。

 

「いいんスよ…。 あのアホ親父どーせ何言っても納得してくれないっス。 アタシもう18なんスからもう少し自由にやらせて欲しいっス。」

 

レイシアは頬を膨らませながら父への不満をぼやく。

彼女の父はかなりの大富豪で、家柄にも血筋にも恵まれている男だ。

代々受け継いできた会社を一代で巨大企業にまで押し上げ、巨万の富を築き、世界的に有名なデザイナーの女性と結婚した。

夫婦の関係は娘の目から見てもラッブラブだったのだが、母が仕事の都合で家を開けていることが多いため、父からの母への愛はレイシアへの愛情にコンボ加算されたわけだ。

そのため、彼は非常に過保護だ。

屋敷にいる使用人は皆レイシアの健康と安全に過剰なまでに目を光らせている上、父は別の学校の上級生を雇ってボディガードまがいのことまでし始めた。(後のナイルである。)

決して悪い親というわけではないのだが、年頃の少女であるレイシアには少々鬱陶しいものがあった。

その結果が現在というわけだ。

 

「そう、ですか………。」

 

「………?」

 

何か含みのありそうな言い方にレイシアは首を

傾げるが、その意味を考えるより先に深い眠りへと落ちていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「到着しました。 起きてください、お嬢様。」

 

「……ハッッッ!!? 寝てたっス…!」

 

ナイルの静かな呼び掛けにレイシアは座席から勢いよく飛び上がる。

程よく揺れる車内の環境でいつの間にか爆睡ちゃんをかましていたらしい。

ヨダレを拭いながら外を見れば、車は既に目的地のヘリポートに到着していた。

ポートには既にヘリが到着しており、島のスタッフらしき男性が待機している。

 

「…いよいよっスね。」

 

新しい生活への一歩は、あのヘリに乗るだけで始まる。

そう考えると、ワクワクするのと同時に、同じくらい怖い。

もしかすると、これは間違った選択なのかも知れない。

あの屋敷で、父の庇護のもと暮らすことこそが正解なのかも知れない。

この一歩は、レイシアの人生に無意味で、余計なものなのかも知れない。

でももう、自分の心は決めてある。

決断を曲げないことが、自分の長所だと信じている。

 

「よっしゃ! じゃあ行ってくるっス!!」

 

弱気な自分はもう蹴り飛ばした。

意を決して、ヘリに向かおうとしたその時だった。

 

「ーーー。」

 

くい、と僅かに後ろに引かれる感覚。

妙に思って振り返ってみると、

 

「……ナイさん…?」

 

ナイルが、レイシアの袖の端を掴んで引き留めていた。

下を向いているせいで表情は見えないが、きっと心中穏やかではないのだろう。

 

「やはり…僕は反対です。」

 

絞り出すような声でナイルはレイシアに告げる。

 

「今からでも遅くはありません。 旦那様ときちんと話し合ってください。 きっと、厳しくお叱りを受けることになるでしょうが、その時は僕も一緒に叱責を受けます。 責任も全て僕が負います。 ですから、どうか…。」

 

ナイルの懇願に、胸を締め付けられる。

彼女の言い分は、きっと正しい。

だって、弱気なレイシアもさっきまで彼女と同じことを考えていた。

 

「…それは『アタシのボディーガード』としてのナイさんとしての言葉っスよね。 『アタシの親友』としてのナイさんは、どう思ってるんスか…?」

 

卑怯な言葉だとは分かっているが、今のは明らかにあの屋敷の使用人としてのナイルの言葉だ。

だって、一人称が違う。

彼女はレイシアと2人きりの時だけは、『レイシアの親友』として振る舞う時は素の彼女が出る。

なら、レイシアの親友としてのナイルは何を考えているのだろうか。

それを聞かずにはいられなかった。

 

「……私がレイシアを止める資格なんて、ない。 貴方の人生は貴方が決めるもの。 他の誰かが干渉していいものじゃない。」

 

ナイルはコホンと咳払いをすると、先程とは全く別の口調で喋りだす。

多分、これが彼女の本音だ。

嘘偽らざる、レイシアの親友としての彼女の言葉だ。

彼女がレイシアの行動に反対していないことにほっと胸を撫で下ろそうとした。

 

「でも。」

 

だがそんなレイシアの安堵を遮るようにナイルは言葉を切った。

どんな言葉が飛んでくるのかと身構えてしまう。

だが、彼女の口から出たのは叱責の言葉でも引き止めようとする言葉でもなかった。

 

「ーーーでも、レイシアと離れるのは、寂しいな。」

 

ただの、寂寥の言葉だった。

そう言ったナイルの紫紺の瞳は、涙で潤んでいた。

きっと、彼女は揺れているのだ。

使用人としての立場では、レイシアを引き留めるべきだと思っている。

だが同時に、親友としてはレイシアの道行を妨げてはならないと思いながらも寂しさを抱えている。

普段は感情を表に出さず、私生活のほとんどで主と従者という一線を弁えている彼女がここまで感情を曝け出していることが嬉しくて、悲しくて、愛しくて、

 

「〜〜ッ!!」

 

気が付けば、彼女に抱きついていた。

密着しているせいか、彼女の加工のない甘い香りが鼻腔を満たす。

 

「大丈夫っスよナイさん!! 毎日連絡するっス! 毎日電話するっス! 休みには絶対帰ってくるっス! だから…だから……え〜っと………!?」

 

ナイルの顔を見て、見切り発車で喋り始めたせいで次の言葉が出てこない。

何かいいことを言おうと思案しているレイシアを、ナイルは優しく抱き返す。

 

「……うん、分かってる。 レイシアの気持ちは、分かってるから。」

 

数秒の抱擁の後、2人はほぼ同時に回した腕を解く。

ナイルの体温が腕に名残惜しく残る中、彼女は胸に手を当て軽く会釈をする。

寸分の狂いもないその動きは、まるで機械のようだったが、レイシアには迷いを振り払うための動作にも見えた。

 

「では、お気を付けて行ってらっしゃいませお嬢様。 その道行に、祝福があらんことを。」

 

表情こそ笑顔ではなくいつも通りの無表情だが、その言葉に不思議と元気が湧いてくる。

 

「はい! 行ってくるっス!!」

 

花のような満面の笑顔で、レイシアはヘリに乗り込んだ。

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

「…と、いうわけなんだ。 ここまでで質問はあるかな?」

 

「ナッシングっス!!」

 

レイシアの元気一杯の返事に、案内係の女性は満足気に首を縦に振る。

 

「よ〜しいい子だ。 覚えがいい子にレクチャーすると楽だねぇ。」

 

案内係の女性ー確かリーラと名乗っていた人物は、持っていたファイルを指先で起用にクルクルと回転させると、パリコレのモデルみたいにカツカツとヒールを鳴らして通路を進む。

何だか外見と中身のギャップに笑ってしまう。

黒スーツでビシッとしていてお堅いイメージがあったが、どうやらこっち側の人種らしいことに親近感が湧いてくる。

 

「それじゃ、次はこの施設を回ろっか。 聞きたいことがあったらその都度お願いね。」

 

「はいっス!!」

 

レイシアは小走りでリーラの後を付いて回ることにした。

食堂、喫煙室、研究施設、オペレータールームに局長室。

色々と見てきたが、最も印象に残ったのはやはり局長室だ。

なんて言ったって地味だった。

インテリアはほぼなしで、本当に必要最低限のものしか置いていなかった。

幼い頃に覗いた父の仕事部屋とは対照的だった。

きっと、局長の人柄が表れているんだろう。

軽い面接をしたが、穏やかすぎて思わずパパと呼んでしまいそうだった。

 

ああそれと、道中感じたことといえばリーラは軽薄に見えても非常に頭がキレるということだ。

全ての解説が本当に分かりやすかった。

教職にでも就いていれば、一角の講師にでもなっていたのではないだろうか。

 

「さて、取り敢えずこれで施設巡りは終わりだね。 局長への顔通しも済んだし。」

 

施設巡りはあっという間に終わってしまった。

決してここが狭かったというわけではない。

途中で寝てたとかそういうわけでもない。

ただ、リーラの解説に聞き入っていたら、時間がマッハで進んでいただけだ。

案内が終わった2人は、結局先程の通路に戻ってきた。

 

「じゃあ、あとはどの部隊に配属するかだね。 さっき教えた3つの部隊のことは覚えてる?」

 

「はいっス! 討伐部隊、情報部隊、研究部隊っスよね!」

 

レイシアとしては、この中で選ぶのなら討伐部隊だと思っている。

ここに来る前にイメージしていたCCSRのイメージそのものだ。

それに、デスクワークはあまり好きじゃないのだ。

 

「は〜い、良くできました。 ちなみに私は情報部隊。 私レイシアちゃんみたいな部下欲しいな〜? 覚えがいいし可愛いし〜?」

 

「ちょっ…! 近いっス…!」

 

リーラは軽い身のこなしでレイシアに抱きつくとスリスリと頬擦りを始める。

レイシアもナイルのこういったことはたまにするが、2人はまだ初対面だ。

リーラは何だか、物凄く距離が近い。

 

「ねえリーラ、ちょっといいかしら?」

 

そんな側から見たらイチャイチャしているカップルのようにしか見えない光景に割って入る声があった。

リーラと共に後ろを振り向くと、そこには灰髪赤目の女性が立っていた。

スタッフの格好をしているが、きっとここの職員なのだろう。

体格は小柄だが、所作が大人びていて年齢が判別できない。

それに、まるで刃物みたいな鋭さの視線だ。

目が合うだけで縮み上がってしまう。

 

「おっ、ヘレナじゃん。 どったの?」

 

そんな彼女を前にしてもリーラの態度は先ほどと全く変わっていない。

いつも通り飄々とした態度であの女性と話をしていた。

レイシアはリーラの後ろからチラチラ見るのが精一杯だというのに。

 

「イズモに報告することがあるんだけどアイツいないのよ。 どこに居るか知らない?」

 

「ああ、イズモさんならさっき食堂で見かけたよ。 今ならまだ居るんじゃないかな?」

 

「分かったわ。 ありがとう、リーラ。」

 

「いえいえ〜。」

 

短い会話が済むと、ヘレナは踵を返し、通路の先にスタスタと歩き去ってしまった。

2人が話していた内容はカケラも理解出来なかったが、それはそれとして聞きたいことがあった。

 

「……リーラさん、あの人誰っスか?」

 

あの、刃物みたいな雰囲気の人物のことだ。

何故だろうか、レイシアはあの人物が気になって仕方がなかった。

 

「ん? あいつはヘレナ。 私の親友で今は討伐部隊の隊長やってる。」

 

『隊長』という言葉を心の中で反芻する。

成る程確かにあの雰囲気は隊長という単語がよく似合う。

レイシアの脳内の出来る女上司像そのものだ。

 

「はえ〜。 すっごい美人さんでしたね…。 しかも隊長なんスよね? やっぱり色んな人に慕われてるんスか?」

 

フィクションの世界では、見た目は怖いがみんなから慕われる上司というのはお約束だ。

きっと彼女もそうなんだろう。

レイシアの素直な感想を聞くと、リーラは少しだけ困った表情をした。

 

「………そこがね。 あいつ部下が誰もいないんだよ。」

 

「…え? それって、アリなんですか?」

 

聞いていた話と随分と違う。

討伐部隊には一つの隊に20〜30人所属していると聞いていた。

リバイバーと戦う以上、それだけの人員は必須なはずなのにどうして彼女はそんな命知らずなことをしているのだろうか。

 

「いや、ホントはダメ。 だけどあいつは局長のお気に入りだからね。 それに、独りなのになまじ何でもこなせるからホント悪循環。 私も何度も部下を持つように言ってるのに、頑として断るんだよ。」

 

しかもその危険な状態を自分から望んでいるというのだろうか。

そんなの、馬鹿だ。

とんでもない大馬鹿だ。

それに、そんなのあんまりにも寂しい。

 

「あの、リーラさん?」

 

「何?」

 

「…その、無理矢理でもヘレナさんの部下になることって、出来ますか?」 

 

勇気を振り絞って、そんな提案をした。

レイシアはまだ採用が決定しているわけではない。

そんな時、ここで不興を買ってしまえば最悪クビにされるかもしれない。

でも、彼女のそんな不安は杞憂に終わった。

 

「……あっはは! 最高だねそれ!」

 

レイシアの言葉にリーラは目を白黒させると、勢いよく吹き出して腹を抱えて笑い出した。

『その手があったか』と言わんばかりだ。

全く失礼な物だ。

レイシアは極めて真剣に提案したというのに。

さっきまでの緊張と不安を返してほしい。

 

「オッケーオッケー! じゃあちょっと局長に交渉してくるよ! ちょっとここで待ってて。」

 

一通り笑い終わった後のリーラは子どものように表情を輝かせると、急ぎ足で何処かへ歩き去ってしまった。

きっと彼女は本当に嬉しいのだろうと、レイシアには何となく分かった。

レイシアだって、あの任務に忠実でどこまでも真面目なナイルに良い変化が起こりそうならば、すごく嬉しい。

今のリーラはきっとそういう状態なんだ。

あの刃物のような女性にそういう友人がいることに、初対面なうえ何も知らないのに勝手に安堵する。

まあ、それはそれとして。

 

「……よっしゃ!」

 

リーラの言った『手続き』とやらにはきっと数十分掛かるのだろう。

そんなの、こんなところで待っていられない。

レイシアは、軽い足取りでステップしながらヘレナを追いかけることにした。




ナイさんの設定をちょっと変更しました。普段は一人称が「僕」ですが、レイシアと2人きりの時だけ一人称が「私」になって「お嬢様」呼びから呼び捨てになります。この辺りの話はいつか掘り下げるかも知れません。2人の関係は志貴と翡翠、若しくはかぐや様と早坂をイメージしてます。
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