魔法つかいプリキュア! 〜奇跡と魔法と幸福の翼〜 作:シロX
まだ朝日が昇る前の早朝の時間。
両手に大きなゴミ袋を両手に抱えながら、翼の姿が和風門から出て来た
いくら夏真っ盛りの季節で夏服姿の翼でも、早朝は少し肌寒くて体を震わせていた。十六夜家の敷地が無駄に広い事もあり、ごみステーションまでが遠い。話相手でもいれば暇は簡単に潰せる。そんな面倒に付き合ってくれるのは相棒二人だった
「ふわぁ…悪いな二人共、いつも付き合ってくれて」
『ゲゲゲ、それはお互い様だ。オレ達も基本暇してる』
『フフフ、それに朝の散歩はとても体に良くて気持ちの良いもの。寧ろありがとうね……フ?』
ごみステーションでごみを置いて帰ろうとした時、フフの目に気になる人物が映った。それはことはだった。
何故こんな朝早くに出歩いているのか。それにリュックも背負って一人で歩いている。お出掛けをするにしてはあまりにも早過ぎる
『フ、はー子?』
『ゲゲ、みら坊とリコ坊の姿も見当たらねぇ』
「あ、二人共、はーちゃんから少し離れた後ろを見てみろ」
ことはから少し離れた距離で、見つからない様に隠れながら後を追い掛ける小さな影が見えた。誰がどう見ても見間違える筈の無い、ぬいぐるみのモフルンだ。
モフルンも何故一人で出歩いてるのか。そして、何故ことはの後をこっそりと追い掛けているのか気になった。
モフルンの周辺にもみらいとリコの姿は無い。
少し奇妙だと思い、翼達は取り敢えず先にモフルンに声を掛ける事にして歩き出した
ことはから隠れながらの為か、歩いてもすぐ追い付ついた
「モフルン何してるんだ?」
「も、モフ!?翼!」
急に声を掛けられて、ビックリして思わず少し大きな声を出してしまった。すぐさま両手で口を覆って閉じた。早朝とはいえ人はチラホラと見かけるが、幸い気付かれる事は無かった
「それでモフルン。どうして、はーちゃんの後ろをこっそり付いて行ってるんだ?」
「はーちゃんが、何も言わないで朝早くから出て行っちゃったのを見たからモフ」
「それなら直接本人に訊けば──」
『フフフ、女の子が一人で家を出る理由をわざわざ訊くの?フフフ、いくら何でもそれはデリカシーがなさ過ぎるわ』
「しっーモフ!声が大きいモフ!後、頭下げて隠れるモフ!」
モフルンに言われて、翼達は口を閉じて静かに物陰に隠れる。ことははまだ、モフルンの尾行には気付いてはいない
「このまま後を追うモフ」
そのままことはの後を追い続けた翼達だが、様子を見る限りでは目的地も決まって無いのか、キョロキョロと見渡してはゆっくりと歩いている。
そんな刑事並みの尾行が数時間続き、完全に朝を迎えて商店街までやって来た
商店街まで来たことはは、徐に魔法でシャボン玉を作り出して何かに浸っていた。顔を振って思い出さない様にしている。翼から見て、少し無理しているに見える。本当にこのまま見守ってるだけで良いのだろうかと、思っているとことはが此方の方へ振り返った
「「ッ!」」
見つからない様に更に小さくなって影に隠れる。頭があまり出ないくらいで覗き込み、ことはが歩き出すのを見届ける。ちょっとした、だるまさんがころんだみたいな状態。しかし、周りからの目も痛い。ある意味人生を賭けた遊び
「見つかるところだったモフ…」
「朝からこんな事してるなんて…これじゃあ完全に変態じゃねぇか…あっ!」
突然徐に走り出したことは。翼はモフルンを抱えて、見失わない様に走って追い掛ける。ことはは止まる事なく商店街を通り抜け、住宅街の細道を通って人気の無い裏道へと入って行った
「速いけど…いたいた発見!」
女の子だからといってしまう甘く見ていた事もあり、偶に視界から見失う事もあったが何とか食らいついた。
ことはは、此方に背を向けてほうきに跨って空へ飛ぼうとしていた。しかし、全く魔法を使えずほうきは応えてくれない
モフルンと顔を見合わせながら、そんなことはに近付いて声を掛ける
「はーちゃん」
「うわぁ!離して!!」
肩に手を伸ばして声を掛けたのだが、後を付けられていたのが翼が思う以上に怖かったらしく、振り返りざまにことはの拳が翼の頬を殴り飛ばした
「翼、大丈夫モフ!?」
「えっ、翼?」
モフルンの声でようやく翼だと認識し、その場で呆気に取られていた
////////
場所を公園に移して、木陰が当たるベンチに座ってゆっくりことはに話し掛ける。
リュックを持ち、家の人に誰も言わず朝から家を出る。好奇心という言葉で片付けるにしても無視は出来ない
ことはの心の内に踏み込む事になるが、その事情を聞き出す
「このままエメラルドが狙われ続けたら、皆んな大変な目に遭っちゃう。わたしは皆んなの所に居ちゃダメなんだよ」
皆んなを思う理由での家出。あまり感心はしないが、エメラルドの事で今まで戦って来たのは事実。
だから肯定は勿論、否定もしない
しかし心配はする
「行く当てはあるのか?」
「……あの場所が何処かも分かんないし、わたし、何処へ行ったら…?」
家を出た挙げ句、無計画で行動を起こした為に行く当ても無い。
これからどうすべきか考えてると、ことはの腹の虫が翼達の耳に届く
「朝ご飯食べてなかったモフ?」
「行く当ては無くても、魔法が使えるから一応食料問題には困らないな」
「そうだね。キュアップ・ラパパ、サンドイッチ出てきて」
魔法のタッチペンを軽く振り、魔法の言葉を唱えるも魔法が応えてくれる事は無かった
「さっきもほうきで飛べなかったし、どうしちゃったのかな…」
「きっと、はーちゃんがしょんぼりしてるからモフ。元気が無いと、魔法も上手く使えなくなるリコが言ってたモフ」
「べ、別にしょんぼりなんてしてないもん!」
かなりデリケートな問題で今は魔法が使えない。本人は否定してはいるが、結局の所使えない事は変わらない
「取り敢えず俺の家に来い。二人には内緒にしておくから……はーちゃん?」
行く当ても無ければ、頼みの綱である魔法も今の精神状態だと使えない。妥協案として十六夜家に誘ってはみる。しかしながら、ことはは左から右へと話を流していた
ボーっとすることはの視線が気になってその先を見ると、何組かの親子が居た。目元をよく見ると少し潤んでいる
「あ、そうだ。作ったクッキー持って来てたんだ。翼も食べてみて」
何か考えていたらしいが、それを振り払ってクッキーが入ってある包み紙を取り出した。包み紙を広げて翼にも分けてあげた
「昨日わたし一人で作って、みらいとリコとモフルンにもあげたの」
「はーちゃんの手作りか。いただきます……ん?」
手に貰ったクッキーをひと齧りして、翼はその味に違和感を感じて食べる口を止める
「翼?」
「はーちゃんってしょっぱいクッキーが好みなのか?」
「えっ!?」
その感想を聞いてことはも急いでひと齧りしてみる。その味は、翼が言う様にしょっぱいもの。甘いとはまた程遠い
「本当だしょっぱい。皆んな美味しいって食べてたのに…」
どうやら、作ったことはもクッキーの味までは確かめておらず今この事実を知った。恐らくだが、作る時に砂糖と塩を間違えたのが可能性として高い
「塩を使ったクッキーはお店でも売ってある。でもまあ、間違えたてしまったから凹むよな。それでも、みらいやリコが美味しいって言ったのは多分──」
「──こんな所で楽しくおやつの時間ですか?」
クッキーの事で悩み始めた所に、更に雰囲気を悪くさせる人物・ヤモーが現れた
「今日こそはエメラルドを渡して貰いますよ。絶対に!!」
その執念は使命を超えて、もはや狂気に近いものを感じる。今回で全て懸けるつもりなのか、その気迫を感じる
体から瘴気を溢れ出して足元には魔法陣が現れる。落ちてある虫かごを取り込み、空も闇に染まっていく
魔法の力が働き、虫かごと己自身を使ってヤモーは巨体な怪物へと変貌する
「はーちゃん変身…ぐわっ!」
「翼!きゃっ!」
怪物となったヤモーの口から、エネルギーの塊で出来た縄状のもので翼を弾き飛ばし、ことはを捕らえた挙げ句、そのままヤモーのお腹の檻に閉じ込める
「スマホンが…これじゃあ変身出来ない!」
スマホンにも影響があり、変身が出来ない状態まで追い込まれてしまった
「はーちゃん!!」
翼は両手に、
「翼君!モフルン!」
「わたし達のはーちゃんに何してるのよ!」
ほうきに乗ってみらいとリコがタイミング良く、翼の前に現れた
「二人共、早く変身するぞ!」
「みらい、リコ!」
「「うん!」」
『キュアップ・ラパパ!』
『ダイヤ!』
『ミラクル・マジカル・ジュエリーレ!』
「ふたりの奇跡!キュアミラクル!」
「ふたりの魔法!キュアマジカル!」
『魔法つかいプリキュア!』
「煉魔之刀剣──侵食率50%!」
ヤモーは大きな足で踏み付けようとして来るが、三人は後ろに下がって避けてみせた。
翼は悪魔の翼を大きく広げ、飛び掛かり一振りする。けれども闇の魔法によって阻まれて刃が通る事は無く、逆に弾かれた
『ゲ、厄介だな』
「だったら魔法を斬るまでだ──
放った悪魔魔法はヤモーの腕に直撃し、その身に纏う闇の魔法を一時的に消し去った。邪魔するものは無くなり、これでミラクルとマジカルの攻撃も通りやすくなる
「今がチャンスだよ!」
「行くわよミラクル!」
ミラクルとマジカルは息を合わせて高くジャンプし、ヤモーの顔にダブルキックを仕掛ける
が、ヤモーの咆哮によって阻まれるだけではなく、その圧で簡単に吹き飛ばされる。その先は木が生えており、背中を強打してその場に蹲る
そして、因果斬りによって消し去った闇の魔法が復活してしまった。
近付けばヤモーと闇の魔法の力によって押し返され、かといって距離を取って戦うにも攻撃手段が限られている。
望みの悪魔魔法・因果も時間が経てば、それも復活して返り討ちに遭う
三人も居て、尚且つ一人欠けている状態でこの有様。ことはを救出するのは、想像以上に困難を極めていた
そんな三人の姿を見て、ことはもう耐えられなかった
「わたしの事はもういいの!だって、エメラルドとわたしがいるから皆んなまで狙われちゃう。わたしが居たら、いつまでも皆んなを困らせちゃう!」
「だから、『さようなら』って置き手紙を…」
「わたし達の為に?」
ことはは、置き手紙をしてまで家を出ていた。そこまでしてでも、ことはは皆んなを守りたく思い強い決断をしていたのだ
「でも、そんな大事な事を一人で決めるなんて!」
「どうしてわたし達に話してくれなかったの?」
「…二人だって、二人だってわたしに言ってくれなかった!クッキーがしょっぱいって、本当は美味しくないって言ってくれなかった!」
そんなことはに更に追い打ちを掛けたのは、何気ないひと言を言ったミラクルとマジカルだった。気を遣わせたと思ったのもあったが、それ以上にちゃんとクッキーの味について何も言わなかったから
『ゲゲ、来るぞ!!』
ことはとの対話すら満足にさせてはくれない。水を差す様にしヤモーが、巨大な尻尾で叩き潰そうと振り回して来る
悪魔の翼を大きく広げて、その尻尾を受け止めてミラクルとマジカルを庇う。しかしながら尻尾の大きさも相まって、凄まじい威力に翼は片膝を着く
何とか強引に跳ね除ける事に成功して、ミラクルとマジカルは無傷で済んだ。翼は、防ぎ切ったとはいえ、かなり体に負担が掛かってしまいゲゲとの侵食が解除されてしまった
「嬉しかったの」
「はーちゃんがわたし達の為に、一生懸命作ってくれた」
「はーちゃんの気持ちがいっぱい詰まったクッキーなんだよ!凄く嬉しくて、本当に美味しかった!」
膝を着く翼に手を貸しながら、ミラクルとマジカルは、あのクッキーの美味しいと言った意味を言葉にして伝える。
料理は何も味だけではない。作ってくれた人の愛情があればある程、その美味しさは更に増していく
ことはが作ってくれたクッキーには、最大限の「ありがとう」の気持ちが込められているのだ。それだけで充分なのだ
「わたし達は…」
「はーちゃんの事が…」
「「大好きだから!」」
少し勘違いもありはしたが、ことはを思うミラクルとマジカルの気持ちは嘘偽りない。それだけはこの先、どんな事があっても変わることの無い事実
「わたし、わたし…」
「一緒だよ。ずっと、ず〜っと一緒だよ!」
「もう二度とはーちゃんを、一人にさせるもんですか」
「う、うん!」
ことはが返事をすると、ミラクルとマジカルが持っていたリンクルストーン・ピンクトルマリンが光り輝く
「皆んなの優しい気持ちに、ピンクトルマリンが応えたモフ!」
光りは更に大きくなり、ことはが手に持つリンクルスマホンと共鳴して共に光り輝く。その光りはヤモーのお腹の檻を破壊し、大きく空中に飛び出した
「キュアップ・ラパパ!」
「エメラルド!」
「フェリーチェ・ファンファン・フラワーレ!」
「あまねく生命に祝福を!キュアフェリーチェ!」
「やろうフェリーチェ!」
「えぇ!」
折角手に入ったエメラルドが手から離れた事に怒り、容赦の無いドス黒い闇の光線を口から放つ。
リンクルストーン・ムーンストーンを使っても、防げるかどうか怪しい。かといって、避けるという選択をしたら、周りに被害が出てしまう可能性もある。
それなら、無理矢理にでも体を張って止める事を選ぶが、翼達が動くそれより先に、フェリーチェがピンクトルマリンを手に持って放たれた光線に向かって走り出した
「フラワーエコーワンド!」
魔法のタッチペンをフラワーエコーワンドに変え、先程大きな光り輝いていたピンクトルマリンをセットする
「リンクル・ピンクトルマリン!」
フラワーエコーワンドの先端部からピンク色をした、花の形をしたバリアを展開する
正面からヤモーの光線を受けるそのバリアは、ビクともせず完全防御している
「ピンクトルマリンの癒しの力が、悪い力を打ち消しているんだわ!」
拮抗するフェリーチェとヤモーだが、フェリーチェが一歩足を前に踏み出して見事跳ね除けた
「
ゲゲと煉魔之刀剣からフフと大天翼之剣に入れ替えて、一気に侵食率を最大限まで引き上げる。
それに続いて、ミラクルとマジカルもリンクルステッキにリンクルストーンをセットして動き出す
「リンクル・アクアマリン!」
「リンクル・ガーネット!」
先にマジカルがヤモーに吹雪を放ち、ミラクルがその後にガーネットの魔法を使用する。マジカルが地面ごと凍らせた事で、巨大な氷の手がヤモーの脚をガッチリ掴んで拘束する
そこに大天翼之剣の魔法で、氷の縄がヤモーの体中に巻き付いて更に動きを封じ込める
「エメラルド!」
「キュアー・アップ!」
「プリキュア!エメラルド・リンカネーション!」
「ど、ドクロクシー様ァァ!!」
今度こそ完全に浄化されたヤモーは、元のトカゲの姿へと戻って何処かへと消えて行った
暴れ回ってめちゃくちゃにされた公園は元に戻り、変身も解いてひと段落つく
「さぁ、帰ろうはーちゃん!」
「一緒に、ね?」
「──うん!」
みらいとリコはことはの手を握り、三人仲良く手を繋いで朝日奈家へと帰宅するのであった
そんな仲の良い姿に翼も、微笑んで何も言わずにゲゲとフフを連れて自分の家と帰宅するのであった
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その日の夜。誰もが寝静まった朝日奈家の窓から、一つの影が空へと飛び出して行った。
またことはかと思ったのだが、ことはの部屋の窓は開いておらず、みらいの部屋からでもない
夜更けに外に出たのは意外にもリコだった。服装も魔法学校の制服を着て、夜といえど誰にも見つからない様に帽子も深く被っている
そんな彼女がほうきに乗って降り立った場所は十六夜家の庭。細かく言えば、翼の部屋の窓近く。
そこでリコは、微妙に閉まり切っていないカーテンから顔を覗かして、中の様子を見る
流石に翼も寝ており少し安心する
いや、安心したら駄目なのだ。
そもそも此処に来たのは、悪魔の件の事を伝えに来たのだ。ようやく覚悟を決めた
今が全てを話すとき
ノックしようとするが、その直前で手を止める。その手は少しばかり震えていた
それは何故
(何を躊躇う必要があるのよ。翼に話して、皆んなで協力して何とかする。もう時間は無い。それは自分が一番分かってるじゃない)
分かっている筈、なのだ
でも、それでも
──リコがその窓から訪ねる事は無かった
(ごめんなさい…やっぱり、貴方に話す事は出来ないわ。本当にごめんなさい)
あと一歩の勇気が出ず、リコは静かにその場を立ち去るのであった
今回の話でエメラルド編が終了……と言いたいのですが、実はあと一話だけします。実はちょっと色々ありまして、コラボ話しを書く事となりました。それが終わり次第新章が始まります。一応その新章は全てオリストで構成しており、尚且つリコに関する問題を解決させます
では、ここまでの拝読ありがとうございました