死界は異なる世界にも   作:ゴツゴツクリスタル

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再発

訓練が終わる頃には夕日が昇っていた。今日の訓練の内容は自分の天職を最大限活かす為のメルド団長とのタイマンの模擬戦であった。生徒全員の天職が相手ならば対策を取る前に一撃を入れるくらいはできると思ったが最後の天之川くん以外はみな地面に這いつくばって荒い息をしていた。自分はまだ天職の能力が把握しきれていないので見学に徹したが、流石は王国の団長様、この数を相手に息一つ切らしていない。しまいにはずっと立ちっぱなしで疲れたと訓練を切り上げて食堂へと消えていった。べ、別にメルド団長が怖かったから見学していたわけじゃないですからね。

 

 

(それにしても何が変貌者ですか。その実ただの天職ならぬ転職とは、笑えませんね…)

 

 

八重樫雫と分かれた後、遠藤くんと天職の確認をしてわかった事がある。

 

1.この天職は姿形を変えるというより天職という在り方を変化させるものである。

2.自分のなりたい天職をイメージすると天職とそれに必須の技能がステータスプレートに表示される。

3.コピーした天職の技能のランクが1下がる

4.効果時間は10分程度が限界。効果が切れると30秒間は新しく天職のコピーは行えない

 

天職というより転職…

ちなみに遠藤くんと天職確認を行っていた時変貌というくらいならばと種族もイメージしてみたところ雷に打たれたような痛みが頭の中に走ることが判明した。メルド団長にこのことを聞いたところ、なんとこの世界では種族を変える事はこの世界共通の禁忌らしい。問答無用で異端者扱いになると鬼気迫った顔で注意された。きっと禁忌に触れる行為に脳が無意識に危険信号を出した結果なのかもしれない。

 

 

(ですが本当に使いづらいですね。一々天職変えていたら極められるものなんてありませんよ。その場面場面でどの天職にするかなんて分けられるの僕じゃなきゃ無理ですよ…はぁ、あと2週間程度で闘えるようになるほど僕たちの学校生活短くないですよ。)

 

 

心の中で愚痴を吐きつつも昨日まで地獄と化していた寝室に戻る。部屋の雰囲気は綺麗と自然に口に出すくらいの清潔感に包まれており、逆にその清廉さが潔癖を絶対のものとして縛るように見えた。縁は能力の酷使による疲れを取るため、ベッドに腰を掛ける。

 

 

(…少し落ち着いた事ですし、そろそろ問題を解消しに行きますか)

 

 

おもむろにベッドから離れると体まですっぽりと映る鏡の前に立って包帯を解き始めた。

 

 

「なるほど、違和感の正体はこれでしたか」

 

 

鏡に映る縁の瞳は異常の一言に限った。瞳孔の周りに本来ならある筈の暗さは青赤く輝く虹になっていた。これが士道縁が二度の臨死体験から得た死神の如き異能

 

直死の魔眼

無機、有機物問わず存在としての寿命を測り、干渉可能な現象として捉える能力。この能力は脳が"死"を認識して目が死の線を視覚情報として捉える事によって初めて発現する。本来は冥界よりの神々が持っているような代物。故にこの絶大な力は保有者を悉く苦しめる。神々がもって運用するものは人間には過ぎたるものである。魔眼保有者は存在としての死を脳が受け入れるにはキャパシティが圧倒的に足りなくなり、最終的には脳が焼き切れて廃人になる。

 

今までは魔眼殺しの眼鏡をかけていれば普段通りの生活を送れていた。しかし、この世界に来てから眼鏡の効力がほぼ皆無となっていた。理由として考えられるのはトータスの魔力密度の高さ。地球では魔術や魔法なんて時代は終わったも同然になっていたが、ここは昔の地球のように魔法が基盤になっている。そのため魔眼が過剰に魔力に反応し、魔眼殺しでは抑え切れなくなったからという事である。メルド団長から譲り受けた魔力封じの包帯が無ければとっくに死んでいた。しかし、それでもうっすらと建物に線だけが見えるものだから普通に何も見えなくて歩けないとはならなかった。この包帯の効力もいつまで続くか…

 

 

(直死はいつも通り…問題はこの黒ずみ)

 

 

死の線を見せる白目には外側から侵食するかに見える黒い影が映っている。

 

(朝から妙に目にゴミが入ってるような違和感があると感じていたらこの黒ずみのことだったんですね…まぁ、別にこれと言って正体がわかるわけじゃありませんが、)

 

 

思い当たるものを片っ端から頭の辞書で引いていると、ふと、赫子の事を思い出した。

 

 

(この中で唯一全く理解も想像もできない技能…なんですかこれ。)

 

 

縁は自分の身の異常に異様なほど鈍感という性質を持つ。なんせ、直死の魔眼を保有している縁にとって少しくらいの不調は魔眼と比べるとすべて軽く見える。直死の魔眼を持っているとそれ以上のものを縁に与えなければ日常の一環にとどまる。

 

 

(はぁ、ここでの生活に慣れれば自ずとわかってくるといいんですが…)

 

 

用はないとばかりに机に置いた包帯を目元に巻き直し、就寝の準備に入る。ヘトヘトの体にはこれ以上起きる事は辛いらしくベッドに身を投げた。

 

 

(今日こそ寝ましょう…それで大迷宮までに準備を整えて………)

 

 

眠りにつく

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ズキン

 

 

 

 

 

 

 

ズキン

 

 

 

 

 

「かはっ!あぁっ!」

 

 

強烈な頭の痛みが頭に広がる。脳が危険信号を発する。これ以上脳が耐え切れない。危険だ。即刻見るな。そう切羽詰まった状況を語りかけてきているように感じた。だが、その命懸けの本能からの信号が余計に縁を死へと導く。縁はベッドから早急に離れ、床に転げ落ちた。

 

 

「んぐっ!おえぇぇ」

 

 

堪らず吐瀉物を床に撒き散らした。頭の痛みに体全体が反応する。

 

「あっがあぁぁぁぁっ!ぎっ!」

 

(ど、どう、して、線は、少しぐらいしか、みて、ない、でしょう!)

 

その場にうずくまる。その様子は母に咎められた子供のように

痛みの前に疑問を吐露するがそれも虚しく、だからなんだと言わんばかりにその痛みの度合いを上げていった。まるでこちらを試してる…

 

 

 

その日も痛みで眠れなかった。

 

痛みに耐えている時頭に浮かんだのは、やはり

 

 

 

「紫乃、絶対帰るからな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 




覚えてない

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