死界は異なる世界にも 作:ゴツゴツクリスタル
あれから頭痛が2日ほど続いた。
過負荷が再発した夜、また満足に眠る事ができずに朝を迎えた。魔眼による頭痛は何故かは分からないが不規則におきる。その痛みは10分しか続かない事があれば2時間以上続く事もと時間もバラバラ。今は大分痛みが収まっているが当然クラスメイトの目の前で急に倒れるということもありえる。そうなれば絶対心配されるので食堂にあまり行きたいとは思えなかった。
「あぁ、やっぱりもう一度寝室に戻って寝る事にしましょう…」
「いやいや、2日ぶりに部屋から顔出してそりゃ無いだろぉ!」
右肩の近くから声がした。声をかけられただけで気づいた僕を褒めて欲しい。足音は転生前から持ち合わせていない影of the影
「おはようございます。気配遮断くん、すみませんが少し体調が優れないので僕の盾になって目立たないようにしてくれませんか?」
「転生した覚えなんかねぇぞぉ縁ぃ?てかまだ具合悪いのか?お前ほんとに死なないか心配なんだが」
「その反応をクラスメイト全員から言われると考えると申し訳ありませんが鬱陶しいです」
「お、おう、いつにも増して辛口だなっ、こんな機嫌悪いの今日が初めてじゃないか?」
「…そうかもです」
疲れに比例して言葉遣いも荒くなる。たがそれを指摘されるのは癪だったので遠藤くんの脇をつつく。食堂に着くと案の定怒涛の心配した声が聞こえてきた。
『士道くんその包帯まだつけてたの!?』
『まだきつかったら今日は訓練休んだらどうだ?』
「ご心配おかけしました。ある程度頭痛は治ってきたので心配無用です」
わらわらと集まってくる生徒達に一人一人出来るだけ真摯に対応しているとメルド団長から訓練の召集が聞こえた。
「今日はお前らの能力に合ったトレーニングを用意してあるからなぁ!根ぇ上げて無理とかほざくなよ!」
ガッハッハと今日も元気な笑い声が耳に入った。ほぼ広場に出た事を確認すると団長の近くに寄った。
「すみません、メルド団長。今日もお休みします。」
「ん?…おい、シドー、お前寝れてるか?クマすごいぞ?」
「正直寝れてません…メルド団長からの魔力封じの包帯もあんまり意味なかったです…」
「なるほどな。お前の目は『チキュウ』ってとこで得られた特別性と聞いたが、具体的に何が凄いんだ?」
「………」
今すぐこの話題からそらしたかった。でもメルド団長には魔力封じの包帯を持ってきてもらっている。目に巻きつけるなんて見た人からすれば重症だ。誤魔化す方がむずかしい。
(言う?正直に…)
喉に言葉が詰まる。
「…大したものじゃ無いです。少し魔力に過敏なだけです。ここだこ魔力に反応しすぎてオーバーヒートしちゃうんですよ」
「そうか!ま、それだったら直に慣れてくるだろう。包帯越しでも視覚情報が取れてるって言ってもずっと巻いたままじゃ邪魔かろうしな!」
「はい、では明日までには治してきます」
「あぁ!頼んだぞ!」
肩を軽く叩かれた
どこかで針が刺さる感覚があった。
体を休ませるとは言ったものの2日連続部屋でねこけるのは大迷宮攻略の近い今、時間が余りに無駄に感じた。現在進行形で必死に…では無いが訓練をしているみんなに申し訳なく思いつつ、図書館の扉を開けた。中にはちらちらと人の影を見かけた。図書館内は見上げるほど高い。60メートルほどもある天井まで本棚が吹き抜けになっている。ここまでの高さは地球じゃお目にかかれないだろう。どう考えても届かない本は魔法で飛んで取りに行くのか?
(…いや、人が『飛翔』行為を容易に使うのは難しい筈。一般人がイメージするにはあまりに人間に出来る想像からかけ離れすぎている…)
そう考えたが、浮かした土台に立ちながら本を棚にしまう人の姿を見て前の世界の常識が全く違っていることを再確認した。そこで本来の目的を思い出した。
(さて、世界の歴史や常識ある程度知っておいた方が後々面倒事が少なくなりそうですし、ちゃちゃっと読みましょう)
自分は飛ぶ術式などまったく知らない、つまり人の取れる範囲の本を手に取ることしかできない。まぁそこは流石の王宮。下の段に歴史の本を見つけた。
「これでだいたい分かるでしょう…ん?」
本を広げに机に向かうと薄い影があった。南雲ハジメだ
(確か訓練に一人来てないって遠藤くんが言ってましたね〜。彼のことでしたか)
訓練が始まった時からずっと机と対面していたのか、山のように本が積み上がっていたり思わず頬が引き攣った僕は間違っていないだろう。
「あ、あの〜、南雲くん?」
「ん、ん〜?…ってうわぁ!し、士道くん!」
そこまで驚かすような呼び方をした覚えはない。集中していたのなら申し訳ない。
「その包帯どうしたの?」
「ん?あぁ、天職の確認をしていた時につい、ね」
「なるほど?」
「それはともかく勉強ですか?しかしみんな自主的鍛錬をしていますが行かなくていいんですか?」」
「あ、あはは、僕は錬成師だから戦闘の役に立てないし、訓練するよりは知識を増やして冷静に対策を練れるような立ち位置に居た方がいいかなって…」
「───へぇ、よくわかってるね」
「え?」
体を鍛えるだけが必要なことでは無い。どんなご時世か知ることも時には大事である。ましてぼくたちはこの世界についてよく知らないとなれば必然的に情報は手に入れやすく、頭に入れやすい。
「いえいえ、こちらの話です…して、何の本を読んでいるのですか?」
「えっと、北大陸魔物大図鑑っていうのを見てる」
「何とも捻りのない…」
「あはは、それは僕も思ったよ」
「まぁそれはいいです。山積みな本から得られるいい知識はありましたか?」
「…ふふふっ、それはもう。
南雲くんに架空の眼鏡が見えた。
聞かれた事が嬉しかったのか先程より饒舌になりながら世界の情勢について語ってくれた。
人間族、魔人族、亞人族の3氏族に別れているのは知っての通り、その中でも亞人族は被差別種族らしく、一切魔力を持っていない事が原因らしい。神代においてエヒトを始めとする神々は神代魔法にてこの世界を創ったと言い伝えられており、それ故に魔法は神からのギフトであるという価値観が強い。そうなると亞人族が差別される理由が理解できる。
「それ…魔物はどうなるんですか?」
「あくまで自然災害的なものだから神の恩恵を受けていないのは当然なただの害獣だって」
「…はぁ」
「まぁ、それはともかく亞人族は人間族や魔人族と違ってその中にも種族があって『海人族』や『翼人族』、『森人族』とか種類が沢山で個人的には海人族って言うんだからやっぱりマーメイド的なものだったらすっごく見たいなぁ!あとは〜……あった!死族っていう今は滅んだ種族もあるらしいよ。やっぱり吸血鬼とかだよね!あれ?だけどどんなのが死族かは黒く塗りつぶされてる…もしかしてこの国に都合の悪い事実だったから消された?てことは………」
「あ、あの〜?」
興奮していたのか急に早口になり始めていたが途中から顎に手をかけながらぶつぶつと自問自答を繰り返していた。それからも種族ごとの違いや地域等を事細かく教えてくれた。話し込んでいるとやけに人が少なくなっていたので廊下に出て窓の外を見るとすっかり暗くなっていた。
「ご、ごめん!異世界の事話すの楽しくなっちゃって!つい話し込んじゃった…」
「僕も情勢については気になっていたので問題ありません、こちらこそ付き合ってもらってありがとうございます」
「…え、えっと、僕の知識が役に立ったのなら良かったよ」
微笑みを浮かべながら礼を返す。予想外の答えに戸惑ったのか少し目をニ、三度瞬きした後照れながら笑っていた。まぁ、異世界という摩訶不思議の夢に南雲くんもこころが踊っているのだろう。
「それではっ」
頭に杭が刺さる。
「? って、どうしたの!?士道くん!大丈夫!?」
「があっぐっ!」
昨日ぶりの唐突な吐き気
問題ないと返そうとしたが口から零れるのは喘ぐ音ばかりで言葉にはならない。
(脳が、揺れるっ)
容赦なく打ち付けられる杭に気が狂いそうになる。士道縁は今までの直死の魔眼保有者の中でも最高の適正を持っている。通常ならば酷い頭痛など感じる間も無く脳が焼き切れるが、士道縁は適正があるが故に脳が焼き切れるという最悪の結果の前に頭痛を引き起こして直死の魔眼行使の代償にしていた。それでも最近は包帯を巻きっぱとはいえぼんやりと線を見てしまった。その結果が死を願いたくなる頭痛だ。人間は1時間もこの負荷には耐えられない。が、
(痛みが…引いていく?あれほどのものが?)
スゥっと過負荷の影響が急速になくなる感覚がした。頭を必死に抑えていただけだったがこめかみでも無意識に押したからだろうか?
「士道くん…」
心配そうにこちらの顔を南雲くんが覗いていた。
「あー、ご心配おかけしました。それよりも!ほら、クラスメイトの皆さん食堂に向かっているようですよ!お腹も空いているでしょうし、行ってきては?」
廊下で食堂に向かうクラスメイト達を指差し強引に話題を変える。その中で白崎香織が南雲ハジメを見つけて連れ去る…もとい誘拐されていく姿を確認した。直前彼が目線で助けを求めてきたが、笑顔でそれを送り出す。
少し、南雲くんの見透かすような目を忘れられなかった。
「さて、何故痛みが引いたかは知りませんが、好都合です。もう少しだけ本を漁りますか。」
図書館内はほぼ人がいなくなっていた。まぁ夜まで本を読みにくる人はいないのでしょうと納得する。本棚の浅い場所は南雲くんが読み切った気がしたので図書館の奥の方へと進んでいく。後ろから覗く影に気付かないまま…
「ん?」
壁まで到着すると茶色や黒ばかりの魔導書みたいな本棚の中に異質が紛れ込んでいた。色は他と変わらない。だが、そこから溢れ出す邪気のような何かを無意識に感じ取った。
「ふむ…これでいいですか」
根源的恐怖よりも興味が勝って本を手に取る。机に戻るのは面倒だったので立って読み始める。
「…死族一覧?さっき南雲くんが言っていた種族ですか……」
目次らへんを飛ばしてペラペラとページを捲る。
「吸血鬼族、ね。南雲くんが聞いたらさぞ興奮するでしょうね。」
苦笑いが溢れてしまった。
「吸血鬼族は数百年前から滅んだって理由の説明なしとかありですか…あとは『竜人族』、人にも竜にもなれる半端者。滅んだとは書いてないけど死族に含まれてるってことは超がつく絶滅危惧種ってところかな?ふーん、ここは闇が深そうですねぇ…最後は喰種、人型の生命を喰らう魔物。種族共通の天敵…それは魔物ですね、なんで種族なんですか。」
そうして本を閉じた。案外短い内容だった。他にも色々と書いてあったが流石に時間が時間だったので今日は就寝することにした。帰る間際に最後の内容が引っかかった。
「喰種…人を食うってゾンビみたいなものですね」
「いーえ?人の死を喰らうのが極上なんです」
咄嗟に後ろを振り向く。辺りには誰もいない。図書館内にあるのは士道縁の息切れの音と冷や汗だけだった。
「……帰ろう、少し疲れてますね」
心臓の鼓動を騙しながら今日という日を早く終わらせたくなった。
南雲side
(うぅ、ついつい自分の世界に入り込んでしまった…いやあれは入り込んじゃうよ!だって士道くんめっちゃ聞き上手だもん!僕の知識の見せびらかしみたいな話を一々相槌して嬉しそうに反応してくれるんだもん!くっ、これがうちの高校の兄貴分か!)
南雲ハジメは食堂で先程までの会話について自責の念を抱きながら心の縁に愚痴っていた。
「南雲くん!あと1週間で大迷宮攻略だよ!頑張ろうね!あ、この野菜いる?これすっごい体にいいんだって!効果は忘れちゃったけどすっごいんだって!」
「あ、あはは、いや、僕は自分の分があるから、白崎さんが食べたいものを自分で食べれば…」
(くっそぅ!なんでこの世界にきても侮蔑の視線を受けなければいかないんだぁ!白崎さんもしかして確信犯?)
「それにしても士道くん来ないねー。そんなに体調悪いのかなぁ…」
「え?士道くんが?」
「うん、南雲くん知らない?士道くんここ最近体調悪くて欠席してたんだよ。昨日なんて部屋に籠りっぱなしだったよ。辛そうだったから昨日私が部屋まで行ってヒールしたんだけどその後も出てこなくて、心配だなぁ」
「…そうだったんだ」
でもそれならさっきの士道くんの不可解な行動にも説明がつく。なるほど、多分だけどあの不規則にくる頭痛をみんなの前で発症したくないから篭ってるのかな?いやそれとも出られないほどの頭痛だった?あの時の頭痛は歯を食い縛るとこを見たら耐えられない激痛ってことだ。じゃあなんでそんな激痛が常時おそってくる?
「南雲くん?」
「あ、えっと、どうしたの白崎さん」
「いや、南雲くんはここに来てどんな食べ物が好きになったのかなぁって!」
神様、助けてください
投稿長くなりました。すみません