死界は異なる世界にも 作:ゴツゴツクリスタル
「グルァァァアァァァアアッ!!」
「ッ」
耳をつんざくほどの咆哮。それが開戦の合図だったのかこちら目掛けて突進してきた。
「アラン!生徒達を率いてトラウマソルジャーを突破しろ!カイル、イヴァン、ベイルは全力で障壁を張れ!ヤツを食い止めるぞ!光輝、お前は早く階段へ向かえ!」
「待ってください!メルドさん!俺たちもやります!あの恐竜みたいなヤツが1番ヤバいでしょう!俺達も…」
「馬鹿野郎!あれが本当にベヒモスなら、今のお前達では無理だ!ヤツは六十階層の魔物。かつて"最強"と言わせしめた冒険者をして歯が立たなかった化け物だ!さっさと行け!」
メルド団長の鬼気迫る表情に一瞬怯むも「見捨ててなど行けない!」こ踏み止まる効果。
(何してるんだあの馬鹿はっ!)
天之川光輝の無責任な助ける宣言に今にも怒髪天を貫きたい衝動に駆られる。だが今はそれよりも
「グルァァァァァァァォァァァァ!」
「「「全ての敵意と悪意を拒絶する、神の子らに絶対の守りを、ここは聖域なりて、神敵を通さず、"聖絶!!!」」」
燦然と輝く半球状の障壁がベヒモスの突進を防ぐ。衝突の衝撃波により石造の橋が大きく揺れる。撤退の意思を示した生徒達から悲鳴が上がり、転倒するものが相次ぐ。隙をさらした敵を見逃す手はなく、後ろからトラウマソルジャーが一気に襲いかかる。どう見ても積みな状況にパニック状態に陥る。
(まずいっ、アレを使えばベヒモスをやることはできる…でもあくまで最優先事項はクラスメイトを守ること!一塊に動いてくれれば生徒の危ない場面で助けに入ることが可能、でもこのパニック状態じゃそれも出来ない!)
我先にと階段を目指す生徒の波を抜けつつ最悪の事態を避けるための行動を考えていると
「うわあぁっ!!」
「ッ!」
尻餅をついて恐怖で動けない男子生徒を見つけ、考えるより先に体が動く。遠藤浩介に刃を向けるトラウマソルジャーに『瞬歩』で近づき至近距離で炎をぶつける。頭蓋を割られたトラウムソルジャーは遠藤に覆い被さるように倒れた。
「ひっ…あ、ありがとう、士道」
「遠藤くん!自分の身の安全第一で出来るだけ一塊になって下さい、そうした方が守りやすい!」
「───わかった!」
士道の必死の説得が届いたのか、遠藤は返事を返してすぐごった返している生徒達に呼びかけを行い始めた。パニックを治めるのを遠藤に任せて、ベヒモスによって荒らされた岩場を軽戦士で足場にする。見晴らしのいい場所まで移動して辺りを素早く見渡すと、ベヒモスと闘うメルド団長、騎士団、天之川、とトラウマソルジャーに翻弄される生徒達に別れている。
(よし、階段に一直線に向かってるおかげで結果的に一塊になってる!天之川がいない今は僕が守り切る!)
方針を決めてパニック状態の生徒達へと向かう。体力を温存して無駄を完全に捨て去る。今の士道は生徒を守るだけの歯車となる。視界に赤黒い線が映る。
「ふっ!」
1体また1体と着実に『殺し』ていく。特にトラウマソルジャーに脅かされて動けない生徒の周りを徹底的に殺害する。次々と湧き上がるガイコツ戦士はキリがないことが目に見えている。それでも赤黒い線を直視してなぞるように斬る。裂く時の感触は斬るというより"沈む"に近く、容易く切断することが出来た。シドウは視界が黒に染まっていくことも気にせずモーターを回す。
「はぁはぁはぁはぁっ」
「っ!辛いかもしれないけど足を動かして下さい!!止まるなっ死にますよ!生きたいなら恐怖に打ち勝って前へ進め!!」
大声で喉が痛くなるほど叫ぶ。生きたい本能によりまた走り出す。肩で息をする中村恵理に声だけ掛けて次の護衛に廻る。それを繰り返していくうちに無駄がないとはいえ元の体力が少ない士道は
「つっ!はぁっはぁ」
限界が近づいていた。
先程まで自分達を守っていた筈の士道が今にも倒れ込みそうに膝をついてるとこを遠藤浩介が見つける。
「おい、士道!」
生徒の波を押し退けて士道のもとに走る。倒れる寸前で肩に手を回すが顔は青白く意識もかろうじてといったところだった。
「めっちゃしんどそうじゃねぇか、もう無理すんな。あとは頑張ってなんとか…ってお前その目…」
「大丈夫っ、問題ない」
双眸が遠藤を貫く。赤青く輝く虹彩、黒く変色した結膜。どちらも個性で済ませられる程微小じゃない変化。正常とはかけ離れた眼の異形さに声が詰まって"訳もなく"体が震える。まるでその"眼"に根源的な恐怖を…
「遠藤くん!!」
「!!」
士道の怒号に意識が戻る。固まったのは数秒程度だったが死が蔓延するここでは数秒でもあらゆる死因に繋がる。
「このままだと全滅する!何か策はありますか!?」
「え、え?そんな急に言われても…」
(押し切られるっ)
焦りは酷くなる一方、ガイコツ戦士の行進は止まらない。もう刃が生徒の鼻先に届こうとしていた。
(間に合わない!!)
肩をかされた状況でせめてもの思いで腕を伸ばす。瞬間
「"天翔閃"!」
純白の斬撃がトラウムソルジャー達のド真ん中を切り裂き吹き飛ばしながら炸裂した。橋の両脇にいたソルジャー達も押し出されて奈落へと落ちていく。ソルジャーは一瞬怯むも数の有利が効いていることを自覚し再びこちらに向かってきた。だが、天之川の斬撃により上階への階段が見えた。
「あ、天之川!よかった、これで助かった」
(天之川くん!?さっきまでベヒモスと戦っていたはずでは)
もう一度"天翔閃"を放つ。なす術なく骨に変えられる魔物の群れは天之川を危険人物と捉えたようで大半が彼に意識を割くようになっていた。
「お前達!今まで何をやってきた!訓練を思いだせ!さっさと連係をとらんか!馬鹿者どもが!」
メルド団長のいつも通りの頼もしい声に、沈んでいた気持ちが復活する。そこからは訓練の成果がきっちり出ていた。治療魔法に適正のある物がこぞっね負傷者を癒やし、魔法適正の高い者が後衛に下がって協力な詠唱を開始する。前衛組はしっかり隊列を組み、倒すことにより後衛の守りを重視し堅実な動きを心がける。
「続け!続け!階段前を確保するぞ!」
光輝の掛け声と同時に走り出し、遂に包囲網を突破した。
「はぁはぁはぁ、ようやく、抜けれた、な」
(おかしい…ベヒモスの追撃がこない?)
状況を訝しみ疲れた首を精一杯後ろに動かすと、たった一人で化け物を上半身を埋まらせて抑えている。
「ははっ、ナイスガッツですよ、南雲くん。」
額の汗はもう残ってはいない。体力の回復は済んだ。ならやることは一つ
「遠藤くん、肩ありがとうございます。あとは任せました。」
「え?お、おい!」
きっちりお礼した後、南雲と化け物の方向へメルド団長の静止の声をわざと無視して全速力で駆ける。回復に専念してもこの少しの間で回復できるのはほんのちょっと。だからこそ数秒でカタをつける。
「南雲くん、よく頑張りました。あとは任せてください」
「士道くん!?」
にこりと笑って化け物に突貫する。士道は大体の武器は錬成で作っている。その方が持ち運びが楽だから。だが、ナイフだけは別だった。黒一色の持ち手と短い刃、シンプルでいて切れ味は抜群。地球にいた時から所持していたものだから特別な効果は何もない。
「さぁて、ここまで追い詰めてくれましたね。覚悟は
出来てるよね?」
埋まりかけた足目掛けてナイフを掲げる。もう一度言うが特別な効果は何もない。かと言って切れ味は化け物を斬れる程鋭くはない。だからこの結果は
本来ならば到底ありえないものだ。
「"十七等割"」
ベヒモスの体がバラバラに切り刻まれた
カッコいいのが思いつかなくて…