死界は異なる世界にも 作:ゴツゴツクリスタル
後日談
雫side
宿場町ホルアドで一泊し、早朝には高速馬車に乗って一行は王国へと戻った。とても、迷宮内で実践訓練を続行できる雰囲気ではなかったし、無能扱いだったとは言え勇者の同胞が死んだ以上、国王にも教会にも報告は必要だった。勇者一行が国王に今回の顛末を説明すると、最初こそ生徒が死亡したことに愕然としていたがそれが無能の南雲ハジメと知ると安堵の吐息を漏らした。貴族同士の世間話ではあるもののそれはもう好き放題に貶していた。ハジメを罵った人物達は光輝の怒りの表明によりその場で処分を受けたが、軽いものだった。
「では、失礼します」
メルド団長が空気の澱んだ会議場の扉を閉める。一部を除いてみな大迷宮では生き残ったことへの安心感で気分が少し明るくなっていたが帰ってくると南雲が死んだ実感が湧いて暗い雰囲気が蘇っていた。その空気を察してか、生徒達に向き直ると
「お前ら、本当にすまなかった」
メルド団長が絞り出すように深々と頭を下げた。騎士団のメンバーも聞かされていなかったらしく、予想外の展開にあたふたしている
「メ、メルド団長?」
「俺は勇者とはいえまだ卵であるお前達に実践訓練でトラウマを植え付けてしまった…これは俺の監督不届きだっ、どんな感情をぶつけてきても構わない。騎士団全員で雀の涙にもならないが謝らせてくれっ!」
そう言い騎士団のメンバーも何が言いたいのか理解したらしく追うように頭を下げる。生徒達はメルド団長の誠意のこもった謝罪に責めれずにいた。人間は誰かに罪を押し付けて自分の罪を軽くしたい生き物である。自分たちはビビるだけで頑張る南雲に弔いの言葉もかけれずにいたのに対してメルド団長は生徒を生かすために恐怖に打ち勝って守ってくれた。だが元はといえばこんなところに連れてきたのが悪いと罪を軽くする事も出来た。だが、
「…頭を上げてください、メルド団長。俺たちはあなただからついてきたんです。メルド団長が必死に守ってくれたから俺たちは生きてます。だからあなたに罪を押し付けるなんてことはしません!」
爽やかな笑顔を作った勇者の言葉に一同頷く。みんな思いは同じだったようだ。ただ一人を除いて
「…すまない……とりあえず、今日は疲れただろう。ゆっくり休め。」
解散ということでみな寝室に直行しようとすると
「天之川光輝くん、檜山大介くん、少し話があります」
名指しの声が上がった。声が上がった方向を見ると表情の読めない顔で佇む士道を見た。雫は士道の不穏な空気に不安を感じた。
(士道くん?)
いつもと様子が違う。南雲の死で暗い雰囲気になっているのはわかるが士道の周りの空気は暗いというより冷えていた。胸の中の熱を隠すように
「なんだ、士道?」
「お、俺もか?」
士道は前に立った二人を数秒見つめる。クラスメイト達は何かあったのかとギャラリーになっていた。するとニコリと笑った
「歯、食いしばってください」
「え?」
それはどちらの声だったか、次の瞬間には檜山の顔面に拳がめり込んでいた。
「がはぁっ!」
士道は筋力がある方ではないが変貌者で拳士にでもなったのだろう。思いっきり不意をつかれた檜山は床をバウンドしてから壁に激突した。一部始終を捉えていたクラスメイト達はありえない士道の行動に開いた口が塞がらなかった。雫は普段の士道とは思えない行動に驚きを隠せなかった。
「な、何をするn」
言い終える前に光輝の頬を殴る。流石勇者といったところか檜山のようにはいかず床に倒れ込むだけで済む。士道は目一杯力を込めたようで殴った拳からは血が出ていた。幸か不幸か勇者でも一撃は重かったらしく動きが緩慢になっている。そこに士道は追い討ちで覆い被さり襟元を掴む。訳もわからず殴られて馬乗りになった士道を怒りの目で睨む光輝
「士道、そこを「君は言った筈だ!守るからと!」」
士道の全身全霊の叫びにこの場にいた全員が肩を震わす。そして思い出す、召喚された時の出来事を
「あぁ、そうだ、君は言った筈だ。俺がいるから大丈夫だと!無責任にも!でも結果はこれだっ…一人は死ぬつもりは無かったとしても大迷宮で"君たち"を守って死んだ、無能と言われた少年がだ!!何が勇者だ…何が救うだ!!結局君は仲間を鼓舞するだけで何も守れてないじゃないか!!」
「っそれは…」
「僕は今君の性格なんて考慮はしてない、ただ事実を話してるんだ。君はその言葉に見合うだけの行動をしたのか?無様にも南雲に一喝されてから周りのことを見るようになった勇者さんよぉ、召喚された当初に話してた内容と違うじゃないか。勝てもしない相手に立ち向かうことが仲間を守ることに繋がるのかぁ?これを踏まえてもう一回言ってくれよ…『俺が世界も"みんな"も救ってみせる』ってさぁ!!」
「……」
何も言い返せない。当然だ、結果が全てを物語っている。一人の生徒は大迷宮で亡くなり、光輝は生徒を一人守れなかった。光輝は自分が何故こんな事を言われなければならないと小さく唇を噛んだ
「…そもそも南雲はあそこで立ち向かうべきじゃ無かったんだ!俺たちに任せておけばよかった!」
「は?」
光輝は仲間を守った英雄を咎める。言葉が出ない。わなわなと震えながら襟元の掴みが緩くなる
(……そうですよね、所詮餓鬼の戯言。自分の言葉に責任を持てる年齢じゃない…それでも彼は義務として守るべきだった…)
「もういいです。今後はもっと発言の重みを自覚して下さい」
先程まで激昂していたとは思えないほど冷淡な声で叱咤する。周りの半分くらいのクラスメイトは未だに何が起こったのか理解していないらしくポカンとしているが、もう半分は士道の言い分と南雲の死を再確認して怯えだしていた。光輝の用は済んだとばかりに裁定を既に下したもう一人の生徒に目を向ける。顔面を殴られた檜山は鼻を折ったらしく過呼吸になっている。歯や頬の骨も折れてるらしくすぐにでも治療魔法をかけなければならないほど重症だった。殴った相手が例えば近藤などならばまだ止めるが、いつもは優しい士道が今は人を殺しそうな目をしているとなれば怖くて止めれるわけが無い。檜山は視線だけ動かして士道を睨みつける。
「ゴホッ、はぁはぁ」
「ん?何故睨むのですか?道理も弁えない子供にお灸を据えただけですよ?勝手な行動をしてクラスメイトを危機に陥れたんだ。この程度で済んだことにむしろ感謝してほしいです」
事実、檜山も南雲の死の原因であったために何も言えない。いや、余計な事を言って墓穴を掘る訳にはいかないから何も言わない。故に
「あ、あぁ、ほんとに、悪かった…」
無闇に反論せず謝る事が最善だった。
「…反省したならよろしい。次やったら自分の後始末は自分でつけてください。」
そう言って未だに士道があそこまで怒った理由が理解できずに突っ立ってるクラスメイトを置いて廊下の角を曲がって消えた。背中に死神が見えた士道が去ったことによりふぅと深く息を吐く。
「大迷宮出てからずっと魂抜け落ちたみてーな顔してたのに感情が見えた瞬間これかよ…怖すぎだろ…」
「鈴、士道くんのガチギレ始めて見た…ちょっとおしっこちびっちゃったよ」
「鈴!?」
「………」
この空気をどうしようか迷った結果考えた事は同じようですぐ解散となった。一部の生徒は士道の言葉を思い出しながら……
天之川光輝が何考えてんのかわからん。
追記
士道は通常の俊敏ステータスは320ですが、ベヒモス戦ではアスリートの所謂ゾーンに入ってました。なのでステータスが士道の精神状態に引っ張られて200の強化を施すという結果になりました。これに関しては士道は特別です。