死界は異なる世界にも   作:ゴツゴツクリスタル

19 / 21
遅かったね僕


夜の発露

「いってぇ…ふざけやがって!」

 

 

寝室の壁を強く叩いて少しでも不安を紛らわそうとする。檜山は士道に喰らわされた顔面の肌のヒリヒリに憤りと焦りを感じていた。殴った張本人がいなくなったあと痛みに悶えていた檜山は、辻綾子の治療により鼻と頬の骨は治っているが、完全では無かったのか痛みは幾分マシになったものの眠れるほど引いてはいなかった。重ねて、治療してる時の辻が疑念の目でこちらを見つめていたのを思い出して益々眠れない。

 

 

(最悪だっ、確証は得られてないとしても"何が隠してる事"を勘づかれた!)

 

 

南雲の死の真相さえ知られなければいいと思っていた矢先にこれだ。檜山は勘のいい者に意図を読まれたことを把握していた。謝る前の思考する時間がよく無かった。大半の人なら言い返す内容を考えてる時間だと思うが、最初から疑惑をかけていた者は別だ。すなわち『"余計なことを話して変に勘ぐられたくはない』からでは、と。もちろんあの流星の如く魔法が乱れ飛ぶあの状況では、誰が打った魔法かなんて特定は難しい。まして檜山の魔法属性は風だ。証拠はない。だが、『万一自分の魔法の誤爆だったら』と考えると誰かに責任を押し付けたいと考えるのは普通だ。結果謎のダンマリを決めた檜山は押し付けたい者からすると格好の餌だ。

 

 

(どれもこれも南雲のせいだ!死んだ後も俺の邪魔をしやがってぇぇぇ!)

 

 

付近のあらゆる家具に八つ当たりをする。椅子は足が折れ、窓は投げつけた本によってヒビが入る。物に当たって少し気が晴れたのか息はまだ荒いながらも寝る準備に入る。

 

 

(明日他のやつに表面上謝っといて当分は大人しく訓練に参加すれば俺への不信感も薄れてくだろ…そうだ"あいつ"の言う通りにすれば香織は俺のものになる、何も問題はない!)

 

 

薄気味悪い笑みを欠けた月に診せてくつくつと嗤う。自分が最終的になる未来に想いを馳せて…

香織を手に入れるためだけにもう一人の裏切り者と手を組んだ檜山にとって、彼女の"入手"は決定事項になっていた。士道がこの光景を見ていれば人間の典型だと嘲笑っただろう。檜山にとって殺人は最早忌避すべき事柄ではない。

 

 

「あぁ、それ以外にも邪魔な奴らは沢山いる…ゴミ掃除は念入りにしないとなぁ」

 

 

三日月の笑みを浮かべて眠りにつく。世界の大きな分岐点はここからだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

宮殿の塔の屋根をひょいひょいっと登る。その身軽さはまるで羽根のようにどこかに翔んでいきそうで危なかっしい。1番高いとんがり屋根まで着くと50センチもない足場に片足を乗せて、眼下に広がる街の夜景を見下ろす。地球の夜は地上から生えたビルが街を煌めかせていたが、この世界はまるで日本の祭りようにちょうちん明かりにしか見えない魔法で辺りを照らしていた。

 

 

「ここに来てよかったです、美しい風景は心を落ち着かせますね。」

 

 

いい眺めに遂うっとりしてしまう。それも一瞬らしく士道の頭に雪崩のように懺悔が押し寄せる。罰は罪を和らげる。罰によって与えた呪いは元の傷に薬を塗る行為となる。あの場で檜山、光輝に鉄槌を下したのは間違いではない。問題はその鉄槌を下したのが"士道"だったこと…

 

 

「『世界もみんなも俺が救う』ね…世界は知りませんがみんなに関しては僕が言えた義理じゃないのに……」

 

 

仕方ないで済ませればどれだけ楽なことか…最善は尽くした、お陰で絶望的な状況で死人が一人だけに留めれた。尽くした意味はあっただろ

 

 

「だからどうしたって言うんですか…みんなを護るのが最低条件ですよっ」

 

 

誰かに話したい懺悔は夜の風にかき消された。懺悔の代わりで下唇から血が溢れてくる。士道は年齢のわりに大人びているとはいえまだ学生。小中学生で臨死体験、直死の魔眼の発現、そしてクラスメイトの守護……

この大きな問題を抱え込んでいる士道の精神は既に限界を迎えている。もちろんクラスメイトは士道が自分達を守ろうと今まで頑張っていたことなどつゆほども知らない。伝える気もない。

それはひとえに誰にも心を開いていないから。そうなったのは家族が死んだ時。妹は小学1年生で士道は小学3年生、どう考えても大人に頼らなければ生きていけるはずがない。幸いにも親の保険金により莫大な金額が手に入ったことにより孤児を引き取りたいと言う親候補が続出した。だがお金に目が眩んだ大人達の光景を見て小学3年生という若さで悟ってしまった。人は頼りにならないと、

頼る先を失った士道が生きていく術を身に付けるのは早かった。家事、料理をネットで調べて実行し、幼くとも職に付けさせてくれる仕事をさがした。その結果誰も信用することなく妹に不自由させない日々を過ごせていた。中学を卒業する頃にはもう大人以上の"大人"になって…

 

 

「いつか僕にも罰が来ますよ、天之川くん。その時が来たら君と一緒に堕ちますよ」

 

 

そうして士道は誰でもない誰かに懺悔する。涙を流す眼はおぞましく不思議な色をしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

眠れる気がしない。そう思った雫は宮殿内をぶらつくことにした。

 

 

(香織は南雲くんが死んだショックで当分は起きないし、士道くんは光輝を殴り倒すしで……)

 

「はぁ…これからどうすればいいのかしら」

 

 

光輝を殴り飛ばしてから士道は自室に直行してしまった。

最近の士道は情緒不安定なんじゃないかと思えるほど感情の起伏がこの世界に来て激しかった。それもその筈、召喚された日には光輝の救う発言でやる気に満ち溢れている中焦った表情で意味を問いただしてきたり、大迷宮攻略の前日に一人一人に油断しないでと警告をして去るというのを繰り返し、挙句光輝と檜山を士道が殴り飛ばす…

士道のやる事としてはありえないのオンパレードだ。情緒不安定にしか思えない

 

 

(士道は人一倍頑張ってきた…なのにまだ背負いこむの?)

 

 

理不尽な世界に怒りが湧く。同時にそれを相談してもらえないことが何より寂しい

 

 

(私はまだあなたに…心を開いてもらってないの?)

 

 

信じたくない。でもありえない話ではない。何故なら…

 

 

「私ってあなたに頼られた事…あったかしら」

 

 

余計に心臓が煩くなった。違う、嘘だ、そんな筈はない。そう否定したくてもフィルムに頼られたと感じる描写は映っていない。それに他にも信用されてないのではと思えるのが隠し事をしてる点

誰しも隠し事はある。でもその中でも士道はダントツで多い匂いがする。時たま見える負の感情の発露、"頭痛"の正体、これを一つでも相談されたことがあったか

 

 

(………違う)

 

 

宮殿の外に出る。夜空を見上げると死人が出たこともお構いなしの満点の星空だった。

 

 

「そうね…一つだけ聞かせてもらったわ、家族の話…」

 

 

その事実が雫の心を穏やかにさせてくれた。まだ頼られてる、完全ではないにせよ少しは心を開いてくれている。

 

 

「士道くんってば大人ぶってばかりじゃ疲れるわよ?たまには甘えなさい、その方がギャップがあってかわいいわよ?」

 

 

クスッと笑う、もう胸のわだかまりはなくなっていた。

 

 

「ん?」

 

 

宮殿に帰ろうと視界を下に移す間際、

 

 

 

 

 

屋根の上で静かに涙を流す士道が見えた

 

 




士道は街を"見下ろし"、雫は空を"見上げる"……
変だなと思った文章があれば言ってね


追記

屋根の上にある士道を視界に捉えられたのは雫の視力がめっっさいいからです
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。