死界は異なる世界にも   作:ゴツゴツクリスタル

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忘れないように忘れないように


過去話3

雫side

 

 

「しずくー!ご飯食べないのー」

 

「…今日はいらないわ」

 

 

下の階から聞こえる母親の声に掠れた声で適当に返事をする。八重樫雫は自室のベッドに横になりながら枕に顔をうずめて動かず、外から聞こえるカラスの鳴き声を部屋に響かせていた。

 

「もう……会えないのかしら……」

 

明日もいつもみたいに笑って私の愚痴を聞き流してほしい、明後日もいつもみたいに一緒に昼ごはんを食べて欲しい、明々後日もいつもみたいに部活の様子をチラチラと見にきて欲しい、次の日も、その次の日も……

 

あの底抜けに優しい笑みを見ながら

 

 

(───私と一緒にいてほしかった)

 

 

涙を流しながら枕を力一杯握って自分の全ての思いをぶちまけた。

 

 

(……そういえば士道くんとの出会いって今考えると最悪だったわね)

 

 

八重樫雫と士道縁は雫が同級生に天之川光輝のことでいじめられているところを見られたこと最初の出会いだった。

 

 

(最初はもう誰でもいいからこの悩みを明けたくてたまたま聞いてた士道くんに成り行きで話したけど、この話を聞いた時とても真剣な顔で自分のことのように悩みの解決法を苦しそうに探してくれた。)

 

 

あの時から彼の優しさと真剣性は折り紙付きだった。好きでもない友達でもないただの知り合い程度の人にここまで親切にしてくれる人は普通いるのだろうか。親友の香織ならやりそうなことだが解決法は結構無理矢理な気がする。とりあえず愚痴を聞いてもらったその日は外が暗くなってきたので聞いてもらった事にお礼を言いつつ帰ってもらった。

 

(それで次の日彼が言ってくれたのが)

 

『これは解決法ではありませんが、これから少しでも辛くなって悩みを打ち解けたい時があったら僕のところに来るか電話をしてそれを話して欲しい。多分、君のいじめは僕が盾になること、もしくは教師側に直談判などをしてどうにかなる問題ではありません。いじめと言っても言葉では物的証拠にはなり得ないのでいじめのことを他の人に言ったことがバレたら状況が悪化する可能性と君の学校内でのイメージダウンに繋がってしまう。なので、その場凌ぎではありますが……辛くなったら頼ってください、申し訳ありません。僕にはこれくらいしか思いつきませんでした。あ、あと普段は僕と雫さんが会っている事は隠してください。別クラスの僕たちが急に話すようになるのは変な誤解を招くと思いますから』

 

 

こないだの校舎裏に呼ばれて頭を深く下げながらそんな事を言われた。

驚いた。

わざわざ今日それを伝えに来てくれたというところもあるにはあるが、それ以上に今日の朝までずっとそれを考え続けてくれた事に心の中で開いた口が塞がらなかった。よく見ると目元は少し眠そうにしている。眠らずにいたのだろう。

 

(その時からかしら)

 

日常が変わった。学校で彼を見掛けると自然と目が行くようになったり、夜の9時から自室で今日あった嫌なことを彼に電話越しで話すとこが日課になったり、幼馴染には他の女子友達と食べてくると行って校舎裏で他愛ない話をしながら昼食を取ったりとキリがない。

 

 

(でも、一つだけ言えることは)

 

 

笑顔が増えた

 

毎日が楽しくなった

 

だから高校に行く時も彼を誘った。彼と高校に行ったらもっと楽しいと思ったから

 

 

(でも…もう)

 

 

また泣きそうになった

 

 

 

 

 

 

 

 

ヴーー「うひゃっ!」

 

変な声が出た。ベッドに転げてある携帯からだ。あまり何かをする気は起きなかったが夜に電話してくるのは幼馴染か親戚くらいしかいなかったので仕方なく応答ボタンを押そうとした。

 

 

「士道…縁?」

 

 

一瞬誰か理解できなかった。数秒間を置いてから頭が回りベッドから勢いよく飛び出して急いで応答ボタンを押した。

 

 

「も、ももも、もしもし!」

 

びっくりしすぎて声が裏返った。

 

 

「あぁ、雫さん、さっきぶりですね。ご飯は食べましたか?」

 

「い、いえ、まだ食べていないけれど」

 

「もう8時半ですよ?夕食を食べないのはお肌が荒れますよ」

 

 

いつもの変わらない調子で会話をしていままでの自分の反応がおかしかったのかと考えたが、首を横にブンブン振って騙されないぞと思い直した。

 

 

「士道くん、あなたさっき私と金輪際関わるなって光輝に言われてたんじゃないの?」

 

「はい、言われましまが、それが何か?」

 

「何かって…えぇ」

 

 

電話越しに首を傾げる音が聞こえた気がした。

 

 

「それとも雫さんはもう僕とは話をしたくはありませんか?」

 

「いえ…そういう訳ではないのだけれど…」

 

「ははっ、冗談です。安心してください、夕方の件の会わないという約束は勝手に破棄する気でしたから。ああしたほうが場が収まりやすいと思っての事です。」

 

「そういうことだったのね…よかったぁ…」

 

 

体からようやく力が抜けた。これまで泣いたり、驚いたり、緊張したりと忙しなかったため一気に疲れが押し寄せてきた。

 

 

「まぁ、これからは天之川君に僕と雫さんが会う姿を見られないように注意しましょう。彼の性格上もしバレたとしても僕に当たってくることはあっても雫さんに当たることはまずありませんからね」

 

リスクとしては小さいです。と自分の事は棚に上げて私の心配をしてくれる。

 

 

「えぇ、ごめんなさい。こんなことになって」

 

「雫さんのせいではありませんよ。天之川君の特徴を聞いた限りだとこうなることは予想がついていましたから」

 

「…本当にごめんなさい」

 

「ですから雫さんのせいでは……そうですね。では代わりと言ってはなんですが少しお願いを聞いてくれませんか?」

 

「お願い?」

 

「はい。僕と映画館に行って下さい。」

 

「そんなことでいいのかしら…」

 

「いいんです、これが僕の願いですから。来週の土日どちらが空いてますか?」

 

「えっと、日曜日が空いてるわ」

 

「わかりました。では日曜日にデートと洒落込みましょう」

 

そう言って9時くらいに彼との通話は今日は終わった。さっきまでは今までの疲れで通話が終わったら即座に寝ようと思っていた。

 

が、

 

ピッ

 

プルルルルルル

 

ブツッ「雫ちゃん!こんな夜遅くに電話なんて珍しいね!どう「香織!!私デートのお誘い受けたわ!!」えぇ!?開口一番で何もわからないよ雫ちゃん!!」

 

 

気持ちは時間ではなくその時何があったかで動くものである。

 

 

 

 

 

 

士道縁side

 

 

「ふぅ」

 

あれだけ元気になれたら大丈夫そうだ。自室の机で頬杖をつきながら思考を巡らせていた。

 

 

(自分にどんな感情を向けられているか分かった上であんな提案をするのは卑怯だとわかっている。切り離すべきだとも思っているが雫さんが元気を取り戻すことが優先順位として高かったから仕方なかった)

 

と罪悪感と共に惨めに自分を慰める

 

 

「…そろそろ時間か、今日は依頼が早いな」

 

夜の11時になった。

机の後ろのカーペットをめくってその下にある床下収納庫を開ける。中には食用品が入っている。そして食用品を全て出すとそこには黒いタイツと歯が剥き出しになっているマスクがあった。

 

黒いタイツに着替えてその上から罪人の刺青を隠すように少し厚めの私服を着る。階段を降りようとすると声が掛かった。

 

「お兄…どっか行くの?」

 

「眠れないから少し散歩してくる。紫乃は先に寝てていいですよ」

 

「はぁい」

 

眠そうな声で返事をしてそのまま自室に戻って行った。中学1年生といえど9時寝は早い。今時の学生はそんなものなのだろうか。と自分も中学3年生ということを忘れているが、今から向かう所に比べれば考えている事は呑気なものだ。

 

(あぁ、僕は君にそんな感情を向けられていい人間なんかじゃない。)

 

 

僕は

 

 

 

 

 

 

 

 

人を殺す、ろくでもない人でなしだからね。

 

 

 

 

 

 




中学生が校舎裏で飯食うとか給食だったらできないわ。ここは弁当制の中学ってことで自由な場所で食えます。異論は認めん、なぜならめんどくさいから
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