死界は異なる世界にも 作:ゴツゴツクリスタル
「小学3年生、僕がまだ遊び盛りの時でした」
「縁ー!宿題やったのー?」
「今日は宿題ないもーん!だからいつものとこに遊んでくるー!」
「行ってきますだろー縁。子供のうちから敬語は覚えておかないといけないぞー」
「やだよー!めんどくさい!」
「お兄どっかいくのー?」
「ちょっと学校でサッカーしてくる!」
とても幸せだった。両親は自分たちのことを深く愛してくれていた。友達とも土日には学校のグラウンドで夕日が昇るまでサッカーをしていた。
そんな日々に唐突にヒビが入った。
学校で遊んだ後家に帰ってきた時には 家が燃えていた。
「お兄ぃ、これ、どうなってるの?」
「し、紫乃?」
家の前で座り込んで動かない妹がいた。紫乃は自分の家が燃えるという理解ができない状況に頭が追いついてきていないようだった。
(な、なんなんだよ…これ)
かくいう自分も例外ではなかった。
「消防士はまだか!?もう隣の家にも火がうつっちまう!!」
「くそっ!!どうしてここから火が上がってきたんだ…お、おい!!そこの子供二人!下がれ!危ないぞ!」
「あそこって士道さんちのお宅よね…家から出てないんじゃないかしら…」
「───」
え?
言ってる意味がわからなかった。これは僕がまだ子供だからだろうか、理解する能力が欠落しているからなのだろう。自分の両親が火の中にいる?そんなの
「っっ、そこのおばさん!紫乃お願い!!」
「え!?」
紫乃を名も知らないおばさんのところに預けて僕は走って燃え盛る火の中に入ろうとした。
「お、おい!!そこの子供なにしてる!!」
「マジかよあのガキ!」
大人の声を無視して家の中に入る。中は臭いなどと感じるよりも苦しいという感覚が僕の体を蝕んでいた。リビングに入るとそこは地獄だった。テレビの横に置いてあった家族写真、家族みんなで塗装した壁、母親が毎日食事を作ってくれていた台所、等しく燃えて無になろうとしていた。
そしてそのリビングの燃えているカーペットの上と台所の廊下に
今まで息をしていたであろう両親だったものが燃えていた
「あ あ あぁぁぁぁあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
訳がわからない。何故僕の両親がこんな目に遭わなければならない、そんなひどいことを亮はやっただろうか、ただ普通の生活が送りたかっただけなのに、何故、何故、なぜ、なぜ、なぜなぜなぜなぜナゼナゼナゼナゼナゼナゼナゼ───
天井が崩れた音がした。どうでもよくなって僕は落ちようとしているそれを回避するという選択肢が上がらなかった。崩れた時に思い出したのは
紫乃の笑顔だった。
それが意識を手放す最後の走馬灯だった。
ピッ
ピッ
ピッ
「……?」
なんだ、これ、死んだんじゃなかったのか、僕は。
まだ朦朧とする頭で意識が覚醒した。今自分がどういう状態か分からないがどうやら助かったらしい。
周りを視線だけ動かすと輸血パックやよくわからない液体が注射器で自分の身体中に投入してるらしい。ここは病院だとわかるのは早かった。
その後体を起こすくらいに回復して妹の紫乃と会った。
「お兄 パパとママってどこいったの?」
「───パパとママは………」
どうすればいいどうすればいいどうすればいいどうすればいい
僕は医師から伝えられなくとも医師の悲痛そうな顔で理解していた。現場にいた自分がなによりもそれは分かっていた。
(でも紫乃は見てない…自分が知らないうちに両親が死んでたなんて言ったら紫乃の精神は持つだろうか…)
自分もまだ両親が死んだ事実に納得も泣くことも出来ていないのに紫乃がこれを聞いたらどうなるかは全くわからない。だから、
「……うん、パパとママはちょっと遠くへ旅行に行くんだって。ちょっと長くなるらしいから帰ってくるのを気ままにまとっか!」
空元気を振り撒く。でも今はこれしかないと思った。嘘をつく事はいけないと分かっているし、いつかはバレるだろう。だけど今だけは……
「……うん!分かった!」
「─── ───」
自分はなんてむごい事をしてしまう所だったんだ。何がもうどうでもいいだ。何が納得できてないだ。お前にはいつまでも帰りを待とうとしてる妹がいるんだぞ。その妹を置いて先に死のうとしたなんて
「───できる訳がない」
「お兄?」
「…紫乃、ちょっと顔出して。」
「?」
顔を近づけた紫乃をぎゅっと抱きしめる
「…お兄?」
「紫乃……僕頑張るから、僕、頑張りますから」
これが僕が僕にかせた使命だった。
妹を守り抜くと。
「って所ですね。後に残ったのは遺産だけでしたのでその遺産で家を買ってそこから2人で生活を続けていました。」
「…………」
想像通り重かった…でも、士道くんは妹さんを守り抜くためにここまで頑張ってきたんだと考えると本当に前途多難な人生を歩んできたんだなと感じた。
「ごめんなさい…こんな辛い話させてしまって……」
「いえ、いつかは話そうかと思っていたのでお気になさらず」
ちらりと士道くんの方をみるとあんな話をした後だというのに穏やかに微笑んでいた。彼は一人で背負い込んでいたのだろう。親が死んだ悲しみも、一人で妹を守る辛さも。だから人一倍大人になる必要があってこんなに大人びた口調になったのだろう。
「………」
「話も外の景色も暗くなってきたのでそろそろ帰りましょうか」
「…そうね、話してくれてありがとう」
彼への事を考えてまだ辛い目でしかみることが出来なかった。
「僕はあなただから話したんですよ、雫さん」
「え?」
「雫さんならよく聞いてくれると思ったなのでこうしてお話したんです。なので聞いてもらった事でもう僕は充分あなたからもらいました。これでこの話は終わりです。」
彼は聞いてもらったことが何よりの慰めになったと言った。もういいからと。
(なら、そうね)
「えぇ!明日から学校!受験に向けて勉強はちゃんと頑張らないとね!」
「ははっそうですね。笑って卒業してやりましょう」
「当たり前よ!」
「あぁ、あと、だいぶ遅くなりましたが」
「?」
「その服、似合ってますよ」
「っっっ」
顔が真っ赤になった。
(あれは可愛いっていういみでいいのよね?いいのよね?)
午後7時半。月が見えてきた頃の話だ。
潰れちゃうよ