Muv-Luv 関東絶対防衛圏   作:八式健吾

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 今作品は、サークル「神慮の機械」様の同人誌「オルタネイティヴ・ストーリー」に寄稿した拙作「瓦礫の園を 己が軍靴で」の続きとなります。
 つまり『マブラヴ オルタネイティヴ クロニクルズ04』収録の「WAR EMSAMBLE」の続編に位置する作品となります。
 そのため、第1話を個人として投稿出来ないことを御了承下さい。

 あと登場人物および設定は拙作「帝国の守護者」と一部共通しております。
 古い動画ですが見て頂ければ幸いです。
 (ttps://www.nicovideo.jp/watch/sm4737732)
 ※動画内の千葉秋俊(弟)、今作のは千葉春久(兄)
  同じく動画の直江律子(姉)、今作のは直江神流(妹)

 作者としてはミリオタ、モブ好き、設定考察好きに突き刺さるように書いた作品です。
 念のため誤解の無いように記載しておきますが、今作は非公式・非公認であり、版権元等は一切関係ありません。

 様々な事情で埃を被ったままのものでしたが、オルタのアニメが始まったので、これを機に供養として投稿していく予定です。
 独自設定・オリキャラ主軸で癖の強い作品ではありますが、お読み頂ければ幸いです。

※2021_1025_動画情報追加


第2話 直江神流

「……ここは……どこ?」

 

 目を覚ました直江神流の第一声はそれだった。

 

 夢すら見なかった眠りから徐々に意識が覚醒し出すと、柔らかいベッドで仰向けに寝ていることに気付いて、身を包む倦怠感が薄れてくる。

 次に、その大きな瞳に入り込む夜明けの陽光。

 

 その光で自分を覆うような白い天井に気が付いた。

 

 ぼんやりとする神流の意識が状況を正しく認識することを妨げていたが、窓から差し込む朝日が次第に意識を鮮明にしていく。

 日の光が神流の瞳を瞬かせ、否応なく感じる違和感が周囲に視線を向かわせる。

 上を見れば、視界一面を埋める白い天井と消灯している蛍光灯。

 左右に目を向ければ、ベージュの壁と朝日が差し込むガラス窓。

 枕元の近くには水差しが置かれた病院特有の小さい棚。

 首を捻れば、頭の直ぐ近くに長いコードで繋がれたナースコールの押しボタン式のスイッチが置かれ、胸元を見ればいつの間にかパジャマ代わりのジャージを着ている。

 

 そうして、何となく自分が病室で寝ていることを理解した。

 

 けど、感じる違和感が、もっと根本的な何かが違うと心に訴えかける。

 

 不意に、いつもの――戦場で身に染みついた癖で、左手首の厳つい軍用腕時計を確認しようとして、神流は愕然とした。

 慌てて上半身を撥ね起こすと、まじまじと何もない自分の右手首を凝視する。

 

 千葉に拾われてから、ほぼ外したことがない大切な――古びた黒い軍用腕時計が見あたらず、心の底から止めようがないほどの焦燥感が込み上げてきた。

 

 零れかける悲鳴を飲み込んで、神流は狼狽えながら首を振って周囲に見回した。

 

 そして、すぐさま安堵の溜息を吐いた。

 なんてことはない。

 彼女の近くの小さい棚の上で、水差しに半ば隠れるようにして、アナログの黒い軍用腕時計が置かれていた。

 まるでひったくるように腕時計を掴み、素早く左腕に巻き付けるとその傷だらけの表面を愛おしく指先で撫でた。

 

 大好きなあの人から貰ったお古の腕時計は、ただそれだけのことで少女の宝物だった。

 あの人が初めてくれた物。

 生き残ることを決意したあの時からのお守り。

 その時計の針を確認し、感じていた違和感の正体に気付くと神流は独りごちた。

 

「……そっか、起床ラッパが聞こえなかったから……」

 

 だから、違和感があったんだ……。

 

 そんな言葉は口の中で消えた。

 強制的に徴兵され、二週間もしないで最前線に送り出され、周りの同級生が虫けらのように死んでいく地獄のような日々。

 その中でも鳴り続けた、忌まわしいとさえ感じるけたたましいラッパの音。

 皮肉なことに、それは僅か二ヶ月足らずの内に神流の日常の一部になっていた。

 

 時計の針が示す時刻は午前六時四二分。

 

「……千葉さん……」

 

 意識しないで口から出た名前に、あっという間に涙腺が緩んだ。

 

 幻のような記憶の断片。

『たった一度だけ』自分の名を呼ばれ、痛いぐらいきつく抱き締められた感触と温もり。

 

 目を覚まして一分経つか経たないかのうちに別れ際の記憶を思いだして、そして気付いてしまった。

 

 あの人は――千葉春久は生きていた。

 だけど、私の近くにはいない。

 ここには帝国軍がいない。

 愛していると思いの丈を伝えたあの人は常に戦場を求める。

 

 いいえ。それも違う。

 

 どんなに言葉を重ねても、本当は、きっと殺された妻子を忘れずに復讐のためだけに最前線を求めている。

 妻子が殺されたという事実を知った今では、彼なら絶対にそうするだろうと確信してしまう。

 

 悲しいと思うよりも早く、神流の両目からぽろぽろと涙が零れ落ちた。

 それを止めたくて固く目を閉じる。が、それは全く意味を成さなかった。

 こぼれ落ち続ける悲しみと悔しさに満ちた涙はまるで五月雨ように手に落ちては弾け、少女の嗚咽が津々と降る雨音のように、朝の光で満ちた病室に満ちた。

 

 まるで山の木々を覆い隠す霧雨のように、深く、静かに――。

 

 そんな悲しみの渦の中で、微かに残る幻のような記憶に縋りながら、神流は大事な腕時計をきつく握りしめて――。

 

「……うそつき……」

 

 たった一言だけ呟いた。

 

 




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