ようこそ心配事が多い教室へ   作:御米粒

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1年半ぶりに投稿するので多めに見てください!


1巻
1話


 桜の花びらが舞う四月某日。

 俺は高校生になった。

 俺が入学する高度育成高等学校は一切学費がかからない国が経営する学校だ。さらに希望する就職、進学先にほぼ100%応えるのが謳い文句で、全国から優秀な生徒を募っている。

 そんな立派な学校の教室で一人ポツンと着席している生徒がいた。

 俺だった。

 

「さすがに早かったか」

 

 時刻は午前6時50分。学校からは8時30分まで来るように通知があったので、1時間半以上も早く登校してしまった。

 だがこれでいい。

 電車やバスが遅延したり運転見合わせになることを考慮して、早めに前泊したホテルをチェックアウトしたのだ。

 

 国立の学校だから校則が厳しくて、入学初日から遅刻したら停学になるかもしれない。

 

 昨晩。一粒落とされた不安が、心の中で滲んで広がり、それ一色になってしまった。

 その不安が解消された俺は眠気に襲われ意識を手放してしまった。

 多数の監視カメラが設置されていたので警戒をしていたのに。

 俺は三大欲求に負けてしまった。

 

 

♦♦♦

 

 

 起きたら教室は多くの生徒で賑わっていた。

 

 やばい! 完全に出遅れた!

 

 出会いの場では第一印象が大事だと母親に教わったのにやらかしてしまった。

 もしかしたら居眠りキャラだと思われたかもしれない。

 

「あ、起きたんだ」

「……ふぇ?」

 

 声がした方に顔を向けると、そこには美少女がいた。

 

「私は松下千秋。よろしくね」

「あ、立花(たちばな)恭平(きょうへい)です。よろしく」

 

 いきなり美少女に挨拶されてドキマギしてしまった。

 

「うん、よろしくね。立花君は昨日あまり寝れなかったの?」

「いや、早起きして眠たくなって……」

「そうなんだ。ずっと寝てたから気になってさ」

「あー、ごめん」

「ううん。それより立花くんはどこから来たの?」

「俺の出身は――――――」

 

 俺と松下が他愛もない話で盛り上がっていると、5分ほどして担任が教室に入ってきた。

 

「新入生諸君。私はDクラスを担当することになった茶柱佐枝だ。普段は日本史を教えている」

 

 凄い美人の先生だ。

 松下もそうだけど東京は美女が多いのだろうか。

 

「この学校には学年ごとのクラス替えは存在しない。卒業までの3年間、私が担任としてお前たち全員と学ぶことになると思う」

 

 茶柱先生は続けて資料と端末を配布して、重要事項を次々に説明していく。

 Sシステムだの10万ポイント支給だの怪しげな単語や言葉ばかりだ。

 俺は一言一句聞き逃さないよう耳を傾けた。

 

「質問があるものはいないか?」

 

 説明を終えた茶柱先生が問う。

 すぐに質問をしようと思っていたが、急に尿意に襲われたので個別に質問することにした。

 

「質問はないようだな」

 

 よかった。これでたくさん質問されたら危うく漏らすところだった。

 入学式まで自由に過ごしていいということなので、俺は茶柱先生より早く教室を出た。

 

 すっきりして教室に戻ると、クラスメイトたちが自己紹介をしていた。

 そろりそろりと、松下の隣に並ぶ。

 

「立花くん、大丈夫?」

「ああ。松下は自己紹介終えたのか?」

「うん。立花くんもした方がいいよ」

「そうだな」

 

 よし。自己紹介で居眠りキャラを払しょくしてやる。

 

「それじゃ、最後に―――そこの君、お願いできるかな?」

 

 仕切ってるイケメンくんに振られたので一歩前に出る俺。

 

「わかった。立花恭平です。岩手から来ました。中学ではキックボクシングを習ってました」

 

 ちなみに格闘技は好きじゃない。

 キックボクシングを習ったのは自分で自分を守れるよう強くなるためだ。

 そうすれば万が一いじめにあった際も対処できる。

 

「趣味は映画鑑賞です。よろしく」

 

 言い終えると、みんな笑顔で拍手をしてくれた。

 自己紹介大成功だな。三日前から練習した甲斐があった。

 

 

♦♦♦

 

 

 入学式を終えて教室に戻った俺たちは一通り敷地内の説明を受けて解散になった。

 さっそく茶柱先生に質問しようとしたところ、松下からカラオケに誘われた。

 早めに疑問と不安を解消させたかったので断ろうとしたが、彼女に嫌われる方が怖かったので誘いに乗ることにした。

 面子は俺、松下、平田、軽井沢、佐藤、篠原の6人。

 平田は自己紹介を仕切っていたイケメンくん。軽井沢と佐藤はギャルの美少女。篠原は普通の女子。

 

 カラオケはそれなりに盛り上がった。

 事前に最近のヒット曲を調べておいたので、俺の選曲は女子ウケがよかったと思う。

 気になったのは軽井沢のボディタッチが多かったくらいだ。

 やっぱりギャルは距離感が近いのかもしれない。

 知らんけど。

 

 カラオケを終えた俺たちは軽くウィンドウショッピングをしてファミレスで夕食をとることにした。

 

「今日は楽しかったね!」

 

 佐藤がジュースを片手にはしゃいでる。

 

「ね! 明日もこの面子で遊ばない?」

「それいいかも!」

 

 軽井沢の提案に篠原が同調する。

 

「毎月10万ポイントも貰えるんだから遊び放題だよね!」

 

 それはどうだろうか。

 

「立花くん、難しい顔してどうしたの?」

 

 松下が顔を覗き込む。

 ドキドキするからやめてほしい。

 

「いや、本当に毎月10万ポイント支給されるのかなって」

「……え? なんで?」

 

 真正面に座る軽井沢も顔を近づけてきた。

 ギャルはあまり好きじゃなかったけど、軽井沢みたいな美少女ならありかもしれない。

 ――いや、今は自分が疑問に思っていることを伝えなければ。

 

「だって茶柱先生は毎月10万ポイント支給するとは言ってなかっただろ?」

「あっ」

 

 俺の言葉に松下が反応する。

 俺は続けて疑問に思っていることを告げた。

 

 敷地内に多数監視カメラが設置されていること。

 立ち寄ったコンビニに無料の商品が置いてあったこと。

 先輩らしき人たちはポイントの節約について会話していたこと。

 以上の点を踏まえて……

 

「もしかしたらポイントって変動して支給されるんじゃないかって疑問に思ったんだけど」

 

 俺の説明にみんな聞き入ってくれた。

 

「確かにその可能性は十分考えられるね」

 

 平田が頷きながら言う。

 

「とりあえず俺は次のポイント支給日までは無駄遣いしないようにする」

「来月の支給日でポイントが変動するかどうかわかるからね。僕も節約するよ」

「立花くんと平田くんがそう言うなら、あたしも節約しようかな」

「軽井沢、節約できるのか?」

「できるし! あたしをなんだと思ってるの!?」

 

 ギャルだから洋服や化粧品で浪費しそう。

 

「松下さん、佐藤さん、篠原さんはどうする?」

 

 頬を膨らませた軽井沢が3人に問う。

 

「私も節約するよ。ていうか10万も消費したら金銭感覚狂いそうだし」

 

 松下の言う通りだ。社会人になって一人暮らしを始めたら自由に使用できるお金なんて限られる。

 

「みんなが節約するなら私もするかな」

「佐藤さんと同じく」

 

 あとは茶柱先生に質問をして、疑問を解消するだけだ。

 

「あ、ほかの人たちにも伝えたほうがいいのかな?」

 

 軽井沢が気が利くことを言ってくれた。

 

「それは少し待ってくれ。明日茶柱先生に確認するから」

「うん、わかった」

「それじゃ話も終えたことだし帰るか」

「いや、まだ料理きてないじゃん」

「……っ!?」

 

 

♦♦♦

 

 

 翌朝。俺と松下は職員室に来ていた。

 目的は茶柱先生に質問をするためだ。

 

「立花と松下か。朝からどうした?」

 

 谷間を見せつけながら俺たちを見上げる茶柱先生。

 

「先生に質問があるんですが」

「言ってみろ」

「支給されるポイントって変動しますか?」

 

 刹那。茶柱先生の両目が見開いた。

 それと職員室の空気が変わった気がする。

 

「……悪いがその質問に答えることは出来ない」

 

 質問をはぐらかすつもりだな。

 逃がさないぞ!

 俺の不安を解消させるためにな!

 

「支給されるポイントって変動しますか?」

「その質問には答えられない」

「支給されるポイントって変動しますか?」

「だから……」

「支給されるポイントって変動しますか?」

「……」

「支給されるポイントって変動しますか?」

「……しつこいぞ立花」

「支給されるポイントって変動しますか?」

 

 しつこく質問をしてたら松下に頭を叩かれた。

 

「いてっ!?」

「立花くん、壊れたの!?」

「いや、答えてくれるまで粘ろうかと……」

「粘っても答えてくれないって」

「……なんで?」

「ていうか答えられない時点で、答えが出たようなものでしょ?」

「そうなのか?」

「……立花くんって頭切れるのに、お馬鹿なの?」

「俺は馬鹿じゃない」

「それより時間がないんだから他の質問をしないと」

「は、はい……」

 

 お淑やかに見えて暴力的な松下に怯えながら、俺は次の質問を口にする。

 

「次に敷地内に設置されている監視カメラって生徒たちの授業態度や普段の行動を監視して評価するためですか?」

「それも答えれない」

「クラス替えがないのってポイントに関係あります?」

「それも答えられない」

「コンビニに無料の商品が置いてあるのはポイントがない生徒への救済措置ですか?」

「それも答えられない」

「定期テストで赤点を取ったり、授業態度が悪いと退学になったりしますか?」

「それも答えられない」

「敷地内に交番があるのは治安が悪いからですか?」

「それも答えられない」

「ちょくちょくヤンキーっぽい生徒を見かけるんですけど、問題児も受け入れてるんですか?」

「それも答えられない」

「可愛い子が多いのは容姿も試験の対象だったからですか?」

「それも答えられない」

「先生は独身ですか?」

「……独身だ」

 

 やっと答えてくれたよ……。

 ていうか茶柱先生って独身なんだ。

 

「ありがとうございます。質問は以上です」

「そうか……」

 

 多めに質問を受けたからか、茶柱先生は疲労困憊のようだ。

 

「また疑問が涌いたら質問してもいいですか?」

「構わない。答えられるかはわからないがな」

 

 不敵な笑みを浮かべる茶柱先生。

 

「朝早く失礼しました」

 

 丁寧にお辞儀をして俺たちは職員室を後にした。

 男の先生と話している眼鏡男子に睨まれたような気がしたが、何かやらかしてしまっただろうか。

 次に見かけたら確認してみよう。

 

「立花くん、質問しすぎじゃない?」

 

 隣りを歩く松下は呆れた様子だ。

 

「いや、確認しないと不安だし」

「そうだけど……。でもこれでポイントは変動する可能性は高くなったね」

「茶柱先生が肯定も否定もしなかったってことは……やっぱりそうなのか?」

「だと思うよ。もしまだ気になるなら適当に先輩を捕まえて聞いてみる?」

「そうだな」

「わかった。私も付き合うよ」

「いいのか?」

「うん。私がいないと立花くん、先輩を質問攻めにしそうだし」

「うっ……」

 

 そういえば小中学校でも担任に質問攻めをして怒らせたことがあったっけ。

 

「とりあえず教室に着いたら平田くんたちに報告しないとね」

「だな」

 

 教室に戻った俺たちはすぐに平田たちに結果を伝えた。

 ポイントの変動について、確定ではないが、ほかのクラスメイトにも情報を共有することにした。

 男子には平田、女子には軽井沢から説明してくれるらしい。

 半数以上の生徒は信じてくれたけど、一部の生徒は平田たちの説明を聞き流していた。

 

「ちょっといいかしら」

「ん?」

 

 昼休み。弁当を食べようとしたところ、黒髪ロングの美少女が話しかけてきた。

 

「……なんだ?」

「ポイントが変動する考えを思いついたのはあなたかしら?」

「考えというより、疑問が涌いただけなんだけど」

「……そう」

 

 名前は知らないけどこの子も美少女だ。

 松下と同じく上品な感じで、松下よりクールに見える。

 美少女はそのまま自席に戻っていった。

 

「堀北さんとなに話してたの?」

 

 お手洗いから戻ってきた松下が隣に座った。

 

「いや、ポイントの変動について聞かれて」

「ふーん。あの人もちゃんと話聞いてたんだ」

「軽井沢の説明のことか?」

「うん。なんか聞き流してる風に見えたから」

「まあクールそうだよな」

「そうだね。……立花くんはああいう子が好み?」

「いやぁ、冷たい感じがするからちょっと苦手かも」

「……そっか」

 

 容姿ならドストライクだけど。

 俺は長髪でスリムな子が好きなのだ。

 このクラスなら松下、堀北、佐藤、軽井沢あたりか。

 

「それよりさっそくお弁当にしたんだ?」

「ああ。まずは食費から節約しようと思って」

「私は結局コンビニのパンにしちゃった」

 

 松下は苦笑いを浮かべ、鞄から焼きそばパンを取り出した。

 

「松下は料理しないのか?」

「多少はするけど、昨日は入学初日だったから疲れちゃって」

「そうだよな」

 

 俺はスーパーで無料の商品をたくさん買ってしまったので、賞味期限内に消費しないといけない。

 

「明後日くらいから私も弁当作ろうかな」

「いいんじゃないか」

「うん。ならおかず交換でもしようよ」

「いいなそれ」

 

 近い未来に期待を膨らませ俺は松下との時間を楽しんだ。

 松下との会話に夢中になりすぎたのだろう。

 

 俺は気づけなかった。

 

 軽井沢が俺を値踏みしていることに。

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