ようこそ心配事が多い教室へ   作:御米粒

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ひより登場です!


11話

 5月第2週。今日の放課後から中間テストに向けた勉強会が開始される。

 開催場所は教室のみだ。

 当初は図書室でも勉強会をする予定だったが、他のクラスとトラブルになる可能性を考慮して教室のみで実施することになった。

 特にDクラスはヤンキーが多いので、勉強会の邪魔をしてくる可能性は高いだろう。

 なので他クラスとの接触が避けられる教室が一番安全だ。

 

「私は誰に教えればいいの?」

 

 水筒を忘れたので自販機で飲み物を買おうとしたところ、堀北がいつの間にか背後に立っていた。

 

「佐藤、篠原の二人を頼む」

「二人だけでいいの?」

「ああ。講師が6人もいるからな」

「そう。その二人の学力がどれくらいかわかる?」

「この前の小テストで二人とも40点台だった」

「……つまり中学生レベルということね」

「大変だろうけどよろしく頼む」

「任せなさい。平均80点以上は取らせるわ」

 

 凄い自信だな。

 だがあの二人はそうとうお馬鹿さんだ。

 そう上手くいくかな。

 

「あなたは誰に教えるのかしら?」

「軽井沢、須藤、三宅、沖谷の4人だな」

「……なぜあなたの方が多いの?」

 

 不服そうな態度を隠さず堀北が問う。

 

「サポートに松下が入ってくれるから。実質二人で教えるんだよ」

「そう。それなら納得よ」

 

 負けず嫌いな堀北が人数の少なさに文句を言ってくるのは想定内だ。

 ちなみに池たちは櫛田が教えることになっている。

 勉強嫌いな池たちも櫛田に教えてもらえるなら頑張るだろう、という松下の采配である。

 

「時間は一日二時間でいいのよね?」

「ああ。多少前後しても構わないから、そこらへんは堀北の裁量に任せる」

「わかったわ」

 

 そのまま堀北は教室に帰っていった。

 

「頼んだぞ佐藤、篠原」

 

 佐藤と篠原には堀北から勉強を教えてもらうようお願いをしている。

 この勉強会は佐藤と篠原の為でもあるが、堀北の為でもある。

 中学の同級生たちのせいで孤独を好むようになってしまった堀北。

 佐藤と篠原に堀北の過去(俺の推測)を話したところ、快く引き受けてくれた。

 堀北のことなので、勉強が苦手な二人に厳しい言葉を浴びせるだろう。

 二人ともそれくらいは我慢してくれるとのことで、無事に堀北のコミュ障を改善する協力をしてもらうことになった。

 どうやら二人とも、堀北を可哀そうな子だと思っているようだ。

 

「私たちが堀北さんをまともな子にしてあげるよ!」

 

 学力がまともじゃない佐藤の言葉を回想していると松下が声をかけてきた。

 

「堀北さんとなに話してたの?」

「……松下も飲み物買いに来たのか?」

「うん」

 

 どうやら松下は俺と堀北のやり取りを見ていたようだ。

 

「それで?」

「誰に勉強を教えればいいのか聞かれた」

「佐藤さんと篠原さんだよね」

「ああ。なんとか堀北のキツイ言葉に堪えてくれればいいんだけど」

「そうだね。あ、今日はカルピスにしようかな」

「珍しいな」

「たまにはね。軽井沢さんが待ってるから教室戻ろっか」

「そうだな」

 

 松下が買い終わるのを待ち、教室に向かう。

 道中。以前より周囲の視線が気になったが、恐らくBクラスに昇級した影響だろう。

 DクラスからBクラスに昇級したのは、俺たちが思っているより偉業らしい。

 

「なんか落ち着かないね」

「松下も気づいてたか」

「そりゃ気づくよ。美男美女カップルって注目されやすいから仕方ないね」

「え? そっちなのっ!?」

 

 なるほど。俺がイケメンで、松下が美少女だったから見られていたのか。

 

「違うけど」

「違うのかよっ!」

 

 からかわれたのはムカつくけど、美男と言われたので内心は嬉しくてたまらなかった。

 

 

♦♦♦

 

 

 茶柱先生によるSHRが終わると、勉強会に参加する生徒たちが講師の下に集まりだした。

 平田、櫛田の下には、目がハートになっている生徒たち。

 幸村の下には、気まずそうな雰囲気を醸し出している生徒たち。

 王の下には、性格が穏やかな生徒たち。

 堀北の下には、生温かい視線を講師に向ける女子二人。

 

「よろしく頼むぜ!」

「いてっ」

 

 須藤が元気よく声をかけてきたと思ったら、背中を思いきり叩かれてしまった。

 

「ちょっと須藤くん。暴力はやめなさいよね」

「ぼ、暴力じゃねえよ……」

 

 暴力に敏感な軽井沢が須藤を注意した。

 過去のトラウマからか、このようなコミュニケーションには敏感である。

 

「立花、よろしく頼む」

「よろしくね」

 

 須藤に続いて、三宅と沖谷も集まった。

 三宅は物静かな性格で、基本的に一人でいることが多いが、長谷部と仲が良いらしい。

 沖谷は中性的な顔が特徴の男子だ。よく女子の玩具にされている。

 

「ああ。こちらこそよろしくな」

 

 この面子で一番学力が低いのは須藤だ。

 普段面倒を見ている軽井沢はもちろんだが、三宅と沖谷もきちんとテスト勉強をすれば赤点を取ることはないだろう。

 

 あれ? 赤点って何点以下なら赤点なんだっけ?

 小テストだと30点以下だったが、本番が同じとは限らない。

 

 くそ! なんであの時質問しなかったんだ俺は!

 

 勉強会が終わったら茶柱先生に確認しなければ。

 ここは高度育成高校だ。

 もしかしたら本番は50点や60点がボーダーラインの可能性もある。

 

「どうしたの?」

 

 険しい表情に気づいたのか、松下が心配にそうに見つめていた。

 

「赤点のボーダーラインを考えていた」

 

 周りに不安を与えないよう、小声で松下に答える。

 

「30点以下じゃないの?」

「普通の学校ならそうなんだろうけど……」

「なるほど。明日辺り茶柱先生に確認しないとね」

「勉強会が終わったら聞きにいく」

 

 いつの間にか俺は赤点は30点以下だと決めつけていた。

 油断するな俺!

 深呼吸をして、気を引き締める。

 

「それじゃ始めるか」

 

 勉強会は須藤のあまりの学力の低さに驚いたこと以外は順調に行われた。

 三宅と沖谷も平均以上の学力はあったようで、苦手な科目だけを教えれば問題なさそうだ。

 問題は須藤だ。

 もし中学校が義務教育でなければ、卒業できないレベルである。

 次回からは俺が須藤につきっきりで教え、他の面子は松下に任せた方がよさそうだ。

 

「堀北はどうだった?」

 

 堀北組も勉強会が終わったようなので、佐藤と篠原に確認してみる。

 

「うーん、上から目線なのはムカついたけど、教え方は問題なかったよ」

「篠原さん、ムカついちゃだめだよ。堀北さんは可哀そうな子なんだから」

「あ、そっか」

「問題はなさそうってことでいいのか?」

「うん。篠原さんも問題ないよね?」

「ないよー」

「ならよかった」

 

 勉強会が崩壊したらどうしようかと不安だったが、二人の様子を見る限り大丈夫そうだ。

 さすがの堀北も真面目に勉強をする生徒には、きちんと対応をしてくれるらしい。

 

「ただ気になったのは―――」

 

 思い出したように佐藤が語りだした。

 時折堀北が幸村を睨みつけていたらしい。

 恐らく自分より小テストの結果がよかった幸村に対抗心を燃やしているのだろう。

 勉強会で教えてる人数も幸村の方が多い。

 

「テストの点数負けて悔しがってるんだ。堀北さん可愛いね」

「確かに。意外と子供?」

 

 なぜか佐藤と篠原の堀北に対する好感度が上がっていた。

 対抗心を燃やす女子は可愛いのか。

 よくわからないな。

 

「いきなり何なんだあいつは!」

 

 廊下から幸村の荒れた声が聞こえてきた。

 

「幸村くん、いったいどうしたんだい?」

 

 すぐに平田が駆けつける。

 こういう時にすぐに反応できるのも平田のいいところだ。

 本当にDクラスに所属されたのは不思議でしょうがない。

 

「堀北にいきなり喧嘩を売られたんだ!」

「堀北さんに?」

「ああ。訳がわからない」

 

 恐らく「小テストで私に勝ったからっていい気にならないことね」みたいなことを言ったのだろう。

 

「幸村くーん、堀北さんは可哀そうな子なんだから怒っちゃ駄目だよー」

 

 いつの間にか佐藤が幸村のもとに移動していた。

 

「か、かわいそうな子だと?」

「うん。だからあまり怒らないであげてね」

「意味がわからないんだが……」

 

 幸村が困惑している。

 この場は平田に任せよう。

 俺は茶柱先生の下に行かなければならない。

 

 

♦♦♦

 

 

 松下と軽井沢を先に帰らせ、俺は職員室にやって来た。

 

「放課後に質問しに来るとは珍しいな」

「すみません。どうしても確認したいことがありまして」

「わかった。言ってみろ」

「はい。中間テストの赤点は何点以下になりますか?」

「……ほう。いい質問だ」

 

 口角を上げ感心したかのような笑みを浮かべる茶柱先生。

 

「だがお前なら小テストの結果発表した日に質問をしてくると思ったぞ」

「それは……」

「極度の心配性なお前でも、学校生活に慣れて気が緩んだのかもしれないな」

「くっ」

 

 図星を突かれ返す言葉がない。

 

「そんな顔をするな。注意しているわけじゃない」

「……それで赤点は何点なんですか?」

「平均点割る2の点数以下が赤点になる」

「やはり30点じゃなかったんですね」

「ああ。一応国立の名門校だからな」

「ですよね」

 

 後で平田や松下に連絡をしなければ。

 赤点の基準が予想より上がったことで、勉強会に参加させる生徒が増えるかもしれない。

 

「それと赤点を回避する方法は見つかったのか?」

「……いえ。いくつか思いついたのはあるんですけど」

「言ってみろ」

「茶柱先生に土下座をする?」

「しても何も意味はないぞ」

「ポイントで先生を買収する?」

「それがばれたら私が学校を解雇になってしまうな」

「ですよね……」

「まだ時間はある。もう少し粘ってみろ」

「はい。それじゃ失礼しました」

「ああ。気をつけて帰れ」

 

 今日の茶柱先生はいつも以上に生き生きしていた。

 もしかして生徒が困っている姿を見ると興奮するサドなんだろうか。

 ……いや、さすがにそれはないだろう。

 きっとプライベートでいいことがあったんだろう。

 

「帰りに図書室にでも寄るか」

 

 気分転換に読書でもしよう。

 もしかしたら読んでる最中にいい考えが思いつくかもしれない。

 

 

♦♦♦

 

 

 一週間ぶりの図書室は、いつもより多くの生徒が見受けられた。

 どうやら他のクラスも考えていることは一緒のようで、ほとんどの生徒は勉強会目的で図書室を利用している。

 本を探しながら、様子を窺ってみる。

 どの生徒も真面目に勉強をしているようだ。

 その中で一際目立っているのは、ストロベリーブロンドの美少女だった。

 見た目は明るく活発そうで、胸囲は破壊力抜群だった。

 普段一緒にいる松下や軽井沢の比ではない。

 

「あの」

 

 美少女に見惚れていると、背後から声をかけられ、敏感な反応をしてしまった。

 

「な、なに……?」

 

 振り向くと、そこには眠たげな顔をしている銀髪の美少女がいた。

 

「本をお探しなんでしょうか?」

「そ、そうだけど……」

 

 この子、見覚えあるな。

 よく図書室にいる子だ。

 初めて見かけたときに見惚れて、松下に足を踏まれた記憶がある。

 

「探している本は小説ですか?」

「そうだよ。気分転換に読書でもしようかと思って」

「そうですか! 実は私も読書好きなんです!」

 

 急に目が輝きだしたぞこの子。

 本好きと出会えて興奮しているのだろうか。

 

「そ、そうなんだ……」

「はい。よかったら私とお話してくれませんか?」

「え……?」

「実はクラスに読書好きな方がいなくて……。本を語り合える人を探していたんです」

「えっと、君は何組なんだ……?」

「自己紹介がまだでしたね。失礼しました。1年D組の椎名ひよりと申します」

 

 まさかのDクラス!?

 文学美少女なのになぜヤンキークラスに配属されてしまったんだ。

 

「あなたのお名前は?」

「俺は1年Bクラスの立花恭平」

「立花くんですね。よろしくお願いします」

 

 確かにDクラスなら読書好きは少なさそうだ。

 ……待て。

 椎名はクラスメイトに読書好きな生徒がいないと言っていた。

 本当にそうだろうか?

 一クラスに40人はいるんだぞ。さすがに読書好きが椎名一人とは考えにくい。

 

「あの……席も空いてますし、あそこで少しお話しませんか?」

 

 さらに図書室で本を借りる生徒ならいくらでもいる。

 なぜこのタイミングで俺に声をかけてきた?

 俺は図書室には一ヶ月近く通っている。

 なのに今まで一度も椎名に声をかけられたことはない。

 基本松下と一緒に通っていたので、もし読書好きの友達が欲しいのなら、同性の松下が一緒にいた時の方が声をかけやすいはずだ。

 

 ……もしかしてハニートラップか!?

 

 それなら椎名が声をかけてきた理由がわかる。

 今日は俺一人だ。

 松下がいない今なら美少女の誘いを簡単に受けてしまうだろう。

 

「立花くん……?」

 

 恐らくDクラスのリーダーにでも指示されているのだろう。

 俺から情報を引き出そうとしたに違いない。

 ヤンキーは短絡至高だから、図書室に通う男子は、女子にモテなくて、大人しいやつらばかりだと思っているのだろう。

 甘いな。

 俺は普段から松下や軽井沢のような美少女と付き合いがある。

 いくら椎名が美少女でも、そう簡単に引っかからないぞ。

 

「悪い。今日はあまり時間がないんだ」

「そうですか……」

「また声をかけてくれ」

「……はいっ!」

「それじゃまたな」

 

 俺は適当に本を見繕って、速やかに図書室を後にした。

 

「ふぅ。危なかった……」

 

 誘いを断った時の落胆している表情。

 最後に見せてくれた最高級の微笑み。

 とても演技には見えなかった。

  

 椎名ひより。

 

 なんて恐ろしい女だ。

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