ようこそ心配事が多い教室へ   作:御米粒

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眼鏡チート先輩登場!


12話

「Dクラスがハニートラップを仕掛けてきただって?」

「ああ」

 

 帰宅後。俺は平田に椎名ひよりに声を掛けられたことを報告した。

 

「確か平田もDクラスの女子に告白されたんだよな?」

「そうだね」

 

 入学して一ヶ月弱で平田は複数の女子から告白を受けている。

 一年女子のみで投票されたイケメンランキングで2位だったこと、彼女がいないことから、彼の人気は止まることを知らないようだ。

 だがこの学校の正体が明らかになってからの告白は疑わしい、と言わざるを得ない。

 

「……まさか、それもハニートラップだったということかい?」

「Dクラスの女子に告白されたのは5月に入ってからだよな?」

「そうだね」

「ならその可能性は高いと思う」

「そっか……」

「平田も気をつけてくれ」

「うん。心配してくれてありがとう」

「それじゃまた明日」

「うん」

 

 平田は優しい男だ。

 告白を断るたびに胸を痛めているのが一目でわかる。

 もしかしたらハニートラップはだめもとで、平田の心を傷つけるのが目的かもしれない。

 平田がBクラスのリーダー的存在なことは他クラスも把握しているだろう。

 

「電話終わった?」

 

 軽井沢はそう言うと、テーブルに夕食を並べ始めた。

 クラスで勉強会をしている俺たちだが、日頃行っている個別の勉強会も継続中だ。

 

「終わった」

「なら飲み物用意してもらっていい?」

「わかった」

 

 軽井沢と二人で夕食をとるのも随分と慣れてきた。

 最初は女子の手料理を頂けるとのことで、ドキドキしていたのが懐かしい。

 たまに、軽井沢と同棲したらこんな感じになるのかと妄想するのは内緒である。

 

 夕食を美味しく頂きながら、明日から須藤にマンツーマンで勉強を教えることを軽井沢に伝えた。

 やはり軽井沢は須藤のことが嫌いなようで、いい顔はしなかったが渋々了承してくれた。

 なぜ軽井沢の承認が必要なのかわからないが、納得してくれたのでよしとする。

 

 夕食を食べ終えると、ようやく勉強の時間だ。

 週4で勉強を教えているおかげで、学力は順調に上がっている。

 本人は勉強嫌いと公言しているが、中学時代に学校が苦痛の場所でしかなかったのも関係があるかもしれない。

 

「そういえば今日も問題なかったか?」

「ないわよ」

 

 俺は毎日軽井沢に学校でトラブルが起きなかったか確認をしている。

 特に5月に入ってからはしつこいくらい聞いている。

 

「他のクラスの女子に絡まれたりは?」

「されてないわよ。そもそも教室からあまり出ないし」

 

 確かに移動教室やお手洗いに行くときくらいしか教室から出ていない。

 ちなみに食堂を利用している生徒たちには、他のクラスの生徒に絡まれないよう注意を促している。

 

「それよりここわかんないから教えて」

 

 英語の教科書を手にしながら距離を縮めてくる軽井沢。

 勉強なので仕方ないが、肩がぶつかるくらい近いと、ドキっとしてしまう。

 

「えっと、ここはだな……」

「うん」

 

 軽井沢のいい匂いに鼻腔をくすぐられながら、何とか今日も個別の勉強会を終えた。

 ちなみに勉強が終わっても、軽井沢はすぐに帰らない。

 今日もKーPOPのライブDVDを見せられた。

 どうやらカラオケで俺に歌わせたいらしい。カラオケくらいで喜んでくれるなら、頑張ってマスターしようじゃないか。

 

「そういえば立花くんも中学の授業でダンスあった?」

「あったぞ。けっこう楽しかったな。軽井沢は?」

「あったけど、ほとんど見学してた」

「そっか。高校はなさそうだな」

「ないでしょ」

「だよな。それでなんでダンスの話を?」

「えっと、運動不足にならないように自分の部屋でダンスでもしようかと思って」

「いいんじゃないか?」

「本当にそう思う?」

「ああ。これから体育祭やマラソン大会があるかもしれないし、体力はつけておいた方がいいだろ」

 

 ちなみに俺は中間テストが終わったら、ケヤキモール内にあるトレーニングジムに通う予定だ。

 月額1500ポイントで利用し放題で、トレーナーも少数だがいるらしい。

 体力をつけるならジョギングでもいいのだが、野外だと他のクラスの生徒から襲われる可能性があるので、安全性を考えてジムに通うことにした。

 

「そ、そうよねっ!」

「うちの寮って防音性が高いみたいだから、激しい踊りじゃなければ他の部屋の人たちにも迷惑は掛からないと思うぞ」

「そんな高いわけ?」

「ああ」

「そ、そうなんだ……。へ、へぇ……」

 

 なぜか顔を赤らめる軽井沢。

 ダンスで失敗して転倒した自分でも想像しているのだろうか。

 

 

♦♦♦

 

 

 翌日。俺は他クラスを偵察するために、松下を連れて勉強会終了後に図書室を訪れていた。

 昨日は椎名に絡まれたが、今日は松下がいるので問題ないだろう。

 

「勉強会をしてるのはCクラスとDクラスだね」

「なんでわかるんだ?」

「Cクラスの一之瀬さんは有名だし、Dクラスの生徒は櫛田さんに確認しておいたから」

「一之瀬ってCクラスの学級委員長って呼ばれてる人だっけ?」

「そうそう」

「一之瀬の隣にいるイケメンは?」

「確か神崎くんだったかな。一之瀬さんの右腕らしいよ」

「それも櫛田情報?」

「うん」

「……あいつ凄いな」

 

 さすがコミュ力の化身である。

 堀北に櫛田の一割でもコミュ力があれば……。

 

「ちなみにDクラスのリーダーは知ってる?」

「ううん。Dクラスの情報は少ないみたい」

「そっか」

「それよりいつまで読書をしたふりすればいいの?」

 

 俺と松下は本で顔を隠しながら他クラスの様子を窺っている。

 傍から見たら文学カップルにしか見えないだろう。

 

「もう少しだ」

「別にいいけど。それより椎名さんはいないみたいだね」

「ああ。やはりハニートラップだったんだな」

 

 やはり俺が一人になるのを見計らって声をかけてきたんだ。

 今日も松下が俺から離れたら絡んでくるかもしれない。

 

「松下」

「ん?」

「頼むから俺から離れないでくれ」

「……今のは告白?」

 

 鼻で笑いながら問いかける松下。

 わかってるくせに、意地悪な性格をしている。

 そもそもこんな状況で人生初告白をしてたまるか!

 

「告白するならもう少しロマンチックな場所がいいな」

「……た、例えば?」

 

 からかわれるとわかってるのに、つい質問をしてしまった。

 

「ベッドの上とか?」

「ばっ……!?」

 

 しまった。予想外の答えに大声を出してしまった。

 勉強をしている生徒たちの視線が俺達に注ぎ込まれる。

 

「……帰るか」

「うん」

 

 一瞬だが注目を集めてしまったので俺の心臓はバクバクしている。

 それとは正反対に松下はいつものすまし顔だった。

 美少女なので普段から視線を浴びるのに慣れているのだろうか。

 ……もう少し俺もメンタルを鍛えなければ。

 

 図書館を後にした俺たちはファミレスに来ていた。

 今日は軽井沢との勉強会がないので、松下と一緒に夕食をとることにした。

 

「今日は俺が奢るよ」

「いいの?」

「うん。勉強会で迷惑をかけてるからな」

 

 もともと松下は俺のサポート役で参加していたが、俺が須藤に専念するため松下が軽井沢、三宅、沖谷の面倒を見ることになった。

 なのでお礼を兼ねて夕食を奢ることにしたのだ。

 

「別に迷惑だとは思ってないよ。でもお礼ということなら遠慮なく奢ってもらうね」

「ああ」

「次はプラダのバックがいいな」

「貢ぐ君にはならないぞ?」

「冗談だよ」

 

 松下と軽口を叩いてると、注文した品が運ばれてきた。

 今日はチーズハンバーグだ。

 勉強会を頑張っている自分へのご褒美だ。

 これで中間テストでいい成績を残せたらリブステーキでも頼もう。

 そんなことを思いながら、松下との食事を楽しんだ俺であった。

 

 

♦♦♦

 

 

 その日の晩。珍しく寝付けなくなった俺は気分転換しようと軽く散歩に出かけることにした。

 そこまで遅い時間帯ではないが、念のため防犯グッズを携帯する。

 ちなみに松下、軽井沢、佐藤、篠原にも同じ防犯グッズを持たせている。

 最初に勧めた時は必要ないとあしらわれたが、可愛い女子は暴漢に狙われる可能性が高いと説明したところ、すぐに購入してくれた。

 篠原以外の3人は美少女なので、俺に言われる前に自覚して防犯グッズくらい携帯してほしいものだ。

 

 周囲を警戒しながら寮の裏手に向かうと、とんでもないものを見てしまった。

 

 綾小路が襲われているっ!?

 

 俺は急いで防犯ブザーのピンを抜いた。

 直後に大音量のブザーが出力される。

 

「な、なにっ!?」

「なんだ!?」

 

 この防犯ブザーは家電量販店で購入したものだ。

 音量は100dbに設定されている。標準は85から90db前後なので、非常に大きな音量と言えるだろう。

 

「立花くんっ!?」

「立花だと?」

 

 女子の声がすると思ったら堀北だった。

 なるほど。

 暴漢に襲われた堀北を綾小路が守ったんだな。

 やるじゃないか綾小路!

 

「二人とも安心しろ。もう大丈夫だ」

「何が大丈夫なの? うるさいから早く止めて」

 

 被害者の堀北が防犯ブザーを止めろと言ってくる。

 可哀そうに。

 あまりの恐怖に混乱しているのだろう。

 

「落ち着け堀北」

「私は落ち着いているわ。いいから早く止めなさい」

「先生が来るまで止めない方がいいだろ」

「それが困ると言ってるのよ」

 

 先生に知られたくないとは。

 まさか綾小路は間に合わず、堀北はいかがわしい写真でも撮られてしまったのだろうか。

 

「立花。オレも大事にはしたくない。だから止めてくれないか?」

「綾小路まで脅されているのか?」

「お前は何を言っているんだ?」

 

 恐らく綾小路は暴漢からカメラを奪おうとしたのだろう。

 

「いいから貸してっ!」

「あっ」

 

 綾小路と話している最中に、堀北が防犯ブザーを奪いピンを元の位置に戻してしまった。

 

「なにをするんだっ!?」

「それはこっちの台詞よ!」

 

 確かに性被害など先生には知られたくないだろう。

 ……仕方ない。

 ここは俺が暴漢からカメラを奪うしかない。

 

「お前が立花恭平か」

「っ……」

 

 いつの間にか目の前に暴漢が立っていた。

 

「くっ……!」

 

 瞬間的に首をガードしながら距離を取る。

 危なかった。

 堀北に集中しすぎて完全に油断をしていた。

 

「あなたは……生徒会長っ!?」

 

 改めて暴漢の顔を見ると、正体は我が高度育成高校の生徒会長だった。

 

「ほう。俺を知っているのか」

「生徒会長だから当たり前じゃないですか。それに月一の生徒会だよりも見てます」

「それは嬉しいな」

「情報収集の為です。それに橘先輩のコラムが面白いので」

「ふっ。それは本人に言ってやれ」

「……それよりショックですよ。まさか生徒会長が女子を襲うなんて……」

 

 生徒会トップの人間がこのような愚行をするとは……。

 どうやら高度育成高校は腐っているようだ。

 

「えっと、確かに襲われたけれど……違うのよっ!」

 

 なぜか被害者の堀北が生徒会長を庇う。

 そこまで弱みを握られてるのか……。

 

「……鈴音。俺から説明をするから黙っていろ」

「は、はい……。兄さん」

「……兄さん?」

「ああ。俺は堀北学。鈴音の兄だ」

 

 まさか生徒会長が堀北のお兄さんだったなんて……。

 青天の霹靂である。

 確かに兄妹と言われれば、似ているかもしれない。特に目つきの悪いところなんてそっくりだ。

 しかし兄が妹を襲うなんて……。

 

「近親相姦はだめですよ」

「……」

「いくら妹が美人だからって欲情しちゃダメでしょ」

 

 生徒会長に哀れみの目を向ける。

 恐らく2年ぶりにあった妹が美人に成長していたものだから、三大欲求である性欲が暴走してしまったのだろう。

 だからって人を襲っちゃいけない。

 まして実の妹を襲うなんて言語道断だ。

 

「あなたは何を言ってるのっ!?」

「……ん?」

「私は兄さんに性的被害は受けていないわ」

「……え? そうなの?」

「そうよ。ただ私が兄さんを怒らせてしまっただけ……」

「つまり性的被害は受けてないけど、DVは受けてるってことか?」

「DVも受けてないわ」

「ちょっと何言ってるかわからない」

「それはこちらの台詞なのだけれど」

 

 混乱してると生徒会長と綾小路が事の経緯を説明してくれた。

 どうやら当初Dクラスに配属された堀北に失望した生徒会長が退学するよう迫ったらしい。

 それを拒否した堀北が投げられそうになったところを綾小路が助けたとのことだった。

 

「……結局DV未遂じゃん」

「うっ……。それは……」

「生徒会長」

「なんだ?」

「実の妹に手を出しちゃダメでしょ」

「お前には関係ない。これは家族の問題だ」

「いや、家族関係なく暴力はだめでしょう。いくらしつけでも」

「……」

「生徒会長の頭って昭和なんですか? 今は令和ですよ。考え方をアップデートしましょうよ」

「……」

「お兄さんがそんなんだから、堀北の性格が歪んでしまったんじゃないんですか?」

「ちょっと、誰の性格が歪んでるですって?」

「堀北に決まって……ぐげぇっ!?」

 

 刹那。腹部に衝撃が走った。

 

「い、痛い……」

 

 堀北が腹パンをかましてきたのだ。

 暴力を振るった人間に説教しているときに暴力を振るうなんて……。

 

「こ、この……DV兄妹め……」

「死にたいの?」

「生きたいです!」

「ふはっ」

 

 堀北の暴力から逃れようとしていると、急に生徒会長が笑った。

 他人が暴力を受けている姿を見て笑うなんてひどい男だ。

 

「鈴音。面白い友人と出会えたみたいだな」

「彼は友人ではありません」

「そ、そうです……」

 

 堀北は友達が一人もいない可哀そうな子だ。

 

「なにか失礼なこと考えなかった?」

「考えてない!」

 

 再び拳を振り上げる堀北。

 

「どうやらまだ孤高と孤独を履き違えているようだな鈴音」

「え……?」

「だが面白いクラスに配属されたのはよかったかもしれないな」

「面白いクラスですか……?」

「立花。それと綾小路」

 

 堀北の質問を無視して俺と綾小路に目を向ける生徒会長。

 

「入学して一ヶ月でBクラスに昇級したのは見事だったが、Aクラスの壁は高いぞ」

「は、はぁ……」

「それにC、Dクラスもこのまま黙っていないだろう」

「そ、そうですね……」

「Aクラスに上がりたければ、死に物狂いで足掻け。それしか方法はない」

 

 生徒会長はそう言い残し、ゆっくりと暗闇に消えていった。

 残された俺たちは、しばらく無言の時間が続いた。

 お腹の痛みが引かないので、こっそり帰ろうとしたところ堀北に腕を掴まれた。

 

「今からあなたの部屋に行くわよ」

 

 拒否する気力はもう残っていなかった。

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