ようこそ心配事が多い教室へ   作:御米粒

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お久しぶりです!
沢山の感想ありがとうございました!
14話はありがたいことに感想が多すぎて返信は出来ませんが、15話から返信させて頂きますので引き続きよろしくお願いいたします!


2巻
15話


 中間テストが終わってから二週間が過ぎた。

 俺たちBクラスは大きなトラブルに見舞われることなく、平和な学校生活を送っている。

 また、嬉しいことに小さな変化もいくつかあった。

 まずは学力がトップの幸村が週に二回ほど勉強会を開くようになった。

 勉強会には博士、沖谷、佐倉など勉強が苦手な生徒が参加している。

 みんな危機感を持ってくれているようで何よりだ。

 

「幸村、俺も今日から勉強会に参加していいか?」

 

 放課後。とある生徒が勉強会の参加を望んだことに、クラスがざわついた。

 

「具合でも悪いのか?」

「失礼だな! 健康だよ!」

 

 幸村が心配するのも仕方ないだろう。

 なぜなら、とある生徒というのが―――――問題児である池なのだから。

 クラスメイトが動揺しているが、俺はこうなることをわかっていた。

 

 話は昨晩に遡る。

 

「立花頼む! 櫛田ちゃんと付き合える方法を教えてくれ!」

 

 夕食後、池に呼び出され、部屋に上がるなり土下座してお願いをされた。

 

「急にどうしたんだ?」

「どうしても櫛田ちゃんと付き合いたいんだ!」

「それはわかるけど、なんで俺に聞くんだ?」

 

 悲しいかな。

 俺は彼女いない歴=年齢の恋愛未経験者だ。

 

「ほら、お前って軽井沢や松下と仲良しだろ」

「そうだな」

「クラスに彼女持ちがいないから、お前が一番女性経験あると思ったんだよ」

「なるほど」

 

 平田や綾小路といったイケメンがいるが、彼らも彼女がいたことはないらしい。

 三宅は長谷部と一緒にいることが多いが、ただの友達のようだ。

 沖谷は女子に人気あるが、愛玩動物扱いをされているので論外。

 つまり消去法で、美少女二人と仲良しの俺がセレクトされたのだろう。

 

「なあ頼むよ。お前だけが頼りなんだよぉ」

 

 どうしたものか。

 アドバイスしたからといって、池が櫛田と付き合える可能性は低いだろう。

 ただ、こうして頼ってくれるのは嬉しい。

 特に、池はもともと俺のことを嫌っていたので、これは親交を深めるいい機会かもしれない。

 

「わかった。協力する」

「本当かっ!?」

「ああ。ただ、櫛田と付き合えるかは断言できないから、それだけは理解してくれ」

「おう。よろしく頼むぜ師匠!」

「師匠っ!?」

 

 こうして、俺は池と師弟関係を結ぶことになった。

 

「とりあえず櫛田と付き合いたいなら、櫛田に見合う男にならないといけない」

「今のままじゃ釣り合わないってことだよな」

「自覚はしてたのか」

「当たり前だろ。そこまで俺も馬鹿じゃないぞ」

 

 驚いた。

 てっきり自己評価が高いかと思っていた。

 

「それで何をすればいいんだ?」

「まずは自分磨きだ」

 

 俺は池に以下のアドバイスを授けた。

 

・勉強を頑張って成績を上げる

・身だしなみを整える

・下ネタを控える

 

「べ、勉強か……」

「勉強は学生の本分だからな」

「そうだけどよ……」

「テストで赤点取って退学になりたくないだろ。退学になったら櫛田と会えなくなるんだぞ」

「櫛田ちゃんに会えなくなる……」

「そうだ。それに、奇跡的に櫛田と付き合えた場合のことも考えろ」

「く、櫛田ちゃんが俺と……」

「しっかり話を聞け」

「いてっ」

 

 トリップしそうな池に脳天チョップをくらわせる。

 

「櫛田の学力はクラスでも上位だ」

「知ってるよ」

「もし進学希望の場合は、卒業後に偏差値が高い大学に進学するだろう」

「だろうな」

「もし池が馬鹿のままだったら、櫛田と付き合えても別々の大学に進学することになる」

「……っ」

「櫛田は美少女だからな。言い寄ってくる男も多いだろうな」

「なっ……」

「二人はすれ違いが多くなり、会う回数も徐々に減っていく」

 

 そんな未来を想像しているのか、池の顔が徐々に青くなっていく。

 

「最悪、そのまま自然消滅してしまうかもしれないなぁ」

「そんな……」

 

 絶望して顔を覆い隠す池。

 これくらい脅しておけば十分だろう。

 

「そうなりたくないだろ?」

「当たり前だろ。せっかく櫛田ちゃんと付き合えたのに……」

 

 いや、まだ付き合えてないから。

 

「なら、勉強頑張れるよな?」

「……おう! やってやるぜ!」

 

 恋心を利用して、俺は池のやる気スイッチを押したのだった。

 池の学力は微妙だが、幸村なら根気強く付き合ってくれるだろう。

 頼むぞ幸村。お前がエースだ。

 

「池くん、どうしたんだろうね?」

「さぁな」

「……悪い顔してる。池くんになにかしたんでしょ?」

「失礼だな。アドバイスをしただけだ」

「あとで教えてよね」

「わかった」

「それじゃ帰ろ」

「あいよ」

 

 俺は軽井沢を連れ立って教室を後にした。

 

 

♦♦♦

 

 

「ねえ、今日は図書室行かないの?」

 

 隣りを歩く軽井沢が訊ねた。

 

「行かない」

「まだ椎名さんを警戒してるの?」

「当たり前だろ」

 

 椎名ひより。

 Dクラス所属の自称読書大好き少女だ。

 しかしそれは表向きの顔だ。

 正体は――――ハニートラップ要員である。

 椎名は読書好きの男子を標的にして、自身の優れた容姿を活かし、男子をたらしこむ悪女だ。

 幸い俺はトラップに引っかかることはなかったが、恐らく数多くの男子が餌食になっているだろう。

 

「それより今日もスーパー寄るのか?」

「うん。牛乳とお米が切れそうだからさ」

 

 軽井沢が申告した台所事情は、自室ではなく俺の部屋のことだ。

 

「今日はなに食べたい?」

「うーん、肉系がいい」

「肉系ってアバウトすぎなのよね……」

 

 俺は軽井沢に勉強を教える代わりに、夕食を作ってもらっている。

 軽井沢は家事が苦手そうに見えるが、実は女子力が高い。

 

「じゃあ肉じゃがで」

「肉じゃがね。……最近、野菜が高いのよね」

 

 溜息をつきながらスーパーのネット広告をチェックする軽井沢。

 

「軽井沢はいいお嫁さんになるな」

「きゅ、急に何言ってんのよっ!?」

 

 軽井沢はすぐに顔を真っ赤にさせて取り乱した。

 自己評価が低い彼女は褒められると、すぐに照れてしまう。

 

「そんなに照れなくても」

「うるさい! それ以上言うと、夕食を野菜炒めにするわよ!」

「すみませんでした」

 

 肉じゃがから野菜炒めはグレードダウン過ぎる。

 軽井沢を弄るのは夕食を作り終えてからにしよう。

 

 

♦♦♦

 

  

「夜分遅くごめんね」

 

 時刻は22時過ぎ。

 相談したいことがあるとのことで、私服姿の松下が部屋にやって来た。

 

「いや、大丈夫だ」

「今日も軽井沢さんに勉強教えてたんでしょ」

 

 軽井沢に勉強を教え、彼女の手料理を美味しく頂き、二人で洗い物をして、軽井沢が大好きなK―POPのDVDを見てから、軽井沢は帰っていった。

 

「いつものことだからな」

「そっか。なら遠慮なくお時間頂くね」

「ああ。それで相談したいことって?」

「櫛田さんのことなんだけど」

 

 櫛田桔梗。

 我がBクラスに所属する生徒だ。

 櫛田は誰にでも優しく、その容姿もあいまって、男女問わず一番人気がある生徒といっても過言ではない。

 

「櫛田がどうかしたのか?」

「彼女の本質がわかったかなって」

「本質?」

「うん。恐らく彼女は――――承認欲求が人一倍強いと思う」

 

 松下は以前から櫛田を警戒していた。

 理由は櫛田がDクラスに配属されたからだ。

 もともと最底辺のDクラスだった俺たちは不良品と呼ばれる生徒が集められたクラスだ。

 勉強や運動が苦手だったり、コミュニケーション能力が低かったりなど、様々な生徒がいる。

 そんな不良品クラスの中で異質なのが、櫛田と平田だ。

 櫛田も平田も文武両道で素行も問題がない。

 彼女たちのスペックを考えれば、AクラスかBクラスが配属されるのが妥当だろう。

 しかし、二人はDクラスに配属された。

 可能性として考えられるのが、俺のように中学時代に問題を起こした場合だ。

 平田に関しては友達なので、彼から打ち明けてくれるまで待つつもりだ。

 そんな俺のスタンスとは違い、松下は積極的に櫛田を観察した。

 

「まさか櫛田さんがあんな顔をするなんてね」

 

 松下からの報告によると、櫛田はクラスメイトと学校で誰が一番可愛いのかという話をしていたらしい。

 当然、櫛田の名前も候補に挙がったが、結果的に一番だったのはCクラスの一之瀬帆波だった。

 

『櫛田さんも可愛いけど、一之瀬さんはレベルが違うかも』

 

 クラスメイトがそう言った直後、櫛田は怒りと憎しみに歪んだ顔をしていたようだ。

 もちろん、相手にばれないよう顔を背けていたが、隠れて観察していた松下の目は誤魔化せなかった。

 

「承認欲求が人一倍強いことが、今の櫛田さんを形成しているんだと思う」

「優等生を演じてるってことか?」

「そう。確か立花くんの幼馴染も似たような感じなんだよね?」

「そうだな」

 

 クラスの人気者である櫛田だが、俺はそんな彼女が苦手だった。

 なぜなら松下が言った通り、櫛田は俺の幼馴染に似ているからだ。

 表向きは優等生を演じ、裏では愚痴や中傷をしまくる腹黒女。

 

「まだ櫛田さんがDクラスに配属された理由はわからないけど、彼女の取り扱いに注意した方がいいと思うよ」

「別に今のままでいいんじゃないか?」

 

 櫛田はクラスの人気者という立場を得ている。

 これ以上何を望むというのだろうか。

 

「もっと彼女の承認欲求を満たしてあげるんだよ」

「まだ足りないってことか?」

「そう。立花くんって櫛田さんとあまり絡まないでしょ?」

「苦手だからな」

「それは知ってる。でも今後はもう少し櫛田さんと絡んでほしいな」

「……俺が櫛田の承認欲求を満たすってことか?」

「正解」

「なんで俺なんだ?」

「立花くんは、平田くんと山内くん、どっちに褒められたら嬉しい?」

「そりゃ平田だけど」

 

 平田と山内を比べてはいけない。

 平田に失礼すぎるぞ松下。

 

「それと同じだよ」

「……ん?」

「つまりね、立花くんみたいなクラス内で影響力が強い人物に褒められた方が、櫛田さんの承認欲求をより満たせるってことだよ」

「な、なるほど……」

「わかってくれた?」

「わかりました」

 

 松下からの指示により、明日から定期的に櫛田を褒めることになった。

 櫛田は苦手なタイプだが、これもAクラスに上がるためなので我慢しよう。

 

 櫛田の話は終わったが、俺たちは雑談に興じていた。

 

 まず綾小路に好意を寄せている佐藤だが、週末に二人で出掛けることになったらしい。

 意外なことに佐藤はデートが初めてのようで、松下にアドバイスを求めているとのことだった。

 

 次の話題も色恋沙汰だった。

 なんと、みーちゃんは幸村が気になっているようで、来週から勉強会のサポートをするようだ。

 確かに彼女は英語が得意なので、講師役は十分に務まるだろう。

 

「みんな青春してるな」

「だね。それだけ学校生活に慣れてきたってことじゃない?」

「そうだな」

 

 入学して二ヶ月近くが経過した。

 衝撃的な展開が続いたが、中間テストが終わってからは、大きなイベントやトラブルもなく、比較的平和な学校生活を送っている。

 

「だから気をつけないと」

 

 学校側はこの緩みを見逃さないはずだ。

 学校だけじゃない。

 

 Aクラスの坂柳有栖。

 Cクラスの一之瀬帆波。

 Dクラスのリーダー。

 

 各クラスのリーダーも、俺たちを潰す機会を窺っているはずだ。

 

 俺たちのクラスは、入学後一ヶ月でDからBクラスに昇格したことにより、他クラスだけでなく上級生からも注目されている。

 史上初の快挙を遂げた俺たちは、坂柳たちからしたら面白くない存在だろう。

 特にC、Dクラスからしたら、『史上初の一ヶ月で降格したクラス』という不名誉な称号を与えられてしまったのだ。

 

「嫌な予感がするぜ」

 

 近々大きなトラブルが起きる。

 俺のシックスセンスがそう叫んでいた。

 




次回は一之瀬が登場です!
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