ようこそ心配事が多い教室へ   作:御米粒

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とうとう龍園が動き出します!


20話

 俺たちBクラスは夏休みのバカンス旅行がサバイバル合宿であることを前提に動くことになった。

 それも橘先輩がわかりやすい反応をしてくれたおかげだ。

 俺はお礼代わりに目安箱に橘先輩がいかに素晴らしい書記であるかをアピールした文書を匿名で投函した。

 

 俺と軽井沢が生徒会室に行った翌日、茶柱先生から許可を得て、LHRでサバイバル合宿についての対応策を話し合うことになったのだが、経験者はほぼゼロだった。池がボーイスカウトに近いものに参加したぐらいだったので、まず俺たちはサバイバルについて学ぶことにした。

 放課後にサバイバルに関する書籍を探すため図書室に足を運んだところ、案の定椎名に捕まってしまった。

 もちろん彼女に目当ての本を明かすわけにはいかなかったので、推理小説を探していると嘘をついたところ、一時間ほどお勧めの本を熱弁されてしまった。

 

 ボーイスカウトもどき経験者である池を頼りたいところだが、勉強に集中させたいので、彼にはテクニカルディレクターの役割を与えた。

 具体的にどんな役割なのか説明を求められたが、俺にもよくわからないので、気にせず櫛田と付き合うために勉強を頑張るよう発破をかけておいた。

 

 Cクラスのリーダーである一之瀬とは定期的に連絡を取り合っている。

 彼女の話によると、Dクラスからの嫌がらせは徐々に減っているようだ。

 一之瀬は安心していたが、俺は不安が増してきた。

 Cクラスへの嫌がらせが減ってきたということは、標的を他のクラスに変えた可能性があるからだ。

 今のところクラスメイトから被害報告は受けていないが、脅されて言えない状況にされているのかもしれない。

 

 さらに龍園について、クラスメイトの三宅から情報を仕入れることができた。

 三宅は龍園と同じ地区の中学校に通っていたようで、Dクラスの暴君について詳しく知ることができた。

 龍園は他校に殴り込みをかけ、他校のボスを暴力で屈服させ、中二の夏にはその地区の一番の不良になったようだ。

 ちなみに暴走族には参加していなかったらしい。

 もしかしたらバイクの運転が苦手なのかもしれない、と三宅が苦笑いしながら言っていた。

 俺は龍園のさらなる情報を得るため、寮に戻ってすぐにネットの海に飛び込んだ。

 すると、面白いように暴力の化身の情報が次々と出てきた。

 

・自分に逆らった相手には男女関係なく容赦しない

・暴力で屈服させた相手の爪を無理やり剥がすのが好き

・五人ほど再起不能にしている

・親がヤクザ

・レイプじゃないと興奮しないらしい

・バスケで挫折して不良になってしまった

 

 これらの情報の信ぴょう性がどれほどかはわからない。

 ただ、火の無い所に煙は立たぬ、という。

 うわさが立つからには、なんらかの根拠があるはずだということだ。

 

 龍園翔。

 

 名字は怖いが、可愛らしい名前をしている。

 幼い頃は、かけるっちと友達から呼ばれていたかもしれない。

 しかし、今の龍園は、かけるっちというあだ名が似合わない男になってしまった。

 あだ名どころか、下の名前で呼んでくれる人は家族以外にいないだろう。

 それほどまでに、龍園は恐ろしい存在だ。

 

「もうすぐ夏だっていうのに寒気がしてきたぜ」

 

 俺は冷房を19度から20度に上げた。

 

 

***

 

 

「軽井沢と松下はDクラスから嫌がらせ受けてないか?」

 

 翌日の昼休み、俺は弁当を食べながら二人に訊ねた。

 一之瀬が俺をBクラスのリーダーと勘違いをしていたので、龍園も同じく勘違いをしている可能性がある。

 つまり、俺の身近にいる女子が標的にされる可能性が高くなるというわけだ。

 

「あたしは大丈夫だけど」

「私も」

「ほんとに? 脅されたりしてないか?」

 

 松下は大丈夫だろうが、軽井沢はもともといじめられっ子だ。

 高校では強気な女子を演じているが、不良に定評があるDクラスの生徒から本質を見抜かれるかもしれない。

 

「大丈夫だってば」

「私もないから安心して」

「……そうか」

 

 二人の顔を見たが、嘘はついていないようだ。

 他のクラスメイトにも確認してみたが、今日も被害はゼロのようだ。

 

「私たちより部活してる子の方が心配じゃない?」

「帰宅部よりDクラスと接触する機会が多いからだな」

「そう」

 

 松下の言ってることはごもっともだ。

 櫛田情報によると、不良のくせにDクラスの生徒も部活動に参加している生徒がそれなりにいるらしい。

 うちのクラスだと平田、須藤、小野寺の三人がDクラスの生徒がいる部活に所属している。

 

「その中だと一番危険なのは須藤くんかな」

「あたしもそう思う」

「……だな」

 

 須藤は短気だ。

 以前よりだいぶマシになったが、それでも彼がクラスで一番の短気なのは変わらない。

 

「綾小路く~ん、帰りにゲーセン行かない?」

「いいぞ」

「やった。プリ撮ろうよ」

「プリ? 鰤じゃなくてか?」

「なにそれ。綾小路くんってギャグセンスも高いんだねぇ」

「そうか。オレはギャグセンスが高いのか」

「うんっ」

 

 俺たちが真面目に話をしているすぐ後ろで、佐藤は語尾にハートマークがつきそうな甘ったるい口調で綾小路に話しかけている。

 

「佐藤、レンタルショップも寄りたいんだが」

「もちろんいいよ。なに借りるの?」

「博士に勧められたソロキャンプを題材にしたアニメだ」

「綾小路くんってアニメも見るの?」

「いや、今回が初めてだ」

「そうなんだ。私も一緒に見てもいい?」

「問題ない」

「やったぁ」

 

 信じられるだろうか。

 この二人、これで付き合っていないのである。

 同じことを思っているのか、目の前で可愛らしい弁当を食べている軽井沢と松下も苦笑いだ。

 食堂で昼飯を食べている平田と篠原も恐らく苦笑いをしていることだろう。

 

 

***

 

 

 Dクラスからの嫌がらせを受けることなく二週間が過ぎた。

 もうすぐ七月に入るころ、高度育成高校に革命が起きた。

 

 ポロシャツの導入である。

 

 もともと高度育成高校に衣替えは存在していなかった。理由は簡単、どこも冷暖房が完備されているからだ。

 しかし、堀北会長はそれに疑問を感じていたらしい。

 国民の税金で運営される国立の学校が、電力を無駄に消費していいのか。

 もし、節電が今まで以上に必要になった場合、高度育成高校は批判の的になってしまうのではないだろうか。

 それを危惧した堀北会長は、会長に就任してすぐにポロシャツの導入に動き出した。

 保守派の学校側とひと悶着あったようだが、とうとう今夏にポロシャツの導入に成功することとなったのだ。

 ポロシャツの導入に生徒たちは歓喜した。

 確かに、どこも冷暖房が完備されているが、それはあくまで校舎や施設に限った話である。

 通学するにも、施設に遊びに行くにも、俺たちは外を出歩かなくてはならない。

 炎天下の中、ブレザーを着用したまま移動するのは過酷だ。

 それなら脱げばすむ話と言われるだろうが、真夏にブレザーを持ちながら移動するのもどうかと思うだろう。

 もちろん暑いのには変わらないが、ポロシャツのおかげで幾分マシになるはずだ。

 さらに冷房の温度も今までより高めに設定することで大幅な節電に繋がる。

 ポロシャツの導入の案内に、以下の文章が記載されていた。

 

『一人一人が無駄な使用をなくすことで、資源を有効に利用することができます。 そして、化石燃料の使用を抑えることは、化石燃料を燃やすことで発生し地球温暖化の原因になっている温室効果ガスを減らすことにも貢献します』

 

 生徒の負担軽減だけでなく、地球温暖化防止にも役立つとは、堀北会長は素晴らしい生徒会長だ。

 恐らく来月の堀北会長の支持率は90%以上になるだろう。

 なお、感銘を受けた俺はポロシャツを五着も購入してしまった。

 ちなみに堀北は十着も購入していた。

 

「さすが兄さんだわ」

 

 ポロシャツの導入後、そんな堀北の独り言が増えたと佐藤と篠原から聞くのはもう少し先の話である。

 

「これ通気性抜群じゃない?」

 

 俺と同じく紺色のポロシャツを着用した軽井沢が言った。

 

「確かに。それに動きやすい」

「それね」

「紺色というのもいいな。なんか高級感がある」

「確かに」

 

 紺色なら透けブラ防止にもなるからな。

 軽井沢は基本的にブレザーを着用しない。そのため、六月になってから透けブラすることが多くなっていたので、これで一安心だ。

 

「それより勉強再開するぞ」

「はーい」

 

 軽井沢は俺の部屋で期末テストに向けた勉強中である。

 休憩を終えてテスト勉強を再開しようとした直後、LINEの通知音が鳴り響いた。

 

「タイミング悪いな」

「誰から?」

「……悪い軽井沢。急用ができた」

「え……?」

「ちょっくら学校に行ってくる」

「どうしたのよ?」

「帰ったら教える」

「わかった。いってら」

「おう」

 

 

***

 

 

 俺は家庭科室や視聴覚室などがある特別棟に足を運んだ。

 目的に到着すると、すでにメッセージの送り主を含めた大勢のクラスメイト(男子のみ)がいた。

 合流した俺たちはそのまま特別棟の廊下を突き進む。

 すると、見慣れない男子が三人いるのがわかった。

 その男子たちは、俺たちの登場に激しく動揺しているようだ。

 

「な、なんだてめぇらっ!?」

 

 三人の中で一番体格がいい男子が吠える。

 

「おい須藤! 一人で来いって言っただろうが!」

 

 眼鏡をかけた男子が須藤に言い放った。

 

「須藤、こいつらが?」

「ああ。Dクラスでバスケ部の小宮と近藤だ。もう一人は知らねえ」

 

 そう。先ほどのメッセージの送り主は須藤だった。

 部活終わりに小宮と近藤に呼び出しを受けた須藤は、すぐにBクラス男子限定のトークルームに報告したのだ。

 俺たちBクラスにはいくつかの決めごとを設けている。

 その一つが、他クラスの生徒から呼び出しを受けたらすぐにクラスメイトに知らせること。

 須藤は決めごとに従い、俺たちに報告をしたというわけだ。

 

「確か石崎といったか」

「三宅はあいつを知ってるのか?」

「名前と顔だけな。あいつも中学時代は有名な不良だった」

「Dクラスは不良ばっかだな!」

 

 国立の学校なのに不良が多すぎる件。

 

「石崎くん、須藤くんになにか用かな?」

「お前には関係ないだろ平田!」

 

 サッカー部の練習終わりなのだろう。トレーニングウェア姿の平田が一歩前に出て、石崎に訊ねた。

 

「いや、須藤くんは僕たちの仲間だ。だから関係あるよ」

「そんなの知らねえよ!」

「小宮くん、須藤くんに一人で来いって言ったんだね?」

「それがどうしたんだよ!」

「僕たちBクラスはみんなで一つだ。つまり須藤くん一人を呼び出したということは、僕たち全員を呼び出したということになる」

「ど、どういうことだよっ!?」

「こういうことだよ」

 

 まさか石崎たちも、須藤一人を呼び出したら、Bクラスの男子ほぼ全員が来ることは思わなかっただろう。

 

「そもそも他クラスの呼び出しに素直に応じると思っていたのか?」

 

 佐倉とみーちゃんの三角関係が噂される幸村がカッコよく眼鏡をくいっと上げながら問う。

 

「くっ……!」

「これも龍園の指示か?」

「りゅ、龍園さんは関係ねえよ!」

「いや、動揺しすぎだろ」

「うぐっ……」

 

 明らかに自分より喧嘩が弱そうな相手に凄まれてたじろぐ石崎たち。

 なんてわかりやすいやつなんだ。

 これは明らかに龍園の人選ミスだ。

 ……まて、龍園は頭が切れるやつだ。こんなポンコツどもに大切な役割を与えるだろうか。

 もしかすると、石崎たちは悪だくみを仕組もうとしたのではなく、本当に須藤に用事があったのかもしれない。

 

「本当に龍園は関係ないんだな?」

「だからそう言ってるだろうが!」

 

 俺の問いに素直に答える石崎。

 

「石崎は須藤に伝えたいことがあったんだな」

「そ、そうだよっ!」

「なるほど」

 

 俺は石崎たちが須藤を呼び出した理由を推理した。

 特別棟に一人で来るよう呼び出すくらいだ。

 誰にも見られなくなかったのだろう。

 この様子を見ると、須藤に用があったのは石崎で間違いない。

 須藤に接点がある小宮と近藤にお願いをして、須藤を特別棟に呼び出した。

 

「小宮と近藤は須藤が一人で来たら、おいとまするつもりだったのか?」

「あ、ああ……」

「そ、そうだよ……」

「ふむ」

 

 石崎と須藤を二人っきりにさせるのが目的だった。

 もし須藤をボコすなら、小宮と近藤が去るわけがない。

 仲良しの二人にも聞かせたくない話とはなんだ?

 

 ……そうか! わかったぞ!

 

 ここで、俺は一つの答えに辿り着いた。 

 

「……もしかして、石崎は須藤に告白をしようとしたのか?」

「…………は?」

「だから人目がつかない特別棟に須藤を呼び出したんじゃないのか?」

「な、何言ってんだてめぇっ!」

 

 顔を真っ赤にした石崎が反論する。

 

「違うのか?」

「違うに決まってんだろ!」

「なら、なぜ須藤を呼び出した?」

「……っ。そ、それは……」

 

 言えないか。

 龍園の指示でもないとなると、告白くらいしか思い浮かばないのだが。

 

「石崎、お前……」

 

 まさか同性から好意を持たれるとは思わなかったのだろう。

 須藤が唖然とした様子で石崎の名前を呟いた。

 

「お、おいっ! 勘違いすんじゃねえよっ!」

 

 お酒も飲んでないのに、石崎の顔はディープレッドだ。

 

「石崎くん、安心してくれ」

「あっ!?」

「僕たちはこのことを誰にも言いふらすつもりはない」

「なっ……」

「ただ、須藤くんは動揺しているようだから、話の続きはまた今度にしてくれるかい?」

「……」

 

 石崎は口をパクパクするだけで、何も言い返せない状態である。

 

「須藤くんもそれでいいかな?」

「お、おう……」

「それじゃ、みんな帰ろう」

 

 平田リーダー指示のもと、俺たちは足早に特別棟を去るのであった。

 呆然とする石崎たちを残して。

 

 その帰り道、念のためスタンバイしてもらっていた茶柱先生に問題ないことを報告した俺は綾小路と二人で寮に向かって歩いていた。

 

「立花、あの廊下に監視カメラが設置されていないことは気づいていたか?」

「ああ。生徒会にあそこにも監視カメラを設置するよう要望書を出しておくよ」

「そ、そうか……」

「しかし、監視カメラがないところに呼び出すなんて、映像記録にも残したくなかったんだな」

「そうだな。……石崎は本当に須藤に告白をしようとしたのか?」

「あくまで可能性の話だ」

「龍園の指示とは思わないのか?」

「俺も最初はそう思った。ただ、龍園は頭が切れる不良と聞いている」

「みたいだな」

「そんなリーダーが、あんなポンコツを使うわけがないと思ったんだ」

「なるほどな」

「不良ばかりのDクラスでも、もっとましな人材がいるはずだ」

「そうか」

「……だが、もしかしたらこれも龍園の作戦なのかもしれない」

「作戦?」

「ポンコツを使って俺たちBクラスを油断させる作戦かと思ったんだ」

 

 恐らく龍園は俺たちBクラスに攻撃を仕掛け続けてくるだろう。

 一発目にポンコツを利用して俺たちを油断させ、本命を投入するのかもしれない。

 ハニートラップ要員であろう椎名は俺が抑えているが、この学校は美少女が多いので、新たな刺客を送り込んでくる可能性もある。

 色仕掛けだけではない。

 お得意の暴力で俺たちに恐怖を与え、畏怖を抱かせることも十分に考えられる。

 

「龍園、侮れない男だ」

 

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