ようこそ心配事が多い教室へ   作:御米粒

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佐倉ストーカー編です!


21話

 石崎たちが須藤を呼び出した日から三日が過ぎた。

 あれから龍園がBクラスに攻撃する様子は見られない。

 再度獲物を変更したのかと一之瀬に訊いてみたが、CクラスもDクラスからの被害はないとのことだった。

 とすると、須藤の呼び出しに龍園は関わっていない可能性が高くなってきた。

 須藤のような筋肉質の男が歌舞伎町二丁目では人気があるとテレビで聞いたことがあるが、どうやら本当だったようだ。

 ただ、須藤はノーマルかつバスケに集中したい時期なので、石崎の恋が実ることはないだろう。

 筋肉質の男なら、Dクラスに黒人のサングラスがいたはずなので、そちらに相手を変えてもらいたいところだ。

 普通の学校なら構わないが、この学校は他クラスの生徒と付き合うにはハードルが多すぎる。

 青春の自由を奪うつもりはないが、恋人を作るならなるべくクラスメイトにしてほしいものだ。

 

「立花、相談があるんだが放課後時間をくれないか?」

 

 噂をすれば影とやら、女子の間で三角関係で盛り上がっている幸村が話しかけてきた。

 本人たちは気づいていないようだが、佐倉とみーちゃんが幸村に好意を抱いているのはバレバレである。

 恐らく勉強会でフラグでも建てたのだろう。

 幸村は運動が苦手だが、学力に関しては学年でもトップクラスの生徒だ。さらに苦手な運動も克服しようと毎朝ウォーキングをしているらしい。

 その向上心は俺も見習わなければ。

 

「今日は勉強会はないのか?」

「ああ」

「わかった。放課後にまた声をかけてくれ」

「助かる。それじゃまた」

「あいよ」

 

 幸村が俺に相談とは珍しい。

 俺より成績がいい幸村が勉強のことで相談することはないので、恐らく恋愛相談で間違いないだろう。

 池に続いて恋愛相談を受けることになるとは、幼馴染のあいつが知ったら驚くだろうな。

 

「幸村くん、佐倉さんとみーちゃんのことかな?」

 

 隣人の松下が一時間目の準備をしながら問う。

 

「だろうな。でも三角関係になったことなんてないからどう答えればいいやら……」

 

 池の相談は比較的簡単なものだったので問題ないが、三角関係なんてレベルが高い相談を俺が対応できるだろうか不安だ。

 

「俺じゃ厳しそうだったらヘルプお願いしてもいい?」

「いいけど、あまり期待しないでね」

「俺よりマシだろう」

「そうだけど」

「そこは断言するのか……」

「だって立花くんは彼女いたことないでしょ?」

「そうだけど、松下もだろ?」

「彼氏はいたことないけど、告白なら二桁以上されたから」

「……すげぇ」

「そのおかげで面倒ごとに巻き込まれたんだけどね」

「やっぱり恋愛は面倒ごとが多いんだな」

「そうだね。それより最近櫛田さんはどう?」

「一応毎日褒めてるけど」

 

 松下からの指示で、櫛田の承認欲求を満たすために、俺は一日一回彼女を褒めている。

 しかし、それが原因なのかわからないが、櫛田に俺が惚れていると勘違いされたようで、告白もしていないのに振られてしまったことがある。

 好意がないとはいえ、美少女に振られるのはそれなりにダメージを受けるものだ。

 

「なにか櫛田さんに変化あった?」

「うーん、特にないけど……いや、他クラスの情報を聞かなくても教えてくれるようになった」

 

 櫛田は他クラスにも数多くの友人がいるので、半端でない情報量を持っている。

 

「そうなんだ」

「おかげで絡んだこともないのに、他クラスの生徒の性格とか覚えてしまった」

「それはいいことじゃない?」

「そうだな。特別試験で役立ちそうだ」

「私も一之瀬さんからそれなりにクラスメイトについて情報得られたよ」

「相変わらず仲良しだな」

「うん。今度の土曜も一緒に遊びに行くからね」

 

 松下はCクラスの情報を得るために一之瀬と友人関係を築いている。

 他クラスのリーダーと交流を持つなんて危険極まりないが、松下なら問題ないだろう。

 学力はもちろん思考力や決断力があり、一之瀬にも負けないスペックの持ち主だと思っている。

 ……胸囲力を除いては。

 

「なにか失礼なこと考えなかった?」

「……っ!?」

 

 

***

 

 

「お邪魔するぞ」

「お、お邪魔します……」

「どうぞ」

 

 放課後、幸村が俺の部屋にやってきた。……女連れで。

 

「わざわざ時間作ってもらって悪いな」

 

 幸村から他人に話を聞かれたくないとのことで、俺は自室に招き入れることにしたのだが、まさか女を連れてくるとは思わなかった。

 

「佐倉も適当に座ってくれ」

「ひぇっ!」

「麦茶でも飲むか?」

「ひぇっ!」

 

 彼女は今からラップでもするのだろうか。

 

「すまん。佐倉は人見知りなんだ」

「そ、そうか……」

 

 佐倉が大人しい性格なのは把握していが、ここまで人見知りとは……。

 恐らく彼女はコミュニケーション能力の低さが原因でDクラスに配属されたのだろう。

 

「それで俺に相談って?」

 

 答えはわかりきっているが、念のため確認する。

 

「……実は、佐倉がストーカー被害に遭ってるかもしれないんだ」

「え……っ!?」

 

 恋愛相談じゃなかったのか。

 予想が外れたことに羞恥心を感じてしまったが、すぐに気持ちを切り替える。

 

「詳しく聞かせてくれないか?」

「ああ」

 

 幸村がゆっくり語りだした。

 もともと佐倉の様子がおかしいのは幸村が気にしていたようで、原因がストーカー被害であることを知ったのは前日のことだった。

 早朝のウォーキングを終えた幸村が寮に帰ると、佐倉の郵便ポストになにかを投函している男性を発見した。

 男性は幸村の存在に気づき、足早にその場を去った。

 その日の勉強会で、幸村が佐倉に事情を訊いてみると、ストーカー被害に遭っていることを告げられたのことだった。

 

「これがその手紙なんだが」

 

 幸村が鞄から手紙を取り出し俺に渡す。

 

「見てもいいのか?」

「ああ。佐倉の許可はとってある」

 

 佐倉を見ると、彼女はゆっくり頷いた。

 

「それじゃ」

 

 封から折りたたまれた紙を取り出し、ゆっくり広げるとそこには吐き気を催す内容が書かれていた。

 

「うわっ……」

 

 手紙には送り主がいかに佐倉を愛しているかという自己アピール文が延々と書かれていた。

 

「……てか、佐倉って雫だったんだ」

 

 雫は俺と同世代のグラビアアイドルだ。

 週刊少年コニャックの表紙も飾ったことがあるので、それなりに人気はあったはずだ。

 

「は、はい……」

「幸村は知っていたのか?」

「いや、俺も昨日知ったばかりだ」

「そうなんだ」

「あ、あの……このことは……」

「わかってる。誰にも言わないよ」

 

 佐倉の性格からして目立ちたくないのはわかっている。

 もし、佐倉が雫だとばれたらとんでもない騒ぎになるだろう。

 

「あ、ありがとう……ございます」

「それで手紙以外に被害はないのか?」

「あ、あの……ブログのコメントに……」

「ブログ?」

「はい……」

「ブログやってる芸能人ってまだいたんだ?」

「あぅ……」

「あ、悪い」

「い、いえ……。私、流行に疎いので……」

 

 だからブログなのか。

 SNSといえば、TwitterやInstagramが有名だが、佐倉はついていけてないってことか。

 なんか親近感が湧いてきたぞ。

 

「これがストーカー男のコメントだ」

 

 幸村がスマホを操作し、ブログのコメント欄を表示させる。

 

『雫、今日も綺麗だね』

『今日は左より右の乳の方がいい感じだね』

『腋毛の処理が甘いんじゃないかな』

『ナイスおっぱい』

『僕のマグナムが火を吹きそうだよ』

『雫のために頑張って正社員になるよ』

『新婚旅行は熱海でいいかな』

『子供は男の子と女の子一人ずつがいいんじゃないかな』

 

 おっぱいのバランスがわかるなんて、そうとうレベルが高いストーカーである。

 それよりストーカー男正社員じゃないのか……。

 

「……とりあえず佐倉がストーカー被害に遭ってることはわかった。それで先生には相談したのか?」

「いや、していない」

「なんでだよっ!?」

「佐倉があまり大事にしたくないらしくてな……。とりあえず、それなりに信頼している立花に相談しようかと思ったんだ」

 

 それなりなのか……。

 まあ、信頼されているだけマシか。

 

「信頼してくれてるのは嬉しいけど、これは俺たちの手に余るぞ」

「そうだな……」

「佐倉の性格からして大事にしたくないのはわかるけど、ストーカーを甘く見ちゃいけないぞ」

「は、はい……」

「佐倉もニュースで見たことあると思うけど、ストーカーに殺されてしまう被害者もいるんだ。何かあってからじゃ遅いんだぞ」

 

 俺も幼馴染に振られたヤンキーに暴力を振るわれたことがある。

 今思うと、振られた腹いせに幼馴染を襲うなんて、あいつも立派なストーカー野郎だったんだな。

 

「幸村、佐倉、すぐに茶柱先生に相談しよう」

「どうする佐倉?」

「……わ、わかりました……。茶柱先生に相談します……」

 

 震えながら幸村の問いに答える佐倉。

 こんな年端もいかない女の子を怖がらせるなんてひどい野郎だ。

 もうすぐ正義の鉄槌が下されるから待ってやがれ。

 

「ちなみに、犯人に心当たりはあるのか?」

 

 郵便ポストに直接手紙を投函したということは、高度育成高校の敷地内に出入りできる人間と言うことだ。

 同じ学校の生徒なのか、施設などで働く大人なのか。

 

「多分、家電量販店の店員さんだと……思います……」

 

 佐倉はその店員が犯人だと思われる理由を話した。

 入学直後にデジカメを家電量販店で購入したときに接客した店員に、佐倉が雫であることがばれてしまったようで、会計時に問い詰められたようだ。

 ポイントでの支払いなのですぐに会計を終えた佐倉は答えることなく逃げたが、その日以降にストーカー被害が始まったとのことだ。

 

「なるほど。確かにその店員が怪しいな」

 

 怪しいどころか犯人で間違いないだろう。

 デジカメ購入時に、延長保証の書類に住所も記入したと佐倉が言っていたので、彼女の部屋番号を知っていてもおかしくはない。

 ストーカー野郎に前科があれば手紙の指紋から特定は出来そうだ。

 指紋が特定できなくても、ブログのコメントからIPアドレスなどから個人が特定できる可能性もある。

 

「とりあえず茶柱先生に連絡だ」

 

 

***

 

 

 茶柱先生に佐倉のストーカー被害を報告したところ、思った以上に迅速に動いてくれた。

 まず茶柱先生は、敷地内にある交番に佐倉を連れて被害届を出した。

 ストーカー被害に対する警察の対応は遅いとニュースでよく見かけていたが、茶柱先生が美人だったからか、警察の対応は素晴らしいものだった。

 茶柱先生からの報告によると、ストーカー野郎は佐倉の予想通り家電量販店の店員だったようで、すぐに逮捕されたらしい。

 これで佐倉の日常が脅かされることはなくなった。

 ただ、卒業後にストーカー野郎が佐倉を襲う可能性もゼロではない。

 ストーカー野郎が、高度育成高校の敷地内に入ることはないので、卒業までは安心だろう。

 だが卒業後はどうだろうか。

 もし奴が初犯なら実刑が下されることなく、すぐに自由の身になるだろう。

 俺は最悪の未来を想像してしまった。

 ストーカーが復讐を企て、卒業式当日に、佐倉が敷地外に出た瞬間を狙い、彼女を襲ってしまう。

 怒り狂ったストーカーが何をしでかすか、俺のような常人には想像もできない。

 

「佐倉のために幸村を鍛えたほうがいいかもしれない」

 

 佐倉が唯一心を開いているのは幸村だ。

 俺や元不良の三宅の方が喧嘩は強いだろうが、佐倉を助けるのは幸村の方がいいだろう。

 しかし、幸村には勉強会という大事なお仕事がある。

 

「まずは土日の予定を訊いてみるか」

 

 週一でもいいので、護身術なり何かしらの武道を身につけてもらわなければ。

 幸村も佐倉のためなら喜んで武道に取り組んでくれるはずだ。

 

 ストーカーが逮捕された翌日、登校したところ下駄箱に佐倉がいたので小声で挨拶してみた。

 

「佐倉おはよう」

「ひぇっ!」

「……」

 

 ちょっと心が折れそうになった。

 

「あ、立花くんだったんですね……。おはようございます」

「お、おはよう……」

「すみません……。背後から声をかけられたので悲鳴をあげてしまいました……」

「そっか」

 

 佐倉に次に挨拶するときは真正面からするとしよう。

 

「あれから被害はなくなったか?」

「はい。いろいろとありがとうございました」

 

 ご丁寧に頭を垂れて感謝の言葉を述べる佐倉。

 

「いや、俺は何もしてないぞ。茶柱先生に相談するよう言っただけだ」

「でも、立花くんに相談しなければ茶柱先生に相談なんてしなかったと思います」

「そっか」

「今度お礼をさせてください」

「俺じゃなくて幸村にしたらどうだ?」

「……っ」

 

 幸村の名前を出したところ、佐倉の頬が一瞬で赤く染まった。

 あの時の石橋くらいに顔が真っ赤だ。

 

「……佐倉ってわかりやすいな」

「ひぇっ!?」

「頑張れよ」

「な、なにがですかっ!?」

「何でもないよ」

 

 俺は目が泳ぎだした佐倉を置いて先に教室に向かうのだった。

 

「なんか佐倉さんと仲良く話してたみたいじゃん」

 

 席に着くと、軽井沢が不機嫌そうな表情で話しかけてきた。

 

「そうだな。前より仲良くなれたと思うぞ」

「ふぅん。佐倉さん、可愛いもんね」

 

 そりゃ人気グラビアアイドルだからな。

 髪型や眼鏡で誤魔化しているが、容姿だけなら学年――校内でもトップクラスだろう。

 

「ああ。幸村のことでからかったら、可愛い反応してくれたよ」

「え? マジっ!?」

 

 さっきの不機嫌はどこに行ったのやら、軽井沢の表情が怒から喜に変化した。

 

「やっぱ佐倉さんって幸村くんのこと好きなんだ」

「恐らくな。名前出しただけで、顔が真っ赤になってたし」

「何それ、超可愛いんですけど。……今度、佐倉さんに話しかけてみようかな」

「やめておけ」

「なんでよ?」

「佐倉はギャルが苦手だからだ」

「そうなの?」

「ああ。眼鏡をかけている女子はギャルが苦手だ」

「なんでよっ!?」

 

 軽井沢がぎゃあぎゃあ言ってくるので、俺は彼女の罵声を右から左に受け流しながら、どうやって幸村に武道を学んでもらうか予鈴が鳴るまで考えるのであった。

 

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