ベースキャンプ地を探すため森の中に入った俺たちBクラスはいったん日陰で休むことにした。
地獄のフィジカルトレーニングに参加した女子は堀北と小野寺のみだったので、他の女子たちに配慮した次第である。
10分ほど休憩してから男子は五人四組に分かれてベースキャンプ探索、女子はこの場に残り必要なアイテムのリストアップをしてもらうことになった。
「しかし暑いでござるな……」
すっかりスリムになった博士がだるそうに呟いた。
「今日は最高気温36度だったかな」
「おっふ……」
下船前にテレビで見た情報を伝えると、博士はげんなりとした。
「立花は岩手出身だよな。あっちはここまで暑くないのか?」
隣りを歩く三宅が訊ねる。
三宅は中間や期末テストで勉強を教えたこともあり、それなりに話せる仲になった男子だ。
長谷部とよく二人でいるが、気が合うだけで付き合ってはいないらしい。
「岩手も暑いぞ。ただ、東京の方がジメジメしてるかな」
「なるほど」
「三宅は東京出身だっけ?」
「ああ」
「うちのクラスって東京の人多いよな。博士、綾小路、本堂もそうだろ?」
「そうでござる」
「だな」
「俺は東京でも八王子だけどな……」
本堂は23区以外出身であることがコンプレックスらしい。
そういえば足立区出身の篠原に馬鹿にされてたような気がする。
「綾小路は東京のどこなんだ?」
「……多摩市だ」
「友よ」
満面の笑みで綾小路の右手を両手で握る本堂。
どうやら同志を見つけて歓喜で震えてるようだ。
対して綾小路は出身地に興味がないようで、いつもの無表情のままだ。
佐藤といちゃついてるときも、あの顔のままなのだろうか。
「あとで佐藤に訊いてみるか」
佐藤は煽てながら質問すると、なんでも答えてくれる。
「お喋りはそこまでにして、探索に集中しようぜ」
「そうだな」
三宅の一言で俺たちは雑談を止めて、周りを見渡しながら森の中を突き進んだ。
***
ベースキャンプ地は池のグループが発見した川が近くにあるスポットになった。
他の候補として洞窟があったが、閉塞的な場所より、水浴びなどリフレッシュしやすい場所が選ばれた。
ベースキャンプが決まったら次にリーダー決めだ。
平田、櫛田のような他クラスからも名前が知られている生徒は論外なので、候補として幸村、軽井沢、綾小路の名前があがり、多数決の結果、幸村がリーダーに任命されることになった。
理由としては下船前に豪快に嘔吐したので、まさか船酔いしてリバースした生徒がリーダーになるとはだれも思わないだろう、とのことだ。
幸村がリーダーに選ばれたことにリバースメイトである堀北だけが納得していなかったが、佐藤と篠原がなだめてくれたおかげで渋々了承してくれたようだ。
その後、テントを手分けして設置し終えると、女子がリストアップしたアイテムをクラス全員で選別することにした。
まず衛生面を考えて仮設トイレを購入することが決定した。山内が簡易トイレで我慢すればいいと反対したが、簡易トイレだけでは衛生面だけでなくストレスも溜まる。さらに家族でもない男女が同じトイレを使用するのに抵抗感がある生徒がいることも考え、結局2つ購入することになった。
あとはテント、シャワールーム、懐中電灯など必要最小限なものを購入し、それ以外のものは都度相談ということになった。
「さて、焚火するために木の枝でも拾いに行くか」
懐中電灯だけで夜を過ごすのは怖いだろうから、何かしら明かりになるものが必要だろう。
枝を集めたら池に渡そう。火を灯すのは彼に任せれば大丈夫なはずだ。
「あたしも行く」
「私も行くよ」
「悪いな二人とも」
軽井沢、松下の二人が同行を申し出てくれた。
綾小路にも声をかけようとしたが、佐藤といちゃついているのでやめた。
俺たち三人は迷わないよう、ベースキャンプから遠く離れない場所で枝を集めることにした。
「佐藤さんと綾小路くんってまだ付き合ってないのかな?」
軽井沢が思いついたように質問しだした。
「私はまだ報告受けてないよ」
「松下さんも知らないか。立花くんは綾小路くんから何か聞いてないの?」
「特に」
「そっか」
「軽井沢は二人が付き合ってると疑ってるのか?」
「うん。だってベッドでいちゃついてたし」
「あー……」
「そうなの?」
「うん。下船の一時間前に放送があったじゃん?」
「あったね」
「そのあとに部屋に戻ったら二人がいちゃついてて。それで気まずいから立花くんの部屋に避難したわけ」
「それはお気の毒様だね」
「でしょ。てかあれで付き合ってないとかありえなくない?」
「確かに。まあ付き合ってなくても友達以上であることは間違いないよね」
「夜になったら問い詰めようか?」
「いいねそれ」
「ガールズトークってやつか」
「尋問に近いけどね」
不敵な笑みを浮かべる松下。
なんか怖いからその顔やめて。
10分後。ある程度枝を拾い集めた俺たちはベースキャンプに戻ることにした。
その帰り道で、大木に背中を預けるようにして座り込んだ一人の少女を発見した。
その少女は俺たちの存在に気づくと、一度目を向けた後興味なさそうに視線を外した。
「誰だあれ?」
顔を知らないので他のクラスであることは確実だ。
「確かDクラスの伊吹さんだったかな」
「松下の知り合いか?」
「まさか。龍園くんの手下みたいな感じだから知ってるだけ」
「龍園の手下……」
龍園という名前にビビったのか、軽井沢がさっと俺の背中に隠れた。
「顔が赤く腫れてるね」
「誰かにぶたれたのかもな」
だいぶ腫れているので、かなり強い力でぶたれたのは明らかだった。
「ぶたれたって……」
暴力が苦手な軽井沢が震えだし、左腕にギュッと抱き着いてきた。
「どうする立花くん?」
「そうだな」
松下に問われ、軽井沢の柔らかいものを感じながら思考する。
「……無視する」
「無視っ!?」
驚愕する軽井沢。
俺の答えがわかっていたのか、松下は特に反応しない。
「じゃあ帰るか」
俺たちはその少女がまるでいないかのようにスルーしてその場を通り過ぎようとした瞬間だった。
「ちょっと待ちなさいよっ!」
その少女から声をかけられてしまった。
どうやら俺たちから声をかけられるのを期待していたらしい。
「待たない」
だが彼女はDクラスだ。
スパイの可能性も考えられるので、ここはスルーするのが正解だ。
「だから待ちなさいってばっ!」
その少女は鼻息を荒くしながら、俺の空いてる右腕を掴んだ。
「……何か用か?」
「なんでスルーするのよっ!?」
「だって敵だし」
「うぐっ……。て、敵だけど怪我してる女子がいたら心配するのが普通でしょうがっ!」
「この学校は普通じゃないから」
「うぅっ……」
「てか離してくんない? 暴力行為は禁止だぞ」
「暴力じゃないわよっ! それにそのギャルだって腕掴んでるじゃない!」
「あたしっ!?」
まさか自分に矛先を向けられるとは思わなかった軽井沢が声をあげた。
「軽井沢はいいんだよ。クラスメイトだし」
「うぐっ……」
さっきからこの子、呻いてばかりじゃないか。
「それよりもう夕方だからベースキャンプに戻れば?」
「……戻れないんだよ」
「迷子か」
迷子の迷子の伊吹ちゃん。あなたの
「迷子じゃないしっ!」
「じゃあなんで戻れないんだ?」
「追い出されたのよ」
「龍園くんに?」
ここで松下が俺たちの会話に加わった。
先ほどまではだんまりしていたが、恐らく伊吹を観察していたのだろう。
「……そう」
「理由を訊いてもいいかな?」
「あいつの方針に逆らったら殴られて追い出された。それだけよ」
「そっか」
「龍園に逆らったのかっ!?」
「そ、そうだけど……。急にどうしたのよ……?」
俺の豹変ぶりにたじろぐ伊吹。
「爪は大丈夫かっ!?」
「はぁっ!?」
「龍園は自分に逆らったやつに容赦しない人物と聞いている」
「そうだけど……それが何なのよ?」
「龍園は暴力で屈服させた相手の爪を剥がすのが趣味らしい」
「…………は?」
「松下、チェックしてくれ」
「う、うん……」
松下がぽかんとしたままフリーズする伊吹の爪を確認した。
「一枚も剝がれてないよ」
「……そうか」
これで伊吹がスパイの可能性が一気に高まった。
もちろん、龍園が女子相手だから軽めの制裁を加えたことも考えられるが、クラスの安全のために伊吹を連れて帰るわけにはいかない。
「爪が剥がれてないなら大丈夫だな。一人で大変だろうけど頑張れよ」
「あ、ありがとう……って違うでしょうがっ!」
軽井沢に続いて、伊吹までツッコミし始めた。
「なにが違うんだ?」
「怪我してるんだから保護しなさいよっ!」
「嫌だよ。てか追い出されたならリタイアして船に帰ればいいじゃん」
「リタイアはあたしのプライドが許さないっ!」
「お前のプライドなんてどうでもいいんだけど」
「うぐっ……」
この女、面倒くさすぎる。タイプは違うが堀北並みの面倒くささだ。
「まあまあ二人とも」
にらみ合う俺たちを宥めるように松下が仲裁に入った。
「とりあえず平田くんに相談したら?」
「平田に?」
「うん。平田くんの性格からして、伊吹さんのことは放っておけないと思うんだよね」
「うーん……」
なぜか松下は伊吹を保護する方針のようだ。
Dクラスの生徒を保護してもデメリットしかなさそうだが松下のことだ。何か考えがあるのだろう。
「まあ平田に相談するくらいなら」
「ありがとう。軽井沢さんもいいかな?」
「あ、あたしは別に……」
口ではそう言いつつも、やはり他クラスの生徒を保護することに抵抗があるのか、腕に抱き着く力が強くなった。
「じゃあ行こうか。伊吹さんもいいよね?」
「いいけど……なんであたしの名前を知ってるわけ?」
「櫛田さんから聞いたことあるから」
「櫛田か。なら納得」
さすがコミュ力お化けの櫛田だ。
こんな面倒くさそうな伊吹とまで知り合いとは恐れ入る。
***
枝をかき集めてベースキャンプに戻ってきた俺たち。伊吹は離れたところに腰を下ろして待機してもらっている。
焚火は池に任せて、俺たちはすぐに平田に伊吹を連れてきた理由を説明した。
「なるほど、それはナイス判断だね」
「ナイスなのか?」
「うん。いくら他のクラスだからと言って、怪我してる女子を放っておくなんてできないよ」
「……でもスパイの可能性もあるぞ?」
「そうだね。でも、スポットを更新するときに離れてもらえれば大丈夫じゃないかな」
「うーん……」
それ以外にもカードを見られたり、盗まれる可能性も考えられる。
「立花くんが心配になるのもわかるよ。クラスのことを思ってくれるからこそ、彼女を受け入れたくないんだよね?」
「そうだな」
「その気持ちは凄い嬉しいよ。でも、今回は僕を信じて彼女を受け入れてくれないかな?」
「……わかったよ。平田にそこまで言われたら仕方ない」
「ありがとうっ!」
「おうっ!?」
美少年に感謝のハグをされてしまった。
そっちの気はまったくないが、さすがに抱きしめられるとドキッとしてしまう。
「それじゃ僕は伊吹さんに説明してくるよ。よければ櫛田さんも一緒に来てくれないかな?」
「もちろん」
伊吹の顔見知りである櫛田を連れたって、平田はその場を後にした。
「立花くん、ちょっと」
「なんだ?」
他人に話を聞かれたくないのか、松下に川岸に連れていかれた。
「伊吹さんのことなんだけど」
「伊吹がどうかしたのか?」
「さっき爪が剥がれていないか確認したでしょ?」
「したな」
「実は爪の間に泥が入ってたんだよね」
「泥……?」
「うん。しかも、彼女を発見した大木の根元に地面を掘った跡があったの」
「地面を掘った跡だってっ!?」
「そう。伊吹さんは何かを土に埋めて隠してるのかも」
「そうなると、ますますスパイの可能性が高くなるな」
「だよね」
「なんで、それに気づきながら伊吹を保護するように仕向けたんだ?」
平田に報告すれば、伊吹が保護するのは確定したようなものだ。
「伊吹さんを何かしら利用できると思って」
「スパイを利用だって?」
「そう。方法はこれから考えるとして、立花くんにお願いがあるの」
「伊吹が何を隠したのか確認すればいいんだな」
「うん。一人じゃ大変だろうから、綾小路くんあたり連れて二人でお願い」
「松下は?」
「手が汚れるからパス」
「そうですか……」
確かに松下の性格なら、土堀は嫌がるだろう。
ていうか女子のほとんどは嫌がりそうだ。
佐藤あたりは綾小路がお願いすれば、快く土堀してくれそうだが。
「そんな顔しないでよ。何か見つけたらご褒美あげるから」
「ご褒美とは……?」
「うーん、私とデートとか」
「ただ荷物持ちにされるだけのような気がするんだが」
「あはは、そうかも」
「もう少し勤労意欲が沸くご褒美を所望する」
「それじゃ、水着姿を見せるとかはどうかな?」
「水着姿……」
「前にプールの授業で、黒のビキニが似合いそうだって言ってくれたよね。覚えてる?」
「覚えてるけど」
松下は黒のビキニ、軽井沢は赤のビキニが似合う。
なぜそう思ったのか覚えていないが、俺は二人に素直に想いを打ち明けたことがある。
「実は夏休みに授業では使われていないプールが解放されるんだって。そこで黒のビキニを着てあげる」
「マジで……?」
「うん。それでどうかな?」
「精一杯頑張ります」
「ありがとう」
松下にいいように利用されているような気がするがどうでもいいや。
だって美少女のビキニ姿が見れるんだし。
真夏の素敵イベントに心を躍らせ俺はベースキャンプに戻るのであった。
立花の各ヒロインへの印象
松下→頼りになる相棒。見た目が好み
軽井沢→俺が守らなくちゃ。見た目が好み
堀北→面倒くさい女。見た目が好み
佐藤→アホの子。見た目が好み
櫛田→告白もしてないのに振られた。意味が分からない
佐倉→幸村LOVEの女子
ひより→ハニートラップ要員の読書家。見た目が好み
伊吹→面倒くさい女。早く船に帰れ
一之瀬→自らハニートラップを仕掛ける身体を張る女。おっぱいが大きい。
坂柳→化物。白い悪魔。常人じゃ理解できない考えの持ち主。勝てる気がしない
神室→見た目が好み