ようこそ心配事が多い教室へ   作:御米粒

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今回は珍しくひよりがメインです!
サブタイトル修正しました!


28話

 Dクラスのベースキャンプを去ってから30分ほど経過した。

 松下は一之瀬に会いに行くため別行動をとっており、俺は延々と椎名の話し相手をしていた。

 

「本当に最悪です。早く船に戻りたいです」

 

 椎名の愚痴が止まらない。

 原因は二つあり、一つ目は無人島に上陸してから読書が一切できていないこと、二つ目はクラスメイトに本を語り合える相手がいないことだ。

 俺は彼女の愚痴を聞きながら、時折質問を投げて、何とかDクラスの情報を得ることができた。

 椎名から得た情報は以下の通りだ。

 

・特別試験のルール説明後、龍園が30分ほどいなくなったこと。

・龍園がクラスに戻ってすぐに特別試験の方針を説明したこと。

・伊吹と金田という男子生徒がクラスから追放されたこと。

 

 気になるのはリーダーである龍園が30分間もクラスからいなくなったことだ。

 Dクラスは龍園の独裁政権だ。入学してから初めての特別試験が始まろうとするときにクラスから離れる理由がわからない。

 自分だけで考えても埒が明かないので、ベースキャンプに戻ったら松下と平田に相談しよう。

 

「立花くん、聞いてますか?」

 

 もの思いにふけていると、椎名が頬を膨らませジト目で睨んできた。

 なんてあざとい仕草だ。

 もし俺が山内だったら、本能に駆られて椎名を押し倒していただろう。

 それほど椎名のあざとさはレベルが高かった。

 

「聞いてるよ。愚痴を零したいのはわかるけど、もっと楽しい話をしようぜ」

「……そうですね、すみませんでした」

「謝らなくていいぞ。椎名にとって耐えられない環境だってことは理解してるから」

「ありがとうございます」

 

 それから俺たちは今月発売される新刊の情報を交換したり、椎名が最近興味を持ち始めた漫画やアニメの話で盛り上がった。

 

「ふぅ……やっぱり立花くんとお話するのは楽しいです」

「嬉しい言葉をありがとさん。そろそろ戻るか」

 

 気づけば椎名と二人になってから一時間ほど経っている。

 点呼もあるので、ベースキャンプに戻らなければならない。

 

「わかりました。あの……最後にご質問させていただいてもよろしいですか?」

「いいよ」

「立花くんは松下さんと付き合っていないんですよね」

「そうだけど」

「それじゃ軽井沢さんとは付き合っているのですか?」

「軽井沢とも付き合っていないぞ」

 

 これはいい傾向だ。

 あまり他人に興味なさそうな椎名まで俺と軽井沢が付き合っているのではないかと疑問に思っているということは、椎名と同様に勘違いしてくれている生徒が大勢いると言うことだ。

 

 軽井沢は美少女だ。

 

 ギャル好きではない俺でも可愛いと思うくらいである。

 橋本のようなチャラそうな男子だったり、Dクラスに大勢いる不良たちにとって、軽井沢はストライクゾーンど真ん中の女子に違いない。

 今のところ軽井沢に告白した男子はいないようだが、彼氏がいないとわかればアタックしてくる男子も出てくるだろう。

 それを未然に防ぐのが俺の役割だ。

 俺と軽井沢は付き合っていないが、友達以上の関係を持っていることは事実だ。

 はたから見れば付き合う直前の男女と勘違いされてもおかしくない。

 つまり、軽井沢への告白を考えている男子たちにとって、俺は障壁なのだ。

 別に軽井沢が男子から告白をされるのが嫌なわけじゃない。

 問題はそれがきっかけで、軽井沢が嫌がらせを受ける可能性があることだ。

 モテる女子は味方も多いが、敵も多い。

 これは中学時代に幼馴染から教わったことだ。

 女子の嫌がらせは陰湿である。

 もしイケメンランキング上位の男子から告白されて、軽井沢がそれを断ったらどうだろうか。

 恐らくそのイケメンに惚れている女子が、軽井沢にたいして嫉妬と憎しみを抱くだろう。

 歪んだ感情を持った人間は何をしでかすかわからない。

 もちろん、何があっても軽井沢を守るつもりだが、俺はただの人間なので限界がある。

 俺が出入りできない女子トイレや、更衣室などで被害に遭う可能性も十分考えられる。

 軽井沢には女子トイレには一人で行かないよう言いつけているが、生理現象なので緊急を要する場合は一人で行くこともあるだろう。

 もし、そんな場所で軽井沢がいじめに遭って、中学時代のトラウマを思い出したら……

 

「立花くん、大丈夫ですか?」

「……え?」

「お顔が真っ青ですけど……」

「あ、あぁ……」

 

 最悪な未来を想像したら吐き気がしてきた。

 このままじゃだめだ。

 

「椎名、瞑想するから一分待ってて」

「瞑想ですか……?」

「そうだ。よかったら椎名も一緒にやるか?」

「私も瞑想を?」

「気分が落ち着くぞ」

「そ、それじゃ……」

 

 瞑想の効果は抜群だった。

 先ほどまで動悸が激しくなっていたのが、嘘のように心臓の動きが標準に戻っている。

 

「あの、お話の続きをしてもいいでしょうか?」

「いいぞ」

「えっと、軽井沢さんとも付き合っていないということは、立花くんは彼女がいないということでしょうか?」

「そうだ。彼女いない歴=年齢だ」

「そうでしたか」

「ていうか彼女がいたら、椎名と二人で会ったりしないだろ」

「……え?」

 

 俺がそう言うと、椎名は理解できないような顔つきで声を漏らした。

 

「な、なんでですか……?」

「そりゃ彼女がいるのに、女子と二人で会うのはまずいでしょ」

 

 それも許容範囲のカップルもいるだろうが、俺はアウトだ。彼女にも男子とは会ってほしくない。

 

「つ、つまり、立花くんに彼女ができたら……私は、あなたと会えなくなるということですか……?」

「そうだな」

「……っ」

 

 椎名が絶句する。

 さらにこの世の終わりみたいな表情になっている。

 なんか嫌な予感がしてきた……。

 

「椎名、それじゃまたな」

「待ってください」

 

 一刻も早くこの場から逃げようと立ち上がった瞬間、椎名に左腕を掴まれてしまう。

 

「なら、私を立花くんの彼女にしてください」

 

 人生二回目の女子からの告白である。

 いや、一回目の告白は軽井沢からの疑似彼氏の依頼だったので、実際はこれが初めてか。

 女子から告白をされるのは嬉しい。

 しかも椎名のような美少女の告白ならなおさらだ。

 

「……椎名は俺のこと好きなのか?」

「はい」

「それは異性として?」

「友達としてです」

「……」

 

 うん、答えはわかっていたけど、少しだけ期待してしまった。ほんの少しだけだけど。

 

「前にも言いましたが、私には立花くんしか友達がいないんです」

「……」

「もし、立花くんと会えなくなったら……私は、私は……」

 

 思ったより椎名が俺に依存していた件。

 俺と椎名は創作物を語り合うだけの友達だ。

 軽井沢みたいに部屋で料理を作ってもらったり、松下みたいにバディのような関係でもない。

 他人からすれば、趣味が合うだけの、替えがきく友人関係に過ぎない。

 それでも、椎名にとっては、趣味を語り合える友人はとても大きなものだったのだろう。

 だから、友人を失うことを極端に恐れ、好きでもない男子に告白をしてしまう。

 椎名が俺の彼女になれば、今まで通り二人で会えるからだ。

 それだけの理由で、彼女は大切なものを犠牲にしようとしている。

 

 もしかして、椎名って地雷女では?

 

 椎名がハニートラップ要員ではないことはわかっている。

 もちろん警戒を解くことはないが、今までの付き合いや、先ほどの龍園のやり取りで確信した。

 もし、椎名が龍園の駒なら、スパイの役割は伊吹でなく椎名だったはずだ。

 俺とも親交があるし、伊吹より椎名の方が可愛いし、保護欲が沸くし、椎名が困っていたら、思春期の男子たちは間違いなく手を差し伸べるだろう。

 しかし、椎名はクラスで孤独な時間を過ごしていただけだ。

 さらに、龍園は俺と椎名が友達であることも把握していなかった。

 つまり、Dクラスの王様は椎名を戦力として数えていないということだ。

 椎名は運動音痴だし、コミュ力も低い。ただ、学力は学年でもトップクラスだ。

 ミステリー小説もたくさん読んでるから、思考力も常人より高いだろう。

 そんな逸材をなぜ戦力として計算しないのか。

 

 まさか―――――龍園は椎名が地雷女だとわかっていたのか?

 

 それなら、龍園が椎名を駒として利用しないことに説明がつく。

 龍園はわかっていたんだ。

 

 椎名ひよりが地雷女だと。

 

 先ほど、椎名と松下を交換したいと言っていたのも、冗談でなく本心かもしれない。

 

『地雷女の椎名が怖いから、松下を譲ってくれ……』

『Dクラスはポンコツばかりで、有能そうな椎名は地雷なんだ……』

 

 何だか龍園が可哀そうに思えてきたぜ。

 たくましく生きろよ龍園。

 Aクラスを譲る気はないけど、Bクラスになれるよう陰ながら応援してやる。

 

「立花くん、私と付き合いましょうっ……!」

 

 気づくと椎名は膝立ちで真正面から俺の腰に抱き着いていた。

 もし誰かに見られたら卑猥な行為をしていると勘違いされてしまうだろう。

 

「ちょっ、椎名ストップ!」

「ノンストップです!」

 

 生活情報番組名を言われ、俺の願いは却下されてしまった。

 とりあえず椎名を落ち着かせなければ。

 彼女が錯乱している原因は、友人を失う可能性を危惧したからだ。

 俺はすぐに対応策を考えた。

 

 最初に思い付いたのは、俺と椎名が恋人になること。

 これは30分前までの俺なら非常に魅力的な考えと思っただろう。

 なぜなら椎名のような美少女が彼女になるのだから。

 しかし、椎名は地雷女なのでこれは却下だ。

 椎名と付き合ったら息が詰まりそうな未来しか見えない。

 

 次の候補は、俺以外の友人を作らせることだ。

 椎名が俺に執着しているのは読書仲間が俺しかいないからだ。

 俺以外にも読書仲間ができれば、俺への依存度は下がると思われる。

 俺が知る中で読書好きなのは、綾小路、博士、堀北の三人だ。

 しかし、この三人を椎名に紹介するのは躊躇われる。

 まず綾小路だが、佐藤がいるのでなしだ。もし、彼を椎名に紹介したら俺は女子から大バッシングを喰らうだろう。

 博士はラノベ以外にライト文芸も読むので、椎名が知らない作品をたくさん教えてくれそうだ。

 しかし、博士は女子に免疫がない。龍園の気が変わって椎名を利用したら、博士をハニートラップに引っ掛けるのは間違いないだろう。

 なので博士もアウトだ。

 最後に堀北だが、コミュニケーション能力が低いのでなしだ。

 

 とすれば、俺が折れるしかない。

 もし彼女ができれば、彼女以外の女子と二人で会わないと心の中で決めていたが、椎名をこれ以上暴走させるわけにはいかない。

 

「椎名、落ち着け」

「私は落ち着いています!」

 

 1ミリも落ち着いていないのだが!?

 

「聞いてくれ、椎名」

「なんですか? 私を彼女にしてくれるんですか?」

「違う。もし俺に彼女ができても……椎名と会うから」

「……え?」

「彼女に許可をもらって、椎名とは今まで通り会うようにする」

「ほ、本当ですか……?」

「本当だ。椎名だけ特別だ」

 

 だから早く俺から離れてくれ。

 普通に抱きしめられてもドキドキするのに、下半身に抱き着かれたら、いろいろとやばくなるのだ。

 

「私だけ特別……」

 

 言い方がまずかったかな。

 椎名がうっとり顔で、下半身に顔を埋めてしまった。

 

「し、椎名さん……。そろそろ離れて……」

「ふふふ、私だけ特別ですか……」

「椎名さーん」

 

 椎名はぶつぶつ独り言を言いながら、五分ほど俺の下半身に抱き着いたままだった。

 もし、抱き着いた相手が俺じゃなくて山内だったら、椎名は押し倒されていただろう。

 相手が理性的な俺でよかったな椎名よ。

 

「取り乱してしまいすみませんでした」

 

 椎名が深々と頭を下げて謝罪した。

 

「いや、俺も悪かったよ」

「立花くんは何も悪くありません」

「じゃあ二人とも悪くなかったってことで。もうそろそろ点呼の時間だから俺はベースキャンプに戻るよ」

「はい。あの……船に戻ったら、また会ってくれますか?」

 

 椎名の十八番。瞳を潤ませながらの上目遣いお願い攻撃だ。

 

「ああ、すぐには無理だろうけど、連絡するよ」

「約束ですよ?」

「あいよ」

「嘘ついたら、本当に私を彼女にしてもらいますから」

「……え?」

「冗談です。それでは」

 

 椎名は意味深な笑みを向けてそう言い、Dクラスに戻っていった。

  

 

***

 

 

 ベースキャンプに戻ると、松下から一之瀬のクラスと協定を結んだことを教えられた。

 内容はお互いリーダーの指名をしないこと、食料及びベースキャンプの共有である。

 うちのクラスは水浴びができる川をCクラスに提供し、一之瀬のクラスは井戸水を提供してくれるとのことだ。

 また、Dクラスから追放された男子をCクラスが保護していることもわかった。

 金田というビートルズを尊敬しているのかマッシュルームカットが特徴の眼鏡男子だ。

 一之瀬も神崎も、金田をスパイとして疑っているが、怪我していたためそれを承知の上で保護したらしい。

 

 松下との話が終わると、軽井沢が怒りながら話しかけてきた。

 

「なんで特別試験中に敵クラスの女子と二人きりで会ってるのよ!」

「事情が事情だから理解してくれ」

「その事情って言うのを話しなさいよ!」

「簡単に言うと、俺に彼女ができても友達を止めないでほしいと言われた」

「……なにそれ?」

「椎名って友達が俺しかいないだろ」

「そうみたいね」

「俺は彼女ができたら、彼女以外の女子と二人で会うのはいけないことだと思ってるんだけど」

「ふ、ふーん。いい考えじゃない」

 

 なぜか偉そうに評価しだす純情ギャル。

 

「あたしも同じ意見よ。彼女いるのに、他の女子と会うのはアウトよね。まして二人きりなんて」

「そうだな」

「あ、あたしも彼氏ができたら、そ、その……彼氏以外の男子と会うなんてしないからっ……!」

「うんうん。それはいい考えだ」

 

 そのまま話は脱線してしまい、恋人ができたらどんな付き合い方をしていくかの話を点呼が始まるまで延々と話し込む俺たちであった。




平田「動画もいいけど、リアルの焚火もいいね。ずっと見てられるよ」
一之瀬「そうだね。何もかも忘れられそうで落ち着く」
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