ようこそ心配事が多い教室へ   作:御米粒

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今回は軽井沢メインです!


3話

 生まれて初めて女子に告白をされた。

 相手の名前は軽井沢恵。

 同じクラスのギャル系美少女だ。

 小柄だがスタイルはいいほうで、やや強気な性格をしている。

 そんな彼女に俺は告白をされた。

 松下にイケメンと評価されて少しは自信がついた矢先の出来事である。

 まだ出会って一週間しか経ってないのに惚れられるなんて。

 

 ……いや、待て。

 

 俺と軽井沢は出会ってまだ一週間だぞ。

 俺は出会って一週間で惚れられるような美男子だったか?

 違う。

 だって恋人いない歴=年齢じゃないか。

 それに軽井沢はボディタッチが多いが、無理して男慣れしている演技をしているように思える。

 だって間接キスで顔を真っ赤にするくらいだ。

 俺も真っ赤になっていたようだが……。

 とにかく、そんな軽井沢が一週間で俺に惚れるはずがない。

 なら彼女が俺に告白をした理由は一つ。

 

「軽井沢」

「な、なに……?」

「誰に負けた罰ゲームだ?」

「え」

 

 恐らく普段俺に弄られている佐藤あたりとゲームでもして負けたのだろう。

 敗者になった軽井沢は罰ゲームで男子に告白をすることになった。

 そして平田より悪戯しやすい俺を標的にしたんだ。

 危なかった。

 告白を真面目に受けて恥をかくところだったぜ……。

 

「いや、罰ゲームじゃないんだけど」

「……佐藤に弱みでも握られたのか?」

「なんでそこで佐藤さんが出てくるのよっ!?」

 

 違うのか。

 なら軽井沢は本当に俺のことが好きなのか?

 

「まぁ、正確には彼氏のフリをしてほしいっていうか……」

 

 彼氏のフリだと?

 となると軽井沢は男よけが欲しいのか。

 確かに軽井沢のルックスなら言い寄る男子も多そうだ。

 友人との恋愛関係のトラブルを事前に防ぎたい思いもあるかもしれない。

 とりあえず事実確認をしておくか。

 

「軽井沢はもう男子に言い寄られてるのか?」

「……なんでそんなこと聞くわけ?」

「いや、俺を男よけにしたいんだろ?」

「男よけ?」

「ああ。軽井沢は可愛いだろ」

「ふぁっ!?」

「だから男子たちに言い寄られないように男よけが欲しい」

「か、可愛いって……」

 

 軽井沢の様子がおかしい。

 誤って間接キスをしたときのように顔が真っ赤だし、息も荒い。

 もしかして容姿を褒められることに慣れていないのか?

 いや、軽井沢のルックスなら言われ慣れてると思うのだが。

 

「きゅ、急になに言ってんのよっ!」

「なんで怒ってるんだよ?」

「立花くんがいきなり可愛いって言うからでしょ!」

 

 容姿を褒めたら怒られたぞ。

 やっぱり女子は難しいな。何を考えてるのかわからない。

 

「とりあえずあたしの話を聞いてよ」

「わ、わかった」

 

 軽井沢はそう言うと深呼吸をして、俺の真正面に座り直した。

 そして俺の瞳をまっすぐに見つめ、口を開いた。

 

「あたしさ、中学校でずっと虐められてたんだよね……」

「……軽井沢が?」

「うん」

 

 衝撃の過去を打ち明けられ、俺は小さな衝撃を受けた。

 軽井沢ほどの美少女でも虐められてしまうのか。

 いや、もしかしたらルックスが原因だったのかもしれない。

 

「それは軽井沢のルックスに対する嫉妬が原因か?」

「そういうの言われ慣れてないんだからやめてよっ!」

「……ごめんなさい」

「本当やめてよね……」

 

 シリアスな空気をぶち壊してしまった。

 やばい。

 このままじゃKYだと思われるかもしれない。

 しばらくは質問するのを止めよう。

 

「原因はいろいろあるんだけど、一番はリーダー格の女子と性格が合わなかったことかな」

 

 中学時代を思い出したのか、憂いを帯びた顔をする軽井沢。

 

「最初は同じグループだったんだけど、その子と喧嘩してからグループからハブられるようになって、最終的にいじめに発展した感じ」

「最初は友達だったんだな」

「うん。だから余計にあたしのことを憎むようになったのかなぁ」

「そいつに卒業までずっと虐められたってことか?」

 

 しまった。また質問をしてしまった。

 でも今回の質問はセーフのようだ。

 軽井沢はすぐに答えてくれた。

 

「そうよ。何をされたか教えてあげる。上履きに画鋲、机の引き出しに動物の死骸。トイレに入れば汚水をかけられたり飲まされたりした。制服には淫乱だの売女だの書かれる」

 

 バイタ?

 どういう意味だろう。

 質問したいけど、ここで質問したらまた怒られそうだから我慢だ。

 

「髪を引っ張られたり、殴る蹴るは当たり前、考えられるいじめは全部受けてきた」

「……そうか」

「ちなみに今言ったことは、ほんの一握り。笑ってしまうくらい優しいものよ」

 

 となるとリンチだったり、性的な被害を受けたのだろう。

 よく自殺しなかったな。

 俺の学校もいじめはあったが、軽井沢が言うほど酷いものじゃなかった。

 もちろんいじめに軽いも重いもないのだが……。

 

「驚いた?」

「そりゃまぁ」

 

 仲良くしていた女子に凄惨な過去があったなんて。

 これで驚かなかったら人間じゃないだろう。

 

「だからあたしはこの閉鎖的な学校に来たの」

「高校でやり直すためか?」

「そう。高校では中学時代のような失敗は絶対にしたくない」

「この学校に軽井沢の過去を知ってる人間はいないのか?」

「うん。あたしの中学からこの学校に進学したのはあたし一人だから」

「そうか」

 

 つまり軽井沢の過去を知ってる人間は俺一人ってわけだ。

 

「立花くんにはあたしの彼氏になって……あたしを守ってほしいの」

「守るって軽井沢がいじめられないようにって意味か?」

「そう」

「軽井沢を守るのはいいけど、なんで俺と付き合うフリをしたいんだ?」

「立花くんって自分の立場理解してる?」

「え?」

「してないんだ」

 

 呆れたように溜息をつく軽井沢。

 なんで俺呆れられてるの?

 そもそも俺の立場ってなんだよ。

 質問しすぎて担任にうざがられ、同性の友人は平田一人で、可愛い女子と仲がいいくらいの立場だぞ。

 

「立花くんってけっこう人気あるのよ?」

「俺が?」

「そうよ。クラスはもちろん、ほかのクラスの女子からもそれなりに人気あるみたいよ」

「……なんで?」

「まず一番の理由は平田くんと仲が良いから。二人で行動することも多いでしょ?」

「そりゃ男子の友達は平田しかないから」

「そろそろ平田くん以外にも同性の友達作った方がいいと思うけど」

「……言われなくてもわかってる」

 

 そんなの俺が一番わかってる。

 

「話戻すけど、平田くんってかっこいいし優しいじゃない?」

「そうだな」

「しかもサッカー部だから運動神経もいいだろうし」

「間違いない」

「そんなハイスペックな平田くんに瞬く間に他クラスの女子にもファンが出来たみたいでね」

「マジかよ」

「マジ。櫛田さんが言ってた」

「櫛田か……」

「それで、そんな人気者の平田くん一緒にいれば、注目されるでしょ」

「……なるほど」

「それに立花くんもそれなりにイケメンだし」

 

 松下に続いて軽井沢にもイケメンって言われた!

 ますます自信がついてしまうじゃないか。

 

「……なにニヤけてんの?」

「な、なんでもない。続けてくれ」

「第二の理由だけど、立花くんって入学初日からあたしたちとも仲良くなったでしょ?」

「そうだな」

「やっぱり入学初日から女子と仲良くしてると注目されるみたいよ」

「そうなのか?」

「うん」

「……それで理解してくれた?」

「理解はしたけど。……なら俺より平田の方がいいんじゃないか?」

「確かにルックスや人気を考えれば平田くん一択なんだけど」

「酷い」

 

 確かに事実だけれど、本人に言う必要ないだろうが。

 軽井沢は傷心の俺を気にすることなく、説明を続けた。

 

「立花くんのほうが平田くんより頭が切れるから」

「松下も俺を頭が切れると評価してくれたけど、俺は極度の心配性なだけだぞ?」

 

 俺が不安や疑問に思ったことを口にして、松下が解決策を導き出す。

 つまり一番の切れ者は松下なのだ。

 

「でもこの学校はその心配性な性格が活きるとあたしは思ってるんだよね」

 

 確かにそうかもしれない。

 これからの学校生活を考えると、何に対しても疑問を持った方が安全だ。

 いつ落とし穴があるかわからない。

 極度の心配性が原因で生き辛いと感じていたが、初めて俺の性格が活きるかもしれない。

 

「最終的に平田くんじゃなくて立花くんがクラスのリーダーになるとあたしは思ってる」

 

 評価してくれるのは有り難いけど、リーダーになるのは嫌だ。

 そもそもリーダーって何だろう。

 この学校は学級委員がないから、精神的な立場みたいなもんか。

 

「だからあたしは立花くんの彼女になって、自分の地位を上げたいの」

「クラスカーストってやつか?」

「そうね。立花くんの彼女になればトップカーストは安泰でしょ?」

「結果的にいじめのターゲットにされる可能性が低くなる」

「正解」

 

 軽井沢にとってこれが最善の策だと思ってるのだろう。

 俺の彼女になれば軽井沢自身も注目され、カースト上位になることは理解した。

 だがカースト上位になれば、新たな悩みも出来るんじゃないか。

 それに嫉妬からいじめに変わる可能性も考えられる。

 なんか自分が人気者前提で考えてるから恥ずかしいけど。

 

「ようは軽井沢はいじめとは無縁な平和な学校生活を送れればいいんだよな?」

「うん。虐められなければなんでもいい」

「なら付き合うフリをするのはやめた方がよくないか?」

「なんでよ?」

「もしかしたらお互い本当に好きな人が出来るかもしれないだろ?」

 

 軽井沢には悪いけど俺は松下のことが気になっている。

 もちろん今回の話を聞いて、軽井沢を守りたいという気持ちも芽生えた。

 もし俺と軽井沢が恋人を演じれば、松下と付き合える可能性もなくなるだろう。

 まだ好きかわからないけど、その未来が閉ざされるのは嫌だった。

 

「それはない」

「え……?」

「あたしは好きな人なんていらない。甘酸っぱい青春なんて期待してない」

 

 軽井沢はそこまで覚悟を持ってこの学校に入学したのか。

 だが考えが甘いぞ軽井沢。

 

「軽井沢」

「なによ」

「お前が甘酸っぱい青春を期待してなくても、男子たちはわからないぞ」

「……男子たち?」

「いいか? お前は美少女なんだ」

「……っ」

「ギャルが苦手な俺でも可愛いと思えるほどの美少女だ」

「ちょっ、やめ……」

「ギャル好きの男子ならたまらないだろうな」

 

 そういえばアニオタのクラスメイトが「最近はオタクに優しいギャルが人気でござる」とか言ってた。

 アニメは詳しくないけど、二次元でもギャルは人気のようだ。

 

「これから軽井沢を求める男子が出てくるかもしれない。いや、間違いなく出てくるだろう」

「あ、あたしを求めるっ!?」

 

 見る見る顔が茹でタコ状態になるギャル。

 こんな反応するから普段から俺に弄られるんだぞ。

 

「今は恋愛に興味なくても、強く言い寄られたらわからないだろ?」

「そ、それは……そうかもしれないけど……」

「だから俺と恋人のフリをして、一つの可能性を潰すのは悪手だと思う」

「で、でも……」

 

 わかるぞ。

 不安なんだろう。

 不安で不安で仕方ないんだろう。

 

「大丈夫だ。恋人のフリをしなくても軽井沢が平和に学校生活を送れるように俺が守るから」

 

 軽井沢は中学時代のいじめで心が折れたに違いない。

 その折れた心を何とかくっつけて、この高度育成高校に来たのだ。

 

「本当に……守ってくれるの?」

 

 潤んだ瞳で俺を見上げる軽井沢。

 

 守るに決まってる。

 もし軽井沢が高校でもいじめにあって、再び心が折れてしまったら?

 二度とくっつかないほど心がバラバラに砕け散ってしまったら?

 

 彼女は自分の命を投げ出すんじゃないか?

 

 高度育成高校は卒業まで外部と接触が禁止である。

 つまり家族とも連絡が取れないのだ。

 凄惨な中学時代でも、家族がいる家だけは安らげる場所だったはずだ。

 だが高校では寮で一人暮らし。

 もしかしたらいじめっ子が軽井沢の部屋を占領するかもしれない。

 そうなると軽井沢が安らげる場所はなくなってしまい、中学時代より心が壊れてしまうだろう。

 結果、最悪な結末を迎えてしまう可能性がある。

 そうならないためにも、軽井沢をいじめの被害者にするわけにはいかない。

 

「ああ。必ず守るぞ」

 

 こうして俺は大きな心配事を抱えることになった。

 

 軽井沢恵。

 

 彼女が平和に学校生活を送るための戦いが始まった。

 

 それより先ほどパーカーが捲れてちらっと彼女の脇腹が見えた。

 一瞬だったのではっきり見えたわけじゃないが。

 切り傷があったような……。

 

 まさか自傷癖はないよね?

 

 必死に涙を拭う彼女を見つめながら、俺の不安は大きくなっていった。

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