ようこそ心配事が多い教室へ   作:御米粒

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6話目でやっと5月1日なりました!


6話

 一体何がどうなっているんだ。

 私がDクラスの担任になるのは3回目だがこんなことは初めてだ。

 

 DクラスがいきなりBクラスに昇級するなんて。

 

 高度育成高校は優秀な生徒からAクラスに割り当てされる。

 つまりDクラスの生徒たちは必然的に不良品と評されている。

 そんな不良品たちがC、Bクラスをごぼう抜きしたのである。

 私だけでなく教師陣は困惑した。

 腐れ縁の星乃宮は白目を剥いていた。坂上先生は円形脱毛症になっていた。真嶋は目が点になっていた。

 上の連中は私たち以上に困惑していることだろう。

 

「さてそろそろ職員室に戻るか」

 

 私はとある生徒の突撃を免れるため資料の準備を口実に職員室から退避していた。

 その生徒こそDクラスをBクラスに導いた立役者と言ってもいいだろう。

 

 立花恭平。

 

 岩手の公立中学校から進学し勉学、スポーツともに優れている生徒だ。

 中学時代のトラブルがなければ間違いなくAクラスに配属されていただろう。

 そんな立花の特徴は極度の心配性なことだ。

 彼は入学2日目から私に数多くの質問をしてきた。

 内容は様々で些細なことから、Sシステムの核心に迫るような質問までしてくる。

 途中まではハッキングでもして情報を把握したうえで質問をしているのかと思ったが違った。

 

 あいつは不安と疑問を解消したいだけだったのだ。

 

 学校側からの指示で5月最初のホームルームまではSシステムなどに関わる質問には答えられないことになっている。

 なので立花の質問には9割以上は答えられなかったのだが、私が未回答の場合は肯定とみなされるようになった。

 立花の疑問がクラス全体に広がり、例年なら高校生活に慣れたタイミングで緩むはずの空気が引き締まった。

 ほとんどの生徒が遅刻や早退もなく真面目に授業を受けている。

 

 その結果クラスポイント760という非常に優秀な結果をおさめることになった。

 

 さて、生徒たちにどうやって説明すればいいのだろう。

 例年ならクラスポイントを大量に吐き出したことを叱咤し、自分たちが他のクラスより実力が劣っていることを指摘したうえでSシステムなどの説明をしていた。

 

 だが今回は違う。

 

 いきなりBクラスに昇格してしまった。

 生徒たちは池、山内、須藤の三人を除いて、授業初日から真面目に授業を受けている。

 その池と山内も入学して一週間が過ぎた頃には他の生徒と同様に真面目に授業を受けるようになった。

 強く叱咤出来るのはたまに授業中に居眠りをしたり、小テストで赤点だった須藤くらいだ。

 

 さてどうやって話を切り出そうか。

 

 こんなことは初めてなので、どう話を切り出すか迷っている。

 ホームルームまで10分。

 トイレに寄ってぎりぎりまで考えるとしよう。

 

 

♦♦♦

 

 

「今日からお前たちはBクラスだ」

 

 浮かない顔をしている茶柱先生がクラス名が変わったことを告げた。

 ポイントの変動について説明されると思っていた俺たちに困惑が生まれる。

 

「そんな顔をするな。すぐに説明する。DクラスがBクラスになった理由をな」

 

 茶柱先生は手にしていた筒から大きな白い紙を取り出した。

 磁石を取り出してその紙を黒板に張り付け始める。

 

「手伝いましょうか?」

「大丈夫だ」

 

 さすが平田。気遣いが出来る男だぜ。

 

「これは……各クラスの成績、ということか?」

 

 眼鏡がトレードマークの幸村が呟く。

 ちなみに幸村は自己採点で小テストが95点だった我がクラスの学力エース候補だ。

 

「幸村の言う通りだ。これは各クラスのクラスポイントの数字だ」

 

 幸村の呟きは届いていたようで、茶柱先生はそのままクラスポイントの説明を始めた。

 

 やはり俺たちの予想通りポイントはクラス単位で変動されており、そのクラスポイントによってクラスの昇級・降級がされるとのことだ。

 今回は入学して一週間で須藤以外の生徒が真面目に授業を受け、なおかつ遅刻や早退もなかったため、760クラスポイントの数字が残せたらしい。

 ちなみにポイント増減の詳細は非公開なので、俺たちは今後も遅刻や早退をしないよう気をつけなければならない。

 

 クラスポイントなどの説明を終えた茶柱先生は続けて俺たちがDクラスに割り当てられた理由を明かしだした。

 

「この学校では、優秀な生徒たちの順にクラス分けされるようになっている。最も優秀な生徒はAクラスへ。駄目な生徒はDクラスへ、と。大手の集団塾に通っていた生徒ならこのような制度も知っているだろう」

 

 なんてことでしょう。

 俺は高度育成高校に劣等生の烙印を押されていたようだ。

 学力も運動能力もそれなりに高いと自負していたが残念だ。

 

 だがおかしい。

 

 トイレで違うクラスの生徒が小テストで半分も解答がわからなかったとクラスメイトらしき生徒に打ち明けていたのを聞いたことがある。

 50点以下なら俺や幸村より点数は下のはずだ。

 つまり学力だけでなく運動能力も評価の対象になっているんじゃないだろうか?

 

 いや待て。

 

 運動能力も評価の対象なら俺がDクラスなのはおかしい。

 平田や松下も学力・運動能力ともに優秀だ。

 なんで俺や松下たちの評価がDクラスだったんだ?

 次々と疑問が涌き上がる。

 

 これは堀北との約束前に茶柱先生を捕まえて質問をしなければ!

 

 俺は疑問に思ったことをノートに書きだした。

 これを後ほど整理して質問リストを作成するのだ。

 前は疑問に思ったことを次々と質問していたが、松下からアドバイスを受けて質問リストを作成するようになった。

 作成した質問リストはエクセルで保存しており、他の生徒たちにいつでも共有できるようになっている。

 質問の内容を聞いてきた堀北にも放課後に見せる予定だ。

 

「続いて先週実施された小テストの結果を発表する」

 

 やはりクラスのトップは幸村で95点。続いて堀北と高円寺が90点。俺は予想通り85点で、松下も85点だった。ちなみに軽井沢は45点と散々な成績だった。

 他の生徒は60点前後が多く、須藤が25点で最低点数だった。

 思ったよりうちのクラスは勉強が苦手な生徒が多いようだ。

 

「もしこの小テストが本番だったら3人の生徒が退学になっていた」

 

 よく見ると菊池の30点の上に赤いラインが引かれている。

 つまり菊池を含め、それ以下の生徒は赤点ということだ。

 それとなぜか茶柱先生の顔が生き生きとしているように見える。

 教室に入った当初は浮かない顔をしていたのに。

 

「ま、マジかよぉぉぉぉぉぉぉぉ!?」

 

 赤点対象の菊池、山内が絶叫する。直後に舌打ちの音が聞こえたが恐らく須藤だろう。

 

「平田の予想通りじゃねえかぁぁぁぁぁぁ!!」

「これが小テストでよかったぁ……」

「ちっ」

 

 俺は茶柱先生に定期テストで赤点を取った場合、退学処分になるか質問をしたことがある。

 茶柱先生から答えは返ってこなかったが、ここは国立の学校だ。さらに学費や寮費など一切費用がかからない。

 そんな恩恵をデメリットなしで受けられるだろうか?

 入学前から疑問に思っていたが、ようやく答えがわかった。

 

 やはり答えは否だ。

 

 入学して二週間ほど経った頃。俺は平田に疑問や不安に思っていることを教えてほしいと言われたので、素直にすべて打ち明けた。

 

 国立の学校なので定期テストで赤点を取ったら退学などの厳しい処分があるかもしれない。

 

 退学と言うワードに平田は敏感な反応を示した。

 クラスメイトを失うことを危惧したのだろう。平田は単独で行動に出た。

 サッカー部の先輩に用がある体で上級生のクラスを偵察にしに行ったのだ。

 そこで机の数を数えたようだ。

 その上級生のクラスには机が35台しかなかったらしい。

 

 つまり5人も退学したことになる。

 

 こんな好待遇な学校を自主退学する生徒はいないだろう。

 もちろん家庭の事情や、人間関係の問題で学校を去る可能性もある。

 だが一クラスで5人も退学するだろうか?

 あまりに多すぎる。

 なので俺たちは定期テストでの赤点を取った場合、退学になる可能性が高いと推測した。

 平田はすぐにクラスメイトに情報を共有し、定期テストで赤点を取らないよう懇願した。

 

「やはり赤点を取ると退学になることも考慮していたか」

 

 不敵な笑みを浮かべる茶柱先生。

 山内たちが静かになったところで、茶柱先生はさらに爆弾をぶち込んだ。

 

「我が高度育成高校は希望する就職、進学先にほぼ100%応える。このクラスにもそれに惹かれて入学した生徒は数多くいるだろう」

 

 その話の切り出しで、またしても俺の不安は的中したことがわかった。

 

「だがその恩恵を受けられるのはAクラスのみだ。Bクラスに昇級したのは素晴らしいが、このままではその恩恵は受けられないことになる」

 

 よく考えれば当然かもしれない。

 学校側も企業や大学に優秀な生徒しか送り出したくないだろう。

 

「そんな話聞いてません! 俺を騙したんですか!?」

 

 珍しく幸村が声を上げている。

 よほど入りたい企業か大学があるのだろう。

 

「騙してはいない。Aクラスで卒業すればいい話だ」

「くっ……!」

「さて、説明は以上だ。これでお前たちが自分がどんな過酷な環境に身を置いたか理解してくれただろう。3週間後には中間テストがある。退学にならないよう頑張れ。お前らが赤点を取らずに乗り切る方法はあると確信している」

 

 未回答がスタンダードの茶柱先生が珍しくアドバイスしてくれている。

 情報解禁になったからかもしれないが、断言しているのは珍しい。

 浮かない顔もしていたし、私生活でなにかあったのだろうか。

 やばい。

 学校のことでたくさん不安と疑問が生じてるのに、茶柱先生のことも気になってしまう。

 とりあえず学校のことを優先にしよう。

 茶柱先生のことは我慢だ。

 

「はい!」

 

 俺は質問をするために元気よく右手を挙げた。

 

「立花悪いな。もう時間がない」

「後ほど質問は受け付けると言ってくれたのにですか?」

「それは……放課後で、という意味だ」

「わかりました。6時限目が終わったらすぐ職員室に行きます」

「……わかった」

「よろしくお願いします」

「それでは失礼する」

 

 茶柱先生はため息を吐きながら教室を後にした。

 俺の質問を受け付けるだけで、あそこまで元気をなくすだろうか。

 やはりプライベートでなにかあったに違いない。

 

 茶柱先生が去った教室は少しだけ荒れた。

 まず幸村が自身がDクラスに割り当てされたことに納得できないようで声を荒げていた。

 そんな幸村の立ち振る舞いに高円寺が苦言を呈して、幸村が高円寺に嚙みついたが、平田と三宅が仲裁に入ってすぐにおさまった。

 赤点を取った山内と菊池は退学になった自分を思い描いたのか顔面が蒼白になっており、須藤は舌打ちしながら廊下に出ていったが、彼を気遣い追う生徒は一人もいなかった。

 

「だいたい予想通りだったね」

 

 隣人の松下が身体をこちらに向ける。

 

「そうだな。Dクラスになった理由には驚いたけど」

「だね。それについて話したいんだけど放課後って時間ある?」

「昼休みじゃ駄目なのか?」

「なるべく二人きりがいいんだけど」

「わかった。放課後は用事と約束があるからそれが終わってからでいいか?」

「用事はわかるけど、約束って?」

「堀北に俺が茶柱先生にした質問の内容を教えてほしいと言われた」

「堀北さんが?」

「ああ。久しぶりに会話したよ」

 

 堀北もプライド高そうだから、幸村と同じでDクラスになったことに納得してなさそうだな。

 

「ふぅん。わかった。それじゃ時間空いたら連絡してくれる?」

「わかった」

 

 どうやら今日の放課後は入学してから一番忙しくなりそうだ。

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