ようこそ心配事が多い教室へ   作:御米粒

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やっと綾小路の出番です!


7話

 昼休みの教室。いつもは食堂で昼食を取っている平田、佐藤、篠原の姿があった。

 理由はもちろん今後の話し合いをするためだ。

 

「ポイント変動は予想通りだったけど、進学・就職の恩恵がAクラスのみなのはきついね」

 

 珍しく平田がため息を吐いた。

 

「マジそれ最悪」

「佐藤は行きたい大学や企業があるのか?」

「うん。ファッション雑誌の編集になりたいから出版社に勤めたいんだよね」

 

 そういえば佐藤はお洒落に人一倍興味があったな。

 休日にグループで遊んだ時に私服をディスられたっけ……。

 

「洋服が好きなのは知ってたけど、仕事にまでしたかったのか」

「まぁね。松下さんたちは行きたい大学や会社はないの?」

「私は特にないかな」

「あたしも」

「私もないよ。大学は行きたいと思うけど」

 

 進学希望の篠原だが小テストは50点だったので、相当頑張らないと偏差値50以下の大学に進学しそうだ。

 

「立花くんと平田くんはどうなの?」

 

 佐藤が続けて男子二人に問う。

 

「今のところ決まってないかな。進学はするつもりだけど」

「俺は地元の大学に進学する予定」

「もう行きたい大学決まってるの?」

「ああ。大学卒業したら家業を継ぐことも決まってる」

「なにそれ!?」

 

 俺の実家は明治時代から続く老舗旅館を営んでいる。

 父親曰くだいぶ儲かってるみたいで、一人っ子の俺は家業を継ぐのが生まれた時から決まっていた。

 高度育成高校に進学したのは一度くらい東京で暮らしたい願望があったからだ。

 在学中は帰省どころか外部と接触も出来ないので両親も難色を示したが地元の大学に進学することを条件になんとか許可を得ることが出来た。

 高度育成高校に進学した経緯を説明したところ、みんな感心したような顔をしていた。

 

「ちゃんと将来のこと考えてたんだ。意外」

 

 軽井沢が失礼なことを言う。

 

「じゃあ立花くんの奥さんになる人は必然的に若女将になるわけだ」

「そうなるな」

 

 松下の言う通り将来の嫁には家業を手伝ってもらうことになる。

 

「わ、若女将……」

 

 軽井沢が何やら妄想してるようだが、着物を着たいなら黒髪に戻しなさい。

 

「それより今後の話をするんだろ。俺と佐藤以外は進路が不透明だけどAクラスを目指すってことでいいんだよな?」

「そうだね。やるからには上を目指したい」

 

 平田はいつもかっこいいことを言う。

 なんてこんな優等生がDクラスなんだろう。

 気になるがそれについては松下と放課後に話すとしよう。

 

「あたしもポイントはたくさんほしいからAクラスを目指す方向でいいかな」

「私も将来の選択肢を広げるためにもAクラスを目指したい」

 

 軽井沢と篠原も勉強は出来ないが上昇志向の持ち主のようだ。

 

「私は出版社に入りたいから絶対Aクラスになりたい!」

 

 拳を握りながら宣言する佐藤。

 そんな佐藤とは対照的に松下はクールに言う。

 

「私もAクラスで卒業したいかな」

 

 俺たちのグループは全員Aクラスを目指すことで意見が一致した。

 

「よし。あとは他の人たちの意見も聞きたいね。中間テストのこともあるから放課後みんなに話してみるよ」

「さすが平田くん。頼りになるー」

「もう学級委員長だね」

 

 佐藤と篠原が平田を煽てる。

 

「中間テストの対策としては勉強会を開くことくらいしかないよな?」

 

 小テストの結果を見る限りうちのクラスは勉強が苦手な生徒が多い。

 なので勉強会は必須だろう。特に池たちは一人じゃ何もしなさそうだし。

 

「そうだね。みんな勉強会に参加してくれるといいんだけど……」

 

 みんなに優しい平田だが、俺と同様に一部の男子からは好かれていない。

 平田もそれを自覚しており、一部の男子たちが勉強会に参加しないことを危惧しているのだろう。

 

「それについては対策を考えてるから俺に任せてくれ」

「本当かい?」

「ああ。とりあえず平田は今後の方針と勉強会の開催について進めてくれればいい」

「わかったよ。ありがとう!」

 

 笑顔が眩しい。

 佐藤や篠原の知性が感じられない笑顔とは大違いだ。

 

「なんで私と篠原さんの顔を見たの?」

「……何でもない」

 

 

♦♦♦

 

 

 放課後。念のためトイレを済ませた俺は堀北に話しかけた。

 

「堀北。約束の前に茶柱先生のところに行ってもいいか?」

「ちょうどいいわ。私も茶柱先生に用があるの」

「そうか。それじゃ行くか」

「ええ」

 

 恐らく茶柱先生に自分がDクラスに割り当てられたことを抗議するつもりだろう。

 

「あなたは話し合いに参加しなくていいの?」

 

 俺たちが教室を出る直前。平田は教壇に立ちクラスメイトに声をかけていた。

 

「平田には許可を取ってる」

「そう」

「堀北こそ参加しなくてよかったのか?」

「話し合いは得意じゃないから」

「だろうな」

「どういう意味かしら?」

「……なんでもありません」

 

 自分で言っておいてなんで怒るんだよ。

 俺も人のこと言えないけど、堀北ってけっこう面倒くさいやつでは?

 

「そういえば綾小路が茶柱先生に呼び出されていたな」

「そうね」

「なにかやらかしたのか?」

「知らないわよ。なんで私に聞くのかしら?」

「仲良さそうに見えるから」

「そう見えるならレーシック手術を受けることをお勧めするわ」

 

 どうやら綾小路と仲良しなのを認めたくないらしい。

 しかし、佐藤と篠原が二人が付き合ってるのではないかと疑うくらいにはクラスメイトに仲良しに見えている。

 俺も美男美女でお似合いだと思う。

 それを言ったら怒られそうだから言わないけど。

 

「失礼します!」

 

 今日は職員室ではなく指導室に来るよう言われた。

 場所は違えど、いつも通り元気よく声を発してノックをする。

 

「いきなり大きな声を出さないで……」

「悪い」

 

 堀北が一瞬ビクッとなったのが面白かった。

 

「いいぞ。入れ」

「はい」

「し、失礼します」

 

 入室すると茶柱先生が待ち構えていた。

 

「ほう。今日は松下ではなく堀北と一緒か」

「堀北も茶柱先生に質問があるみたいでして」

「わかった。それでは堀北から聞こうか」

「……ありがとうございます。率直に聞きますが、なぜ私がDクラスに配属されたのでしょうか?」

「本当に率直だな」

「先生はAクラスから順に優秀な生徒が割り当てられると言いました。つまりDクラスは学校から最低評価を受けた生徒たちの集まりということですよね?」

「そうだ。納得できないか?」

「できません。入学試験の問題は殆ど解けたと自負していますし、面接でも大きなミスをした記憶がありません。少なくともDクラスになるとは思えないんです」

 

 プライドが高そうな堀北は自身が誤った評価を受けたと思っているのだろう。

 

「確かに堀北は入試で3位と好成績を残している。1位や2位とも僅差だ。十分過ぎる出来だ」

 

 マジか。俺は何位だったんだろう。

 

「ちなみに立花は14位だ」

「あ、ありがとうございます……」

 

 顔に出ていたのか茶柱先生はすぐに教えてくれた。

 

「堀北の話に戻そう。面接も問題はなかった。むしろ高評価だったと思われる」

「ありがとうございます。ではなぜ私がDクラスなのですか?」

「……やはりDクラスであることは不服か?」

「当たり前でしょう。正当な評価をされていないんですから」

「正当な評価? どうやらお前は相当自己評価が高いんだな」

 

 茶柱先生の目が輝きだした。

 

「お前の学力が優れているのは認めよう。だが、学力に優れた生徒が優秀なクラスに入れると誰が決めた? そんなことは我々は一度も言ってないぞ」

「それは――――世の中の、常識の話をしているんです」

「常識? その常識とやらが今のダメな日本を作ったんじゃないのか?」

 

 堀北と茶柱先生の話はしばらく続いた。

 結局、堀北は最後まで自身がDクラスに配属されたことに納得していなかった。

 

「それでは質問をしていいですか?」

「いいだろう。かかってこい」

「かかってこい?」

 

 俺と茶柱先生のやり取りに堀北は困惑の表情を浮かべる。

 

「まずAクラスから順に優秀な生徒が配属されるとのことですが、学力や運動能力以外にコミュニケーション能力や社会奉仕なども評価の対象なんですか?」

「学力や運動能力以外も評価の対象になる、とだけ答えてやる」

「ありがとうございます。次に定期テストや運動会でクラスポイントの増加はありますか?」

「ポイントの増加についてはイベント前に説明することになっている」

 

 つまりポイントの増加はあるってことだ。

 

「定期テストと運動会以外でポイントが増加するイベントはありますか?」

「今は答えられない」

「わかりました。次に部活で活躍したり、資格を取得した場合はクラスポイントが増加したりしますか?」

「するぞ。クラスポイントだけでなく、プライベートポイントも付与される」

「ありがとうございます。続いて、進学・就職の恩恵はAクラスのみということですが、Aクラス以外で卒業すると後々学費や寮費が請求されることはありませんか?」

「それはないから安心しろ」

「よかったぁ……。次に、もし退学者が出た場合はクラスポイントは引かれるんですか?」

「引かれる。だが引かれるポイント数は答えられない」

「かしこまりました。過去の退学者で定期テストの赤点以外の理由で退学になった方はいますか?」

「いるぞ」

「退学になった理由を聞いても?」

「いいだろう。ポイントの詐欺行為、いじめ、暴力事件を起こしたり様々だな」

「やっぱりいじめはあるんですか……」

「私たちも気をつけてはいるんだがな……」

 

 軽井沢は虐められないよう必ず守られなければ!

 

「あとは、今日から俺たちはBクラスになりましたけど、教室はそのままですか?」

「そうだ。クラスが変わっても教室は変わらない」

「つまりAクラスに上がっても教室のグレードは変わらないということですね」

「グレード?」

「はい。机や椅子が高いやつに変わったり、タブレット端末で授業を受けたりなど、です」

「ぶふっ」

「なんで笑うんですか!?」

「いや、すまない……。教室のグレードか。私もそこまでは考えなかったな」

 

 そうなのか。教室のグレードを上げればよりAクラスを目指すのに貪欲になりそうだけど。

 

「施設のグレードを気にするあたり、さすが旅館の息子と言ったところか?」

「実家は関係ないです。次が最後の質問です」

「さっさと言え」

「茶柱先生は俺たちが中間テストで赤点を取らずに乗り切る方法があると言ってましたが、ヒントでもいいから教えてくれませんか?」

「自分たちで考えろ」

「……わかりました。とりあえず今日はここまでです」

「そうか。質問の質が上がったな。松下のおかげか?」

「そうですね。松下のおかげで効率よく質問が出来るようになりましたよ」

「そうだな。松下は今後もお前の支えになってくれるだろう。大事にしろよ?」

「はい。それではまた明日の朝来ます」

「ああ。気をつけてかえ―――――――ちょっと待て」

「はい?」

 

 踵を返したところ茶柱先生に腕を掴まれた。

 堀北は質問を開始してからずっと呆けた顔で俺を見ている。

 

「出てこい綾小路」

 

 茶柱先生が綾小路を召喚した。

 どうやら給湯室に隠れて俺たちの話を聞いていたらしい。

 呼び出されたと思ったら、そこで盗み聞きしてたんかい。

 

「いつまで待たせれば気が済むんですかね。本当に」

 

 げっそりした顔で茶柱先生を睨む綾小路。

 綾小路を見て堀北は帰ろうとしたが、俺と同じく茶柱先生に引き留められた。

 なんと綾小路がAクラスに上がるためのヒントになるらしい。

 

「お前は面白い生徒だな、綾小路」

「茶柱なんておめでたい苗字を持った先生ほどじゃないですよ」

「確かに」

「立花、綾小路、全国の茶柱さんに喧嘩を売ってるのか?」

「すみません」

 

 素直に謝っておいた。

 

「実は入試の結果をもとに、個別の指導方法を模索していたんだが、お前のテスト結果を見て興味深いことに気づいたんだ」

 

 そう言うと、茶柱は入試の解答用紙を机に並び出した。

 

「全教科50点。先日の小テストも50点。これが意味するものが何かわかるか?」

 

 俺と堀北はテスト用紙を食い入るように見た。

 

「偶然って怖いっスね」

「偶然なわけがないだろう。お前は意図的にやったのだろう?」

「偶然ですよ。証拠はありません。そもそもテストの点数を操作してオレに何の得があるんです?」

 

 偶然と言い張る綾小路だが、解答した問題の正解率の低さから、意図的に50点を取ったのは明らかだ。

 

「あなたは……どうしてこんなわけのわからないことをしたの?」

 

 堀北が問うが、綾小路は偶然だと言い続ける。

 

「立花、お前はどうしてだと思う?」

「そうですね……」

 

 茶柱先生に訊かれたので、入試14位の頭をフル回転させる。

 高度育成高校が学力だけで生徒を入学させないのはわかったが、入試の時点では高得点でなければ合格は出来ないとみんな思ってはずだ。

 それをわざと全教科50点を取ったとなると……考えられる答えは一つだ。

 

「恐らく綾小路はこの学校に入学したくなかったんじゃないですか?」

「なぜそう思う?」

「高度育成高校は国立の名門校です。俺を含めた生徒たちは入学する前は全国から優秀な生徒が入試を受けていると思っていたでしょう」

「そうだな」

「つまり高得点を取らなければ入学できる可能性は低くなる。これはどの進学校にも言えることですよね」

「ああ」

「なのに綾小路は全教科50点を取った。彼は入試に落ちるつもりだったんです」

「理由は何だと思う?」

「これは完全に俺の推測ですが……この学校は3年間外部と接触が出来ません。家族や親しい人と3年間離れ離れになってしまう」

「つまり?」

「両親や担任にこの学校を勧められ入試を受けることになってしまった。しかし綾小路は大切な人―――仮に家族や彼女にしましょう。その人たちと離れたくないからわざと低い点数を取った。どうでしょう?」

「ふふっ。どうなんだ綾小路?」

「違います。本当に偶然点数が揃っただけです」

 

 俺の推理を否定する綾小路。

 確かにその年頃だと恥ずかしいだろうが、家族や彼女想いなのはいいことだ。

 小テストが50点なのも、家族や彼女と離れ離れでモチベーションが上がらないのだろう。

 

「さて立花の面白い推理も聞けたことだし、私は職員室に戻る。ここを閉めるから三人ともここを出ろ」

 

 面白い推理ってなんだよ。こっちは真面目に推理したんだぞ。

 

 指導室を後にした俺たちは3人で寮に向かっていた。

 

「綾小路」

「なんだ?」

「今度平田と3人で遊ばないか?」

「……なんだと?」

「実は平田しか男の友達がいなくて。お前も一緒にどうだ?」

「い、いいのか……?」

「もちろん」

「よろしく頼む」

「ああ」

 

 こうして俺と綾小路は友達になった。

 俺と平田との交流で彼の寂しさが少しでも埋まればいいのだが。

 

「なんで堀北も4階で降りるんだ?」

 

 堀北が同じ階でエレベーターを降りたことに疑問を感じる綾小路。

 

「彼の部屋に行くのよ」

 

 堀北の一方的な約束で、俺は彼女に茶柱先生への質問リストを共有することになっている。

 きっと俺の質問を見てAクラスに上がるためのヒントを得るつもりだろう。

 普段から交流があれば、もっと早く情報を共有できたんだけどな。

 

「いつからお前たちはそういう関係になったんだ?」

 

 刹那。堀北の原始的な暴力が綾小路を襲った。




オリ主の勘違いは続く!
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