ようこそ心配事が多い教室へ   作:御米粒

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最近原作で沖谷を見かけないな……


9話

 松下が部屋にやって来たのは午後5時過ぎだった。

 

「ごめん。遅くなっちゃった」

「いや、大丈夫だ。話し合い長引いたのか?」

 

 放課後。うちのクラスは平田が中心となって今後について話し合いを行っていたが、俺は茶柱先生への質問と堀北との約束を果たすために不参加だった。

 

「ううん。話し合いは30分ほどで終わったよ」

「意外と早く終わったな」

「今回は中間テストの対策だけだったからね。実は櫛田さんと話してたんだ」

「櫛田と?」

 

 松下が櫛田と絡むのは珍しい。

 

「クラスメイトについて色々聞いていたの。一番情報通なのは櫛田さんだからね」

「クラスメイトについて?」

「そう。みんながDクラスに配属された理由がわかるかと思って」

「なるほど」

 

 つまり俺との話し合いの前に情報を集めてくれたのか。

 やはり松下はできる女だ。

 

「櫛田さんに聞いてクラスメイトのスペックとかだいぶわかったよ」

「小テストもあったしな」

「うん」

「まず勉強も運動も苦手な生徒はDクラスでもおかしくないよね」

「だな」

 

 女子なら軽井沢や篠原。男子なら池たちがそれに当てはまるだろう。

 

「次に学力か運動能力。片方のみ秀でている生徒」

「幸村と須藤か」

「うん。女子だと王さんが当てはまるかな」

「王ってそんなに学力高かったのか」

「そうみたい。もともと中国に住んでいて、中国語はもちろん英語も日常会話レベルで話せるみたいだよ」

「マジか。トライリンガルじゃん」

「立花くんも英語に自信あったようだけど、上には上がいるってわけだね」

「そうだな」

 

 旅館に海外からのお客さんも増加したことにより、母親から英語をマスターするように命じられた俺は中一から洋画や洋楽に触れたり、駅前留学をしていた。

 

「さすがに駅前じゃ本場に勝てないか……」

「中国は英語の本場じゃないよ」

 

 松下がジト目で俺を見る。

 今は真面目な話をしてるから冗談は控えろ、ってことだろう。

 

「あとは小野寺さんもだね。運動神経は抜群だけど勉強はからっきし駄目」

「辛辣だな」

「事実だからね。次に学力も運動能力も高いけど性格に難がある生徒」

「堀北と高円寺か」

「正解。そういえば堀北さんと約束してたんだよね?」

「ああ。一緒に茶柱先生に質問したり、約束通り質問リストを渡したぞ」

「……ふーん。リスト渡すだけなのに部屋に上げたんだ?」

「え……?」

「長い黒髪が落ちてる。これは堀北さんの髪でしょ?」

 

 床に落ちていた抜け毛を摘まみ上げ、俺に見せつける松下。

 

「こっちの茶色い髪は軽井沢さんかな」

「うっ……」

「私が知らないところで、女子を二人も部屋に連れ込んでたんだ」

 

 松下に睨まれ身体が硬直した。

 超能力をかけられたかのように、身体が動いてくれない。

 

「あ、あの……」

 

 恐怖を感じる俺にお構いなく松下は睨み続けている。

 

「……なんちゃって」

「…………へ?」

「一度こういうのやってみたかったんだよね」

「びっくりするからやめてくれよ……」

 

 重圧から解放されようやく身体を動かせるようになった。

 俺はへなへなとテーブルにもたれかかった。

 

「ごめんね」

 

 可愛らしく舌を出して謝る松下。

 本当に可愛いので許そう。

 

「いいよ。話戻すけど、堀北は自分がDクラスに配属されたことに納得していなかった」

「だろうね。あの子プライド高そうだもん」

「正解。小テストで幸村に負けたのも納得してなかったし」

「そうなの?」

「幸村がクラスで一番学力があると言ったら、なんかぐちぐち言ってきた」

「なにそれ。面白いかも」

 

 面白いだろうか。相手するのが面倒なだけだぞ。

 

「高円寺くんは何考えてるかわからないよね」

「だな。でも定期テストは真面目に受けるだろう」

「小テスト90点だったもんね」

 

 学力も高くて身体能力は化物並。

 あれで性格がまともならAクラスだっただろうに。

 

「数人しか名前出さなかったけど、他もDクラスが妥当な生徒ばかりだったよ」

「……櫛田ってそんなに情報持ってたのか?」

「うん。私も驚いちゃった」

 

 高校に入学してから一ヶ月で、クラスメイトの情報をそんなに集めるなんて……。

 

「しかも他クラスに何人も友達いるみたいだよ」

「凄いな」

「だよね。……なんで櫛田さんがDクラスなんだろうね」

 

 松下の言う通りだ。

 櫛田は学力も高い方だし、運動能力も悪くない。社交性は堀北と天と地の差がある。

 

「櫛田さん以外にもいるよね。Dクラスに配属されたのがおかしい生徒」

「そうだな。この部屋にも二人いるな」

 

 松下には中学時代にやらかしたことは言っていない。

 もちろん聞かれたらすぐに教えるつもりだ。

 

「ちなみに私はDクラスが妥当だよ」

「なんでだ?」

「中学では勉強も運動も手を抜いていたから」

「そうなのか?」

「うん。あと入試でも平均60点くらいだったし、面接も適当に答えたから」

「理由を聞いてもいいか?」

「もちろん。勉強と運動も手を抜いていたのは、他の子より突出したくなかったから」

「友人関係を保つために?」

「正解。よくわかったね」

 

 高校では優秀な部類に入る松下が、中学では平凡な生徒を演じていたのか。

 

「生意気に聞こえるかもしれないけど、私って昔から大した努力をしなくても勉強も運動も出来たんだ」

「天才かよ」

「天才は言いすぎかな。でも私のグループはどちらも平均レベルの子しかいなかったから……」

「だから突出した存在にならないように気をつけたのか」

「うん。……もしかして立花くんの周りに、私に似たような人がいたのかな?」

「いた。そいつは勉強も運動も手を抜いていなかったが、人間関係を円滑にするよう努力してた」

「凄いね。私はそこまでエネルギー使いたくなかったから、楽な方を選んじゃった」

「……やっぱり女子って面倒なんだな」

「面倒だよ。男女関係のトラブルに巻き込まれたことも何回もあったし……」

 

 嫌な過去を思い出しているのだろう。

 松下が遠い目をしだした。

 

「入試や面接で手を抜いたのは?」

「それは単純。この学校に入りたくなかったから」

「マジで?」

「マジ。だって3年間外部と接触禁止なんだよ。そんなの嫌に決まってるじゃん」

「そりゃそうだけど」

「別にうちはお金に困ってなかったし、一人暮らしにも憧れなんてなかったしね」

「それじゃ担任や両親に勧められていやいや受けた感じか?」

「そうだよ。まさかあの点数で受かるとは思わなくて……」

 

 綾小路は全教科50点で受かったので、60点前後の松下も受かるのはおかしくない。

 

「受かっちゃったから入学しないわけにはいかなくて……」

「そんな経緯があったのか」

「うん。……今はこの学校に入学できてよかったと思ってるけどね」

 

 珍しく松下の頬が紅潮した。

 クールな松下が心のうちを明かすのは珍しいので、恐らく恥ずかしがってるのだろう。

 

「そうだな。俺も松下と出会えてよかったよ」

「っ……」

 

 心のうちを明かしてくれた松下に応えるため、恥ずかしいけど俺も想いを素直に打ち明けた。

 恐らく俺の顔も赤くなっているだろう。

 しばらく無言の時間が続いた。

 

「そ、そういえばなんで高校では勉強も運動も手を抜かないんだ?」

「そ、それは……。国立の学校だから優等生しかいないと思って……」

 

 そりゃそう思うよな。

 まさか劣等生だったり、ヤンキーがいるとは思わないよな。

 

「それで立花くんは?」

「俺?」

「そう。立花くんはなんでDクラスに配属されたの?」

「あー、それはだな―――――――」

 

 中学二年の夏休み前。

 いつものように幼馴染と下校中に地元の不良たちに囲まれてしまった。

 不良たちの狙いは幼馴染だった。

 どうやら俺が知らない間に、その連中のリーダーに告白を受けたようで、幼馴染ははっきり断ったが、それが彼のプライドを傷つけたらしく、彼女に復讐しに来たのだ。

 キックボクシングを習っていた俺だったが、角材で後頭部を殴られてしまった。

 薄れ行く意識の中で彼女の悲鳴を聴きながら、俺は意識を手放してしまった。

 

 どれくらい気絶していたかわからない。

 

 強烈な股間の痛みに意識が覚醒させられると、いつの間にか不良たちが血まみれで倒れていた。

 

 とうとう幼馴染が本性を現したかと思ったが、不良たちを倒したのは俺だったようだ。

 まったく記憶がないので彼女に訊いたところ、気絶したと思ったらすぐに立ち上がり、リーダー以外の不良たちを一発で倒したらしい。

 そのリーダーは仲間たちを置いて逃げようとしたが、俺が捕まえて半殺しにしてしまったようだった。

 

 このままでは殺してしまう。

 

 恐怖を感じた幼馴染は俺の股間を思いっきり蹴り上げた。

 

 あまりの痛さに悶絶しているときに、いつもの俺に戻ったらしい。

 

 その後。通報を受けた不良たちは警察に連行され、俺と幼馴染は事情聴取を受けることになった。

 危うく相手の親御さんから過剰防衛で訴えられそうになったが、何とかお咎めなしになり、無事に事件は解決した。

 

 ただ、その事件の話は瞬く間に学校中に広まり、友達が半分以上減ってしまった。

 きっと切れると何するかわからない子、だと思われていたのだろう。

 

「恐らくこのことが原因で俺はDクラスに配属されたんだと思う」

「そんなことがあったんだ」

 

 特に面白みのない話だったが、松下は話を遮ることもなく真剣に聞いてくれた。

 

「立花くんって二重人格なの?」

「いや、そんなことはないと思うんだけど」

 

 あれから人を傷つけたことは一度もない。

 街中で不良に絡まれたことが何回かあったが、顔を見たら向こうから逃げてくれた。

 卒業まで平和に暮らしていたのだ。

 

「それ以外でDクラスに配属された原因は思いつかない?」

「そうだな」

「そっか。立花くんは悪くないのに、それでDクラス判定って厳しいね」

「……ていうか怖くないのか?」

 

 いくら相手が悪いとはいえ、半殺しにしてしまう人間だ。

 俺が松下だったら怖くて近づけない。

 

「うーん、今の立花くんしか知らないから……怖くないかな?」

「そ、そっか」

「なに? 喧嘩強い俺を怖がってほしい、と思ってたりするわけ?」

「そんなこと言ってないだろ」

「だよね。立花くんはそんなこと思わないもんね。ていうか喧嘩とか嫌いでしょ?」

「そうだな」

 

 当たり前だ。

 できれば喧嘩なんてしたくない。

 なのでDクラス(旧Cクラス)とは、卒業まで関わりたくないが、それは無理な話だろう。

 

「てかよくわかったな」

「わかるよ。だって、須藤くんがふざけて池くんたちを殴ってるとき、忌々しげに見てるし」

「……そんな顔してた?」

「してたよ。嫌悪感マックスな感じ」

 

 そんな嫌そうな顔してたのか。

 須藤もバスケは真面目にやってるようだから、根は悪いやつじゃないと思うんだけど。

 ふざけ合いでも暴力は好きじゃない。

 

「私も暴力は好きじゃないけど……」

「けど?」

 

 続きを促すと、松下は上目遣いで見つめだした。

 

「もし私が危なくなったら守ってね?」

 

 きっと計算して言ってるのだろう。

 松下は天然でこんなこと言える女子じゃない。

 でも悲しいかな。

 美少女に可愛くお願いされたら、断れないのが男の性である。

 

「松下のごどは、ずっとまぶってんが!」

 

 やばい!

 興奮して岩手弁が出ちまった!

 

「……へ? まぶってんが……?」

「い、いやっ……なんでもない!」

 

 岩手弁を松下に追及されたのは言うまでもないだろう。

 よほどつぼにはまったのか。

 しばらくの間、松下は涙を流しながら笑い続けていた。

 

「はぁ……。今ので一年分くらい笑ったかも」

「そ、それはなにより……」

「よし。話を戻そうか」

「そうしてくれ」

「うん。最後は平田くんだね」

 

 平田洋介。

 クラスの学級委員長的存在で、数少ない男子の友達である。

 学力・運動能力ともにトップクラスで、社交性も高い。

 

「私の予想だと、平田くんも中学で何かしらトラブルを起こしてると思う」

「それしかないよな」

「平田くんから何か聞いてたりしないの?」

「してない」

「だよね。……立花くん凄く気になってるでしょ?」

「そうだな。でも無理に聞くつもりはない」

 

 人間一つや二つくらい隠したいことはあるだろう。

 俺も外見に騙されて幼馴染に告白して振られたのは誰にも言うつもりはない。

 そういえば本性を現したのは告白してからだったな。

 告白しなければずっと騙されたままだったのか……。

 

「うん。それがいいと思う」

「本当は気になって仕方ないけどな。……っともう18時か」

「もうそんな時間?」

「そろそろ解散する?」

「……うーん、せっかくポイントも入ったことだし、よかったら外食にでも行かない?」

「いいな」

「でしょ。もちろんファミレスとか安いところでいいから」

「今日くらいもう少し高いお店でもいいんじゃないか?」

「高いお店で二人分出せるの?」

「奢らせるのかよっ!?」

 

 松下と二人きりでの初めての外食はファミレスになった。

 喫茶店などは放課後にたまに行っていたが、がっつり外で飯を食べるのは一ヶ月ぶりだった。

 いつもは小食な松下も多めにメニューを頼んでいた。

 俺もステーキやパスタなどカロリーを度外視して好きな食べ物を何品も注文した。

 食事中。松下にパスタをあーんされたり、口の周りについたソースを拭かれたりなど、何度も心拍数を上昇させてしまった。

 どうやら今後も松下にからかわれる日々が続きそうだ。




次回は軽井沢メインです!
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