項羽と虞美人 作:ぽけぽけ
なので項羽は結構Fate本来の物と比べてぶっ飛んだ性格しています。
以前書いていたやつを一部修正して投稿しています。
前に書いていたやつは完全非公開になっています。低評価が多くて心が折れたからです。
必ず続きを書いてやるぞと言う意思をこめて、投稿。
人という生き物は、とても脆い生き物で、その上短命だ。
まず、首を落とせばすぐに死ぬ。体は動かせなくなり、表情は体と離れた時の苦悶の表情を維持したまま変わらない。
腕を落としただけでもそうだ。首を落とされた時とは異なりすぐに絶命には至らないが、やがて体から血液が抜けて、ゆっくりと死んでいく。
そうでなくとも短い命。
武勇を残した英雄は、気が付いたころには年老いて、何もできずに朽ちていった。
知を極めんと欲した賢者は、志半ばで死を悟り、必死にもがくでもなく悲嘆にくれるでもなく、何もせずに眠った。
そしてまた一人。後の世に残るような偉業を成し遂げた男が死んだ。
思えば不思議な男だった。私のことを拾ったときも、なぜか私という存在について既に知っているかのようだった。
時々聞き覚えのない言葉を使い、誰も思いつかないような兵法を思いつき、果てには圧倒的な武力で敵をねじ伏せる。
ただの人間ではないことは知っているけれども、それだけではない何かがあるように思えてならない。
しかし、彼がどれだけ優れていたかは今はどうでもいい話なのだ。私はまた、独りきりになってしまった。
人という生き物は、とても脆い生き物で、その上短命だ。それが酷く羨ましい。いずれ救われる、いずれ安息が約束されている。いつか憩い、安らぎ、眠ることができる。
人々はそのいつかの安らぎこそを、他の何よりも恐れているようだが、私にはそのいつかはあり得ない。未来永劫、永久に、この世界でたった一人で生きる他ない地獄。決して抜け出せることのない、孤独と苦悩と、疲れるだけの永遠の檻。
生まれた時から久遠の命にとらわれてしまった私に、生まれてきてよかったと思わせてくれたあの方はもういない。
あの方が初めて私に声をかけてくれた時の声。優しい声だった。
孤独でいた私に声をかけてくれたあの方は、なぜか変に緊張した様子で訳の分からないことを言うものだから、こちらも調子を崩されてしまったのだ。
私がなぜあの方をこれほどまでに愛してしまったのかを考えることがある。けれど、すぐに結論が出るのだ。
きっとあの出会いからすべてが始まっていた。あの運命の夜に。
☆
すでに秦が滅びようとしていた時世。人外の女は、特に何をするでもなく、ただぼんやりと雨降りの夜の色を確かめていた。
変化がない自分に、ただ唯一仲間がいる気分になれたからだ。
いつの日か、思い出すのも面倒なほど昔に、同じような雨降りの夜に、天を仰いだ。あの時も空は、今と同じ色で女を見つめ返していた。
そして、本当に己に変化がないのだなと、女は思わず自嘲気味の笑みをこぼした。あの時もこの変に寂しいような、恐ろしいような、どこか可笑しいような。とにかく一言では言い表すことのできない独特の感情に浸っていた。この感慨は心地よくなどはない。ただそれ以外に暇をつぶす手段を思いつかなかっただけ。
しばらくして、女は何者かの足音を聞いた。とっさに身を隠そうとは考えるも、それすら億劫で。
無視されたのならそれでいいし、ただの人間に女を殺せるはずもない。親切に話しかけられた場合でも女が無視すればいい話だ。
夜闇と、篠突く雨とで視界が最悪だが、足音が近づくにつれて狭霧の向こうに影が見えてきた。その影を見て、女は思わず驚いて声を上げそうになる。その影が八尺に届かんばかりの巨躯を映していたからだ。
「ん? なんだ? 傘がないのか?」
その人物にも女の影が見えてきたようで、傘を差さずにただ空を見上げる様子を不審に感じたらしい、そんな風に声をかけてきた。
巨大な身体に似合った貫禄のある低い声。だからと言って威圧する風ではなく、優しさの滲んだ柔らかい声だった。
「……」
女はその男の言葉を無視して、体もピクリとも動かさない。
「……」
「……」
なぜだろうか、横顔をじっと見つめられている気がする。女はあっちに行けと言おうか悩むが、反応を示さずに無視に徹することに決めたのだが――
「Hey彼女! 君かわいいね! どこ住み? いくつ? てかLI○Eやってるぅ?」
「…………は?」
貫禄のある声に似合わない、おちゃらけた言い方で、聞き覚えのない単語を交えながら話しかけてくるものだから、女は思わず聞き返してしまった。
☆
気がついたら項羽になっていたでござる。しかも、どうやら俺の知っている歴史上の項羽とはまた少し違うらしい。なんか人間なんだけれど、人間じゃないというか。とにかく普通の人間ではないことだけはわかる。
それはそれとして、項羽は中国史上最強の武将として名を遺す存在だと、前にテレビの特番でやっていた気がする。
その特番の内容を詳細に覚えているはずもないのだが、印象に残ったところだけはいくつか思い出せる。
一人で数百人の敵兵を討ち倒しただとか、最後は自分の首を自ら落としただとか。
とにかくすさまじい逸話ばかりだ。
憑依と言うべき現象なのか、そこらへんは分からない。どちらにせよ、今の俺が項羽と呼ばれる存在になって――秦を滅ぼさんと発起した立場である事は確実だ。秦が滅んだ後、項羽はその後劉邦と葉を争い、四面楚歌という故事成語を遺す形で死する。
「さて、どうしたものかな」
雨が降る夜。傘をさしてとぼとぼ散歩をしていた。項羽として最後は死ぬ運命にあるのかどうか。そもそも性格が俺の物である以上、様々な所でずれが生じるはずだ。
憑依した時にはすでに戦いが始まっていた以上、もうすでに走り出した状態から始まっている以上、やっぱやめたといって平和に暮らすことは出来ないだろう。
とはいえ現代っ子の俺に戦いだとか、あまりにも過酷すぎやしないか。
そんな風に色々考えていた時だったからだろう。
「ん? なんだ? 傘がないのか?」
「……」
空を見上げる女性を見つけて、思わず声をかけてしまった。本来の俺ならば、『あ、あの。か、傘とか? 無いんですか?』みたいに緊張してうまく声をかけられなかっただろう。
だが、項羽という肉体故にか、俺にしてはまともに話しかけることができた。が、無視。
無視だなんてひどいなぁ、この巨漢が子供みたいに泣きわめいたら流石にぎょっとするだろうか。なんて考えるが。
「……」
あれ? この娘かわいい。
空を見上げる女性の横顔をじっと見つめてしまう。雨を浴びしっとりと濡れた髪や服は色っぽさが強調されて。
どこか超然的な雰囲気すら感じ、人間離れした美しき容姿に、しかし人間味を感じる哀愁漂う切なげな表情。寂しがっているような、それとも何か恐れているような。
そんな彼女にいったいどう声をかけていいかわからず俺は――
「Hey彼女! 君かわいいね! どこ住み? いくつ? てかLI○Eやってるぅ?」
「…………は?」
失敗した。
中国史を勉強し次第続くかもしれません。