「あの山を越えた先だ。炎蹄、すまないが急いでくれ」
遂に最終章へと差し掛かるRTA、はーじまーるよー。
前回は桔梗と同格の巫女である瞳子と邂逅し、迫りくる奈落の魔の手を退けました。しばらくは蜘蛛の糸を見たくないと苦笑していた桔梗ですが、皮肉なことに今後は連続して件の糸が絡んでくることになります。
"体"にも、"ストーリー"にもね……
…………大変失礼いたしました。
冒頭に桔梗の指示が飛んでいた理由は、前回と同じくして蜘蛛の糸が何者かを襲っていたからです。そして奈落が悪意を注ぎ込もうとする相手は、桔梗と瞳子を除けば
目的地に辿り着くと、そこに居たのは弥勒、珊瑚、七宝、雲母、鋼牙の5名。
ちなみに犬夜叉のライバル的存在である妖狼族の兄ちゃんはこれが初登場だったりします。
桔梗ルートでは魍魎丸が生きているとがっつり絡むイベントもありましたが、今回のRTAで魍魎丸は登場と共に即退場してしまったため、必然的に鋼牙と遭遇する機会が無かったんですね。鋼牙ファンの方、許し亭許して。
そしてどういうわけか、犬夜叉とかごめは一同から少し離れた小屋に身を潜めています。
一体何があったのか、その場に居合わせた珊瑚ちゃんにでも聞いてみましょうか。
「琥珀……琥珀っ!無事だったんだね!?」
「あ、姉上…!」
そら(琥珀くん連れてたら珊瑚のリアクションは)そうなるよ。
姉弟感動の再会シーンを邪魔するわけにもいかないので、残っている弥勒ニキに事情を確認しましょう。
ふんふむ……アナルほど。
奈落の足取りを追っていた犬夜叉一行の前に、かごめにしか見えない蜘蛛の糸が現れた。
その糸が垂らされていた村に向かうと、小さな女の子が倒れていた。
一行のなかで唯一浄化の力を持つかごめが救助にあたり、女の子は助けられたものの、糸がかごめと犬夜叉に纏わりついてしまった。
二人はこれ以上被害を広げないよう、あの小屋に籠ることにした、と……
分かりやすい説明、ありがとナス!
原作において、鬼蜘蛛の心を取り戻した奈落が真っ先に狙ったのは桔梗の命でした。
しかし桔梗ルートでそれらの差し金を跳ね除けながら進行している場合、この箇所の配役がまるっと入れ替わり、なんとかごめが奈落の糸に囚われてしまうのです。
奈落の狙いはかごめの心を穢すこと。それと同時に桔梗をも蜘蛛の糸に巻き込むことで、浄化の力を失わせようとしているのです。
つまりこれは完全なる罠。
お、おい。もう帰ろうぜ……(たけし)
「たとえ罠であったとしても、二人をこのまま放っておくわけにはいくまい。
百江、私に万が一のことがあれば、琥珀を頼む」
こうなったときの桔梗は誰にも止められません。致命傷を負ったオルガ・イツカぐらい止められません。会話コマンドで説得を試みても徒労に終わるため、彼女のやらせたいようにしてあげましょう。
最終的には桔梗の強化・特殊能力取得に繋がるからガバじゃないんだ。良いね?(RTA警察への弁明)
▼桔梗は蜘蛛の糸を破魔の矢で浄化していく。
▼しかし、建物の中までは浄化しきれなかったらしく。取っ手に触れようとした刹那──
▼内に張り巡らされていた蜘蛛の糸が、桔梗を絡めとってしまった……!
Yeah, come in man.(やっぱりな♂)
さて、小屋の中では糸に囚われた桔梗とかごめ、そして犬夜叉という三角関係の当事者同士で大事なお話し合いがありますので、ほもちゃんとしてはしばらくの待機時間となります。
そこで み な さ ま の た め に ぃ 、 こ ん な 動 画 を 用 意 し ま し た 。
(ARSの居る菓子工房を訪れるMRSとSKY)
SKY「こんにちはアリス」
MRS「あれ?霊夢のところにいたんじゃないのか?」
ARS「二人とも酔って寝ちゃったから」
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『犬夜叉っ!!』
『桔梗……てめえ、よくも…!』
五十年前。私と犬夜叉が憎しみ合い、殺し合ったときの光景が、目の前で何度も繰り返されていた。
奈落のやつ……いまさらこんなものを見せて、私の心の内を穢そうというのか。
無駄なことを。今の私には、犬夜叉を恨む気持ちなどかけらもありはしないというのに。
そんな私の心情を察されたのか、突如として場面が移り変わる。
そこに居たのは骨喰いの井戸に腰掛けるかごめと、神妙な面持ちの
犬夜叉。
私が見たことの無い、二人の記憶だった。
『私、犬夜叉とずっと一緒にいたい。忘れるなんてできない』
『かごめ……いて、くれるのか?』
なぜだ犬夜叉。
なぜおまえは、そんなにも安らぎに満ちた顔をしている?
犬夜叉が仲間たちと共に築いた、新たな絆。その中で誰よりも犬夜叉の側に寄り添っていたのが、かごめなのだろう。
私が見たことのない、犬夜叉の顔。かごめはそれをたくさん知っている。
そのことになにも感じぬほど、私の心は鈍いわけではない。
胸の奥底から沸いて上がる感情。
それが嫉妬と怒りに塗れたものであることに気付いたとき、私は思わず二人の逢瀬から目を逸らしていた。
「…ぅ……桔梗!」
犬夜叉の声によって、悪夢から現実に引き戻された私は、何度か瞳を瞬かせたのち、ゆっくりと体を起こした。
目線を犬夜叉に向けると、いやでもすぐ側に寄り添うかごめの姿が目に入る。それだけで何故か胸が締め付けられるような気がした。
……いや、『何故か』ではない。理由は分かりきっている。ただ自分の中で、それを認めたくないだけだ。
「あれからどうなった?奈落の蜘蛛の糸は……」
「桔梗が入ってくると同時に消えた。おまえが浄化してくれたんだろ?」
「いや……違う。おそらく、糸はもう用済みということなのだろう。私と、かごめを絡め捕った時点でな」
困惑する犬夜叉を尻目に、無言を貫くかごめを見遣る。
「かごめ。おまえ、邪気に蝕まれているな」
びくり、と体を強張らせるかごめ。その表情がみるみるうちに弱気なものへと変わっていく。
犬夜叉を心配させまいと我慢していたのだろうが、このまま放っておけば命に関わるものだということは十分に察することができた。それほどまでに強い悪意を注ぎ込まれたということか。
「桔梗……その、かごめを浄化するには、どうしたらいいんだ?」
「かごめを救うには、かごめと同じ魂を持つ私が、浄化の矢を打ち込むしかない」
私はそばに置いてあった弓矢を拾い、自分の霊力を込めようとする。しかし浄化の力は作用せず、それどころか弓が真っ二つに折れてしまった。
……思ったとおりだ。今の私では、かごめを救うことが出来ない。
弓が弾けたということは、すなわち浄化の力が失われてしまったということ。
それは同時に、清浄なかけらを持つ琥珀にも触れられなくなったことを意味していた。
あの時、もう少し慎重になれていれば……そんな後悔の念が押し寄せる。
私には翠子の加護があるからと、油断していたのかもしれない。
我ながら、言い訳も立たぬほどに情けない愚行だった。
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MRS「私で毒見させるな!させるなら霊夢にしろ!」
RIM「待てコラガキ!」
ALS「アハハハハハハッ☆」
ぬわああああん疲れたもおおおおん(お約束)
待ち時間が思ったより長かったので、例の動画を途中から最後まで垂れ流しちゃったじゃないか……
視聴者の皆さん生きてます?「本当にほんへを流すやつがあるか!」という声も聞こえてきそうですが、数多のRTA動画をご覧になってその苦行に耐えてきた猛者の皆さんであれば、これぐらいは平気ですよね。
我らが
あ、そうだ。今度は『自己矛盾☆』でも流しましょうか?(更なる高みへ)
と、ここで桔梗たちが外に出てきました。何やら全員が重そうな雰囲気を醸し出しています。傍から見ると痴情のもつれによる修羅場展開があったのかと勘違いしてしまいそうですが……
実際のところは桔梗とかごめが奈落の蜘蛛の糸に囚われてしまい、瘴気による継続ダメージを受ける状態になってしまいました。このまま何もしなければ二人ともにHPが尽きてしまうので、早急に打開策を見つけなくてはいけません。
そして当の桔梗曰く、「ここから東に十里の場所にある、梓山の霊廟。そこへ行けば代わりとなる弓を手に入れることができるかもしれない」とのこと。
じゃけん東に逝きましょうね~。
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はい到着ゥ!
瞳子編の時と同じように、クッソ長い階段を踏破した先に霊廟があるそうです。
現実でも同じですが、どうして格式高いお寺や神社はあんなにも高い場所にあるのでしょうか。訪問者の膝をクラッシュさせる気なのでしょうか。
「一気に行くぜ。かごめ、おまえはここで待ってろ。いいな?」
「え、でも……」
現在かごめの体には桔梗以上に瘴気が広がっており、まともに動ける状態ではありません。ほもちゃんとしても桔梗の代わりに琥珀くんのかけらを浄化しないといけないので、ここは犬夜叉と桔梗に任せて再びの待機となります。
「安心しろかごめ。おまえのことはおれが守ってやるからよ」
「う、うん……」
「けっ。かごめの身に何かあったら承知しねえからな、痩せ狼!」
「うっせえ。とっとと行きやがれ犬っころ!」
犬夜叉と鋼牙が原作上 い つ も の やり取りをしていますが、今はかごめが弱っているときなのでほどほどにお願いします。
さて、犬夜叉が桔梗を背負って梓山を登り始めたので、ほもちゃんにとっては再度暇な時間ができてしまいました。
そこで み な さ ま の た め に ぃ ~
今回のストーリにおける達成目標について……お話しします(惨劇回避)
梓山編での最終目標は、桔梗とかごめに絡まった蜘蛛の糸を取り除くことのほかに、弓系統の武器で最上位に値する『梓山の長弓』を手に入れることにあります。
Part30で手に入れた『翠子の魂』
前回の瞳子編で取得した『正射必中』
そして今回入手する予定の『梓山の長弓』
これら3種の神器を備えることにより、桔梗をAKYS並のチートキャラに強化することができてしまうんですね。
「舐めんじゃねえ!」と突っかかってくる奈落に対し「カスが効かねえんだよ」とばかりに投げ倒す桔梗をイメージしてもらえれば、どれほどの能力強化に繋がるかがお分かりになると思います。
さて。
肝心の『梓山の長弓』の配置場所は固定となっており、梓山の頂上に存在する霊廟内にあるのですが……
ONDISKが探していた幻のブドウ並にレアな武器であるため、勿論タダでは手に入りません。
「所要時間30分足らずで、最高級の武器をゲットだ!」を実践するには、梓山に住まう精霊が繰り出す試練に挑み、これをクリアしなければならないわけです。
一概に試練といっても、かつてKBTITが行ったとされる『ケツ叩き100連発』のような生易しいものではありません。
梓山の精霊は来る者の心を試します。具体的には起こるはずのない幻覚を見せて本人のトラウマを再現したり、心を抉るような二者択一を迫ったりして、本心を浮き彫りにさせてくるんですね。
そのうえで精霊が納得するような答えを導けなかったら即失格。弓は手に入らず、梓山から締め出されてしまいます。なんて厳しい試練なのだ……
プレイヤー本人がリアル登山アタック(RTA)する場合は正しい選択肢を選んでいくだけなので慣れさえすれば簡単なのですが、今回のようにNPC頼みの場合は確率によって失敗することもあり、もしそうなったら最終パート用に組み込んでおいたチャートが全崩壊してしまうため、タイムロスどころか地獄のリセが待っています。
そうならないようにプレイヤーができることは一つだけ。
リセだけは嫌だ、リセだけは嫌だ、リセだけは嫌だ!
……と、ひたすらお祈りすることです。
おまえ結局神頼みかよぉ!?
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「一体どうなってんだ?この階段、全然終わりが見えてこねえぞ!」
霊廟へと繋がる階段は霧に覆われ、無限に続いているようだった。事実として犬夜叉がこの山を登り始めてからしばらく経つが、一向に終わりが見えてこない。
梓山は来るものの心を試すと聞く。その話が本当であるのだとすれば、もしかすると──
「梓山の霊廟へと続く道は、私一人の力で行かねばならない……ということなのだろう」
「お、おう。だけど、本当に大丈夫なのか?」
「鬼が出るか蛇が出るか……いずれにせよ、迷っている暇はない。こうしている間にも、かごめは奈落の邪気に苦しめられているのだからな」
「……すまねえ。頼むぜ、桔梗」
見えない何かがちくりと私の胸を刺す。
もし私とかごめの立場が逆だったなら、犬夜叉は同じことを言ってくれるのだろうか。
……駄目だ。先ほどから考えがおかしな方向に行っている。こんなことでは本当にかごめを救えなくなってしまう。今はただ、私が為しうることを為さなければ。
邪念を捨て去り、犬夜叉に背を向ける形で一歩を踏み出そうとした……その時。
私の眼前に、本来ならありえないはずの光景が広がっていた。
つい先ほどまで、登っても登ってもたどり着けなかったはずの目的地──『梓山の霊廟』が、目と鼻の先に存在していたのである。
「馬鹿、な……」
はっとなり後ろを振り返ると、既に犬夜叉の姿は無かった。
おそらくはこれが、梓山に施された仕掛け。あるいは私に課された試練ということか。
しばらく身構えた状態のままでいると、程なくして梓山の精霊と思しき者が舞い降りる。
「妙な気配を漂わせていると思えば、死人の巫女か……」
精霊は顔を伏せたまま、男とも女ともとれる中性的な声色で、いとも容易く私の正体を見抜いてみせた。
しかし、ここで平常心を失ってはいけない。私は出来るだけ冷静な素振りを見せようとして──
「桔梗様オッスオッス!」
「な、おまえは…!?」
気付くと、精霊の姿は私の見知った人物──百江に変わっていた。
それに、今の喋り方は、まるで……
「どうしたの?鳩が豆鉄砲……もとい、犬夜叉が種子島を食ったような顔して」
まるで、本物にそっくりなのだ。目の前で変化したところを見ていなかったら、私とて彼女を偽物と断ずることはできなかっただろう。
そんなことを考えながら、私はこの山を訪れた目的を今一度反芻する。
「百江と、ひとまずはそう呼ばせてもらうが……かごめに纏わりついた蜘蛛の糸を浄化するために、梓山に備わる弓を賜りたい」
「あ、いいっすよ。まだ未調教の巫女さんがこの山に来るのは久々だから、楽しみっす。じゃけん霊廟に案内するから、つべこべ言わず来いホイ!」
あまりにも軽い反応。そして、百江本人と話しているような感覚に、こちらとしては拍子抜けせざるを得ない。
そもそも、話に聞いていた試練とやらはどこへ行ったのか。このまますんなり事が運ぶとは考えづらいが……
彼女の後ろをついて行き、厳かな造りの惣門をくぐり抜けると、薄い霧に包まれた本堂が姿を現す。
「こ↑こ↓ ささ、入ってどうぞ」
静まり返った廟内では、外からの風の音のみが不規則に響いていた。
一直線に伸びる廊下の突き当たり。外観からは想像もつかぬほど広い部屋に行き着いたところで、百江ははたとその場に立ち止まる。
「……梓山の弓は、本来持たざる者が持つ運命だった」
「持たざる者…?それは、かごめのことか」
「だけどあなたは、その運命を変えた。いいえ、
先刻までの気軽さを微塵も感じさせないような声。
その言葉に私が疑問を投げかける暇もなく、彼女は壁に立てかけられていた弓を取った。
ここからようやく試練が始まるのかと思い身構えるも、やはり何も起きないままで。
「かごめに絡まった蜘蛛の糸を浄化できるのは、桔梗をおいて他に居ない。だから──」
──あなたが真に彼女を救いたいと思うのならば、きっとこの弓を持ち帰れるはず。
百江に扮した精霊が最後に残した言葉。それが、何故か頭の中から離れなかった。
しかし、少なくとも今はその出来事に疑念を覚えている暇は無い。
私は受け取った弓を肩に掛けると、もと来た道を引き返し始めた。
異変が生じたのは、それから少ししてのことだった。
行きの時と同じくして、どれほど下ろうとも終わりの見えぬ階段。そこを一心不乱に駆けていると、やがて眼下の情景に変化が訪れる。
霧の中ではっきりとは見えなかったが、赤い衣を纏った彼が階下に佇んでいた。
間違いない、犬夜叉だ。
「桔梗、どこにいるんだ!?」
「私ならここに──」
安堵の声色を混じらせた私の返事は届かなかったらしく、犬夜叉は森の生い茂る脇道へと入っていってしまった。梓山の特殊な環境のせいで、私の匂いにも気付かなかったのだろうか。
とにかく早急に犬夜叉を呼び戻し、かごめの瘴気を浄化しに行かなければ。
犬夜叉を追って草木の生い茂る森を抜けると、そこには瘴気に侵されていたはずのかごめが立っていた。
視線を左右に向けてみるが、どういうわけか犬夜叉の姿が見当たらない。
「犬夜叉はどうした。てっきり、こちらに来ていると思ったが」
「この場所は梓山の精霊が作りだした結界の中にある。だから、犬夜叉は入ってこれないのよ……」
「そうか……まあ良い。それよりも浄化の矢を──」
梓山の弓を構えようとした、その刹那。
私の頬をかすめるようにして、背後の大木に"破魔の矢"が突き刺さった。
視線を正面に戻すと、そこに在ったのは残身の姿勢を残すかごめの姿。今の矢が紛れもなく
「どういうつもりだ……かごめ」
この場所にかごめ"しか"いなかったという時点で、薄々嫌な予感はしていたが……このような展開に陥ることは考えていなかった。
「あんたさえいなければ……犬夜叉は、これ以上悩み苦しまずにすむ」
「なっ…!?」
聞き捨てならぬ者の名前が挙げられたのと同時に、かごめが躊躇なく二の矢を放とうとする。
……が、しかし。
どこからともなく発生した突風により、その一射は妨げられることになった。
「いかん、危ない危ない……」
百江だ。彼女が破魔の竜巻を放ち、私の窮地を救ってくれたらしい。
「助かった……一応聞いておくが、本物で間違いないのだな?」
「本物に決まってんじゃんアゼルバイジャン。え、まさか私の顔が野獣先輩に見えてるとか、そんなことはないよね?」
……いや、いつもどおりな百江の口上には違いないのだが。
こうしてみると、先ほどの梓山の精霊が化けた姿と全く区別がつかない。まるで狐と狸の化かし合いに巻き込まれたような感覚だ。
「というか桔梗、大丈夫だったの?かごめちゃんに弓矢で狙われていたんだよね。
まったくこんな時に……突然行って、説教したる!」
眉を吊り上げ、怒りの表情でかごめの元にずかずかと近寄る百江。私は展開の移り変わりにやや呆然としながらも、かごめの真意を知るべく、百江の後ろに追随した。
かごめは破魔の竜巻によって吹き飛ばされた先で座り込んでいた。
端から見れば、その姿は既に戦意を失っているようにも見える。
しかし──それが全くの見当外れであったことには、すぐに気付かされた。
嗤っている。
私のことを、見下すように。嘲笑うかのように。
かごめはその顔を不気味なまでに歪め、悪意に満ちた表情で私を蔑んでいたのだ。
「……なにが可笑しい?」
「別に。ただ、憐れだなって思っただけよ」
「憐れ、だと?」
かごめの口から出てきた言葉に、私は思わず自分の耳を疑った。
「死人の分際で一丁前に聖人ぶって、人間のふりをしようとするあんたが……とても滑稽で、憐れに見えるって言ったの」
安い挑発のつもり、ということでもないのだろう。その剣幕から察するに、かごめは本気で私のことを侮蔑しているように見えた。
「あたしはいつだって犬夜叉の側にいた。犬夜叉の荒みきった心を癒してあげた。それは桔梗、あんたが死人として蘇ってから一度たりともできなかったことよ。
それだけじゃない。あんたは犬夜叉を道連れに心中しようとした。どこまでも自分勝手で傲慢なあんたのことを、犬夜叉が好きになってくれると思う?
犬夜叉は、あんたのことを本気で想ってなんかいない。いまだに成仏できないでこの世を彷徨っているあんたに、ただ同情しているだけよ!」
「…………言いたいことは、それだけか」
ざわり、と風が吹く。
感情の泡は、とうの昔に弾けていた。
「私は犬夜叉のことを恨み、そして憎しみながら死んだ。確かにそれは紛れもない事実だ。
死人として蘇ったところで、所詮は紛い物の生にすぎない。私の中で一度止まってしまった時間は、決して再び揺り動かされることはないのだと──そう、思っていた。思い込もうとしていた」
だけど……それは違っていた
脳裏に浮かぶ、犬夜叉と過ごした時間。
そこに在ったのは、生前の思い出だけではなかった。
私のことを一日も忘れたことは無かったと、そう言ってくれた犬夜叉。
怒りと憎しみにもがく私を鎮めようと、死を受け入れてくれた犬夜叉。
奈落の差し金で窮地に陥った私のことを、助けに来てくれた犬夜叉。
巫女として戦い続ける私のことが心配で、必要だと言ってくれた犬夜叉。
結局……どこまで行っても、私はあいつのことを忘れられなくて。
そのどうしようもない感情に蓋をしたり、誤魔化したりすることは、最後までできなかった。
ゆえに、私は決めたのだ。
もう自分の気持ちに嘘はつかないと。
そこにどんな障壁があろうとも、構わず突き進んでみせると。
──例えそれが、この世の禁忌に触れるものであったとしても。
「だから、私は犬夜叉の言葉を信じる。命を懸けて私を守ると言ってくれた、あいつの言葉を…!」
つい今しがた憎しみの瞳を向けていたかごめの表情は、伺い知れない。
「桔梗……こんなやつのことを、助ける必要なんてないよ」
代わりに言葉を紡いたのは、私の後ろに控えていた百江だった。
まるで、私の内に潜む悪意を後押しするかのように……冷淡な声色で。
「かごめのことなんて見捨てても構わない。私はそう言ってるんだよ。
本当は桔梗だって分かっているんでしょ?かごめさえいなくなれば、犬夜叉を自分のものにできるって──」
その誘いが、狂おしいほど甘美な響きに聞こえた。
犬夜叉の隣には、いつだってかごめがいた。
私が心の底から在りたいと願った場所を占領して、犬夜叉の荒んでいた心を癒してしまった。
きっとそれは、私がすべきことだったのに。
白霊山で、犬夜叉は私に言ってくれた。自分の仲間に加わってほしいと。
だけどそれは、私の望んだ言葉では無かった。
あいつが二人で行こうと言ってくれなかったのは、間違いなくかごめという存在があったからだ。
かごめさえ、いなければ────
犬夜叉は、どうなる?
ああ……そうだ。
そうではないか。
こんな単純なことも忘れていたのだな……私は。
身の内に燃え上がる激情を抑えて、静かに瞼を開く。
浄化の矢は、心に邪念があっては放つことができないから。
「かごめのことを救うんだ。どうして?」
「簡単なことだ。かごめが死ねば……犬夜叉が悲しむ」
そうだ。これは決して、善き行いなどではない。
人として当然のことを……などと嘯くつもりもない。
ただ、私は決めたのだ。
同じ悲劇は二度と繰り返させないと。
もう、誰の涙も流させないと。
「……それでも構わないのだろう、百江」
「もちろん。それがあなたの選択なら──」
その時、私の背筋にぞわりと薄ら寒い何かが走った。
「なっ…!?」
不快な感覚を頼りに元を辿ってみれば、それまでかごめの姿をしていたものが、蜘蛛の糸の塊へと姿形を変えていくところで。
「死人の巫女よ、因果は断ち切れた」
百江の方に振り返ってみると、そこに存在していたのは梓山の精霊。
つまり……私がこの山で見てきたものは、すべて自分の心が生み出した幻だったということだ。
かごめを救うか救わないかの二者択一が、私を試すための試練だった。
「その弓を使い、瘴気に苦しむ者を救うがよい。そして──おまえ自身の運命を、変えてみせろ」
地面が、崩れ去る。
空中に放り出される格好となった私の体は、先ほどまでとは打って変わって軽いものになっていた。