「砕け散れッ!」
梓山の弓から放たれた破魔の矢が、不死の兵団を浄化していく。
彼らは一騎当千の働きで敵を退け続けていたが、五稜郭内にはまだ複数の生き残りが存在していた。
その中でやりようのない悔しさと焦りに歯を噛みしめていたのは、稀代の巫女、桔梗。
いつかの再現のように、百江はひとり先走って夢幻城に突入してしまった。
無茶と無鉄砲は彼女の専売特許だと言えばそれまでなのかもしれないが、実際に置いていかれる身としては、毎度心配ばかりかけさせられる。
せめて自分だけでも彼女の後を追いかけられれば良かったのだが、倒したはずの敵がわらわらと起きあがってくる現状。味方の数を鑑みれば、そうも言ってはいられない。
すると……そんなふうに心の奥底で迷いを抱く桔梗の様子を察したのか、背中越しに声をかけてくる者がいた。
「行ってやれ桔梗。あいつは、おまえの大切な仲間なんだろ?」
犬夜叉だ。
この場はおれに任せろと、そう言って胸を叩く彼の姿。
思いがけぬ形で後押しを受けた桔梗は、ややあって決意を固めた表情を覗かせる。
ここにあるのは自分の力だけではない。
彼らの強さを信じて、先へ向かう。
今の自分には……それができる。
「犬夜叉、すまない。後を頼む…!」
「おう、任された!」
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桔梗が夢幻城に向かって駆けて行ったのち。その場に留まり時間稼ぎを引き受けた3人は、背中合わせで並居る敵兵らと対峙することになった。
「まさか、おめーらに背中を預ける日が来るとはな」
「奈落を倒そうと躍起になっていた者同士の集まりだ。たまにはこういうのも、悪くないだろ?」
「けっ、勝手に言ってろ」
悪態をつく犬夜叉であったが、彼女らに対する警戒心は既に解かれている。
かつての旅の仲間ほどではないが、神久夜という難敵を前にして、ほのかにではあるが信頼感すら芽生え始めていたことは事実であった。
肩越しに、神楽の隣に佇む神無を見遣る。
通常ならば決してあり得ない巡り会わせを実現させてしまったのは、元を正せばこの物静かな少女が自分たちと同じ意思を示したからだ。
一切の感情を覚えない無の妖怪。自らの分身を道具として扱っていた奈落はそう断じていたらしいが、つくづくやつの思うとおりにならなかったらしい。
この場にいる全員で、生きて帰る。
それこそが今は亡き仇敵への、最大の意趣返しとなるはずだ。
「……行くぜ。とっととこいつらぶっ倒して、あの二人に追いつくんだ!」
「あんたに命令される覚えはないんだけどね……まぁ、どの道同じ考えだ。今日だけは力を貸してやろうじゃないか!」
「私も、手伝う……みんなと一緒に」
戦い続きでやや疲労していた三者が、こんなところで立ち止まっているわけにはいかないとばかりに、息を吹き返す。
初めのうちはバラバラだった彼らの思いが、一つになった瞬間だった。
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物語もクライマックスなのに問題起きまくりで本当に全部解決できるのか心配になってきた実況プレイ、はーじまーるよー。
前回、桔梗のお守りに救われて奇跡的に明鏡止水の法を回避したほもちゃん。そこから怒涛の一転攻勢が始まるのかと思いきや、神久夜にこんなことを言われました。
「わらわを滅せば──そなたが他の誰よりも大切に想うておる巫女は、命を落とすことになるぞ」
ナンヤソレイッタイ……頭お菓子なるで(◯い恋人)
というかそんなはったりがこの私に通じるとでも思っているのでしょうか。騙されんぞ(ジョージィ)
そもそも神久夜と桔梗の間には何の因果関係もないだろ!いい加減にしろ!!
……はったりだよね?まさかとは思うけどだんだん自信がなくなってきました。
そもそも桔梗たちが現代に来ていること自体完全なイレギュラーのため、よくよく考えてみれば絶対にありえないと言いきれるだけの材料がありません。
仮に「それマジ?」「マジに決まってんだろハゲ」という話になればガバどころじゃすまないことですし、絶対に阻止しなければならない事案、ということになります。
したがってこの場はもう少しだけ彼女の話を聞くようにしましょう。
その話kwsk(死語)
「時代を繋ぐ時の門を築いたのは、他ならぬわらわ自身。その術者が消えれば、時の門は未来永劫閉じられることになる。これが一体何を意味しているか……そなたであれば、分かるだろう」
おk把握(死語)
つまり神久夜さん、貴女が言いたいのはこういうことですね。
神久夜を倒せば戦国時代との行き来が出来なくなる→現代には死魂虫が存在しないため、桔梗は魂を補給することが出来ない→死魂の原動力を失うことで桔梗はタヒんでしまう。
……………………
……………………
……………………
……………………
これ、はったりとちゃうな(確信)
これは非常にゆゆ式事態です!!!!
桔梗たちは骨喰いの井戸を通ってこの時代に来たわけではありませんから、戦国時代へ戻るにしても来た道を"同じ手順で"引き返さなければなりません。
要するに神久夜が持つ命鏡の力によって開かれた時空の扉を再び潜らなければならない、ということです。
しかしこの場で神久夜を倒してしまえば、現状で唯一存在するタイムスリップの手段を失うことになり、彼らは現代に取り残されてしまう、と。
私が一番初めに考えていた『桔梗のお守り』によるタイムスリップも、これはあくまで「ほもちゃんを桔梗のいる戦国時代に導く」ためのアイテムであり、その当人が現代にいては使いようがありません。
またチキンセーーーブをしたのは桔梗たちが現代に来て以降のことであり、そこからやり直しても件の分岐点以前に遡っているわけではないため、意味がないです。
珍しくちゃんとセーブをしてこれで安心だずぇ!とか言ってたおたんこなすは今すぐ出てこい!……ってそれわしやないかい!!
プレイヤーの計画マジ狂い。
おまえのフラグ管理ガバガバじゃねーか!どうなんだゲームとして!!
スゥゥゥゥ、ハァァァァ……
よし、落ちついt──ゲッホゲッホ!(致命傷)
少し……時間をください。考える時間を。
まず初めに、当初の予定どおり神久夜を完全に滅した場合。
この場における事態は一旦収まるかもしれませんが、犬夜叉たちが戦国時代に戻れなくなるうえ、桔梗の死魂が尽きてしまうというとんでもない爆弾が残ってしまうので当然NGです。
かといってこのまま神久夜を放置しておけば、先程の明鏡止水の法を使われて現代の時が止まり、世界は彼女の手に落ちることになるでしょう。
どっちもどっちも……ポッチャマアッチャモ!!!!(バクシンガー)
つまりこれらの問題を全て解決するには、神久夜を生かさず殺さずのクリスマス状態(戦闘不能)にした後、時空の扉を開かせて桔梗らを戦国時代に戻す必要がある……ということなんですね。
いやそんな都合のいい結末を迎えられるわけないだろ!いい加減にしろ!!という声が聞こえてきそうですが……こればっかりはワイトもそう思います(敗北宣言)
神久夜を死ぬ寸前まで痛めつけても不老不死の力であっという間に回復されてしまいますし、そもそも劇場版のラスボスが己の野望をそう簡単に諦めてくれるとは思えません。
仮にほもちゃんの側から「人間も妖怪も子孫を残すよね。私達も子孫を残そうよ(意訳)」と持ち掛けても「女同士だろ、できねえよ(意訳)」と却下されるだけです。
ああもう(破滅の未来から)逃れられない!!!!
「どうやら理解できたようじゃな。わらわと桔梗の命が繋がっているということを……その事実を知ったうえで、そなたはわらわに刃を向けることができるのか?」
はっはっは。ほもちゃんとプレイヤーを舐めてもらっちゃ困りますよ。
世界の命運と桔梗の命を天秤にかけてどちらを優先するかって、そりゃ考えるまでもないでしょう。
桔 梗 の 命 だ ア ! ! !
ゲームだからとかそんなことは一切関係なく、私は桔梗様が死ぬところを見たくありません(わがまま)
そもそもここで彼女を見殺しにする選択肢をとれるなら、自分みたいな厄介拗れオタクは初めから生まれてないんですよ。
漫画やらアニメやらで再三桔梗が死ぬシーンを見させられて、そのたびに胸が締め付けられて……桔梗にはもう二度と悲しい涙を流させないと、そう心に誓っとるんじゃい!
もちろんこのまま桔梗を生かす方向でストーリーを進めていけば、バッドエンドどころかGAME OVER一直線であることは確かです。しかしそうであったとしても、一度始めてしまった以上はケジメをつけなければなりません。
というわけで、行けるところまでやってみます。
残されたほもちゃんに出来ることといえば、「神久夜の下僕にでもなんでもなるから桔梗達を元の時代に返してあげてくださいオナシャス!センセンシャル!」と土下座してお願いするぐらいですかね。
当の神久夜も時代の支配者となれば取り敢えずは満足してくれるでしょうから、ひょっとしたらこのお願いだって聞いてくれるかもしれません。
というかここまで一人で来ててよかったわ。もし今の話を桔梗に聞かれでもしていたら、いよいよ収拾がつかなくなるところだっt──
▼ざわりと、冷たい風が頬を撫でる。
▼嫌な予感がして振り返ってみると、そこには私の
あっ……
あっ(絶命)
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「どうやら理解できたようじゃな。わらわと桔梗の命が繋がっているということを……」
夢幻城の天守閣。百江を追いかけて最上階までたどり着いていた桔梗は、二人の会話を期せずして耳に入れることとなった。
荒唐無稽な話だと、あるいは苦し紛れの妄言であると一蹴できれば、どれほど楽だったことだろう。
言葉の意味を理解して徐々に口数が少なくなっていく百江の様子は、裏を返せば神久夜の話が真実であることの証明でもあった。敏い桔梗もこの場に至りて、己の体の不自由さを思い返す。
死魂は勝手に抜け出ていくことさえ無ければ消費こそ少ないが、それでもまったくのゼロというわけではない。彼女が"死人"として生を得ている限り、必要不可欠なものである。
だがこの時代に、死魂を運んでくれる妖怪──死魂虫は存在しない。
またもちろんのこと、桔梗自身には死魂を集めるような能力も備わっていない。あれはあくまで死魂虫ありきの存命方法なのだ。
この場で神久夜を倒してしまえば、戦国時代に戻る手立ては未来永劫失われてしまう。
その後に死魂が尽きれば、桔梗は体を保つことができずにこの世から消滅することになるだろう。文字通り、骨と墓土だけを残して。
そんな残酷な現実を突きつけられれば、桔梗のことを第一に考えている百江がどう動くのかは、容易に想像がつく。
おそらく彼女は、この世のすべてを犠牲にしてでも桔梗の延命を願うだろう。この世の時を止め、すべてを支配しようと企む神久夜に魂を売ってでも、きっと……
桔梗は自らの存在を知らせるかのように、一歩一歩足を踏みしめながら二人の元へ近づいていく。
「き、桔梗…?まさか、今の話を聞いていたの!?」
百江の顔から、血の気がさっと引いていく。
ともすれば自分には聞かれたくない話だったのかもしれないが……それを伝えなかったところで、状況が好転するわけでもない。
「そなたが生き長らえる道は一つしかない。わらわの意に従え。さすれば、おまえを元の時代に返してやることもできる」
一方で神久夜は尊大な態度を崩さぬまま、桔梗にそう問いかける。命惜しさに自らの元へ膝を折り、屈するものだろうと……そう確信しているのだ。
長い沈黙の末、桔梗は静かに目を開く。
自分がどうあるべきか。どうするべきか。
不退転の決意を、胸に抱きながら。
「神久夜──私を甘く見るな。今この瞬間を生きている人々の世を、他ならぬ百江が生きる居場所を……おまえごときに、奪わせはしない。奪わせて、なるものか…!」
桔梗は、神久夜が差し伸ばした手を明確に拒絶した。
はったりや虚勢などではない。その証拠に、強い意思を灯した彼女の瞳は真っ直ぐに神久夜を捉えている。
かつて──奈落を倒すために死をも覚悟していた琥珀の気持ちが、今ならば良く分かる気がした。
命を懸けて闘う。
大切なものを守るために。そして、譲れないものを守るために。
ともすれば、自分はこの時のために生きていたのではないかと真剣に思うほどに、桔梗の決意は固いものであった。
「桔梗……そんなのダメだよ。たとえこの世界を引きかえにしてでも、私は──」
「百江、それ以上は言うな。いまこの時代を守り抜くことができるのは、私たちしかいないんだ」
「分かってる。分かってるよそんなことは!だけどそれじゃあ、桔梗の命が…!」
悲痛な、心からの叫びが桔梗の胸を刺す。
自分のことを死なせたくないという百江の気持ちを、理解できない桔梗ではない。
しかしこればかりは、彼女の主張を受け入れるわけにもいかないのだ。
尚も食い下がろうと言葉を探す百江を尻目に、桔梗は明確な戦いの意思をもって神久夜の前に立ちふさがった。
「ふん……死人風情が、図に乗るでない!」
想定外の展開となったことに苛立ちを覚える神久夜は、桔梗の頑なな意思にやや気圧されながらも、袖口から触手を放つ。
しかし桔梗がひとたび弓を薙ぐと、本来火鼠の衣すら貫いてしまうはずの触手が、あっさりと砕け散ってしまう。
「オンアロリキャソワカオンサンザクサクソワカ……」
ならばと真言の呪文を唱え始めた神久夜の頭上で、命鏡が妖しく光り始める。
「今再び、永遠なる闇へと消えよ!」
直撃すれば消滅は免れないほどの威力を持つ破壊光線。それが放たれると同時に、桔梗は冷静に光の動きを見極めつつ、結界術を発動させてこれを完璧に防ぎきってみせた。
「まさか……その結界には、わらわの術を防ぎきるほどの力は無かったはず…!」
「言ったはずだ。私を甘く見るなと……破っ!」
反撃とばかりに放たれた破魔の矢は、しかし神久夜の元に届く寸前、浄化の効力が失われてしまう。
僅かに焦りをみせていた神久夜であったが、普段の冷静さを取り戻すと指二本で桔梗の矢を受け止めてみせた。
霊力への耐性を身に付けたことに加えて、天の羽衣の力であらゆる攻撃を無効化してしまう神久夜。
かの存在が保持する生命力は、桔梗が命を懸けて牙を剥いたところで、揺るぎようのない絶対的なものであった。
(私一人の力では、神久夜を滅しきれない。あともう一押し……もう一押しさえあれば──)
視線をちらりと百江に向ける。すると彼女もまた、何かを言いたげな表情で桔梗を一瞥した。
二人がかりでなければ、目の前の敵に勝つことはできない。
桔梗の言わんとするところを、おそらく百江は分かっている。だがその一歩を踏み出せば最後、桔梗たちは元の戦国時代へ戻る術を無くし、死魂を失った桔梗は体を保てなくなる。
そんな残酷な選択を迫られて、百江は一度かぶりを振った。
世界の存続より桔梗の命を選ぼうとしたのだ。
しかし……桔梗自身がそれを拒絶してしまった今、このまま何も手を打たなければ、待ち受けるのは最悪の未来だ。あってはならないことが、現実ものとなってしまう。
──頼む、百江。私に力を貸してくれ。
桔梗がそうしたように、百江もまた一つの決断を下さねばならなかった。
大を生かすために、小を捨てる。
小の部分がどれほど大切で、守り続けたいものであったとしても。
──分かったよ、桔梗。あなたがそう望むなら……
本当はこんな形で、桔梗の願いを叶えたくはなかった。
だけど……ようやく決心がついた。
あるいは、自分にそう言い聞かせることができた。
神久夜を倒す。
その果てに、どんな結末が待っていたとしても……
「わが刃の糧となれ、桔梗!」
神久夜は重力を無視した動きで桔梗に接近し、刀を振り下ろす。近接戦を得意とせず、不意を突かれる形となった桔梗は、無防備な状態のまま避けることもかなわない。
万策尽きたと思われた……その刹那。
寸でのところで、神久夜の斬撃は防がれていた。
骨喰の薙刀が、二人の間に割って入る形で加わっていたからだ。
「……やらせない。あなたに、桔梗は殺させない!!」
桔梗の想いを無駄にはしない。
悲壮な覚悟を胸に秘めて、百江はそう叫んだ。