天空島 作:かりん
その夜、ハロウィンに事件が起こると困るからと待機していた首相に連絡が来た。
「怪獣が現れたので自衛隊に攻撃許可を願います! 緊急です! 現在市民が不明の武器で応戦中です!」
「害獣ですか?」
首相はつくづく思っていた。
害獣が出た際、今のままでは色々な縛りが強すぎて人に被害が出かねないと。
しかもハロウィン。人はこぞって外に出ている。被害が出てからは遅い。
不明の武器は気になるが、市民がすでに応戦しているのであれば一刻の猶予もない。
警察ではなく自衛隊に要請が行く時点で、大変な事態なのだろう。クマが群れで出たのかもしれない。
「責任は私が取るので、手段は問いません。人に被害が出ない範囲で、人の被害が出ないように、人の被害を出さずに、全力を尽くしてください」
「はっ ありがとうございます! 許可が出ました! オールウェポンズフリー! ただしあらゆる人的被害は許さないそうです! 首相、十分で指揮所が出来ます! どうぞ着替えてください」
「そんなに大変なの?」
「そんなに大変です」
そして、手早く着替えて会議室に向かう。ノートパシコンが続々と並べられていた。
「ヘリが現場に到着しました! 映像入ります」
キシャアアアアアアア!!
『やっぱり怖い、誰かー!』
巨大な甲殻類が、派手に暴れていた。
それをヒーロースーツの男が、巨大銃を構えて飛び回って対峙している。
まさか、甲殻類の体を大きく削る傷跡はあの銃なんだろうか?
銃を中心に、大きな魔法陣が展開されていた。
「映画か何かです?」
「残念ながら現実です。こちらに関連製の高そうなネットの書き込みをプリントアウトしたものがあります」
そこで、大きな光が炸裂する。「勇者の父」が撃ったのだ。
それは魔物の放った光線とぶつかり、シールドのようなものにぶつかって逸れて、魔物の体をガリガリと削りながら空へと向かった。
「あのクラスの兵器を個人に持たせておくのはいけませんね。身元の調査をお願いします。即座に申し出て提出してくれるなら銃刀法には問いません」
「はっ」
「住宅街が近いですね。避難急いで! 警視庁に連絡した? 防衛大臣は打てる手を全て打ってください。責任は私に。代わりに一歩も進ませてはダメ」
「はっ」
「戦闘機配置につきました! 撃ちますか?」
「早よ撃て」
「撃て! 一歩も進ませるな!」
防衛大臣の念押しすら煩わしく急かす。時間が勝負だ。
野次馬が近くの道路に鈴なりになっているのだ。
海岸線から一歩でも先には進ませられない。
銃が撃たれる。
シールドで防がれる。
「もっと強い武器とか連続攻撃してみるとか、傷口狙ってみるとか、なんとかならないの? 最悪、気を引いてあの勇者の父さんに仕留めさせるのでも構いません。あらゆる手段で沈黙させなさい。作戦は任せるわ」
「はっ」
『艦隊を出してもいいですか?』
「艦隊を出撃させますか!?」
「はよ出せ。待って、国民の皆さんに当たる可能性が1%でもあれば駄目だぞ? 練度は大丈夫なんだな?」
「おい、大丈夫なのかね」
『あんな大きい的、外しません』
「ならはよ出せ。戦車は? こんな時の為の戦車でしょ?」
「行けるかね」
『到着まで1時間です!』
「最終防衛戦として住宅街を守ように配置して。警察はより早く着けるように全力を尽くして」
「マスコミがヘリで現場についたようです」
「撮ってていいけど、作戦距離からはさがるように伝えて」
「在日米軍基地から援助の申し出です」
「準備だけお願いします。海岸線を突破したら救援要請を出させていただきます」
そして、1時間。通称レイドボス1は沈黙し、戦車は無駄足に終わった。
最終防衛戦なので、無駄足にすることがお仕事なのだが。
「死者0! 避難の混乱で怪我人は出たけど、歴史に残る大勝利間違いなし! あ、なんとしても勇者の父さんとは連絡を取ってください。さっ首相会見の準備を」
会見を終えて、仮眠をとってシャワーを浴びると、秘書が調書を持ってきてくれた。
「全ての贈り物を接収することで話はつきました。予算を思いの外使いましたが」
「それで円満に済むなら問題ありません。あのレベルの兵器なんて一発何億の世界でしょ」
「それよりは安くすみました」
「円満に済ませたよね? 無理矢理だと、後で勇者が出たとき揉めるぞ」
「それは問題ないかと。こんな大金と喜んでいましたから」
「ならいい。アメリカの方にはこちらから資料を送ってくれるか。援軍の申し出をしてくれたんだし、サンプルも一部渡してもいい。ただし、分かったことは教えてくれるように条件付けして。サンプル数での譲歩はいいけど、勇者の父さんの引き渡しだけは譲っては駄目だ。日本は国民を守るのだ」
「その方向で進めています」
「よろしい」
さて、忙しくなるぞ。もっとも、いつも忙しいのだが。